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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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「ふう、危ないところでした。悪の神はまだ私を見捨てていないようですね」
 あの後、写楽斎は、現場から逃げ出すことに成功していた。
 迦耶を振り切った後は、分校の敷地を出て、なりふり構わずスキルも使い全力ダッシュしたのでずいぶんと距離を稼ぐことができた。ここまで逃れれば、もう追っ手は来ないだろう。
 あの油断ならない天然娘に奪われた起爆装置は取り戻している。彼の計画は頓挫したわけではなかった。しばらくどこかに身を隠して、契約者たちが宇宙の塵と消えるのを待つとしよう。
「ふふふ、やはり最後に勝ったのは私と言うわけです!」
 写楽斎は、遠くなった分校を振り返りながら笑った。ざわざわしているのはいつものことだ。騒ぎもそのうち小さくなり、彼の存在など忘れるだろう。
 さらに敵との距離を稼ごうと、彼は荒野のいずこかへと足を向ける。そのままモヒカンたちにも紛れフェードアウトしていくかと思われた。
 だが、彼の思惑は見事に外れた。視界の先に人の気配を感じて立ち止まる。
「くっ、また追っ手か!? どうやって追いついた!」
 やはり、一瞬たりとも気を抜いている暇はない。彼は身構えた。
「あなたが勝ったのか負けたのか、判断するにはまだ早いですよ。決着はついていません」
 写楽斎がこのあたりに来るであろうと待ち構えていた御神楽 舞花(みかぐら・まいか)はニッコリと笑った。
「ジョギングお疲れ様でした。決闘委員会の管理する地下教室から逃げ出すとはたいしたものですが、私も責任者としてそのまま放っておくわけには行きません。良くて地下教室へ戻っていただくことになるでしょう」
「な、なんだと……? 何者だ!」
 お面モヒカンですらなく、サングラスをかけただけの姿の舞花に写楽斎は絶句した。
「決闘委員会委員長代行の御神楽舞花と申します。不詳ながら、この私があなたの勝負を見届けましょう。対戦者もじきにやってきますので、しばらくお待ちください」
 舞花は、静かに告げた。
 写楽斎が騙まし討ちで看守のお面モヒカンを奇襲し成り代わって校外へ脱出したという報告を受けた時は彼女も少々驚いたが、舞花が委員長代行を引き受けたからには抜かりがあるはずがなかった。装備もスキルも完璧に用意されている。
 連れてきた【情報収集専門員】を初めとして、多くの手下たちが彼女の耳目となって分校内全域を網羅している。決闘委員会に死角はないのだ。舞花が仕切るようになって、さらに監視の目は厳しくなっている。それを知らなかった写楽斎が逃げられるはずがなかった。
【未来予知】で、写楽斎の動きを半ば予測していた舞花は、【トランスフォームカー】の速力で先回りすることくらいは容易かった。
「ばかな。決闘委員会の委員長が交代したという話は聞いていないですよ」
「ええ、誰にも話していませんから」
 お見知りおきの必要はありません、と舞花は言った。
「なるほど。そういうわけですか」
 写楽斎はすぐに気を取り直して薄気味悪い笑い声を上げた。最悪の事態にならずにすんだことに気づいたのだ。少なくとも、舞花に見つかった以上、戦いは避けられない。だが、無法に抹殺されることはなくなったのだ。
「ふふふ、ここで私を殺しますか? できないでしょう。決闘委員会は違反者に処罰を与えますが、不可抗力や正当防衛を除いて対決者を意図して無残に殺したことはありません。あなたも委員長の役を買って出たなら、その掟は守っているのでしょうね」
「確かにその通りですね。それで?」
 話の展開が読めた舞花は先を促す。
「もう一勝負といきましょう。決闘委員会の立会いの下、私と戦うのです。挑戦者がいるなら、今度は逃げ隠れせずに正面から受けてたちますよ。今度は小細工なしでの戦闘でも構いません」
「でしたら、対戦相手がくるまでお待ちください」
 写楽斎の提案に、舞花は小さくため息をついた。
 ムシがよすぎる話だった。写楽斎は、すでに先日の農場での決闘に敗れてペナルティを受けている最中なのだ。それを反故にして、改めて勝負を挑むとは。
 だが、だからと言って、荒野のモヒカン流に取り囲んでリンチをするつもりもない。起爆装置はまだ彼の手の中にあるし、おとなしくやられるなら彼だって暴れるだろう。騒乱になることを防がなければならない。それが決闘委員会の役目なのだ。本当に扱いづらい。
 この場で舞花が戦っても勝てるだろうが、ナンセンスだ。決闘委員会の委員長は善でもなければ悪でもない。義憤と正義感に基づいて勝負するのは、理念に反するのだ。
「まあそこまでにしておこうぜ。この勝負はオレが預かるからまとめて決着をつけようじゃないか」
 舞花と一緒に写楽斎を追ってきていたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、じっと成り行きを見守っていたが、まとめどころも把握していた。このままばらばらと争っていても無益だ。分校の紛争は、分校の責任者の元片付けるのが正しい解決法だった。そして、それこそが新しい分校長の存在を示すのに適していると思われた。
「やっと追いついたー! もう逃がさないぞ、シャラクサイ!」
 校内で乱戦していたエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)とネフィリム三姉妹も、こちらに気づいて駆けつけてきた。あちらこちら散々破壊しまくったが、凶司の電子戦からは目をそらすことができている。後は、彼の働きを待つだけだ。
「写楽斎、起爆装置持ってるじゃん。どうして奪い取らないのよ」
 何のためにここに来たのか、とセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)はいささか不満げだ。ここで叩き潰しておけば、爆発の危険性はなくなるのに。
「スイッチだけ壊しても、回線が生きている間は安心できないでしょ。手下の特命教師が予備を持っているかもしれないし作り直すかもしれないし」
 そんな二人に、ディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)は冷静に告げる。
「お前ら、やりすぎだ。分校がますますボロボロじゃねえか!」
 シリウスは、三姉妹に厳重に注意した。
 せっかく分校を建て直そうとしていた矢先に破壊活動だ。彼女らが決して悪気があったわけでないのは知っているが、後片付けだけでも大変だ。やらなければならないことが山積みなのに先延ばしになりそうだ。
「えへへ……」「そうなのかー」「チーッス……」
 ネフィリム三姉妹は気勢を削がれた形でテンション低めに返事した。この校長たちは何をもたもたやっているんだ、と思った。敵は目の前にいる。すぐにぶっ飛ばせばいいのに。
 だが、ルールはルールだ、と舞花は答えた。
 分校では、今ルールを決めようとしている。決闘委員会が絶対であるという以外のルールを。それは新しい分校長も権力を持っているという証だった。
「では、校長先生の立会いの下、改めてここからスタートします。全校一斉、特命教師および、写楽斎狩り、始めてよろしいですね」
 舞花は、しれっと恐ろしい競技を口にした。これから、生徒たちが全部敵に回るかもしれない地獄の鬼ごっこが始まるのだ。そのための下準備も舞花は整えてあった。
「ああ、それでいい。オレも何度も言うように、事件を一気に片付けておきたいんだ」
 分校長の了承の下、写楽斎の処遇も決められる。手続きはもどかしく感じるが、これが重要なのだとシリウスは納得した。これまでのようにただ悪いやつをぶん殴れば済むわけではない。分校の安全と生徒たちの無事を第一に考えなければならない。それが校長の責務だった。
「この鬼ごっこは、決闘委員会が最後まで見届けます。楽しんでプレイしてくださいね、写楽斎さん」
 舞花は穏やかに告げた。
「くくく……、決闘委員会の委員長が死ねば、私たちの勝ちでよろしいですね?」
 写楽斎はあつかましく要求してきた。彼らが勝った暁には、特命教師たちも含めて無罪放免にしろ、と言う。
「あなたが死ねば、その場であなたたちの負けです。それでよろしければ」
 舞花は条件を飲んで、写楽斎にも返した。
 ただの殺し合いではない。決闘委員会立会いの下、集団戦なのだ。
「結構でしょう」
 写楽斎は、内心ではほくそ笑んでいた。何はともあれ、この場から逃げ切れば勝ちだ。
(くくく……、私が雇った賞金稼ぎもそろそろ成果を挙げる頃でしょう。私は、なるべく長く生き残る事を考えるのみです)
 舞花は確かに優秀だ。彼女が掌握している限り決闘委員会は揺らぐことはないだろう。
 だが、舞花はいずれ分校を去る。写楽斎は、その後を狙っているのだった。
 彼が雇った暗殺者たちは腕利きなので誰か赤木桃子を始末してくれるだろう。分校を支配しているとはいえ、桃子は無敵ではない。隙も多いし女の子特有の不安定さと脆さを持ち合わせている。存在さえ明らかにしてしまえば、いずれ彼女の運命は幕を閉じるのだ。
 桃子がいなくなり舞花が去った決闘委員会はいずれ弱体化して瓦解する。分校が再び混乱に陥れば、写楽斎の復活の目は出てくるのだった。
(バカ正直な決闘委員会め。ここで私を殺しておかなかったことを後悔するといいですよ)
「では、はじめましょう!」
 舞花の掛け声とともに、写楽斎は、再び全力ダッシュした。とにかく逃げ切ることだ。あとは特命教師の仲間と合流して身を守ればいい。
「ちぇー、もう一度追いかけなおしかよ〜」
 セラフは不満の声を上げながら、逃亡した写楽斎を追っていった。他の二人も、だ。
「ほんと、何やってんのかなー。まあ、時間稼げればいいけど」
 彼女らは、最初よりもやる気メーターが上がっていなかった。決まりができるのは必要ではあるが面倒くさい。そんなので写楽斎を仕留めることができるだろうか。
「決闘委員会は大変ですよ」
 逃げていく写楽斎を見送った舞花は、シリウスに言った。
 明らかに悪いやつが目の前にいるのに倒せない。殴りたい奴もその場で殴れない。全ては決闘で決着をつけなければならない。それが、これまで分校を治めてきたルールだ。
 あなたにできるのか? 舞花の目はそう言っていた。
「まあ、じっくり取り組むさ」
 シリウスは答えた。すぐに成果が上がるとは考えていない。目の前の仕事に全力で取り組んでいくだけだ。
「さあ、分校へ戻りましょう」
 舞花は、メンバーのお面モヒカンを呼び寄せると、必要な指示を与えた。もちろん、彼女は写楽斎の企みも察していた。ひっそりと手を回し、部下たちにも警戒させる事も忘れない。
 シリウスの分校長としての職務と、舞花の委員会活動は、順調に進んでいくのだ。