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聖なる夜に奴らは群れでやってくる!!

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第五章 ポケットの中の戦争

 さて、ここはところ変わって山の中。
「おりゃあああぁぁぁぁっ!!!」
 倒す、倒す、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は次々と現れるモンスターを倒していく。
「どうかな。そろそろ車椅子を買えるくらいの賞金は溜まった?」
 そして、一息ついた美羽はパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に尋ねた。
「……すでに溜まってます」
 ベアトリーチェは眼鏡を動かしながら不機嫌そう答える。
「えっ?」
「さっきから美羽さんに言ってるじゃないですか。早く、帰らないとクリスマスが終わっちゃうって……」
「えええぇっ!!?」
 美羽はその時に始めて気づいた。
 ベアトリーチェが何度も叫んでいたのはその事だと……
「何があっても、遅刻だけは許されないのよね! 帰るわよ。美羽!」
「きゃあぁ!!?」
 美羽はベアトリーチェの手を取ると走り出す。
 しかし、美羽は途中で止まってしまった。
「どうしたの?」
 ベアトリーチェが尋ねると、美羽は小声で謝る。
「ごめん、目があっちゃった……強敵だよー」
 謝りながらも美羽は笑っていた。
 ベアトリーチェはやれやれと言った顔で、ウォーハンマーを構える。
「美羽さん、謝るにしては嬉しそうですね。せっかく、サンタさんの服を作ったのに……今年は使えるのでしょうか?」
「えへへ、だって、私より目立つ敵を見逃してはおけないじゃない!」
 美羽は片足を高々とあげると向かってきた獣目掛けて振り下ろすのだ。


 ☆     ☆     ☆


 雪の積もった林。
 四方から、物音と獣の匂いがした。
「また来ます!」
「じゃあ、また盾になれ! 火術!」
「わわわっ!?」
 ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)ユーノ・アルクィン(ゆーの・あるくぃん)を盾にスキルを操っていく。
 この周辺は敵も高位の種族がおらず、絶好の狩りポイントと言えよう。
 元々、ニコがサンタと会った事がない事から始まった、【ファッキン ノークリスマスDAY!】
 ニコにとっては天王寺 雪(てんのうじ・ゆき)八神 瞬(やがみ・しゅん)は邪魔者以外何者でもなかった。
 しかし、その直後に思いもよらぬ出来事が起こる。
 なんと、チームのまとめ役とも言うべき、ユーノと瞬が倒れてしまったのだ。
 ただのスライムの攻撃で気を失うとは、疲れていたのだろうか?
「おい、起きろよ。ユーノ! お前が倒れたら盾がいないだろう」
「……瞬。どーした」
 ニコと雪は慌てふためく。
 似た者同士とでも言うのだろうか……二人はパートナーに頼りきっていた。
 しかし、これはユーノと瞬による作戦だったのだ。
 二人で協力させ、喧嘩しているニコと雪を仲直りさせると言う計画。

 だが、計画が上手くいくとは限らない。
 次に現れた敵を見て、雪は恐怖に固まった。
「…………リュンクス」
 リュンクスとは(化け山猫)の一種で、小さな牛をも食い殺す魔獣である。
 ニコらのいる場所には似つかわしくないレベルの敵。
「て、敵……強敵だ! 起きろ、ユーノ!」
 パニックなったニコはユーノを起こそうとする。
 しかし、そんな隙を見逃すリュンクスではなかった。
 肉に埋め込まれた鋭い前爪を剥き出しにして、ニコに襲い掛かる。
「危ない!」
 雪がニコを突き飛ばすと、何とか敵の攻撃をかわすことができた。
 ……が、雪の方は軽症を受け、敵の勢いはまだ衰えない。
 獲物が少なくなった冬の山に久々に訪れた肉。
 口一杯に広がった唾液が人間の生肉を思い出させるからだ。
(火術なんか当たらない)
 そう確信したニコは必死に考える。
 ユーノも瞬も計画を中断しようとしたが、恐怖で身体が動かない。
 しかし、恐怖は異端者として幽閉されたニコを覚醒させる。
 歯をガタガタと震わせながらもニコは必死に紡ぎだす。
『未知なるはすべて……僕の、僕の、眼前へ来たれ……未知なるはすべて僕の眼前へ来たれ! アシッドミスド!!』
 ビクッと足を止めたのはリュンクスであった。
 強い嫌な香りを放つ霧が、標的の周囲から広がっていく。
 肉の味を忘れさせるほどの不快な香り。
 そして、その奥に見える強い視線。
 この縄張りに近づくなという野生的な敵意。
 リュンクスは身を翻し、山へ戻っていくと同時にニコは倒れる。
 ユーノと瞬は信じられないモノを見たと思いつつも、各々のパートナーの手当てをし、背中に背負いながらも山を降りていく。
「予想外でしたが立派でしたよ。二人とも……」
 もちろん、サンタからのプレゼントであるマフラーとお菓子が準備してある暖かい場所に向かってだ。


 ☆     ☆     ☆


 同じ目的を持つ、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)橘 恭司(たちばな・きょうじ)はついに目的の人物を発見したのだ。
「見つけました。十時の方角に……あれは八兵衛です」
「な、なんだってーΣΣΣ! それは助けなければ!」
「そろそろ終わりにしましょうかね」
 行方不明かと思われていた柳生八兵衛を発見したのはウィングで、驚いたのはイレブン、そして、この旅の終わりを示唆したのは恭司である。
 丁寧な口調の三人組が揃って、かなりウザいがとりあえずの目的である柳生家の長男を見つけたのだ。

「えぇいっ! このスライムという奴は化け物か!?」
 八兵衛はスライムと戦っている最中らしい。
 しかも、そのスライムのただのスライムではない。
 緑や黄、赤色の姿が一般的な中、色素を失ったのだろうか?
 白い……ホワイトスライムであった。
「白い奴か……炎系のスキルに弱いスライムだが効くのか?」
 爆炎波の準備を整える恭司だが躊躇してしまう。
 八兵衛の身体はスライムと密着しすぎている。
 博識を使ったとしても、この白い奴は珍しすぎて弱点がわからない。
 しかも、粘液のあるツルがイレブンを襲う。
『適者生存!!』
 自分のほうが食物連鎖における上位存在であると悟らせる上位スキルである。
 スライムは己の中に巣食う先天的な恐怖から逃れようと逃げだす。
 しかし、その動きの鈍った敵に『封印解凍』を使用し、攻撃力を高めたウィングが飛び込んでいく。
「光より……いや時より疾く! 御影流奥義『神閃覇幻・刹那』!!」
「グッロオオオオオオー!!!」
 スライムは断末魔の呻き声を上げて、八兵衛から離れた。
 そこにチャンスとばかりに恭司の爆炎波が襲い掛かる。
「ダスビダーニャ(さようなら)」
 恭司の妖刀村雨丸から放たれた爆炎はジェル状の魔物を蒸発させていく。
 この戦いは圧倒的な勝利で終わった。

 そして、イレブンは八兵衛に帰るように説得したが、反抗したので殴り飛ばす。
「甘ったれるな!」
「殴ったね。親父にもぶたれた……」
「光より……いや時より疾く! 御影流奥義『神閃覇幻・刹那』!!」
「ぐわあああああぁぁぁっ!!?」
 ウィングは生意気な八兵衛を強制的に気絶させた。
 コメディ禁止の怒涛の突っこみである。
「それにしても、時間がかかりすぎてしまったようですね。クリスマスパーティーの時間には間に合いそうにありません」
 恭司はどこから取り出したのか、缶コーヒーを片手に木にもたれかかる。
 笑いがないのを心配したウィングは、ホッケーマスクを被り何とか笑いを取ろうとしていた。
「俺は権兵衛には家族と一緒に過ごしてもらいたいんですけど……」
 しかし、展開はシリアスだ。
 さらに恭司にあわせるようにイレブンも口を開く。
「一番のクリスマスプレゼントは死んだことになっている家族が帰ってくることだろう」
 このままでは笑いに繋がらず、しかも、クリスマスパーティーに間に合いそうにない事を感じとったウィングはホッケーマスクを外して言う。
「まぁ、それしかなさそうですね」
「よし、次はドラゴンだ」
 そして、彼らは山奥に進んでいく。
 もちろん、一番のクリスマスプレゼントを届けるためにだ――