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【借金返済への道】ザ・ヒーロー!

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【借金返済への道】ザ・ヒーロー!

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第2章


 昼の部開始。


■炎の大決戦■

「皆〜! 炎の大決戦が〜は〜じま〜るよ〜!」
 さきほどと同じ衣装で出てきたホイップが司会を務める。
 舞台直ぐ下ではホイップに向けてカンペを上げている早川 呼雪(はやかわ・こゆき)がいた。
「ヒーローが登場する前に、皆に渡す物があるよ! 受け取ってね!」
 ホイップが呼雪のカンペでそう言うとアリス・ハーバート(ありす・はーばーと)リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)望月 寺美(もちづき・てらみ)アニア・バーンスタイン(あにあ・ばーんすたいん)が可愛くラッピングされた手作りクッキーと光を反射する手作りブレスレットを配っていく。
 両方とも今配っているメンバーが徹夜で作ったものなのだ。
「ブレスレットかっけー!」
「後で使うからね」
「うん!」
 目をキラキラさせている子供にアリスがそれ以上に嬉しそうにしていた。
「クッキー見ながら食べてね」
「うん!」
 アニアも頬が上気している子供を暖かく見つめていた。
 リリィ、寺美も同様のようだ。
「皆〜! ブレスレットとクッキーは貰ったかな〜?」
「はぁ〜い!」
「それじゃあ、ヒーローショー始まり〜!」
 舞台の中央に居たホイップは舞台向かって左へと寄る。

 城定 英希(じょうじょう・えいき)が部下を引き連れ登場した。
「お前らの明日が明るい日だと誰が決めた!? 家畜はいいぞ! 思考を捨てろ人間共ぉ!」
「大変! 悪の組織『ダークワーカー』の怪人ムツゴーロが皆を動物にして、自分の帝国を築こうと企んでいるよ!」
 ムツゴーロがそう言うと後ろにいた部下が子供達の元へと向かっていく。
「クックックッ」
 ジゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)は火術を左手で発動させ、それが見えないように左へと向くと大きく口を開け、まるで火を吐いたかのように演出し、子供達を震え上がらせる。
『破壊ダメ!』
 そのまま舞台のセットを破壊しにかかろうとするのを呼雪が舞台の下からスケッチブックに書いた言葉で止めた。
「やれやれ……お前たち怪人ムツゴーロ様の部下として働くが良い!」
 そう言うと夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)は子供達をさらう振りをした。
「どうだいボク、ダークワーカーに入らないかい? 戦闘員になればお菓子食べ放題だぞ?」
 お菓子を持ち、懐柔しようとする金住 健勝(かなずみ・けんしょう)
「お菓子くれるの!?」
「ええ!? ちょっ、ええ!?」
 本当についていこうとする子供に戸惑いを隠せないでいる。
『止めて』
 見た呼雪が急いでホイップへとカンペで指示を出した。
「ほ〜ら、お菓子でつられちゃ駄目だよ。一緒にヒーローを待とうね」
「そっか、ヒーロー来るんだった!」
 慌てて駆け寄ったホイップの言葉でなんとかなると、今度はそのホイップに朧 翡翠(おぼろ・かわせみ)が近づいた。
「人質として来てもらおう!」
 背後からホイップを抱き上げると舞台へと上がり、ムツゴーロと一緒に高笑いを始めた。
「これで動物王国への道がまた一歩刻まれたのだ! はっはっは!」
「はっはっは!」
「きゃー! 助けてー! 家畜にされちゃうー!」
 少し棒読みに助けを求めるホイップだった。
 夏候惇がホイップを手早くロープで縛り上げ、舞台の隅にある鉄格子のセットに押し込めた。
(なんだか最近鉄格子に縁があるような気がするんだけど……気のせいよね?)
 ホイップは少し複雑そうな顔をして、舞台へと視線を戻した。
「そこまでだ!」
「な、何者だー!」
 頭上からの声に健勝が素早く反応する。
 更に、ルディがヒーロー用の曲へと変える。
「俺か? ケンリュウガー。ただの正義の味方だ!」
 そう叫ぶと武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)がヒーローが乗っていそうなゴッテゴッテの装飾を施した小型飛空艇から飛び降り、ポーズを取った。
「あたしも居るんだから!」
 舞台の袖から普通に登場したのは倉田 由香(くらた・ゆか)だ。
 タノベさんから貸し出されたピンクと水色のヒーローっぽい衣装が良く似合う。
「人の眠る夜の闇でも、月が悪事を逃しはしない……魔闘拳術・ツクヨミ参上!」
 仮面と氷術によって作りだした氷のドレスを身にまとった十六夜 泡(いざよい・うたかた)も登場した。
「罪のない女の子を誘拐するだなんて……このあたしが許さないんだから! 覚悟しなさいよね!」
 由香は言うとポーズを取っているケンリュウガーとツクヨミ、お互いに背を預け、戦闘が開始された。
 次々に普通の戦闘員達をなぎ倒していく。
「げぇっ! ピンチ!? お前ら今日の晩御飯抜きー!」
 ムツゴーロが簡単に倒される戦闘員達に向かって言葉を投げた。
(な、なんだか訓練中に教官に怒られているのと変わらない気がするであります……)
 やられながら、健勝は思ったのだった。
「そ、そうだ! 今ならボスにお願いしてお前たちを幹部として迎えてやるよ! どうだ? 世界をこの手にしてみないか? 素敵な提案だろう?」
「そんな勧誘には乗らないぞ!」
 ケンリュウガーはあっさりと提案を蹴った。
 そのままムツゴーロの懐へと入り、アッパーで高く打ち上げた。
 最後の1人となった翡翠は由香から攻撃力の無いパンチを食らうと自ら後方に吹っ飛びながら言葉を残して舞台から消えた。
「くっ……ジェネラル・ナイトメア様……あとは頼みます……がくっ」
 他のやられたメンバーも黒子の刀真に引きずられ、速やかに舞台から消えて行った。
「ジェネラル・ナイトメア? これで終わりじゃないの?」
「まだ、誰か居るのか!?」
「そんな!」
 由香とケンリュウガー、ツクヨミの言葉に反応し、舞台の袖からスモークが出てきて辺りを覆った。
「フフフフフ……」
 その中から声が響き、子供達が悲鳴を上げた。
「大丈夫ですぅ〜、ヒーローがやっつけてくれますからねぇ〜」
 子供達の側では先ほどお菓子を配っていた寺美があやす。
 他にも、さっき配布していたメンバーは子供達を安心させるために動いていた。
「俺がダークワーカーの参謀……ジェネラル・ナイトメアだ!」
 スモークの中から出てきたのは真っ黒なスーツに身を包んだヴィンセント・ラングレイブ(う゛ぃんせんと・らんぐれいぶ)だ。
「ドドル ドルドル ドドルド〜。ボカボカ怪人撲殺悪魔ヤシロ君やでぇ〜」
 続いて硬そうなフランスパンを持って歌いながら出てきたのは日下部 社(くさかべ・やしろ)だ。
「ミーナちゃんはダークワーカーの幹部だぁ〜! ヒャッハー! お菓子をよこさないと世界規模で暴れちゃうゾ〜」
 ミーナ・シーガル(みーな・しーがる)も黒いマントをなびかせ登場した。
「このホイップの命が惜しかったら手を出しちゃ駄目だからね!」
 ミーナは登場すぐにホイップへと近寄り、鉄格子の外から火術を出し自分の手の上に待機させておく。
「くっ……卑怯なっ!」
「これじゃあ、手が出せないわっ!」
「そんな事をしなければ戦えないなんて可愛そうな人達……うっ」
 ケンリュウガーと由香、ツクヨミは怪人達になすがままとなってしまった。
「フランスパンは砂糖を使わないからこんなに硬度があるんやでぇ〜」
 撲殺悪魔ヤシロ君は両手でバゲットを持ち、牙竜をぼっこぼっこ殴っていく。
「卵や乳製品も使わない為、パン職人になるうえで難関と言われてるんやー!」
「そ、そんなに詳しくフランスパンを愛しているのに何故武器として使う! 普通に食べてやらなければ可愛そうじゃないかっ!」
「……はっ! 俺は一体何をやってたんや……。ダークワーカーに洗脳されとったんかー!」
「ええぇ!? そんな設定――ふがふが」
『皆、入りこんでいる。邪魔はいけない』
 あやうく設定なかったと言いかけたホイップを呼雪がスケブで黙らせた。
 そのまま撲殺悪魔ヤシロ君は苦悩のポーズをとりながら退場していったのだった。
「はぅ!? 社は出番これで終わりですかぁ!?」
 小声で寺美がツッコミを入れた。
 ジェネラル・ナイトメアは居なくなってしまった怪人の後を引き継ぎ、攻撃の出来ないケンリュウガーをスライディングで転ばせ、上から踏みつけた。
「フフフフフ……これで正義の味方などという邪魔者は居なくなる……全てはあの方の為に」
 悪い顔でジェネラル・ナイトメアが子供達をねめつける。
「がんばってー! ほら、皆でヒーローの応援をしよう!」
 ホイップが声を観客席へと投げた。
「ヒーロー頑張ってー!」
 すぐにさくらとして客席にいた渚が声を出す。
「負けちゃ駄目ー!」
「ケンリュウガーがんばれー!」
 すると次々と応援の声が上がる。
 ここで、いきなりルディが曲を変えた。
「炎の天誅騎士ファル☆シオン、ケンリュウガーさんと由香さん、ツクヨミさんの助太刀に只今推参!」
 ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が白いポニーに乗り、真っ赤な仮面とマントをつけて現れた。
「やれやれ……大丈夫か?」
 サングラスをかけてニヤニヤ笑いをしている神城 乾(かみしろ・けん)が登場すると、ヒーロー登場にも関わらず、子供達が泣きだした。
 慌ててサングラスを強調したネオコマンダーへと変身をしたが、子供達は泣きやむどころか、本泣きになってしまった。
 それをアリス、寺美、アニアが必死になだめ、なんとかなった。
(……ヒーローになっても子供受けは良くないというのか……)
 心で泣きながら頑張ってポーズをとった。
「さ、笹の葉さらさら、サササジマン! 助太刀に参りました」
「あいつ噛んでらぁー!」
 子供達から野次が飛ばされる。
 観客席とヒーロー、敵へとぺこぺこしたのは笹島 ササジ(ささじま・ささじ)だ。
 渋い萌黄色の着物を纏い、笹団子を手にしている。
 他と比べて、どちらかというと戦隊チックな衣装になっていて、少し浮いている。
「遅れて駆けつけるのが主役の醍醐味ってもんだぜ!」
 ルーク・クライド(るーく・くらいど)は由香と似たような衣装を着て普通に登場した。
 ヒーロー達が勢ぞろいし、再び戦闘が開始された。
「お前達、出ておいでー! ヒャッハー!」
 ミーナがそう言うと、舞台袖から黒いタイツを着た15人のパラ実生達がわらわらと現れた。
「いえーい!」
 ファル☆シオンは攻撃力を押さえた巨大な火術をパラ実生に投げつけた。
「ぐはぁっ!」
 攻撃を受け、3人が後ろへと吹っ飛ぶ。
「くっ! 囲まれたわ……」
 ツクヨミがパラ実生に囲まれてしまう。
「くらえっ!」
 そこへササジマンが袖から取り出した笹の葉を撒き散らし、敵の目をくらませる。
 敵の視界から消えたところで、2人がかりで攻撃をし、パラ実生退場となった。
「お前は俺が相手だ!」
「きゃ〜っ!」
 ネオコマンダーはミーナへと向かっていき、サングラスを外して、その眼光で倒した。
「やられたままでいる俺ではない!」
「くっ……何だと!? この俺が予想できないとはぁー!」
 ジェネラル・ナイトメアに足蹴にされていた牙竜も立ちあがり、蹴り飛ばした。
 綺麗に吹っ飛び、ジェネラル・ナイトメアはそのまま舞台から姿を消した。
「私の大事な部下をやっつけてくれたのは……貴様らか!」
 上から舞台を見下ろすように現れたのは水橋 エリス(みずばし・えりす)だ。
 ごてごてと装飾されたローブ、実用性が無さそうな髑髏やら棘で装飾された杖、禍々しさをアピールするためのフェイスペイントをしており、いかにもボスの様相だ。
「お前がダークワーカーのボスか!?」
 ケンリュウガーが叫ぶ。
「いかにも、私がダークワーカーのボス……エリスだ! 私の部下達を可愛がってくれたお礼をしなければならないなっ!」
 そう言うと上から攻撃力を極力抑えた特大の雷術を放ち、ヒーローが一撃で地に伏した。
「はーっはっはっは! たわいもないわっ!」
 1人、高笑いをするエリス。
 今度は更にその上からリリィが光精の指輪を使い、光を観客席へと届ける。
 勿論、姿は見えないようにし、光だけが見えるようにしていた。
「みんなー! この光をそのブレスレットで反射させてヒーローに当てて! それがヒーローの力になるから!」
 ホイップの呼びかけに子供達は素直に従い、急いで自分のブレスレットを高く上げ、光を反射させた。
 舞台には沢山の光が集まる。
「そんな光など……なんになると言うのだ!」
 エリスがヒーロー達へと投げかける。
「これを待っていたぜ!」
「これで変身が出来るわ!」
 ケンリュウガーとツクヨミが一度、引っ込むと衣装をチェンジして現れた。
 ケンリュウガーはリリィが毎晩徹夜で作った光り輝くシャイニング・ケンリュウガーの衣装に。
 ツクヨミは氷術を駆使したドレスに変わりがないのだが、光をよく反射するように作り変え、まるで光の鎧ドレスのようになっていた。
 他のヒーロー達も回復し、立ちあがっている。
「ば、馬鹿な!」
 エリスは大仰に慌てた振りをした。
「皆で力を合わせるんだ!」
「おうっ!」
 シャイニング・ケンリュウガーの呼びかけに答えてヒーロー全員がガッツポーズをとった。
「シャイニングーアタックーーーー!」
 全員で声を揃え、それぞれの攻撃をエリス目がけて放つ。
「ぐはぁっ! く……くっくっく……」
「何がおかしいの!?」
 やられてもなお笑うエリスにツクヨミが声を掛ける。
「ぐふぅ……私が敗れても第2第3のダークワーカーがいずれ必ず現れて貴様らを……ふっぐぅ……」
 エリス倒れ込みながら退場。
「悪は滅びた……だが、まだ油断は出来ない! 皆、また力を貸してくれよな!」
 最後にケンリュウガーが子供達へと声をかけ、幕は閉じたのだった。
「あ、あれ? 私の存在は……?」
 誰にも気に掛けてもらえないホイップが1人呟いた。