校長室
真夏の夜のから騒ぎ
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6・花火の中で 時刻はすっかり真夜中となってしまったが、キャンプファイヤーはまだ残り火で辺りを照らし続けていた。 そんな中でようやく顔合わせしたモーリス氏と妖精パック。 未だ微妙に距離があるふたりに対して、話はこの先どうすれば共存の道を歩めるかについて話し合うことになっていた。 まず、大草義純(おおくさ・よしずみ)。彼の内容はこうだった。 「モーリスさん! キャンプ場の中に観光用の目玉としてサバゲー場や、遊技場を作りませんか? パックはそこで遊んで、イタズラ心を満たしてもらえますし!」 「お、なんか面白そうだな!」 ノリ気のパックに、義純は事前に作っておいた、ダンボールやレンガのアスレチックっぽいサバゲー場を解説し始め、そしてBB弾でパックたちと戦争をおっ始めた。他の参加者も巻き込んでゲームなのに彼らは本気でやって、 「逃がすかぁー!」 「なんの! 負けないぞーっ!」 その結果。 白熱しすぎたパックが起こした風で辺りが吹き飛ばされそうになり、危険なのでやめておこうという結論に至った。 そして、次に話しかけたのはアリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)だった。 「お話したい事があるの」 そう前置きして、 「肝試しとかは、どうかな? キャンプ場に肝試しのコースを作って、全力で驚かせて欲しいの。チェックポイントに食べ物を置くルールにすれば、それを食べてしまっても良いし。ただその時には、代わりに何か勇気の証をお返しして欲しいの。弱い者や恋人を護るチャームとかが素敵かな?」 そうすればお互いに得るものがあると告げるアリア。 「どうかな? 一考してくれたら嬉しいな」 それを聞いたパックは、試しに近くを歩いていた人を驚かそうとしてみたが、 結果。 なぜか怖がらずに喜ばれてしまう形となってしまった。 やはりパックのイタズラだとわかっている人にはあまり怖がられないとわかり、断念する形となった。 それから、続いて歩み出てきたのは、支倉遥(はせくら・はるか)、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)、御厨縁(みくりや・えにし)、サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)の四人だった。 「正当な報酬が貰えるとともに、お祭り騒ぎも出来る一挙両得な計画があるんだ。きっと妖精王も大絶賛間違いなしのね」 と、切り出す遥。 遥の後を受け、ベアトリクスは遥企画・演出の妖精パックによるイリュージョンショーの概要説明に移り始める。 「内容としては、パックには音楽を演奏してもらいながら変化能力を使って鬼火になり、夜空をリズムに乗って駆け回ってもらう。花火とはまた趣の異なる幻想的な光の輪舞曲を演じてもらって、あとはいつもやる様にお祭り騒ぎをすればいいんだよ」 これが成功すれば人々はパックを賛辞しキャンプを訪れる人も増え宴が途切れることもなくなるだろう、と提案するベアトリクス。 「どうじゃな? 成功すれば、客寄せも出来て、妖精たちも好きに遊べて大喜びじゃろうと思うんじゃがどうかの? もちろん成功報酬は頂くが……」 と問いかける縁。サラスも固唾を呑んでふたりの回答を待っている。 パックはまた面白そう……と思ってはいたが、モーリス氏が、 「ああ。その、ワシはパックが喜んでくれるならそれが一番だからな」 そんな風にばかり答えているのが気になっていた。 そこでパックは、ふらりと椅子から立ち上がり、 「ちょっと待ってて」 そう言ってその場を離れた。 パックは悩んでいた。 イタズラに関しては、ただ仲間に入れてほしかったからの行動で、今は反省していた。 ただ、今頭の中を巡っているのは別のことだった。 それは、モーリス氏との……。 「あの……ちょっといいですか?」 そこに、話しかける人物がいた。 赤嶺霜月(あかみね・そうげつ)と、アイリス・零式(あいりす・ぜろしき)だった。 「なんか用?」 パックに対し、霜月は一冊の本を取り出して、 「キミはさ、この本に出てくる妖精パックと同じなの?」 「……? なに、それ? オレはそんな本知らないけど」 「そうなんでありますか。ワタシはこの本と同じように、人を幸せにする妖精なら会ってみたいと思っていたのでありますが」 アイリスのそんな言葉に、パックは少し意表をつかれたような顔になって、 「その本の妖精パックって、人を幸せにするの?」 「え? うん、そうだよ。色々と失敗もあるんだけど、結果的に皆を幸せにする……そんな妖精なんだ」 「ふぅん」 パックはそう呟く。その顔は、先程とは違う何かに気づいたような色があった。 そして。 パックが戻ってきた頃には、空には花火が打ちあがり始めていた。 「モーリスのおじさん」 「あ、パック。戻ってきたか。見てみろ、綺麗な空だよなぁ」 「あのさ。オレ、なんとなくわかったんだ」 「ん?」 「オレ、さっきの話の……共存とか、なんか色々さ。実はムツかしいことばっかりで、ほとんどよくわかってなくてさ」 「ああ」 「なんか、さ。そういうの、悩むのオレらしくないし。べつにそんなのカンケーなくていいんじゃないかな? と思って」 花火が、空を彩って、はじける。 「ああ、そうか。そうかも、しれないな」 「うん」 そんな光景を背に、パックは空に飛び上がった。 そして、 「お―――――――――――――い!」 キャンプ場にいる全員に届くような大声で、パックは叫んだ。 「それじゃ、モーリスのおじさん! あと、その他大勢の皆!」 その他大勢ってなんだよ! と、そこかしこから文句が飛び交う。 「すっごい楽しかった! 面白かった! だからさ、また、遊ぼうな!」 「あははっ! 冗談だよ! 今更だけど、ホントに感謝してるからさ! 色々と迷惑もかけちゃったのは、ごめんな!」 モーリス氏は、ただ微笑んでパックを見送っていた。 「でもすっごい楽しかった! 面白かった! だからさ、また、遊ぼうな!」 その最後の声に、 パックと会えた人も、会えなかった人も、迷惑をかけられた者も、笑いあった者も、 何かを感じ取っていた。 そして、元気にさよならを告げる少年も、涙を流して手を振る少女も、様々な参加者たちがいた。 花火が、大きくはじけて、消えた。 * 皆が寝静まった真夜中。一人外で、夜空の星や月を眺めて物思いにふける人物がいた。 樹月刀真(きづき・とうま)である。 そして、近くのテントの中で眠っていた、彼のパートナーの漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)だったが。 突然、誰かに髪の毛をひっぱられて目を覚ましてしまった。 「んん……なに……?」 寝ぼけ眼で辺りを見渡すが、誰もいない。でもそこで、外に出ている刀真に気づいた。 「刀真?」 そして布団から抜け出して自分も外に出る。それに気がついた刀真が振り返り、 「あ、月夜。どうしたの?」 「それはこっちのセリフよ。どうかしたの? こんな夜中にたそがれちゃって」 「ん、いや、さ。最近楽しく過ごしているからね、このまま俺の目的は果たせるのかなって……そう考えてた」 そんな刀真に、 「大丈夫、ワタシがずっと傍にいるから」 月夜はそれだけを告げていた。 「そっか……有り難う、月夜」 その言葉に一瞬驚いて、そしてそのまま微笑み、刀真は月夜にキスをした。 そうした後で刀真は顔を赤くして、 「これは、その……夜空の星とか月とかが綺麗で、蛍の光に照らされた花が幻想的で……そう、真夜中の夢なんだよ、うん」 そんな言い訳をしていた。 そして月夜はそのまま刀真に抱きついて、 「夢なら……もう少しだけこのままで」 それを拒む理由は、刀真にはなかった。 月夜の視線の端に、緑色をした影が映った気がした。 自分を起こしてくれたのは、もしかしたら……。 「あの……ありがとう」 その月夜の言葉は夜の中に消えた。 終幕
▼担当マスター
雪本 葉月
▼マスターコメント
いかがでしたでしょうか。マスター担当の、雪本葉月です。 こういった結末で、納得できない方もいらっしゃるかもしれませんが。 それでも、妖精パックにはあくまでも「自由さ」を強調させたかったので、ひとつご理解いただければ幸いです。