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リアクション
第2章 生者を狙いし蠢く瞳
肝試しの前日にカラオケで喉を潰し、叫ばないように対策をした国頭 武尊(くにがみ・たける)は1人、ゴールを目指してイルミンスールの森を堂々と進んでいた。
「(叫ばなきゃ良いご褒美貰えそうだしな。これでバッチリだぜ!)」
武尊は叫ぶどころか、もはや声が出せない状態だ。
汚れても平気な小汚いツナギを着て、顔にはホッケーマスクを着用している。
気合いのポーズをとった瞬間、足元のボタンを踏んでしまう。
地面から1メートルの剣山が出現し、素早い身のこなしで避けた。
「(おっと危ねぇぜ。うっかり罠発動させちまうとヤバイのもあるんだな)」
進む方向に張り巡らされたピアノ線を、銃で撃ち払っていく。
「(やっぱ気をつけながら進むなんざ俺に合わねぇぜ)」
愉快そうに高笑いをした武尊は、トラップを強引に破壊しながら道を突き進んで行った。
まったく脅かせそうにない武尊の姿を、隠れて様子を窺っていたイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)が木々の間から見送る。
持参してきた訓練用の道具で全身を灰色に塗り、森の中で拾い集めた乾いた薪をかついで銅像のように立っている。
片手は教科書を開いて持っている状態だ。
視線を前の方へ戻すと、手をつないだ少年と少女がイレブンを見つめていた。
「なんだか…今にも動き出しそうな感じですよね」
「そっ…そんなことあるはずないじゃろう!銅像が動くなんて…」
不吉なことを言う織機 誠(おりはた・まこと)に、パートナーの上連雀 香(かみれんじゃく・かおり)が反論する。
「―…い今、銅像の目が動きましたよ!」
ギョロッと睨むような視線に気がついた誠が、銅像に変装しているイレブンを指差す。
「(さて、じっとしているだけだと疲れるし叫びもしませんからね。そろそろ戦慄させてあげましょうか)」
ニヤリと笑いイレブンが動き出した。
「ううう動きよった!」
驚きのあまり顔に冷や汗を浮かべる香の方へ、イレブンはゆっくりと一歩近づく。
「お嬢様に近寄るなぁあー」
強気に言い放ちながらも、香の手を握り締めてイルミンスールの校舎へ猛スピードで走っていった。
「もうそろそろ誰か着てもよさそうですよね…」
イルミンスールの校舎の裏口で、係員のように変装してナナ・ノルデン(なな・のるでん)は今か今かと、ターゲットたちを待ち構えていた。
「そうですよねぇ、いいかげん誰か来てくれないと暇すぎて眠くなってしまいそうです」
エリザベート校長に一言、校長室の前で挨拶をしてから参加した高務 野々(たかつかさ・のの)が眠たそうな顔をする。
「おや、向こうの方に人影が…」
「えっ!どこですか?」
今にも寝そうになった顔から、暇を解消できそうだと野々は嬉しそうな表情に変えた。
「やっと誰かいらっしゃったみたいですね。やけに急いでいるみたいですけど」
駆け足で向かってくる誠と香の姿をナナが発見し、その後には彼らを追いかける銅像の格好をしたイレブンの姿もあった。
「ようこそいらっしゃいました。ここから先はイルミンスールの校舎となっています。校舎内にあるスタンプをこの地図に押してゴールへ進んでくださいね。注意事項としてホウキなどでの飛行や土足厳禁で、武器などの所持は…あっ…ちょっと話をちゃんときいて…!」
誠と香は追われていてナナの話を聞いているどころではなく、息をきらせながら校舎内へ駆け込んだ。
「もっ…もう走れぬ…あっ、あぁあ!」
転びそうになる香を庇い、変わりに誠が床へ転んでしまう。
野々によって台所用洗剤の泡まみれにされた床の上へ滑ってしまい顔面直下した。
「中は外より暗いので足元には十分お気をつけください、と言っても遅いですね」
可笑しさのあまりに野々は思わず苦笑する。
誠と香の二人を目掛けてナナのパートナーのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)が放った無色透明の冷たいミニこんにゃくは、彼らの頭上を通過して校舎外の土の上へ着陸した。
「むぅ、運良くよけたみたいだねぇ。今度こそ驚かせてやる」
仕掛けを発動させてやろうとズィーベンは物陰に身を潜めて彼らを待つ。
「大丈夫かの…?わらわを庇ったせいで怪我してしまったりしてないかのぅ?」
「これくらい平気ですよ」
心配そうに見上げる香に、擦りむいた痛みを堪えて誠が笑顔で言葉を返す。
「よぉし。来たよ、来た…」
今だと糸をひっぱり用具要れを揺らす。
「こっ怖いのじゃぁあ」
「だ…大丈夫ですよ、これくらい…ははは…」
香の前で平静を装っていても、誠の震えている声は明らかに怯えている様子だった。
怯える彼らの姿にズィーベンは、満足そうにニヤリと笑う。
一連の光景を柱の陰から見ていた相見 朔良(あいみ・さくら)はクスクスと笑っていた。
「面白いシーンも見れたし、もっと何か楽しいことに遭遇しないかなー」
庭の見える広い廊下側を歩きながら辺りを見渡していると、ガサガサと近くのゴミ置き場で音が聞こえてきた。
何だろうと見に行くと、そこには見たことのない灰色の怪鳥が生ゴミを漁っている。
朔良に気づいた怪鳥は羽を羽ばたかせて襲いかかった。
「いっ痛い!こいつ私を食べる気!?」
仕込み竹箒で致命傷を与えても、相手はまったく怯まない。
「お化けなんてめったに遭遇できないとおもったけど、面白そうなのがいるじゃない」
壁に寄りかかって状況を見ていた癒月 トイロ(ゆづき・といろ)が、嬉しそうな顔をして怪鳥へ視線を赤色の双眸で見る。
「へぇ…それだけの傷くらって動けるなんて、アンデット系みたいだね」
トイロは瞳をギラつかせてランスを握り締めた。
まるで1匹の獲物を取り合うように朔良とトイロの二人が斬りかかる。
斬り刻まれた標的はシュウシュウと音を立てて、焦げ臭い匂いを漂わせて灰と化す。
「あぁーあ…生け捕ろうと思ったのに」
「それは悪いことしたね」
不服そうな朔良の声にトロイは苦笑いをする。
互いの顔を見ながら、まあいいかと微笑み合う。
イルミンスールの校舎の1階、真っ暗な通路を村雨 焔(むらさめ・ほむら)とパートナーのアリシア・ノース(ありしあ・のーす)は注意深く慎重に進む。
明かりといえば窓から入ってくる月明かりくらいだった。
焔はアリシアの中に納められた光条兵器を使い、明かりの代わりにしている。
「トラップのボタン踏みつけないように気をつけろよアリシア」
「はーい、分かっている。それにしても何か出そうで怖いよねぇ」
怖がっていそうな素振りをしながら、アリシアは焔の腕にしがみつく。
「あーっ!焔いたよ。一緒に行こうって誘おうよー」
アリシアが人差し指で指す先にはクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)と、そのパートナーのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)の姿があった。
焔とアリシアは彼らの後を追って2階の方へ駆け上がるが、すでに二人の姿はなく見失ってしまう。
「こっちに行ったのかな?」
アリシアは近くにあった戸を開くと、そっと中に入ってみる。
真っ暗な室内に光条兵器の光を受けて、奥で何かが金色に輝いていた。
近くへ寄り確認すると、それは人間だった。
「さぁ、お嬢さん。どうぞ私を見つめてください。穴があくほど、この私を全ての角度から見てください!」
全身を金色に塗りたくり、ギリギリラインに巻いた腰布1枚で現れた明智 珠輝(あけち・たまき)に、2人は目を点にする。
「アリシアそのヤバイやつから離れろ!」
はっと我に返った焔はアリシアを危険なその場から引き離し、少女は焔に抱きついて叫び声を上げた。
「照れなくてもいいのに。ふふ、はーはっはっはー」
高笑いをしながら珠輝は両腕を広げてウェルカム状態をとる。
「どうしましょう、友達をはぐれてしまいましたー…。うぅー…広いし迷うし、お腹へったですぅ」
今にも倒れそうなフラフラとした足取りで、シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)が3人がいる方へ歩いてきた。
体力の限界にきたシャーロットは、珠輝にもたれかかった。
「かわいいお嬢さん、大歓迎ですよ」
「もうだめ、ご飯ー!」
叫ぶように言うとシャーロットが突然、珠輝の首に噛みつく。
珠輝は嬉しそうな笑顔のまま蒼白し、床に倒れこんだ。
「あれ?この方どうなさったんですか」
空腹のあまり血を吸って元気になったシャーロットは、すっかり記憶から一連の光景が抜けていた。
「ただの幸せな事故だ」
それだけ言うと焔はシャーロットと珠輝をその場に残し、アリシアを連れて教室内から出て行った。
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