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溜池キャンパスの困った先生達~洞窟探索編~

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溜池キャンパスの困った先生達~洞窟探索編~

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「到着! さてさて、機晶姫はどこだ?」
「ベス、探すよぉ」
「ここが最奥なのは間違いない。どこかにいるはずだ」
「あのあたりが怪しいでござる!」
「まったく、なんで俺がガキの遊びに付き合わなきゃなんねぇんだ」
 立入禁止区域に足を踏み入れた【疑心暗鬼】のメンバー。
 エル・ウィンド(える・うぃんど)仙 桃(しゃん・たお)ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)ナーシュ・フォレスター(なーしゅ・ふぉれすたー)井ノ中 ケロ右衛門(いのなか・けろえもん)が口々に語る。
 と、一同の目に銅色のゴーレムの背後の、ケースのようなものが映った。
「あれだっ!」
 エル・ウィンドの言葉と共に、五人は一斉に飛び出した。ゴーレムの腕をすり抜け、機晶姫との邂逅を試みる……が。
「くっ、腕が邪魔だな……」
「これは、素直にゴーレムと戦った方がいいな、センセイ」
「皆攻撃してるし、むやみに近付くと危ないねぇ」
「そうとなったら、今までと同じく協力するでござる」
「面倒だが、手伝ってやろう」
 口々に言って、銅のゴーレムを取り囲む。
 最初に飛び出したのは仙桃。
「キミはあんまり可愛くないなぁ……」
 憂鬱そうに呟いて、ゴーレムに飛び掛かる。襲いかかる腕を避けながら攻撃。
「倒れた瞬間を狙うか」
「体力温存だな」
 傍観を決め込んだエル・ウィンドとヴェッセル・ハーミットフィールドがゴーレムと戦う面々を遠目に見る……。
「頼むでござる!」
 と、背後からナーシュ・フォレスターが二人の背中を押した。
「うわっ!」
「ちょっ……!」
 二人はバランスを崩し、前へ出る。そこへ銅のゴーレムの腕が飛んできて二人の頭を掠めた。
「盾役、御苦労でござる」
 にぱっと笑ってナーシュ・フォレスターが、膝をついた二人を見下した。
「ナーシュ……」
「おい、銀のゴーレムも来るぜ」
 言いかけた二人の言葉を遮るように、カエルの姿をした井ノ中ケロ右衛門が告げた。頷いてナーシュ・フォレスターは詠唱。
「火遁の術!」
 叫んで放たれた【火術】は、銀のゴーレムの足元に向かった。ゴーレムの行き先には島村幸が仕掛けた落ち葉。
 ゴーレムと共に落ち葉を焼く。
 そのとき銀のゴーレムに攻撃していた遠野歌菜が落ち葉に転び、炎に巻き込まれた。
「もーッ、幸姐さん!」
「尊い犠牲っていつの世も必要ですよね……」
 島村幸は涙を拭うような動作を見せた。
 遠野歌菜は島村幸の返答に苦笑し、ついた落ち葉を払った。
「でも、引っ掛かったのが私でよかったです。先生だったら死んでたよ?」
 何気なく遠野歌菜が言った言葉に、起木保が青ざめた。
 と、一瞬の静寂が洞窟内に訪れた。銀の巨体が、傾いでいる。ゴーレムに攻撃を撃ち込んだばかりの東條カガチと七枷陣、遠野歌菜が凍りついた。
「……え?」
「嘘ぉー」
「危ないっ!」
 ドォオオオオオオオオン!
 爆発にも似た音。銀のゴーレムが落ち葉に足を滑らせ、転んだ。
 三人は精いっぱい避けたものの、金属の体が倒れた風圧で傷を負い、倒れた。
「陣、カガチ、歌菜……ご冥福を祈っています」
「島村さん……酷い」
「……まだ死んでないよー」
「幸姐さん、そんなこと言ってないで早く助けてよ!」
 三人の叫び。島村幸は両手を合わせて、銅のゴーレムを見遣った。
「センセだけじゃ、頼りねーからナ」
 ウィルネスト・アーカイヴスは詠唱をはじめ、起木保に笑いかけた。
「手伝ってやるぜ」
 言って【雷術】を発動。雷発生装置と相まって強い雷電がゴーレムを撃つ。
 しかし攻撃の繰り返しに、雷発生装置の雷が、だんだんと弱くなってきていた。
「う……さすがに連戦にはもたないか……?」
「あと少しよ! 頑張って!」
 意気消沈しかけた起木保の背を叩いて御茶ノ水千代が微笑みかける。起木保はこくりと頷いて、雷を放った。
 銀のゴーレムも、銅のゴーレムもだいぶ弱ってきている。

「機晶姫さんはなんとなくこっちにいる気がするの!」
 手をぱたぱた振りながら、朝野 未羅(あさの・みら)が【トレジャーセンス】を使用して、銅のゴーレムの背後を指差した。
「ゴーレムは任せて大丈夫そうね」
 朝野 未沙(あさの・みさ)は頷いた。明らかに弱体化しているゴーレム。倒れるのにそう時間はかからないはずだ。
「早く機晶姫を自由にしてあげたいな」
「……文献によるとですねぇー、この『煌めきの洞窟』の機晶姫はぁー、この場所を守るために封じられているみたいですよぉー」
 朝野 未那(あさの・みな)は、事前に調べていた情報を告げる。
「あー、ゴーレムはぁー、洞窟の金属から作られているそうですぅー」
「ゴーレムって、機晶姫の封印を守るために配置されてるのよね?」
 朝野未沙が首を傾げる。朝野未那は、ゆったりと首肯した。
「そうですぅー。大戦中のぉー、武器の原料となる金属を守るためにー、機晶姫とゴーレムを設置したそうですぅ」
「洞窟を守るため封印された機晶姫と、その機晶姫を守るために設置されたゴーレム……うーん、よくわからないなぁ」
「百聞は一見にしかずですぅー。聞いた方が早いのですぅ」
「そうだね」
 朝野未沙と朝野未那が結論に至ったとき、朝野未羅が二人を振り返った。
「グレムリンが残ってるの! やっつけるの!」
 張り切る朝野未羅に、朝野未沙と朝野未那は頷いてみせる。
「未那、合わせて行くよっ!」
「はいですぅ、姉さん」
 二人は同時に詠唱し【氷術】を使用。ゴーレムと戦っている人々へ近付いていくグレムリンが、凍って固まる。
「今よ、未羅ちゃん!」
「グレムリン、やっつけられるの!」
 朝野未羅は機晶キャノンを取り出し、エネルギーを充填、【シャープシューター】を発射する。グレムリンは凍ったまま、倒れた。
「やったの!」
「倒れましたねぇー」
 喜ぶ二人に頷いてから、朝野未沙は銅のゴーレムを仰ぎ見た。
「これで邪魔者はいなくなったね。あとは待つだけ……」

「あの傷へ、一斉攻撃だ!」
 ロア・ワイルドマンの呼び掛けに応え、デューゼ・ベルモルド、島村幸、飛鳥桜、鬼崎朔、スカサハ・オイフェウス、神代明日香、神代夕菜、如月玲奈、レーヴェ・アストレイ、エヴァルト・マルトリッツ、ロートラウト・エッカートが銀色のゴーレムの傷口へ攻撃する。
 倒れていた銀色のゴーレムの赤い瞳の光が、消えた。
 銅色のゴーレムと戦う一式隼、ルーシー・ホワイト、レイディス・アルフェイン、遠野歌菜、牛皮消アルコリア、シーマ・スプレイグに、先行して魔物を倒していたメンバーや起木保、護衛をしていたメンバーの攻撃も加わる。銅のゴーレムは動きを止める。
 ドォオオオオオオオン
 地響きのような音と共に、銅色のゴーレムが倒れた。瞳の赤い光も消えていく……。
 二体のゴーレムは、活動を停止した。銅色の巨体が覆い隠していたものが、露わになる……。
「あれが……封印された機晶姫?」
 ケースの中身を見て、呟く飛鳥桜。真っ白な顔。長い睫毛を持つ瞳が柔らかく閉じられ、
「綺麗だね」
 率直な感想を述べ、飛鳥桜はじっと、眠れる機晶姫を見つめた。