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臨海学校! 夏合宿!

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臨海学校! 夏合宿!

リアクション

 鈍い音と共に、突然の衝撃がバス全体に響いた。
 乙女の歌声をさえぎり、盛り上がっていた熱気を一気に阿鼻叫喚という氷水の中に叩き込んだ。別車両も無事ではなく、中にいた人物ごとひっくり返ってしまった。

「え?え?なに、なんなの!?」
「チ、逃げろ!!」

 ナガン ウェルロッドは野性の感を発揮させ脱出を宣言、とにかく手元にあった残りの鞄をいくつも引っつかみ、八月十五日 ななこと共にバスから逃げ出した。
 直後、荷物用車両は爆音と共に炎上した。荷物はほとんどなかったはず、しかもあくまでもバスが引っ張っているだけでエンジンは取り付けられていなかった。ナガン ウェルロッドは不審に思ったが、その原因がまさかバスガイドにあるとは誰も思っていないだろう。
 
 何故か散らばっていたいくつかの鞄をみんなで手分けして拾い集めるが、ほとんどが爆発で吹き飛んでしまった(と誰もが思った)ようだった。
 遠くまで飛ばされたらしい鞄は土と砂埃まみれ、近くに転がっていたのも持ち主がわからぬほどに表面が焦げ付いたものばかりで、中身も、テント設営用と思われる品物や、調理に使えそうなスパイスだけが入った鞄。
 どうやら、着替えなどの日用品はもっと遠くに飛んでしまったか、燃えてしまったようだった。
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)は胸をなでおろす。彼女の持ってきたサンドウィッチの入った鞄も無事だったようだ。

「思った以上に悲観するほどの状況ではなさそうね」
「怪我をしている方はこっちへ来てください〜」
「唯乃〜包帯まだあったので見つけてきましたですよ〜」

 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)エラノール・シュレイク(えらのーる・しゅれいく)と探し当てた自分の荷物から治療道具を出して、けが人の手当てを行った。

「爆発自体は何か別の要因のようだが、この痕は……?」

 荷物の確保を手伝いながら、荷物用車両と、バスの被害状況を確認した村雨 焔(むらさめ・ほむら)は、コレが何者かからの攻撃によるものだと推理した。よく見れば、バスの車内は湿り気と海の香りが残っていた。依頼人の推測どおり何かしら人為的なトラブルが起こったのかと思ったが、そうではなさそうだ。
 フリルのたっぷりついた赤いキャミソールの下に、デニムビキニを身に纏ったアリシア・ノース(ありしあ・のーす)は着替えもしないで不釣合いな格好のパートナーを見上げて、ため息をついた。

「せっかく、焔と楽しい思いで造ろうと思ったのに……それどころじゃなくなっちゃったね」
「俺はある人物から任務を受けて来ているんだ。遊びにじゃない」

 そっけなく言う村雨 焔の横で、鞄を集めて戻ってきたのは、競泳水着を着たカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)だ。彼女は彼の独り言を聞いて目を丸くした。

「え、誰かに襲われる予定があったの?」
「あくまでも、可能性の話だ」
「たぶん、海にいる魔物じゃないかな……水圧だけで、この穴を開けたんだと思うよ。この辺りには、凶暴な魔物がいて、人魚達がそれを押さえつつ、海の宝を護っている……そんな噂がある」

 清泉 北都(いずみ・ほくと)はナガンからもらった褌を身につけた状態で腕を組んでいた。彼を突き飛ばす勢いでカレン・クレスティアは清泉 北都に飛びついた。

「やっぱり!?お宝はあるんだね?」
「カレン、飛びついたりしては彼がびっくりするだろう?」

 呆れを含んだ声でパートナーを叱責するのは、カレン・クレスティアと色違いの競泳水着を纏った機晶姫、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)だ。またパートナーがよからぬことを考えていることを察して、ため息を漏らす。その姿に、カレン・クレスティアはさらに自分の中の計画に対する熱意を燃やすのだった。
 それを無視して、清泉 北都は情報が確かであると惜しげもなく語りだした。

「とりあえず、大型の海洋生物がいるって情報は掴んだ。対策は取り易いと思うよ」
「まずは魔物をぶっ潰す、ってことだな?」
「みなさーん!!とりあえず、キャンプ地に行きましょう!連絡手段はないので、このトラブルを伝える事はで来ませんが……もともと自給自足の予定だったんです、ちょっとしたトラブルなんて気にしないでいきましょう!明日必ず迎えが来ますから!!」

 バスガイドのいつきが、どこかで拾ったらしいメガホンを手にその場にいた者たちに呼びかけて歩いていた。
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は八月十五日 ななこらが置いていった荷物の中身を確認していたが、中身はこの先あると便利な鍋や、木工具、金具類、大量のペグ、布、ロープだった。にやりと笑いながら、国頭 武尊ら複数の男女はそれらの鞄をおのおの抱えだした。

「これを持っていけば、テント班に恩ができる……俺達の計画は、完璧だ!!」

 怪しげな計画集団を尻目に、バスガイドのいつきを先頭に、生徒達は一路、キャンプ予定地へ向かった。篠崎 真(しのざき・しん)は先頭の横について、地図を作りながら歩いていた。

「篠崎さん、楽しそうですね」

 バスガイドのいつきが語りかけてきた。篠崎 真は顔を上げずに、少しうれしそうな声色で答えた。

「トラブルを楽しむのも、冒険ですよ」

 誰もがその身には水着一枚、手にするのは武器のみだった。


其の三 12:00 お昼ごはんは配給制?


 数十分と経たずに到着した白い砂浜が広がる光景は、疲れも不安も何もかもが吹き飛んだ。地上よりも天に近いこのパラミタ大陸では、日差しがいつも以上に暑く感じられる。
 この辺りがキャンプ地だ、とバスガイドの片倉いつきが説明すると、誰もが荷物を一旦置いて、波打ち際に駆け寄りその冷たい海水に足を浸す。黄色い悲鳴が上がって、一旦小休止することとなった。

 いくつかの分けられた班のうち、テント担当だったメンバーが集まり、先ほどこのあたりの地図をバスガイドのいつきから助言を受けて作成しながら歩いていた篠崎 真を中心に、安全地帯の確認を行った。
 今いる岩場の近い浜が海からの魔物からもいざとなれば身を護れるのでは?と解釈して早速人数分のテントを作成する準備を開始した。

「とりあえず、安全地帯は確保だな。この辺りがキャンプ場とはいっても、全部砂浜……か、テントを建てるのは無理そうだな」
「素材になりそうな流木が、この岩場の先に流れ着いていたわよ〜」
「でも、集めてもらったロープだけじゃ足りないです。どこか他にも素材がありそうなところへ行って、素材を集めないとこの人数は心もとないです」

 曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)が地図と現状を見比べて小さくため息をついた。教導団指定迷彩スク水をまとう二人組、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)はパートナーのセリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)と共に現状報告をする。

「まずは寝床を確保して、交代で海の脅威を見張ろうか」

 アスタ・クロフォード(あすた・くろふぉーど)はイルミンスールの校章が入った、紫色のフリルがついたワンピース水着姿で割って入ってきた。その後ろには、ヴァーナー・ヴォネガットがいた。その細腕には、サンドウィッチが入った鞄を提げていた。

「待ってください、それよりもどうするんですか?このまま一夜を明かすんですか?」
「幸い、みんな武器はちゃんと持ってる。いざとなれば、一日食べなくったって困らないだろ」
「それは困る!!」
 いざとなってたまるか!!と言わんばかりに、その場にいた全員が振り向いて叫んだ。その直後、ぐぅ〜〜〜という情けない音の大合唱が響いた。
 ヴァーナー・ヴォネガットはすぐにサンドウィッチを配る準備を始めた。アスタ・クロフォードも手伝い、何とか一人一切れを食することができた。ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)はまだ空腹がいえていない様子で、おなかをさすりながら白ビキニ姿のマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)に愚痴をこぼしていた。

「このあたりに、パンのなる樹ってないかなぁ」
「馬鹿熊に分かりやすく説明してあげる。ここは海だから、どっちかというと魚を探したほうが早いわよ」

 ベア・ヘルロットはゆっくりと起き上がり、おもむろにマナ・ファクトリの肩を力強く掴んだ。あまりにもその真摯な眼差しに、マナ・ファクトリのこどうは急激に高鳴る。視線をそらせずにいると、ベア・ヘルロットは満面の笑みを浮かべた。

「そうだ!!俺達をこんなにした魔物を食えばいいんだあ!!」
「は?」
「確かにいい案だぜ!俺も協力するぜ?」
「詩穂も!」

 瀬島 壮太(せじま・そうた)騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はマナ・ファクトリの後ろから、いつからいたのか分からないが顔を出してきた。セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)も嬉々とした様子でパートナーの騎沙良 詩穂の横顔を眺めていた。

「そうだぜ。うっかり空腹で忘れてたが、俺はこの夏、海の主を食って一回り大きくなるぜ!!」
「相当でかいらしいから、囮がいるな」
「詩穂がやるよ、禁猟区があるし……物理攻撃には効果はないけど、近づいたらすぐに分かるもんね」
「禁猟区が役に立つか……なら、俺は禁猟区をアクセサリーかなんかに封じて、誰かサポートにつけよう」
「餌の役目は任してくれ。その代わり、俺に一番うまそうなところくれよ、壮太?」
「へへ、期待してるぜ、ベア」

 魔物たちへの対策も着々と組まれていく中、もともと料理班として定められていたメンバーは早速集まっていた。手元にある、使えそうな調理器具や調味料の確認をした。その上でどのメニューが可能か再検討した。

「それじゃ、メニューはカレー、バーベキューとお鍋で。スパイスは十分足りてますし、バーベキューもスパイスでよいなら問題なさそうですね。お鍋は、集まる素材次第、といったところでしょうか?」

 フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)の持ってきたスパイスもあわせて確認し、レシピを簡単に書き出して班員に配った。フィル・アルジェントのパートナー、ヴァルキリーのセラ・スアレス(せら・すあれす)はその上で必要な素材を集めるのに適した場所を提示する。

「まずはここから歩いていける範囲にあるジャタの森へ行き、森で果物や野菜を集める森班。海で魚介類を採る海班。さらに、これらの調理をするのに欠かせない水班です」
「水は、森班と合同ですか?」

 白いフリルつきワンピース水着の宮本 月里(みやもと・つきり)は小さな声で申し出た。彼女のパートナー、膝丈の水着を履いた守護天使フィリップ・アンヴィール(ふぃりっぷ・あんう゛ぃーる)は彼女の言葉に答えるように口を開いた。

「我々パラミタ人はこの土地の生まれだから構わないが……地球人の君達には、水質が合わないことが憂慮される。幸い、この土地は砂浜を掘ると真水が出るようになっているから、その心配は要らない。無論、ある程度の浄水は必要だろうが……」
「……か、海水なのに、砂浜から真水が出るんですか?」

 フィリップ・アンヴィールの言葉に、タンキニ水着にフリル付きパレオを纏う神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)が疑問を投げかける。

「ええ、砂浜でろ過されるので、塩気は全くないですわよ?ただ、水は絶対必要だから人数を裂いて浄水作業をしないといけませんわね〜」

 神楽坂 有栖のパートナーで同じ色のホルスタービキニを着たミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)は当たり前のように言葉を付け足した。

「砂湯という、砂浜を掘ると温泉が出る……というものなら、日本にもありますけれど……パラミタは凄いですわね……」

 荒巻 さけ(あらまき・さけ)は苦笑しながらパラミタの新たな発見に驚いていた。そこへ、迷彩バスガイドのいつきが顔を出した。

「さっきテント班の方たちにも言いましたが、森はここからでは結構歩くので、どうしても行くなら気をつけてください。あと、ジャタ族の方には気をつけてくださいね?森はジャタ族の方々のおうちです。おうちをいきなり土足であらされたら、誰も気分良くないだろうから謙虚な姿勢でお願いしますね」

 料理班のメンバーはにっこりとして頷くと、続いて森へ向かうメンバーと海で魚を取るメンバーに班分けを行った。すると、テント班のヘレトゥレイン・ラクシャーサ(へれとぅれいん・らくしゃーさ)、そして彼女の師でありパートナーの早瀬 重治(はやせ・しげはる)がメンバーを連れて合流した。

「テント班は、食事班の生徒達が戻る前に調理場の確保と、テントの設置を目標に行動します。テント用素材集めの協力を、料理班に要請することになりましたわ」
「合同で探しにいくことになったんで、よろしく頼むぞい」

 若い水着姿の中で、赤白ボーダーの古いデザインの半そで膝丈のワンピースは、年老いた彼にはある意味よく似合っていた。

「それじゃ、自分達はテント設置の任務にはいるとしましょう。あるだけの素材で、女子用のテントを作り、後に来る自然素材で男子用のテントを立てる。ここまでで、質問はないですか?」

 比島 真紀(ひしま・まき)は精悍な容姿に良く似合う、競泳水着を着て教導団支給のジャケットを羽織った姿で現状の再確認をメンバーと行い、材料の仕分けをしながら声を掛け合った。曖浜 瑠樹はペグを仕分けながら、比島 真紀に質問を投げかける。

「あ、一個だけいいか?砂浜じゃテントなんて建てられないんじゃないのか?こう砂が柔らかくっちゃ、ペグじゃ支えられないぜ?可能なら、もう少し場所を変えたほうが……」
「そこは問題ないであります」

 比島 真紀は柔らかく微笑むと、ペグと事前に拾ってきた大きめの石を手にして実演してみせる。

「こうして、ペグを大きな石で上から押さえることにより、砂地でも十分ペグとしての役割を果たすことができます。運よく、このペグは長めのものですから、特に不安はないと思われるであります」
「へぇ、あんた詳しいんだねぇ?」
「昔、少し心得があったのです。テントの設置に関しては、そこだけ注意してくれれば、あとは貴殿の指示で勧めていただいて問題ないであります」
「それじゃ、ゆるっとさくっと、テント立てちまいますかねぇ〜」

 比島 真紀のパートナー、ドラゴニュートのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、曖浜 瑠樹のパートナーでゆる族のマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)と共に、岩を探しに出かけていた。石はサイモン・アームストロングが布に包んで持ち、選定をマティエ・エニュールが行っていた。

「りゅーきがテントを作っているので、私はかまどを作ろうと思うのです」
「なるほどな、石はいくつあっても困らないということか。かまど用のが集まるまで手伝おう」
「さんきゅーです。サイモンさんは優しいですね」
「俺だけじゃない、皆で協力し合ってできていることだ」

 その視線の先にいるのは、国頭 武尊、やけに笑顔を振りまいているエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)、その笑顔に不信感を抱きつつ率先して手伝うパートナーのシャンバラ人ファティマ・シャウワール(ふぁてぃま・しゃうわーる)、貝殻水着で視線を独り占めしているロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)だった。