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蒼空学園遠泳大会!

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蒼空学園遠泳大会!

リアクション

(体力にゃ少し自信あっても相当泳がねぇとだしな)
 折り返し地点までは自分のペースを守って、レイディスは泳ぐ。
 多くの人数に抜かれたが、半数とまではいかないだろう。場合によっては先頭集団を抜いていくチャンスもある。
 後半、スピードを上げるつもりで彼は泳ぎ続けた。

『そんなんじゃいざって時に動けないんじゃないですか』
 泳ぐ賀神 拍莉(かがみ・ひょうり)の中で、パートナーの言葉が反芻される。
 最近だらけ気味の拍莉を気遣う言葉なのだろうが、拍莉自身としては己の本質を理解してくれていないと捉え、複雑な気持ちであった。
 パートナーは暇さえあれば、動いたり踊ったりしている……だから、だらけた様子の拍莉のことが気になったのだろう。
(ここらで1つ、こう見えて出来る男だって事を思い知らせなきゃ駄目だね。サクッと泳ぎきってやればあいつも文句は言えやしない……よな、うん)
 泳ぎながら、改めて、遠泳大会に参加するに至った思いを心の中で繰り返す。
 辺りを見れば、蒼空学園の学生だけでなく、他の学校の者まで参加している様子。
 下手な姿は見せられない、と意気込み、目立たない程度にスピードを上げて、前との距離を詰める拍莉であった。

「うん、冷たくて気持ちい〜♪」
 出発と共に、アクアは余裕を持って泳ぎ始めた。
 優勝したい気持ちもあるけれど、行事を皆で楽しみたいという気持ちもあるのだ。
 今日に限ってはパートナーは留守。パートナーと助け合って泳ぐコースと違って、バテてしまっては元も子もない。
 スパートをかけるのはゴールまでの距離が残りわずかに迫ったところからとして、中盤まではのんびりと泳ぐことにした。

「大会始まってから言うのもなんだけど……このビラの出所確かめた? 海の魔物が出る海域わざとコースにして生徒に仕留めさせるシナリオってありそうじゃない? あの人だったら……」
 スタート直前まで蒼空寺 路々奈(そうくうじ・ろろな)は大会のことを疑ってかかっていた。
 けれど、1人で泳ぐぞコースが始まった今、怪しい様子は今のところない。
 黄色ボーダービキニを纏い、焦らずゆっくりと、クロールと立ち泳ぎを使い分けながら泳ぐことを楽しみ、先頭班から離されない位置に居る。
「おーいヒメナ。ゴールそっちじゃないよ。違う方向行ったら皆連られてっちゃうじゃない」
 コースの先導役であるパートナーのヒメナが歌うのに夢中で、予め教えてもらっていたコースから外れているのに気づくと声を上げた。
「えっ? 違うの? こっち?」
 左手方向にずれていたために、左手方向を指せば、ヒメナも一緒になってその方向を指しながら、慌てて飛空挺の軌道をそちらに変える。
 折り返し地点の岩場さえ越えれば、目指すはスタートしてきた砂浜なのだから、迷うことはないのだろう。けれど、先導役に着いていったら、別の場所に着いてました、とかなるようなことがあれば、優勝を目指して泳ぎに来た学生たちに申し訳ない。
 路々奈は時折、ヒメナが向かう先を気にしながら、泳ぎ続けた。

 秋葉 つかさ(あきば・つかさ)が纏っていたのは、白の超極小マイクロビキニだった。
 限界ギリギリしか隠していないその水着姿は浜辺で、男子学生たちを幾人か、開始前からリタイアさせたほどのものだ。
 それを纏っていた――と過去形なのは、胸を隠している方が流されたからだった。
 平泳ぎで、順位に関係なく、コースを泳ぎきることを目標に泳いでいたつかさであったが、異変に気づいたのは中盤に差し迫ったころだった。
 上空で先導役とは別に飛空挺で併走している救護班の1人――千乃が「折り返しに来てますよー!」と案内しているのを覚えている。
 首元で細い紐をリボン結びにしているだけのそのビキニは、泳ぐという運動と、つかさの小柄な身長からは想像つかないような豊満な体型が合わさった結果、結び目が緩んで行き、流されてしまったのだ。
 ただ、それに気づきはしたが、つかさがこれといってどうすることはなかった。
 流されるのは、そのビキニを着た時点で予想していたこと。
 他の学生がそんな自身をどう見るか、それを楽しんで泳ぎ続ける。
 そんな彼女を見つけたのは、先ほど案内をしていた千乃と共に飛空挺に乗っている蒼であった。
(うわ、大胆な水着。後で声かけよっかなー)
 泳いでいるつかさを初め見たとき、そんなことを思い、時折確認していた。折り返し地点に差し掛かった頃、もう一度見ると、首元と背中でリボン結びにされていた細い紐がないことに気づいたのだ。
 水着がないなら、見えるだろうか――そんな思いを馳せつつ、双眼鏡越しにその姿を追っていると、脚がつったのか、驚き、その場でもがくような素振りを見せ始めた。
「千乃! あそこ!」
「溺れてる!? 大変っ!!」
 相変わらず、折り返しですよー、と学生たちに案内している千乃の肩を叩いて、彼女の方を指差す。千乃も気づいて、すぐに飛空挺を彼女へと近づけた。
「大丈夫ですかっ? すぐに陸に……!」
 近づいて、飛空挺を海面ギリギリまで近づけ、手を伸ばす。
「ああ、ありがとうございます」
 救助を求め、つかさも手を伸ばせば、水着が流され露になった胸元が海面から見えた。
「!」
 千乃は驚いて、救護班の人から身体を温めるようにと渡されていたパーカーを取り出し、引き上げながら彼女に纏わせる。
 飛空挺に引き上げたつかさを横たえれば、蒼が傍へと近づいてきた。
「大丈夫かい、ねーちゃん。今すぐ人工呼吸を……!」
 そう言って口付けをせがむように近づけば、つかさはただ横たわったままであったのだが、千乃が彼の傍へとやって来た。
「そーゆーことだったのね、蒼」
 彼女にしては低い声で、苦笑いを浮かべながら蒼の方を見る。
 そして、隙を突いて蒼を蹴ると、そのまま後方――海の中へと落ちた。
「ばっ、馬鹿! 俺ぁ泳ぎは苦手なんだっ」
 飛空挺はまだ海面ギリギリに止まっていたため、落下による怪我はない。けれど、泳ぎが苦手という蒼は必死になってもがき、千乃に助けを求めた。
「そこで頭冷やしなさい! すぐに他の救護班が来るわ」
 そう告げて、千乃はつかさを運ぶべく、飛空挺を砂浜へと向け、発進させる。
 もちろん、蒼は他の救護班に助け出され、大事には至らなかったようだ。