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【借金返済への道】ザ・ヒーロー!

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【借金返済への道】ザ・ヒーロー!

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第4章


 夕刻、デパートの屋上は先ほどとは違う客層になっていた。
 大きなお兄さんやおじさんが多いように見える。
 ヒーローショー夜の部が始まったのだ。


■地獄の猛火! 魔異都!■

「大きなお友達ー! こんばんわーー!」
「こんばんにゃんー!」
(にゃ、にゃん!?)
 司会である宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は大きなお友達のテンションに後ずさるが、なんとか平静を装った。
「も、物語始まるよーー!」

「ヒャッハーーーー! 汚物は俺等の業火で火炙り消毒だーー! ヒャッハーーー!」
「消毒だぁー! ヒャッハー!」
 パラ実改造科過激派の陰謀により炎魔人魔異都となったマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)と、タノベさんが扱っている耐熱スーツを着て火術を纏ったホイップが燃やす為に用意した舞台道具を次々と火達磨に変えて行く。
「ついでにこいつもパラ実改造科過激派に引き渡すぜぇーーー! ヒャッハーー!」
「助けてーー!」
 炎魔人魔異都によって祥子はいったん連れ去られ、舞台から消えた。
 すぐに舞台に炎魔人魔異都は戻り、そのまま燃やす行為を続けて行く。
「やめるんだ! 蒼い空からやってきて、友との絆を護る者! 仮面ツァンダーソークー1」
 客席の後ろからいきなり現れたのは銀色のヒーローお面を被り、赤いマフラーをした椎名 真(しいな・まこと)だ。
「……えっ?」
「誰……?」
 台本にないヒーローの突然の登場に悪役2人は固まる。
「この舞台ってこのまま悪が蔓延る設定だったよな?」
「う、うん。そうだよね?」

 ひそひそと打ち合わせを確認。
 すると、客席から舞台へと向かってずかずかやって来た仮面ツァンダーはその隙に舞台へと勝手に上がった。
 ポーズを取り、2人の出方を待つ。
「……誰が相手でも燃やしつくすだけだぜ! ヒャッハー!!」
「そ、その通り!!」
 炎魔人魔異都はヤケになったのか戦闘態勢に入り、それにホイップも合わせた。
「ヒャッハー! ヒャッハー! ヒャハヒャッハー!」
 ヒャッハーを連呼し、コマネチを繰り出すと炎魔人魔異都の纏っている炎の威力が増した。
「……」
 無言で仮面ツァンダーはその様子を見つめる。
「灼熱槍!」
 持っていた槍にも炎を纏わせると素早く仮面ツァンダーへと突く。
 当たる直前に、その槍を左手で脇へとどかし、そのまま蹴りを顎へと食らわせノックアウトした。
「ぐ……く……そぅ……」
「炎魔人魔異都様ーー!」
 ホイップが叫ぶと今度は舞台の袖から深紅のナチスっぽい軍服を着用し、鞭を振るい祥子が現れた。
「さっきの……司会のお姉さん!」
 鞭を打つ音に反応してホイップが祥子に振り向く。
「司会のお姉さん? 誰の事かしら? 私の名前はクリムゾンエンプレス。お前たちを真昼よりも明るい冥界に送る者よ!」
「うおおおおー! クリムゾンエンプレス様ーーー!」
 客席からはクリムゾンエンプレスに向けて声援が送られた。
「……」
 仮面ツァンダーは、またしても無言で戦闘態勢に入った。
「女王様と呼びなさい!」
 鞭を振るい、客席へとアピールをした。
「はい! 女王様ーー! 鞭を下さいーー!」
「だ・め・よ。欲しかったら私の下僕になる事ね! コイツの様にね!」
 客席へと視線を向けてしたクリムゾンエンプレスは鞭を仮面ツァンダーに打った。
 仮面ツァンダーはそれを左手で受け、鞭を腕にわざと巻き付かせると、その鞭を使いクリムゾンエンプレスを引き寄せた。
 そして、こちらも見事な上段蹴りで一発ノックアウトとなった。
「私は一体何を……ああ、そんな……でも……快・感!」
 そう言ってクリムゾンエンプレスも撃破されたのだ。
 こうして、良く解らぬ乱入により、無事に(?)舞台は終了したのだ。


 仮面ツァンダーは舞台が終わると直ぐに物陰に隠れ衣装を全て取る。
 用意しておいた鞄の中へと衣装を綺麗にしまうと、携帯を鞄から取り出し、操作した。
 3回コール音が鳴り、相手が出る。
「……そう、うん。こっちは無事に終わったよ。代役なんて務まるか不安だったけどね」
 それだけ伝えると携帯を切り、控室へと向かうのだった。


■禁忌を冒せ■

「続きまして、ショーは『禁忌を冒せ』だよー! みんなー、大人しく見てねーー!」
「イエッサー!」
 何故か統率のとれた動きをする客達に怖気づくホイップだった。

「自分こそ、タブーを司る者『禁忌博士』! さあ、ギルベルトさん、その娘さんをさらうのです!」
「貴様に従うのは癪だが、この娘をさらうのは同意だ!」
「あぅ〜! 助けて下さい〜!」
 いきなり出て来ては、そこに居た一般人の東雲 いちる(しののめ・いちる)をさらうザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)扮する禁忌博士とギルベルト・アークウェイ(ぎるべると・あーくうぇい)だった。
 ギルベルトはいちるを背後から抱き締めていると、その腕の中にすっぽり入り、柔らかい事に少し赤面しているように見えなくもない。
「待ちなさい! 美少女戦士チャトランここに参上!」
 高い位置から現れたのはミニスカートに羽付きマスクをした初島 伽耶(ういしま・かや)だ。
「現れましたね……って、あなたは最初から変身して現れるタイプのヒーローですか……用はないですね! ギルベルトさん、やってしまって下さい!」
「あ、ああ! 任せるが良い!」
 ギルベルトは慌てて舞台へと意識を戻す。
「とうっ!」
 チャトランはそう叫ぶと高い位置からジャンプし、下りてきた。
 地面の着地と同時に嫌な方向へと曲がった足首と音を連れて。
「うきゃー! 足首に破滅の音がああぁぁぁぁぁ!」
 言うと転がりながら、舞台の袖へと退場していった。
「……何しに出てきたヒーローなんだ? お笑い?」
 そんな呟きが客席から漏れる。
「麗しき姫を助ける為、クー・フーリン(くー・ふーりん)参上です」
 そんな様子を気にもせず、次のヒーローが登場した。
「今度こそまともなヒーローですね……。お相手いたしましょう! 全力でかかってきなさい!」
 禁忌博士自らが戦闘の姿勢を見せた。
「では、参る!」
「……あのー……変身は?」
「私は変身など致しませんよ?」
「……なんてことでしょう……変身シーンをぶち壊すという自分の野望が……」
 愕然とする禁忌博士。
「来ないならこちらから行かせて頂きます! はっ!!」
 華麗なランスさばきを披露し、禁忌博士を地にひれ伏させた。
「くっ……避けれた筈なのに体が言うことを聞きませんでした。自分自身が一番お約束に捕らわれていたとは……滑稽ですね」
 禁忌博士はお約束により、命を落としたのだった。
「では、姫を返してもらいましょう!」
 ランスを今度はギルベルトへと向ける。
「そんなことしちゃダメですー!」
 なんと2人の間に割って入ったのは捕まっていたいちるだ。
「姫……」
「私……ギルさんをお慕いしてしまったのです」
 演技とはいえ、顔を赤らめる。
 その後ろのギルベルトはもっと赤い。
「ふっ……2人の道は困難でしょうが、私だけは祝福致しましょう!」
「有難う!」
 いちるはギルベルトへと抱き付いたのだった。

「こうして、悪と一般人は末永く暮したのでした」
 ホイップが締めると幕も下りた。


■ふたりは魔法少女マジカルシスターズ■

「大変! 遅刻しちゃうよ〜!」
「急がなきゃね!」
 走りながら登場したのはホイップと小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)だ。
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)お手製のまるで学生服のようなブレザーとミニスカートを穿いて、学校への道を急いでいた。
「お前達! 大きなお友達の皆さんをさらってくるのよ!」
 反対側からは背中と胸元の開いた黒いセクシードレスを着たヴェロニカ・ヴィリオーネ(べろにか・びりおーね)が黒いタイツを被った水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)とパラ実生を従え、命令を出した。
 ヴェロニカのセクシーさに大きなお友達から熱い視線と野次が送られる。
「悪の組織の連中ね! 学校は後回し! 行くわよ、ホイムゥ!」
「うん、美羽さん!」
 気が付いた2人は直ぐに変身を開始した。
 舞台の袖からは大量のスモークが出現し、2人の体を隠す。
 この間に、こちらもベアトリーチェお手製レースとフリルをふんだんに使用したミニスカドレスへと着替えた。
 ホイップは白を基調としたもの、美羽は水色を基調としている。
「魔法少女マジカル美羽!」
「魔法少女マジカルホイップ!」
 スモークがなくなるとポーズを取り、戦闘態勢ばっちり。
「うぉぉぉぉ! ホイップー!」
「美羽ーー! 最高です!!」
 観客の受けも良いようだ。
「お前達、行きなさい!」
「ラ・ジャー!!」
 叫ぶとパラ実生と邪堂が突っ込んでくる。
「マジカルドロップキーック!」
 美羽は脚線美を見せつけるようにキック主体で戦い、あっと言う間に敵を倒していく。
「マジカルフルスイング!」
 ホイップの方はリボンをつけたバットで次々とフルスイングを当てていく。
「……はぁはぁ……」
 パラ実生と共に倒したはずの邪堂はまだ倒れ込まず何故か息が荒い。
「ひょほぉぉおおお!!」
 叫んで、自分の着ていたタイツを頭部分以外びりびりと破いてしまった。
 白い褌がはためく。
「ええーー!!」
 台本に無い事にホイップと美羽は叫ぶ。
「……わ、わしが……悪の首領ジャドーンじゃぁああ!!」
「ちょ、私の立場――」
 言いかけたヴェロニカの口をふさいで、舞台の袖へとぶん投げてしまった。
「はっはーーー! さあ、邪魔者はいなくなった……戦いを楽しむとしようかのぅ」
「……か、かかってきなさい!」
「コテンパンにしちゃうんだから!」
 ビックリはしたが、ホイップは何度かあったので直ぐに正気に戻り、アドリブで切り抜けた。
 それに美羽も乗っかる。
「ほれほれ……お主ら弱いのぉ〜」
 左パンチと右パンチを交互に繰り出し、2人を追い詰めていく。
「こ、こうなったら……合体技よ!」
「うん!」
「マジカルフルボッコーーー!」
 2人で声を合わせるとホイップはバットをめっためたに振り回し、美羽はロウキックと上段蹴りを交互に食らわせていく。
「ぐ、ぐわぁ〜!!」
 そろそろやられどきと感じたジャドーンはわざとらしく声を出し、やられてしまった。
「か、勝った……勝ったよ!」
「うん! やったぁ〜! 私達は無敵だね!」
 ホイップの言葉が嬉しかったのか、抱き付きぴょこぴょこと跳ねる。
「マジカルホイップーー! マジカル美羽ーー! 萌えーーー!」
 観客からの熱き声援を受け、全ての舞台が終了したのだった。