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古の白龍と鉄の黒龍 最終話『終わり逝く世界の中で』

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古の白龍と鉄の黒龍 最終話『終わり逝く世界の中で』

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 式典用に使われている講堂にはエリザベートとアーデルハイト、ミーミル、教師代表としてアルツール、ケイ、そしてルピナスとメニエスの姿があった。
「本日をもって、ルピナス・アーノイド、メニエス・レイン、以上2名はイルミンスール魔法学校入学となりましたぁ。
 蒼空学園なんかに負けないように、頑張りなさぁい!」
「お前、いつの話じゃ……。
 さ、これを受け取るが良い。お前たちがイルミンスールの生徒であるという証じゃ」
 アーデルハイトからイルミンスールの校章を受け取ったルピナスとメニエスは、それを胸に付ける。
「……ま、こんな所じゃな。
 分かっておるとは思うが、大変なのはこれからじゃぞ? 私達はお前達に十分な力になれぬやもしれぬ。
 それでもこの道を選んだのは、お前達自身。その事を胸に刻み、学業に邁進するがよい」
「「はい!」」
 二人の凛とした返事が響いた――。

「あの……校長先生。
 私のパートナーに、ティアという子が居るのですが……」
 そう切り出したメニエスは、ティア・アーミルトリングス(てぃあ・あーみるとりんぐす)の事をエリザベートに話す。元々メニエスが――ここで言うメニエスはパートナーの影響を受けていた時のメニエス――何かの際に使う為にとメニエス邸の地下に閉じ込められ、メニエスに影響を及ぼしたパートナーから虐待を受けていた、そう口にするメニエスの顔は悲しみと自身への罰の意識に暮れていた。
「ティアを、助けてあげたいです。どうかお願いします」
「あなたが悪いわけでは無いですからねぇ。分かりましたぁ」
 エリザベートがこれも簡単に許可し、そう言うだろうと思っていたアーデルハイトによって、イナテミスの総合病院に部屋を一つ用意してある旨が告げられた。
「ありがとう、ございます……」
 今度は顔を感謝の涙に濡らしたメニエスの肩を、ケイが優しく抱く――。


「そっか、イルミンスールの生徒として過ごすことに決めたんだな。
 呼び出されから何かと思ったが、わざわざ伝えに来てくれたのか」
「ええ、お兄様にお伝えしておこうと思いまして」
「……って、お兄様って俺のことかよ。まいったな、そんな柄じゃないんだが」
 ルピナスに『お兄様』と呼ばれたエヴァルトがまんざらでもない表情を浮かべる。結局あの時に言ってしまった言葉が、結局自身が“妹”となったことで現実となった形であった。
「ははっ、俺もお兄様、か。まぁこれも悪くねぇ……ん?」
 同じく呼び出され、やはりお兄様と呼ばれるようになった唯斗が、こちらにやって来る気配に全身を緊張させる。

「ようこそ、パラミタへ。ハッピーエンドを奪いにきました」

 そう、彼女である。
 散々ルピナスの命を狙い、契約者を苦しめてきた彼女、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が――。


 ――時は、アルコリアが天秤世界から吐き出された直後に遡る。

「んー、久しぶりに気持ちいい青空ね」

 実に清々しい声が聞こえ、同じく空を見上げていたシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)はハッとして起き上がり、アルコリアの下へ駆け寄る。
「アル、起きたのか? 傷は傷まないのか?」
「見て分かるでしょ、痛いに決まってるじゃない。痛みは生の証、まだ生きてるってこと――ゲホッ、ゲホッ!!」
 突然咳き込み、口から大量の血を吐く。加えて身体のあちこちがあり得ない角度に曲がってたりするものだから、誰が見てもこれは死ぬ寸前としか見えない。
「うぅ、口の中が鉄臭いぃ。吐血系美少女アルちゃん? キャハッ☆ ――ゴファ!!」
「…………心配したボクがバカだった。分かってる、どうせいつものことさ」
 また血を吐いてのたうち回るアルコリアに首を振って、シーマは再び空を見上げた。
「機晶姫を何年かやってるが、つくづく人間が分からなくなる……」

「……また死に損なった。まだ苦しめと言うの?」
 目覚めたラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)は寝起きの状態でそんな事を口にする。
 あぁ、気持ちが定まらない。……気持ち? おかしいな、心なんてとっくに無くしたと思ってたのに。
「ラズン。我は書なり、汝は鎧なり。わたくしたちは道具ですのよ?
 苦しむ苦しまぬなど、愚問ですわ」
 同じく目覚めたナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)がラズンよりも先に立ち上がり、まだ寝転がるラズンを見下ろして言う。
「生きているというのなら何も変わりませんわ。変わらないのですわ」
「……そうか、そうだね。所詮この世は地獄だよ。何も変わっちゃいない」
 ラズンも起き上がる。視界が定まり気持ちも――ラズンはそれを気持ちとは呼ばないが――定まる。

 地獄の釜が底まで干上がることはない。
 減ったとしても、煮詰まるだけさ、きゃははっ☆


「パラミタに戻ってきてるんだし、アレ用意しておいて」
 空を見上げるアルコリアがそう呟くのに、シーマは嫌な予感を覚え尋ねる。
「おい、アレってまさか……何をする気だ。事と次第によっては断るぞ!」
「相変わらずだなぁ、シーマは。
 楽しいことだよ。楽しい楽しいパーティーの準備!」
 ラズンがアルコリアの意図を代弁し、ナコトはアルコリアに治癒魔法をかけ、普通に動けるようにする。
「そういうこと。じゃ、行きましょ」


 ――そして時は今に戻る。
「ようこそ、パラミタへ。ハッピーエンドを奪いに来ました」
 シーマと合体したアルコリアの後方から、四本の機晶槍が出現する。手を水平に上げたその姿は、意図してかかつてのルピナスを彷彿とさせる。
「まだやるってのか……この前は文字通り鎧袖一触でやられちまったからな。
 もう二度と、カッコ悪い所は見せられないな」
「同感だ。俺が護ると決めた……ルピナスは絶対に、俺が護る!」
 エヴァルトと唯斗は戦う素振りを見せ――瞬間、全力でルピナスを抱えて逃げ出そうとして、
「ぐほぁぁ!!」
 二本ずつの槍に貫かれてふっ飛ばされる。
「ここまでのようですね。ゲームオーバーです」
「くっ――」
 今の自分では、到底アルコリアに立ち向かえない――そう悟ったルピナスがキッ、とアルコリアを見つめた所で、ふと円に言われたことを思い出す。
(あの時、確か円さんは「牛ちゃんは不器用なだけ」だと――)


 パンッ。


「――――」


 視界が赤に染ま……ることなく、ルピナスの前には指鉄砲を撃ったアルコリアの姿があった。
「るぴにゃーーー!」
「きゃあ!」
 そして飛び付かれ、あちこちをすりすりされ、むぎゅっ、と抱き締められる。
「殺しに行った時思ったけど、やっぱりかわいーわねー、うふふふ」
 物騒な物言いながら、ルピナスを愛でるその姿は多分、愛らしい。そしてルピナスも円に言われたことを思い出し、今こそあぁ、この方はわたくしと似ていますわ、と思い立った。
「アルコリアさんにもこんな、可愛らしい所がございますのね」
 ぴた、アルコリアの動きがそれこそ一時停止がかかったように見事に止まった。

「私決めました、このままぎゅむって転がって誘拐します!
 営利じゃないです! 非営利誘拐です! 身体が目当てです! 邪じゃないです! 清いです!!」
「あぁあ、や、やめてくださいぃぃぃ……」

 そして暴走したアルコリアは、ルピナスと明後日の方向へ転がっていく――。

(……あぁ、酷い。まったくもって酷い。
 難儀な性格だ、ボクもなんだろうがな)
 アルコリアと合体しているシーマは、ただただ回されながらアルコリアのこういう性格を嘆いた。

「あ、アルたん……殺るつもりねぇならどうして俺達を攻撃しやがった……」
「それはあなた方が戦う意思を見せたからですわ。
 傷は回復しました、もう痛くないでしょう?」
「確かに痛くない……だが、何だって彼女はこんな事をする?」
 エヴァルトの問いに、答える声はない……かと思われたが。

 みな しっているか
 あるこりあのすきなことは はらすめんと ぜんぱん だと

 こういう いやがらせを いきいきとしているときは
 わりと すだということを


 声のような気がする声――それはナコトと合体しているラズンのものだった――を耳にしたエヴァルトと唯斗が顔を見合わせ、

「つまり俺達は……遊びに巻き込まれた、ってことなのか!?」

 そう結論付けると、ひどく納得いかねぇ、といった表情を浮かべた――。


 ――恨み恨まれるのが常というのなら、それを嘆くだけじゃ何も変わらないでしょう。
   世界を変えてやる?いいですね、素敵です。

 ――か弱い私にはそんな力はないのでお任せして。

 ――私は恨まないし、憎まない。
   これだけ努めれたらな、と常々思いますよ。

古の白龍と鉄の黒龍 最終話『終わり逝く世界の中で』 完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮です。……生きてます。

『古の白龍と鉄の黒龍 最終話『終わり逝く世界の中で』』リアクションをお届けします。
これにて『古の白龍と鉄の黒龍』シリーズは終了となります。皆さま本当に、お疲れさまでした。
そして、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

個別等でお知らせしていますが、猫宮個人としてはもう一話、イルミンスールの日常的シナリオの運営で終了としたいと思います。
マジもう無理というわけではないのですが、ここらへんで線を引こうかと。

それでは、また。