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溜池キャンパスの困った先生達~洞窟探索編~

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溜池キャンパスの困った先生達~洞窟探索編~

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 減りつつある魔物の集団をすり抜け、大型騎狼が走る。その後をペット達が追っていく。
「ほうほう、金属がたくさんなのじゃー。校外学習でこんな所使えたら楽しそうじゃな」
 大型騎狼にまたがったセシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)は、楽しげに周囲を見渡した。
 そり立つ岩、ドーム状の壁、転がる石……全てが金属。金銀銅はもちろん、青や紫など様々な色が光っている。
「がおー、匂いを嗅ぎながら進むのじゃ」
 大型騎狼に命じ、連れてきたペットを振り返った。ゴーレム、スナジゴク、毒蛇、強盗鳥。
 一歩間違えると魔物と間違えられそうなペット達が、大人しく彼女についていく。
「……ここほれわんわんしてくれないかのぅ」
 ぽつりとセシリア・ファフレータが呟いた言葉に、大型騎狼が唸る。
「がおー、怒るなじゃ犬扱いしてすまぬかっ……あだっ!?」
 謝罪の言葉も届かず、振り落とされた。と、そんな彼女の傍らに、二つの影。
「どう? ベル、何か記憶に引っ掛かったりしないか?」
「うぅ〜ん、見たことあるような……ないような……?」
 優しく問いかける月森 刹夜(つきもり・せつや)に、ベルセリア・シェローティア(べるせりあ・しぇろーてぃあ)は曖昧に答えた。
 月森刹夜は深く息をつく。
「ここもダメか……」
 彼の脳裏には、これまで二人で「記憶探し」のための旅で行った場所が浮かんでいた。
 ベルセリア・シェローティアは、しばらく首を傾げてから、こめかみを押さえてうつむいた。
 少しの間沈黙し、決意したように拳に力を込めて顔を上げる。
「……セツヤ、ベルは――」
「……どうにもなぁ」
 ベルセリア・シェローティアが言いかけたとき、月森刹夜が呟いた。願掛けをしている、黒い前髪の左側を弄っている。
 その瞳は真剣な光を宿し、疲れや諦めなど微塵もない。
 ベルセリア・シェローティアは頭をぶんぶんと振って、月森刹夜の背をとん、と押した。
「……ベルは大丈夫よ。ほら、行くわよ」
 自分に言い聞かせるように言って、ベルセリア・シェローティアは月森刹夜の手を引いた。
 こうして月森刹夜とベルセリア・シェローティア、大型騎狼に乗ったセシリア・ファフレータが進んでいると、音が聞こえてきた。
 砂の地面が擦れる音、鈍く何かがぶつかる音。
「なんの音かしら?」
 首を傾げたベルセリア・シェローティアが進む。細くなった通路の先から音は聞こえてくる。恐る恐る覗きこんだ。
「ギィイイイイイ!」
 グレムリンの断末魔。転がるグレムリンの死骸に囲まれるようにしながら弐識 太郎(にしき・たろう)が立っていた。
 厳しい表情を浮かべながら、金属の岩の向こうからやってくるグレムリンへと蹴りを繰り出している。
 ひたすら無言のため、足が空気を切る音が大きく聞こえた。
「お一人ですか?」
「ああ」
 月森刹夜の問いに短く応え、弐識太郎は攻撃を続ける。
「何をしてるの?」
「……修業だ」
 ベルセリア・シェローティアの問いに答えてすぐ弐識太郎は【軽身功】を使用。金属の壁を蹴ってグレムリンの背後に回る。
 そのままの勢いで蹴りを繰り出した。
「ヒイイイイイイィイヤアアァアアアァウェ!」
 と、凄まじい叫び声が響いた。その場にいる四人は、声の方向を探る。確実に背後から、それは迫っていた。
「オォオオオオオオオォオオオオウァ!」
 弐識太郎が全員を庇うように前へ出る。背後から、わらわら来ていたグレムリンの姿はもうない。
「ギヤアアァァァァォオオオオオオァアアア!」
 グレムリンの鳴き声ともアントライオンの鳴き声とも違う何かが、迫った。
「いい加減慣れろって」
「……無理だ」
 固唾を呑んで待ち伏せした相手は、一人の女性、獲狩 狐月(えがり・こげつ)だった。背負った両刃剣の機晶姫機晶剣 九印(きしょうけん・くいん)に話しかけている。
「……人間か」
 構えていた拳を撫で、弐識太郎は息をついた。
「あ、丁度いいところに。来るよ!」
 獲狩狐月が体ごと振り返り、機晶剣九印を構えた。その視線の先には、グレムリンの大群を引き連れたアントライオン三体。
「なぜこんな狭い所に……?」
「お宝がある気がするのぅ!」
「セツヤ、気をつけて」
「……来る」
 思い思いの言葉を発したところで、魔物達が襲いかかってきた。
 セシリア・ファフレータは、楽しげに微笑み【適者生存】を使用。
「ふむ、私達を襲うかえ? ……良いじゃろう、どちらが格上か思い知らせてあげるのじゃ。行くぞおぬし達!」
 さらに【野生の蹂躙】を発動し、連れてきたペット達をアントライオンにけしかける。彼女自身は諸葛弩を構え【轟雷閃】を使用して援護する。
 魔獣達の攻撃を受けたアントライオンは、流砂から飛び出し腕を伸ばした。強引に流砂の中へ引き込むつもりのようだ。
「セツヤ!」
 ベルセリア・シェローティアの呼び掛けに頷き、月森刹夜が駆け出した。【光条兵器】の刀を構え、アントライオンに斬りかかる。
 固い外殻に薄く傷が付いただけだが、当たった瞬間には隙ができる。そこをすかさずベルセリア・シェローティアが【光条兵器】の刀を使用し振り上げる。
 しかしアントライオンは体勢を持ち直し、反撃してくる。
「ベルっ……!」
 月森刹夜がベルセリア・シェローティアの手を掴み引っ張った瞬間、弐識太郎が間に割って入り、拳を繰り出す。
 連続して繰り出される打撃に、アントライオンが転倒。柔らかな腹が露わになる。
「セツヤ、行くわよ!」
 今度はベルセリア・シェローティアが手を引き、月森刹夜と二人で【光条兵器】の刀を振り下ろした。
 さらに弐識太郎の打撃も加わり、アントライオンが動かなくなる。
「助けてくれて、ありがとうございます」
「……いや」
 頭を下げる月森刹夜に首を振って、弐識太郎は二人に背を向けた。もう一匹のアントライオンに対峙し、構える。
「怖そうだと思ったけど、いい人ね」
 そんなベルセリア・シェローティアの声を背中で聞きながら、弐識太郎が拳を繰り出した。
「ウワァアアオオアアアオアオオォォ!」
 凄まじい叫び声を引きずりながら、グレムリンへ向け機晶剣九印を振り回すのは獲狩狐月。その視界の端に、金属の壁が映る。
「これは凄い……」
 獲狩狐月は歓喜のため息をついた。もっとじっくり見ようと、壁に近付く。
「狐月、アントライオンは片付いたようだ。残るはそこのグレムリン二匹だけだ」
 叫び続けて上がった息を落ち着けた機晶剣九印が、告げる。獲狩狐月はグレムリンを睨みつけた。
「邪魔だよ!」
「ヒギャァアアアアオアアアオオオォ!」
 振り回されて叫びながらも機晶剣九印は【ツインスラッシュ】を使用し、グレムリン二匹を攻撃した。
「ギィイイイイイ!」
 グレムリンの断末魔と共に機晶剣九印の叫び声が反響する。これで周囲の魔物の群れの全てを倒したことになる。
「さて、金属探しを始めるか!」
 獲狩狐月は待ってましたと言わんばかりに強面に見られがちな顔に笑みを溢れさせて、探索を開始する。
 機晶剣九印は鞘型の防護服に収められ、背中に担がれた。
「狐月、手前の岩を覆っている金属はなんだ?」
「ああ、あれは……!」
 機晶剣九印の疑問を答えようと視線を走らせた獲狩狐月は、ふと気付いて手を伸ばした。岩の傍に、真黒な小石が転がっている。
 色とりどりな金属の中で、それだけが妙に浮いて見えた。
「これは一体……?」
 疑問を口にしながら獲狩狐月が、石を覆う墨のように黒い何かをふき取ると、別の何かが姿を現した。
「これは……虹色の石?」
 近くの岩にぶつけると、岩に傷がついた。初めて見る金属。獲狩狐月は顔をほころばせた。
 洞窟内の探索に一喜一憂する面々のもとに、新たな声が近付いてきた。
「アル、ボク達こそ一番に立ち入り禁止区域に行くべきではないのか……?」
「機晶姫に関する何かがあるかもしれないでしょう? 探してみる価値はあります」
「う……そういうことなら、協力する……だがなるべく急いだ方が」
「急いては事をし損じる、ですよ。地道にやりましょう」
「……わかった」
 やってきたのは【トレジャーセンス】を使用して、金属の壁を調べる牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)
 その傍らには、納得のいかない表情で周囲の金属に触れるシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)の姿。
 更にその後ろでは涼しい顔でランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)が洞窟内を見て回っている。
 巨大な金属の岩のせいで、狭くなっている道は天井も低く、突き出すように出る色とりどりの金属岩と共に、威圧感を与えている。
「思う存分宝探ししてから、ゴーレムを倒しに行きましょう」
 楽しげに微笑んだ牛皮消アルコリアは【トレジャーセンス】を十二分に活用し、金属を探った。