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第11章 サンタクロース・パーティー!!

「ツァンダ完了! 他の都市はどうなったの!?」
 ツァンダ最後の地区の配達を終えたフレデリカが、先に蒼空学園に戻った者たちの元へ合流する。
「ザンスカールがまだです!」
 正悟の言葉に、フレデリカが思わず両手を祈りの形に組む。
「お願い、頑張って…っ!!」
 その時、彼女の祈りに応えるように、彼女の携帯が鳴った。連絡は、ザンスカールの仔トナカイからの配達完了を告げる合図だった。
「やったーっ! 終わったー!!」
「配り終えたぞ!!!」
 配り終えてもなお残っていてくれた、各都市のサンタクロース達が歓声に沸いた。

「ね、フレデリカさん、うちで、クリスマスパーティーやろうよ!」
 未沙がフレデリカに声を掛ける。
「うん、いいよ!」
 時計を見れば、まだクリスマスが楽しめそうな余裕があった。フレデリカは未沙に頷き、周りから歓声があがる。
「やったーっ! パーティだーっっっ!!」
「あ、そういえば、昨日一緒だった人達も、パーティーやろうって言ってたよ」
 フレデリカが遅まきながら思い出す。
「誰か、その話どうなってるか確認して!」
 未沙の声に、皆の気持ちは一気にクリスマスパーティーへ向かいだした。

「妹達も参加させていいかな? もう家で、準備しちゃってると思うんだ」
「もちろんだよ」
「それでね、フレデリカさんにお願いがあるんだけど……」
 未沙はこそこそとフレデリカに耳打ちをした。

「お姉ちゃん、遅いの……」
 朝野家では、未沙に料理の準備を任された朝野 未羅(あさの・みら)が、料理を温めるタイミングに悩んでいた。下準備は事前に未沙が済ませていたため、後は火を通したり盛り付けしたりするだけになっている。
「未羅ちゃん、もうそろそろ……」
 朝野 未那(あさの・みな)が未羅に声をかけた時、コンコンと台所の窓を叩く音がする。
 見れば、女の子サンタがトナカイのそりに乗り、プレゼントを持って窓の向こうにいた。
 未那と未羅は顔を輝かせて窓を開ける。
「メリークリスマス! サンタからのプレゼントだよ!」
 フレデリカが2人にプレゼントを差し出した。
「ありがとうなの!」
「ありがとうございますぅ、良かったね未羅ちゃん」
「うん!」
 その時、玄関から、「ただいまー」と声がして、未沙が帰ってきた。
「あら、フレデリカさん」
「こんばんは!」
 にこやかにあいさつを交わす2人を見て、
「お姉ちゃん、サンタさんと知り合いなのっ!?」
「すごいですぅ」
 未羅と未那が未沙に尊敬のまなざしを向ける。未沙は2人に気付かれずに、フレデリカに作戦成功の合図を出した。
 妹たちには、自分からではなくちゃんと『サンタさんから』プレゼントを渡して欲しかったのだ。

 その後、フレデリカと朝野姉妹は、用意しておいたクリスマス料理を包み、未那がきれいに飾りつけた屋敷を後にして、クリスマスパーティー会場のあるザンスカールへと向かう為にそりに乗りこんだ。
 そこへ、上空を飛ぶ小型飛空艇から、フレデリカに小さな箱が落とされた。
 未羅が上空を警戒し、未那がハーフムーンロッドを構える。
「フレデリカさん下がって! 爆発物かもしれない!」
 未沙がフレデリカをかばい、箱を観察する。
「大丈夫だよ」
 フレデリカはその小さな箱を拾い上げた。プレゼントにかけられたリボンには「フレデリカちゃんへ」というメッセージがついている。
「悪気はないみたいだから」
 フレデリカは顔をあげて、小型飛空艇からいい笑顔を見せて去っていく岩造とファルコンを見送った。
「紛らわしいなぁ」
 未沙がため息をつく。フレデリカは笑って、3人に声をかけた。
「さぁ、急ごう!」


 フレデリカ達が、ザンスカールのカフェテリア『宿り樹に果実』に到着すると、すぐにパーティーが始まった。昨夜手伝ってくれた者達が、朝から準備をしていてくれたらしい。朝野姉妹が、フレデリカと離れ、家から持ってきた料理をの厨房へと運び込む。
 皆に背を押され、フレデリカが用意された席についた。
 今日手伝ってくれた周やエル、竜牙達に加え、メイベルやセシリアにフィリッパ達女性陣に、昨日手伝ってくれた面々がすぐにフレデリカを取り囲んだ。
 サンタ大好きの翡翠も、フレデリカの近くに陣取り、サンタの話が聞きたくてうずうずしていたが、走瀬と翼の双子が我先にと話しかけるため、なかなかチャンスをつかめないでいた。


「はい、お茶どうぞ!」
 タシガンから駆け付けた理沙が、フレデリカにとっておきの紅茶を入れてあげる。
「あんなに多くのプレゼントをひとりでこなそうとしてたんだから、フレデリカって凄いわよねぇ」
「無理をせず、みんなに協力を求めたのは正解だったな」
 理沙が関心するのに、カティが同意する。その言葉に照れながら頷くフレデリカに、
「メリークリスマス、フレデリカ! これあげる!」
 ヨルがそう言って、クリスマスプレゼントのペロペロキャンディを渡した。
「ありがと」
「あたしはぎっくり腰のおじいさんにウール100%の靴下をプレゼントだ。毎年お疲れさんって伝えてくれ」
 カティもそう言ってプレゼントの袋を渡すと、フレデリカの前の皿からつまみ食いをした。
「わかった」

 フレデリカは昨日受け取れなかったプレゼントをもらったり、みんなの配達の話を聞いたりと、楽しい時間が過ぎていった。笑うフレデリカの表情は、とても人なつこくて、みんながほんわかした気分になる。

「サンタさん、呼んだ?」
 卓也に言われて、ヌイがフレデリカのもとにやってきた。
「うん。これ、まだ渡してなかったから。はい、君へのプレゼントだよ!」
 フレデリカはヌイにプレゼントを渡す。
「卓也ー!! ヌイもプレゼントもらったデス!」
 ヌイは会場を駆け回り、卓也にプレゼントを見せに来た。
「良かったですね、ヌイ。……あれ?」
 見れば、プレゼントはクッキーを組み立てて作るお菓子の家のキットで、卓也がヌイに渡してほしいと頼んだものではなかった。
 フレデリカはヌイに気付かれないよう卓也を呼ぶと、そっとぬいぐるみを返し、耳打ちする。
「サンタからのプレゼントもいい思い出だけど、パートナーからのプレゼントは、きっと素敵な絆になるよ」
 フレデリカは卓也の背を、ヌイに向かって軽く押した。とまどいながらヌイに歩き出す卓也を見ながら、フレデリカは、彼からもらったマカロンをひとつ食べた。

「フレデリカ殿、子供たちからサンタクロースへの手紙だ」
 タシガンで配っていた時に、子供が靴下に入れていたサンタへの手紙を、黎がフレデリカに手渡す。足もとにはパートナーのじゃわがいて、にこにこと微笑んでいる。

 ジュリエットもフレデリカに募金箱を渡す。募金箱は溢れそうになっていた。
「キマクで集めた『善意の寄附』ですわ。来年のプレゼントの足しになさればよろしいわ」
 キマクも捨てたものではないでしょうと、ジュリエットが微笑むとアンドレが腹を抱えて笑った。
 ジュスティーヌはひとり、キマクの未来に思いを馳せていた。

「サンタちゃーんっ!」
 ツァンダでそりに乗せてくれた美羽が、フレデリカに抱きついてきた。
「心配したよ、大丈夫?」
「うん、ありがと!」
「ね、見て見て!」
 美羽は、古いクマさんのぬいぐるみの小さな手を後ろから支え、フレデリカと握手する。
「これね、子供の頃サンタさんにもらったプレゼント、いまでも大切にしてるんだ」
「そうなんだ。……よかったね、大事にしてもらえて」
 フレデリカはやさしく、クマの頭をなでた。

 ショウとアクアは、家で待っているもうひとりのパートナーのためにフレデリカからプレゼントをもらい、あいさつをすませて仲良く帰って行く。

「あの、これキィちゃんに、クリスマスプレゼントです」
 パーティの隙を狙い、社がカフェテリアの女店主ミリア・フォレストに大きなリボンを手渡す。
「ありがと〜、キィちゃん喜ぶわ〜」
 レジのうしろでそれを聞いていたキメラのキィちゃんは、複雑そうな顔をした。

 社がミリアと話している間に、フリードリッヒは、パートナーの雪霞と店の外に出た。
 夕方から降り出した雪は、新しい白であたりを覆っている。光が滑らかな影を作り出す光景は2人で放浪した砂丘に似ている。
 過去へと思いを馳せるフリードリッヒに、雪霞の小さな影が、あの日のように寄り添った。

 ウィングが光術で木に光を灯すのを見て、竜牙も光術で光を飛ばし、空にMerry Christmasの文字の残光を残す。
 霧島 春美が、火術を操り、店中の蝋燭に火を灯した。

 瑠菜に促され、ミンストレルのリチェルがクリスマスソングを歌い始める。

 そんな光景を見て、珂慧はスケッチブックを開くと絵を描き始めた。クルトが上着を着せ掛け、その華奢な身体を気遣う。


 ミミは、カフェの端の方にラピスを連れていくと、椅子に座らせ、練習した光術で、『Happy Birthday』の文字を空中に描いて見せた。
「ミミちゃん、誕生日、覚えてたの?」
 驚くラピスに、ミミが照れて微笑む。
「1日、遅くなっちゃったけど……」
「もちろん、オレも覚えてるぜ」
 壮太は、プレゼントだと、ラピスの手に小さなものをそっと握らせた。見ればそれは、
「…………飴玉1個だけかよ」
「早く食った方がいいぜ、いつから入ってたかわかんねーやつだから」
「なにっ!?」
「うっそ〜ん!」
 怒るラピスから壮太があわてて逃げた。


 輪廻は、フレデリカに声を掛けた。
「少し話があるのだが、」
「どうしたの?」
 フレデリカは輪廻をじっと見つめる。
「あ、いや、俺ではなくこの子がな…」
 輪廻の影からぴょこんと、アリス・ミゼル(ありす・みぜる)が顔をのぞかせた。
「とりあえず聞くだけ聞いてやってもらえないだろうか」
「いいよ」
 輪廻の頼みを、フレデリカは快く引き受けた。
「どうしたの?」
「あ、あのっ、ボク、アリス・ミゼルっていいます! ボ、ボクとお友達になって下さい! そ、それから…」
 来年もサンタを手伝わせて欲しいことも言わなくちゃと、アリスが一生懸命考えていると、
「私もなりたい!」
「僕もなる!」
「私が先です!!!」
 走瀬に翼、翡翠が次々と乱入してきた。
「ボクが先に言ったんですよ! サンタさんは、ボクのです!」
 アリスも加わり、激しくなる子供たちのサンタ争奪戦に、
「良い子にしていたらね」
 フレデリカの一言で、その場に決着がついた。


「メリークリスマス! フレデリカちゃん!!」
 明が、フレデリカの元にやってきた。
「はい、これ。フレデリカさんへのクリスマスプレゼントだよ。」
 フレデリカは戸惑いながら、よせがきを手にした。


『この寄せ書きは、サンタさんへのみんなからのクリスマスプレゼントですっ。
 いつもありがとうです。来年もよろしくお願いしますですっ。  アリス・ミゼル』

『サンタも子供なのであれば、プレゼントを受け取るのが筋だろう。
 子どもたちに夢を与える仕事に敬意を表する。今後とも頑張りたまえ  四条 輪廻』


『可愛いサンタのお嬢ちゃん、配達お疲れ様。オジサン、君の頑張りを聴いて感動しちゃったよ!
 こんなオジサンでよかったら、またこき使ってもいいぜ?
 それではまた来年お会いしよう。メリークリスマス!    鬼崎 洋兵』

『配達お疲れ様です。私事ですが、あなたに感謝します。今日という日をありがとうね。  ユーディット・ベルヴィル』


『フレデリカ、配達お疲れ様。頑張っている君のために来年も手伝いに参上する!
 ハッピー! メリークリスマス!!!  鬼崎 朔』

『配達お疲れ様。この仕事って案外…大変だね。…何かあったら、来年も手伝うからその時よろしくだよ。
                                       ブラッドクロス・カリン』

『サンタさん、お勤めお疲れ様であります! また来年もよろしくお願いしますであります! スカサハ・オイフェウス』

『サンタ〜! 私だ〜!! ナデナデさせておくれ!!!  里也』


『お疲れ様。フレデリカさんなら、良いサンタになるであろう。いつか会えるのを楽しみにしている。  月白 悠姫』

『君のがんばりで子どもたちの笑顔が守られてるんだよ。また来年会いたいね  日向 永久』


『いつも子供を笑顔にしてくれて、お疲れ様である。子供たちは毎年、貴女方に憧れ、感謝しているのである。
 これから先も、子供の笑顔を守ってあげて欲しいである  万願・ミュラホーク』


『また来年も無理せず呼んでくださいね。メリー・クリスマス  ☆アリア☆』

『サンタさん毎年ありがとう。また来年もよろしくね  ☆こうな☆』


『おじいちゃんをお大事に、そしてフレデリカさんお疲れ様です。
 よろしかったら来年もお手伝いさせてくださいね。  神代 明日香』


『可愛いサンタさん、お疲れさま♪ 来年もよろしくね!  瑠菜、リチェル、フィーニより』


『フレデリカもそのじいちゃんも、毎年お疲れ様! 困ったことがあったらこれからも遠慮なく言ってくれ。
 いつでも力になるぜ!  轟 雷蔵』


『一日でもサンタになる夢が叶い嬉しく思います。また君の頼みならパートナー共々喜んで手伝いますよ!
 今日は本当に有難う  笑顔の伝道師ルイ・フリードより』

『素敵な手伝いが出来た事、感謝です。ルイには内緒だが、かわいいサンタの服を着れた事も嬉しかった。
 また何か有ったら呼んでくれ  リア・リム』


『フレデリカちゃんへ。配達お疲れ様、今年はいつもと違うすばらしいクリスマスを過すことが出来ました。
 いつか、お祖父さんを超える立派なサンタクロースになった時に私の子供を交えて、今日のことを話したいですね。
 がんばれ、未来のサンタさん  本郷 涼介』


『こんな素敵な仕事を手伝わせてくれてありがとう。それが何よりの贈り物でした。  久世 沙幸』


『毎年夢をありがとうですっ!  浅葱 翡翠』


『幸せを配る貴女にも、幸せがありますように  悠希』


『今日、たくさんの人がフレデリカ殿に『ありがとう』したのです。
 来年もまた『ありがとう』を言わせて下さいなのです  あい じゃわ』


『サンタさんお疲れ様、来年もまたクリスマスに会おうね。  葛葉 明』


 読む度、心の中に明かりが灯っていくようだった。フレデリカは最後に、隅っこに小さく描かれたクリスマスツリーとプレゼント箱のイラストを指でなぞった。


 フレデリカは、寄せ書きをそっと胸に抱きしめた。
「ばかね」
 その言葉に、会場が静まり返る。
「クリスマスは、サンタクロースにプレゼントをあげる日だって勘違いしてるんじゃないの?」
 ボロボロに泣きじゃくるフレデリカのため、パーティーはさらに盛り上がりを見せていった。