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溜池キャンパスの困った先生達~洞窟探索編~

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溜池キャンパスの困った先生達~洞窟探索編~

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 一方、起木保達が吊り橋を渡る姿を横目に、魔物と対峙する者の姿があった。
「魔物の数もだいぶ減ってきましたね。皆さん、もう少しです」
 励ましの言葉をかける御凪真人。その彼の背後でトーマ・サイオンの狼の耳が、ぴくんと動いた。
「にいちゃん、まだあの岩陰にいるぜ……っ!」
 リターニングダガーを放った先で、グレムリンが倒れる。
「そのようですね……」
 眼鏡のフレームを上げ、御凪真人が杖を構え、詠唱を始める。
「私達も手伝うね」
 ミレイユ・グリシャムが【火術】を繰り出す。炎がグレムリンを包み込んだ。
 鉄甲で【実力行使】を使用するシェイド・クレインは、雷属性の攻撃で弱ったアントライオンに追い打ちをかける。
「……油断するなよ」
 二人の背後のデューイ・ホプキンスも機関銃で援護。
「落ち着いてゆくぞ」
 さらに【雷術】を放つのは夏侯淵。確実に一体ずつ、アントライオンを打つ。
 ルカルカ・ルーも【恐れの歌】でサポートする。
 御凪真人は協力に頭を下げ、アントライオンへ【サンダーブラスト】を向け直後にセルファ・オルドリンが【ソニックブレード】を使用。
 アントライオンを叩き切った。
「あんまり無理するなよ」
 傷付いたメンバーにはアーサー・カーディフが【ヒール】をかけ、アルフレッド・テイラーは、吊り橋にちらちら眼を遣りながらハンドガンで狙撃。ミレーヌ・ハーバートがトラップやエペで魔物達に迫る。
 群れをなしキリのないように見えた魔物の群れが、協力攻撃により、まばらになってきた。
 一方、大野木市井とマリオン・クーラーズもグレムリンの集団と対峙していた。
「これは……俺達の手には負えないな」
「一旦退きましょう」
 頷いて下がる。と、群れからはぐれたグレムリンがバタバタと動いている姿が見えた。起木保を狙って突進している。
「こっちに来るな!」
 大野木市井は【光条兵器】を自身の前方で構えた。伸びた武器はグレムリンの突進を押し返す。
 そこへ本郷翔の雷が炸裂。グレムリンが倒れた。

「先生、こっちです!」
 黒脛巾にゃん丸に導かれ、吊り橋を進む起木保達。その後ろから付いていく宮坂 尤(みやさか・ゆう)が、びくんと肩を震わせた。
「……センセ、命あっての物種? といいますし、あまり無理はしない方が……」
 ローグの勘が、進行方向に危険があると察知したのだった。しかし、起木保は首を横に振る。
「無理をしてでも、僕は成し遂げなければならない。忠告はありがたいが、僕は逃げ出すわけにはいかないんだ。悪いな」
 そこにあるのは強固な意志。宮坂尤の忠告の入り込む隙はない。
「……そうですか。それなら何も言いません。気を付けていきましょう」
 下を見ぬよう慎重に進む起木保の背を、苦笑しつつ叩く宮坂尤。起木保はよろめき、転びかけた。その視線の先には黒々とした川。
「尤と同じくらい手のかかる先生だのぉ」
 それを背後から支え、スヴァン・スフィードが苦笑する。
「下を見ずに、前だけ見てゆっくり歩くんですよ」
 忠告を受けつつ恐る恐る進む、という頼りない進み方ではあったが、吊り橋をなんとか渡り終えた。
「す、すまない」
 頭を下げる起木保。
「まったくです」
 譲葉大和がため息を吐く。そして起木保に近付いて告げる。
「……おや、流砂がやけにあるようですねぇ……」
 それとなく、アントライオンの存在を教え、詠唱に備える。
 起木保が雷発生装置を使うのと同時に【雷術】を発動した。
「センセ、危ない!」
 宮坂尤が木刀でアントライオンの突撃を押さえる。
 雷発生装置の発動の合間を狙い、襲ってきたアントライオンの力は、強い。顔をしかめていると加わる力が半減した。
「一人では危なっかしいのぅ」
 スヴァン・スフィードが宮坂尤の木刀を支えるように、薙刀でアントライオンを押さえた。
「よいか、次からは勝手に一人で行くでない……。私も連れてけ!」
 さらに力を込め、スヴァン・スフィードがアントライオンを押し返す。よろめいたそのとき、雷発生装置の発動が完了した。
「雷発生装置、発動!」
 起木保の声に反応し、十倉朱華が【轟雷閃】を放つ。剣がまとった雷が強化され、あたりに稲妻が飛び散る。
「雷も凄いな……先生の機械、思ったより使えるな」
「朱華!」
 物陰に隠れていたグレムリンが、雷に見とれていた十倉朱華へと飛び掛かる。
 察知したウィスタリア・メドウが十倉朱華の腕を引いて、庇う。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。ちょっと掠ったくらいだから」
「それは大変です!」
 ウィスタリア・メドウは【ヒール】を使用。十倉朱華の小さな傷を癒す。
「大袈裟だな」
 苦笑して十倉朱華はアントライオンに向かい、バスタードソードを振り上げて斬りかかった。
 軽快に斬りかかる後姿を確認し、ウィスタリア・メドウは周囲に気を配る。

「うわっ!」
 起木保の目前に迫ったアントライオンを、ガートルード・ハーレックが鎖十手でうつ。
「ローン完済までは、お守りしますよ」
「完済まではな!」
 指輪や光術に照らされた金属の洞窟内はきらきらと光る。
 ネヴィル・ブレイロックの黒眼もギラリと光って、起木保の背後を守っている。
「……あ、ありがとうございます……」
 頭を下げつつも、起木保は必死で雷発生装置を起動させた。
 ガートルード・ハーレックとネヴィル・ブレイロックの護衛料金を増やさぬため、起木保が心を砕く。
 そんな起木保を嘲笑うかの如く、ガートルード・ハーレック達は次々と攻撃を繰り出していく。
「全力で守ってやるぜ!」
 蝙蝠羽を羽ばたかせ、ネヴィル・ブレイロックがにっと笑う。その腕がグレムリンを軽々と打ち倒す。
「私に刃向かうとは……いい度胸です」
 楽しげに微笑んだガートルード・ハーレックが、グレムリンに攻撃を放つ。
「あぁ……」
 胃を押さえた起木保が、苦しげに雷発生装置に手をかけた。
「先生、これを……!」
 やや離れた位置から、エース・ラグランツが起木保へ【ヒール】をかけた。さらに【パワーブレス】を十倉朱華へかける。
「ありがとう」
 微笑んだ十倉朱華がアントライオンに斬りかかる。攻撃の威力が上がり、アントライオンはひっくり返った。
「先生、頑張れー」
 言いながらクマラ カールッティケーヤが【雷術】をアントライオンに落とす。
 すぐ後に、なんとか立ち直った起木保が雷発生装置を使用。弱りきったアントライオンを雷の束が打ち、アントライオンが倒れる。
「先生、いい調子だよな」
「割と様になってきてるよなっ!」
「そうか?」
 一歩ずつ進みつつ、エース・ラグランツ達が雷発生装置を使おうとする起木保を励ますと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
 その起木保に、近付く多くのグレムリンの影。
「これはさすがにキツイだろうな」
 手に負えないだろうと判断したエース・ラグランツが【バニッシュ】を使用。起木保に近付くグレムリンを蹴散らす。
 クマラ カールッティケーヤも【アシッドミスト】を使用し、起木保に近付こうとするグレムリンを蹴散らした。

 仲瀬磁楠がランスを振ったアントライオンに向け、起木保の雷発生装置が唸る。合わせて七枷陣は【雷術】を放つ。
「おっ、いいタイミング!」
「小僧、私の援護はどうした?」
 雷術の二乗以上の効果を楽しんでいた七枷陣を、仲瀬磁楠が睨んだ。
「あーはいはい、わかりました〜。……後っていつか思い知らせてやろか!?」
 七枷陣は殺意を含ませた凄まじい睨みを、仲瀬磁楠に向けた。
「センセ、危ない!」
 日比谷皐月は、アントライオンに気をとられていた起木保の前に出る。同時にグレムリンの頭が到達。
 武器を掲げて防ぐ。
「……すまない」
 頭を下げた起木保は、一歩前へ出て雷を放つ。と、一瞬の隙をついて雨宮七日へとグレムリンが迫った。
「七日!」
 日比谷皐月がすぐに駆けつけ、グレムリンを蹴散らす。
「大丈夫か?」
 振り返り問いかける日比谷皐月に返るのは、礼の言葉の代わりの蹴り。
「皐月はそのまま、サンドバッグらしく防御だけに徹してください」
「……はい」
 反論の余地なく、日比谷皐月は起木保の護衛に戻った。