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水を掘りに行こうよ! ミミズと俺らのメモリィ

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水を掘りに行こうよ! ミミズと俺らのメモリィ

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コウ解放

 水の採掘を邪魔しようとする蛮族と学生達の戦いはすでに数時間に及んでいる。
 蛮族たちは砂漠での戦いに慣れているのに対し、学生達は砂漠で戦闘するということ自体初めての者がほとんどだ。さらに蛮族たちの実力は、かなりの者だ。
「……どうしましょう?」
 よれよれネクタイ氏は心細げにモグ三を振り返る。
「さて……」
 モグ三は短い腕で器用に腕組みしている。モグ三の視線はうっすらと白み始めた空の向こうを見据えている。
「掘削を始めるモグ!」
「副長!」
「水がいるモグ……このままじゃ誰の生き残れないモグ」
 モグ三はヘルメットの顎紐を締め直す。
「機晶姫たち、準備はいいモグ?」
 戦闘地帯をくぐり抜けて掘削に向かう。非常に危険な行為だ。りをや唯乃、機晶姫のパートナーをもつ者たちは難色を示したが、モグ三は頑として譲らなかった。
「機晶姫たちが今からでるのか!」
 エル・ウィンドは額からヒロイックアサルトで強化した光術を放ちながら驚愕する。
 テントから出てきた機晶姫たちに蛮族が殺到しようとする。
 護衛を買って出た学生達が、それを阻止しようと正面から激突する。
「ここモグ! 時間がないモグ、一気に掘るモグ!」
 ダウジングロッドを持ったモグ三が叫ぶ。機晶姫たちは一斉にドリルを起動さて、砂漠にそれを突き立てる。すさまじい勢いで砂が掻き出され、機晶姫たちの姿は彼女たちが掘った穴の中に隠れてしまう。
「よいさー!」
 機晶姫たちと穴の奥に降り立ったアピス・グレイスがドラゴンアーツで一気に地上に砂を放り投げる。ほかの者も、バケツリレーの要領で砂を掻き出してしく。
 朝野 未沙はオーバーヒート寸前まで酷使された機晶姫のドリルユニットを、予備の物に換装していく。神野 永太なども手伝ってくれるが、それでの時間が足りない。
 すり鉢状の穴が直径3メートルに及ぼうというとき、穴の底部にいる機晶姫が叫ぶ。
「岩盤に達しました!」
 フィア・ケレブノアが穴から出てくる。彼女のドリルは白煙を吹いている。
「ここからがドリルの本領発揮モグ! 相手が岩ならかえって安定するはずモグ」
 すさまじい爆音を轟かせながら、砂漠の下の岩盤に穴が穿たれていく。

 大ミミズはぼろぼろのように見える。傷口から噴き出す体液も勢いがなくなり、砂のブレスを吐く事も少なくなってきた。
「っく……でかいだけの虫がこんなにやっかいとは」
 一撃で吹き飛ばされる威力を持つ大ミミズの体当たりも、次第にその準備動作が読めるようになってきた。
 だが、恐るべきはそのタフさだ。痛覚などは持ち合わせていないのだろう。大ミミズは散発的に自分の周りにいる学生を攻撃しながらも、機晶姫たちが穴を掘っている地点に向かっている。
「もう六時か」
 石田三成は腕時計を見てうめく。もう一時間四十分も大ミミズと戦っていることになる。敵が巨大とはいえ、十四人がかり(砂のブレスで吹き飛ばされた坂下 小川麻呂も復帰してきた)で未だに倒すことができないという事実そのものが三成の神経をすり減らす。

 機晶姫たちが砂漠の下に眠っていた岩盤まで到達してから三十分あまり。機晶姫たちの作業を妨害しようとする蛮族たちはじりじりとその包囲網を狭めつつあった。
 機晶姫たちに手出しさせまいと、機晶姫をパートナーとする学生達も蛮族への対応に追われるような状態に追い込まれている。
 その場で戦っている者たちも、すでにこちらに大ミミズが接近してきているのが十分に目視できる。蛮族たちに釘付けにされ、その場から撤退することもままならない。
 予想外の過酷な状況に誰もが必死にあらがう。
 そんな中、冷静にドリルによる掘削作業を進めていた燦式鎮護機 ザイエンデはふとその動きを止めた。突然に固い岩盤を砕く感触がなくなったのだ。ほかの機晶姫たちもほぼ同時に掘削の手をゆるめる。
「やった……」
 岩盤に穿たれた小さなヒビから、無色透明の液体がゆっくりとあふれてくる。
 水だ。夜明け前の煙るような暗闇の中、長い長い間砂漠の地下に眠っていた水は、自ら光り輝いているかのようだった。
「やったー!!!!」
 誰かが叫ぶと同時に、機晶姫たちの足もとが崩れ去った。

 一瞬、竜巻の再来かと誰も側が目を疑った。それは、真白な水柱だった。砂漠の夜明け、天から突きたれられた槍のように水柱が地面から突き立つ。
 ジョーカー・オルジナは、水柱とともに穴からの放り投げ出され、砂漠に落下した。スクール水着を着ていた彼女はまるでプールに遊びに来たようだ。
 すさまじい勢いで吹き上がった水は、雨のように砂漠に降り注ぐ。機晶姫たちへと迫っていた大ミミズの上にも等しく。
 大ミミズがまるで電撃に撃たれたように身震いする。
「今なら……」
 武尊が大ミミズに向かって氷術を放つ。砂のように水分を吸収した大ミミズの身体は、氷術によって凍てつく。氷術を使える学生達は次々に大ミミズに氷術を打ち込む。大ミミズが一発氷術を喰らうごとに、次第に高質化していく。
「これで仕舞いですよ!」
 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)の轟雷閃が、凍り付いた大ミミズの身体にヒビを入れる。
 長い長い時間、砂漠の王として君臨した大ミミズは、細かな結晶となって朝日の中に散っていった。

「今こそ、予言の時!」
 蛮族の一人が唐突に叫ぶ。彼の指さす先には、巨大な虹がある。大ミミズの破片と、水柱によるものであろう。
「あの虹の向こうにドージェ様がいらっしゃるぞ!」
 澄み切った目をした蛮族たちは二時に無脚気一斉にかけ出す。
「俺たちのパラ実ロードは始まったばかりだァ!?」
 その中には、なぜか商品会議を混乱させようとしたモヒカン、南 鮪の姿もあった。
 虹に向かって駆けていく無数のモヒカンたちの姿は、それなりに感動的なものだったそうな。

 まぶしげにサングラスを押し上げながら、モグ三も虹を見上げる。
「コウが解き放たれたモグね」
「え? あれが伝説にあった竜?」
 オーラム・ゴルトは今までに見たこともないほどに鮮やかな虹を見上げて首を傾げる。
「コウとは、すなわち光であり、虹であり神である存在です。古代では瑞兆をもたらす存在として信仰されていたところもあるそうですよ」
 疲れた表情のよれよれネクタイ氏が、水を掛け合ってはしゃぐ学生達を眺めながら説明する。それはこれから商品となるものだが、長い夜を越えた学生達にこれぐらいの役得は許されるだろう。女性陣にスク水を配ろうとし、殴られている男性の姿も見えるがまぁみなかったことにする。
「美しすぎる――」
 緊迫した状況にもかかわらず、一晩中ギタープレイを続けた仏滅 サンダー明彦は虹を見上げ呆然と呟く。