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【蒼空に架ける橋】第4話 背負う想い

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【蒼空に架ける橋】第4話 背負う想い

リアクション

『ヒノカグヅチは機能停止させました。情報攪乱も正常に作用しています。皆さん地上へ向かってください』

 ポチの助からの通信が防空圏域外で待機していた船に入る。
「姐さんは無事ですか?」
 狼型ギフトという形態ゆえトトリに乗ることができず、機動性重視の作戦だったため二人乗りは避けて船に残っていたパルジファルが訊く。返答はすぐに、JJ本人の声で返ってきた。
『……わたしは無事。何ともないわ。地上で会いましょう』
 船はゆっくりと動き出し、防空圏域内へと進む。ヒノカグヅチの浮遊砲台は沈黙し、ただの浮遊石と化しており、レーザー砲撃は起こらず、また地上の管制塔から警告の通信も入らなかった。
 とはいえ、地上で捕捉されているのは確実だ。のこのこ偽装船で降りることはできない。
「ここからはそれぞれの手段で降りてください。われわれは3分後にこの空域を離れます」
「よーっし。じゃあ行くぞ!」
 ウァールは背中のバックパックから赤いトトリを取り出して柵へと向かった。足下に広がるはマッチ箱のような肆ノ島の家々だ。壱と弐ノ島で何度かトトリに乗ったが、いずれもせいぜいが5〜6メートルの崖程度で、これほどの高さからはない。
 操縦をミスれば地表への激突もあるのだとの考えがひらめいて、下を覗き込んだままぴたりと動きを止めたウァールの肩に、それと察したリイム・クローバー(りいむ・くろーばー)が飛び乗った。
「大丈夫でふよ、ウァール。僕が一緒でふから」
「え? ほんとか?」
「お、おい、リイム」
 てっきり一緒に降下するのだと思っていた十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が、それを聞いて思わずリイムを呼んだ。
 リイムは不機嫌な目をしてジロリと宵一を見る。
「なんだよ、まだ機嫌直してないのか? そりゃあ祭りのときは空気を読まなかったのは悪かったけどさ、そんなにぷんぷん怒ることないじゃないか」
「……戻ったら、もう天燈流し終わってたんでふよ? リーダーなんか知らないでふ」
 ウァールの頭に掴まり立ちしたリイムは、ぷいっと顔をそっぽ向け「さあ行くでふよ、ウァール」とウァールを急かした。ウァールは、本当にいいのかな? と宵一をちらちら振り返ったのだが、意外と宵一は傷ついている様子もなく、むしろにこにこ笑っていて
「怒ったリイムの顔もかわいいな〜」
とかつぶやいていたりもしたので、まぁいいか、と判断することにした。
 ふとあることを思い出してトトリの紐を解こうとした手を止め、頭の上のリイムを見る。
「なあリイム」
「なんでふか?」
「昨日、あの船で。一緒にいてくれたよな」
 姿見えなかったけど。
「おれのこと、助けてくれてた。サンキューな」
 だから今も、リイムが一緒にいてくれるからできるんだ。
 柵に上り、トトリを頭上に掲げる。下からの風が翼に当たって、ばたばたとトトリが暴れる。
「今度こそツク・ヨ・ミちゃんを助けるでふよ、ウァール」
「行くぞ、リイム」
 びゅっとひときわ強い風にあおられた一瞬。ウァールは柵を蹴り、船外へ飛び出した。



 ヒノカグツチが外部からの干渉によって停止したというのは肆ノ島太守の屋敷を震撼させた。
「始まったようです。行きましょう」
 にわかにあわただしくなった屋敷内。廊下のひそひそ声にそれとさとったナ・ムチ(な・むち)が立ち上がった。
「ここでいつまでもこうしているわけにはいきません。ヒノ・コはとっくに到着しているはずです。おれが来ていることがクク・ノ・チさまに知れれば、彼は追い返せと命じるか、捕縛命令を出すでしょう」
 最初の命令――ナ・ムチが来れば通せ、というもの――が生きているかどうか賭けだった。生きていなくとも、情報を盾に交渉して入り込むつもりだったが、さすがに本当にクク・ノ・チと対面するのはまだまずい。
「このまま、気づかれないうちに太守家の者以外入れない奥宮(おくのみや)まで行きます。あの魔法陣などは間違いなくそこです」
 早く行って、ツク・ヨ・ミをあそこから連れ出さなくては。
 弐ノ島の屋敷でクク・ノ・チに見せられた、出口の見つからない空間をさまようツク・ヨ・ミの絶望の色濃い顔を思い出し、無表情で押し黙ったナ・ムチを風森 巽(かぜもり・たつみ)は見つめる。ふっと息をついて1度ゆっくりとまばたきをすることで気の入れ替えを図った巽は、ぱしっとナ・ムチの背中をたたいた。
「言っただろう? 世界全部敵にまわしたって護り抜くって。そりゃ、情けないことに一度は護りきれなかったわけだけどもさ。あきらめたわけじゃない。相手が生きて、希望がある限りチャンスはある」
 そして口にするかすまいかためらうような間をあけて、言葉を継いだ。
「正直、昨夜直接話をしてみて、あのご老人をまるっと信用できないってのが個人的感想だよ、残念ながら。だけど、無意味に動いたり、ただ場をひっかき回したりしたいがためにこんなことをしでかしたとも思えない」
 かわいい孫娘が苦しむのを見ていられなくて矢も楯もたまらずこうしたなどと、想像もできないことは、つくづく残念だが。
「きみにあんなことをしたのも、何か目的があったんだろう。それが何かまでは分からないが……クク・ノ・チの希望する何かである可能性は低い。もしそうなら最初から、彼らは手を組んで動いていたはずだ」
 巽の話を聞いてはいたが、ナ・ムチにはその意図が掴めなかった。
 なにやらこちらを慰めようとしているように聞こえるが、彼は自分のことをよく思っていなかったはずだ。
 警戒気味に黙り込んでいるナ・ムチに、意図はせいぜい想像してくれと言うように、巽は少し意地悪っぽくにやりと笑って隠れ身を発動させた。
 ナ・ムチの目に、まるで空気が水と化して、巽の体はそこに溶け込んで透明化していくように映る。
「悠長に屋敷探索してる暇はなさそうだからな、道案内は頼んだ。道はこっちで切り開く」
 という言葉だけがその場に残り、やがて巽の気配すらナ・ムチには感じ取れなくなった。
「早くここを離れよう」
「……行きます」
 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)のうながしにうなずきで応え、ナ・ムチはドアノブを回すと廊下へすべり出た。



「よーっし! いよいよねッ!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は腕まくりをするような動作をして、意気揚々と歩く。着ているのはいつものセクシーなメタリックブルーのトライアングルビキニにロングコート――ではなく、浮遊島群の一般服である。
『目立つのはまずいし、自分たちはナ・ムチさんの従者扱いで入り込むんだからね。これならパッと見こっちの人と見分けつかなくなるよ』
 というティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)の提案で、全員こちらの服装に着替えていた。
 しかしいつもの戦闘服を否定され、そんな服装を強いられても、セレンフィリティの上機嫌っぷりは揺らがない。
「救出作戦! 腕が鳴るわー。今なら何だって倒せちゃいそう! ヤタガラスでもマガツヒでもタタリでも何でもこーい!」
 このあたしが相手になってやるわー、とぐるんぐるん肩を回して歩く姿を見て、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は思わず手に顔を伏せたが、父赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)に背負われた赤嶺 深優(あかみね・みゆ)は不思議そうな目をして見たあと、にっこり笑った。
「おねーさん、すっごくげんきーたのしそー」
「おっ、分かる? あのね、元気の秘訣は――」
「ちょっとちょっと、セレン!」
 さすがにこれは聞いてられないと、セレアナはあわてて首根っこを引っ張って自分の隣へ戻らせた。
「あなた、あんな小さな子に何吹き込もうとしてるのよ」
 こそこそ。顔を近づけ、セレンフィリティにだけ聞こえる声で叱りつける。
「えー? やだなぁ、いくらあたしでも子どもに向かって「昨夜から朝まで最愛の人とベッドで愛しあったから」なーんて言わないわよ」
 でも気力も体力も充実、肌の艶もこーんなにいいのはそのおかげなんだけどねっ。
 ウインクして、あははっと笑う。
「……普通、徹夜で運動した人間は翌朝疲れ切っているものなんだけど」
 セレアナは一瞬「もしかして、私から生命力吸い取ってる?」などという考えが頭にひらめいたが、あまりに非現実的すぎたので、すぐに放棄する。
 そして気を取り直すと耳打ちをした。
「どうでもいいけれど、とにかく今は静かに。極力音を立てず、目立たないように進みましょう」


 それからしばらく、全員無言で奥に向かって廊下を歩いた。人と出くわすことを避けて進む。幸いにも、表宮の使用人たちは皆、空の防衛が沈黙したことからの動揺を隠し切れず、はっきり言えば、他人のことどころではなかった。雲海の魔物がこのことに気づけば大群で襲撃してくるのではないかとひそひそ話をしている者たちもいる。
 実際には、カガミが集結している今、最もその守護が厚いのはこの肆ノ島なのだが。
(タイムリミットはマフツノカガミがここへ到着するまで。カガミが5つ揃えば、クク・ノ・チさまは例の術式を作動させるに違いない……)
 そうなれば作動したカガミの起動と維持のエネルギーにツク・ヨ・ミは変換され、跡形もなく消失してしまう。
「おい、大丈夫か?」
 無言で先頭を行くナ・ムチの顔色がいつも以上に白いことに気づいて、かつみが脇から声をかけた。ナ・ムチが返答をよこさないことに、それだけ今彼の気持ちがいっぱいいっぱいであることを知って、かつみは唇を噛む。
「なあ、昨日の話なんだけど」
「……なんですか、こんなときに」
 余裕を欠いた、いら立った声。普段ならここで引いただろう。しかしかつみは続けた。
「おまえの彼女への気持ち。そのきっかけは、たしかにヒノ・コだったのかもしれない。でもさ、そのあとの気持ちをはぐくんでいったのは、まぎれもなくおまえだ。そうやって彼女を大切に思う気持ちは、おまえが自分で生んだものだろ?
 こんな危険な場所まで、こうやって追いかけるぐらい大事な存在なんだ。なら、絶対捨てるな」
(……………先日、俺失恋したばっかだから。
 あんな想いをすりつぶすようなこと、こいつにはさせたくない)
 そんなかつみの思いが通じたかどうかは分からない。ただ、ナ・ムチはかつみを見返して、かすかに表情を緩めると、こう言った。
「いいえ。もう決めています。もし何もかも終わって、彼女が無事でいてくれたなら。ツク・ヨ・ミはあなたたちと一緒に地上へ行かせます。
 地上で暮らした方がいいんです。あの刺青がある限り、彼女は浮遊島群では幸せになれない」
 はじめ、地上人たちを見たとき、ツク・ヨ・ミをそそのかす厄介な存在としか思えなかった。彼女はあのはなれで守られて生きるべきだと思っていたから。だけどこうして彼らとともにいて、彼らを知って。思った。ツク・ヨ・ミは天津罪刑が存在しない、そのせいで差別されることのない場所で、自由に生きるべきだ。
 そう思ったとき。この想いは捨てるべきなのだと悟った。
 決してかなわない想いを抱いて生きていけるほど、自分は強くない。
「って、おまえは!?」
「おれは伍ノ島に帰ります。祖母がいて、友人たちがいて、家もあって。
 あそこがおれの生きる場所ですから」
 だからこそ、絶対に伍ノ島をオオワタツミなどに砕かせたりしない。
「心配してくださって、ありがとうございます……すみません」
 何も言えなくなっているかつみに小さく礼を言い、彼の意に添えないことを謝罪すると、ナ・ムチは前へ進んだ。



 なるべく人目につかないように進んでいると、やがて前が開けた。少し先に小さな中庭のような場所があって、別の棟へと続く橋のような屋根のある回廊(釣殿)がかかっている。
「あの先が奥宮になります。あそこから先はおれも1度も入ったことがないのでどうなっているか分かりません」
「やけに開けているね。気をつけて進もう」
 エドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)が言い、千返 ナオ(ちがえ・なお)がうなずく。
 周囲を気を配りつつ近づいたが、やはり声をかけられてしまった。
「おい。そこのおまえたち。そこから先は立入禁止だ。何人たりと足を踏み入れることは許されていない」
「あらごめんなさい。こちらのお屋敷へ来たのはこれが初めてなものですから、すっかり迷ってしまって」
 少人数を装うため、それまで術で姿を消していたうちの1人、クコ・赤嶺(くこ・あかみね)が隠形の術をひそかに解いた。ナ・ムチが前に出ようとしたのを止めて、霜月から深優を受け取って腕に抱く。
 不審者と警戒して、いつでも武器をとれる体勢で近づいていた随身たちも、男たちの間から現れた、小さな子どもを抱いた女性が邪気のない笑顔を返すのを見て、彼らがここまでたどり着いたのは故意でなく偶然であるとの言葉を信じたのか、見るからに肩から力を抜いたのが分かった。
「すごく古くて由緒あるお屋敷ですのね。いろいろとめずらしくて、つい見て歩いているうちに、こんな所まで来てしまいました」
 クコはさらに猫をかぶってにっこりと愛想よく笑う。それが決定打だった。
「そうか。だが危ないところだったな。もし一歩でもその橋に踏み入れておれば、そんな申し開きも通らないところだったんだぞ。
 さあ帰れ。客間まで道が分からないというのなら、案内をつけてやろう」
 そして後ろに控えている、同じく随身の年若い青年を呼ぼうと身をひねったときだった。
 突然ドーンという振動音がして床が揺れ、ほぼ同時にジャーンジャーンと鋭い音が上がった。
「なんだ!?」
 随身の男たちが驚きに動きを止めて、ぱっと見には分からない、巧妙に隠されたスピーカーと監視カメラのある方を反射的に見上げる。
 それは、初めて聞いたクコやかつみたちにもはっきりと警報と分かる音だった。
『東釣殿に不審者が侵入、爆破されました。付近の随身たちはただちに向かってください』
 随身の男の腕につけられたリンクから通達が流れる。
「お、おい……」
 おそらくこんな事態は早々ないのだろう。彼らが着任して初めてのことなのかもしれない。見るからに動揺している男たちに、クコが助け舟のように提案した。
「あの、私たち、自力で戻りますから。どうぞお仕事を続けてください」
 そして戻りかけた様子を見せたところで、男たちはほっとしたようだった。
「ではそのようにしてくれ。あと、くれぐれも部屋から出ないように。不審者と間違われて捕縛されることになるからな」
「分かりました」
 殊勝に答え、随身たちが見えなくなるまで笑顔で見送った。深優など無邪気にばいばいと手を振って見せている。
 霜月が、もしもの場合に備えて影で添えていた手を刀から下ろした。
「助かりました。ですが、一体何が起きたんでしょう?」
「分かりませんが、おそらく別で動かれている人たちの仕業でしょう」
 ナ・ムチは首を振る。こんな派手なことをするとは聞いていなかった。
「陽動かしら?」
「かもしれませんね」
 クコの疑問に霜月はうなずくとほかの者たちを見渡した。
「とにかく、われわれは先へ進みましょう」
 すでに警報は鳴っている。ナ・ムチたちは迷わず釣殿へ入り、中門廊を走り抜けた。



 爆発と振動は、ナ・ムチたちとは別ルートで進んでいた源 鉄心(みなもと・てっしん)たちの元へも届いていた。
「きゃっ」
 足元をすくわれたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の腕を掴み、転びそうになっていたのを助ける。
「あ、ありがとうですの、鉄心」
「いや。
 しかし、派手にやっているな」
 つぶやき、爆発音のした方の廊下に目を向けながら、鉄心はナ・ムチにテレパシーで連絡をとった。もしかして彼らの仕業かと思ったのだ。向こうはそれだけ緊迫した状況になっているのかもしれないと。方向は違っているようだが……。
 ――いえ。あれはおれたちではありません。

「そうですか」
「ナ・ムチさん、無事ですって?」
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)からの質問に、鉄心は首を振る。
「あれは彼らではないということだった」
「そう」
 よかったと思う反面、ではほかの場所で別の人たちが危険な目にあっているのではないかと表情を曇らせるティーの気をそらそうとしてか、話題を変えた。
「それで、ティーの方はどうだ?」
「それが……」
 ティーは首を振って見せる。
 ここへ来る前、インファントプレイヤーを用いて屋敷の生き物から何かオオワタツミについての情報が得られないかと考えていたのだが、いくら気にして探してみても、この屋敷のどこにも人間以外の生き物の姿はなかった。
 猫や小鳥といった愛玩動物は一切いない。随身たちに連れられて犬はいたが、どれも見るからに獰猛な番犬で、インファントプレイヤーを用いるには危険だった。
「そうか」
(クク・ノ・チさんという人は、何に心の慰めを……拠り所を持っているのでしょうか)
 よく手入れされた庭園はとても美しかったが、人の手や気配を感じさせなかった。屋敷内に見目良く飾られた花はどれも造花だ。
 何にも頼らない、心を寄せない。やわらかな物が何もない、固くて無機質な物ばかりな屋敷を歩いていると、そういった人物に思えてきて、ティーは胸がぎゅうっと締めつけられる気がした。
 カチカチに固まってしまった心……。それは、はじめからそうだったとは信じられなかった。なぜなら、彼にだって子どものころはあったのだから。
「もう行きましょうですの」
 いつまでも同じ場所から動かない鉄心たちに、しびれをきらしたようにイコナがそでのひじ辺りを引っ張る。
「早くヒノ・コさんを見つけないと……。
 わたくし、怒っているんですのっ。ヒ、ヒノ・コさんは……ナ・ムチさんから泥棒して逃げましたの! おかげでたんこぶができてましたの……! ナ・ムチさんに謝ってもらわないと……許せないんですの」
「そうだな」
 憤慨しているイコナをなだめるように頭をそっと撫でて、並んで先へ進もうとする。しかしすぐティーがついてきていないことに気づいて振り返った。
「ティー?」
「あ、はい。ごめんなさい」
 名前を呼ばれ、知らず自分の考えに没入していたことに気づいたティーは、頭を振って考えを追いだした。
 たぶん、こういうことを考えてはいけないのだ。
 そう思って。ティーは鉄心たちの元へ駆け寄った。