リアクション
ラストクォーター いよいよカルタ大会も終盤戦にさしかかった。 天候に恵まれたとはいえ、氷術が飛び交うフィールド内を駆け回る参加者たちの疲労は著しい。 札が減るに従って、それない札を取りに行くよりは体力を温存する事を選択するチームも目立ってきた。それも戦術としては間違いではない。 (少し中だるみしてきたかしら) 環菜は白いボックスの中の読み札も、残り十枚を切った。 「ん? 改造人間パラミアント? まぁいいわ。えーと、み……御神楽の デコに書きたい 『肉』の文字」 環菜の顔にハーフタイムの時に神代 明日香に向けたものとよく似た笑みが浮かぶ。 「はっはっは! パラミアント、参上!」 いかにも改造人間っぽいポーズを取って高笑いする五条 武(ごじょう・たける)。 環菜は笑みを浮かべたままで携帯電話のボタンを連打する。たまたま武の近くにいた朱宮 満夜があわてて距離を取る。 「この俺を捕まえられるか!」 武はローグとしての間で、トラップがなさそうな地点を目指してジグザグに駆けていく。 そのあとを追うように次々とぼよよん君二世が発動する。グラウンドに次々と巨大なスプリングが生えていくのはなかなか不思議な光景だった。何かモダンアートのようにも見えてくるから不思議だ。 「はっはっは、まさかタータントラックの下まではスプリングを仕掛けられまい!」 武は、トラック競技で使われる赤茶色の樹脂製タータントラックの上で見得を切る。 「この御神楽 環菜を見くびらないでほしいわね」 「え?」 高価な樹脂を突き破って、武の身体に加速度が加わる。 「そんなばかなー!!」 武の叫びは次第に遠くなっていく。樹脂製のタータンを突き破るために特別強いスプリングが使われていたのだろう。武の姿は競技場の外へと消えていったように見える。五条 武は改造人間なので、きっと平気だろう。平気だといいな。たぶん大丈夫。 次第に小さくなっていく武の姿を敬礼で見送る者があった。 「ゴッドスピード、改造人間パラミアント!」 風祭 隼人(かざまつり・はやと)の目には涙さえ浮かんでいる。 「残りの札の数からいって、そろそろですね」 ソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)は屈伸運動をしながら呟く。風祭チームはまだ一枚も札を取っていない。ここから始まる男達の熱い戦いのために、体力を温存しているのだ。 ホウ統 士元は、隼人の提出した読み札の一部分を剥がしやすいシールで隠しておいた。 「……まったく、時間を食ったわね」 環菜は次の読み札を抜き出す。 「風祭 隼人君の案ね。は――初日の出――あら? シールがしてあるわ」 環菜が読み札の下半分に張り付いたシールを剥がそうとする。 「御神楽 環菜のおでこに触った奴が今年の福男福女だぜ!」 観客席から百々目鬼 迅が叫ぶ。彼の手元には『裏運営マニュアル』なる小冊子が握られている。 「花音、いくぞ! 今年の福男福女になるんだ」 山葉 涼司と花音・アームルートも続く。 とりあえず面白そうだと、ほかにも数チームが会長に向かって駆け出す。 シールに手こずって迅の叫びを聞いていなかった環菜はその動きに気付かない。 「やっと取れたわね。……と思いきや環菜校長のオデコでした☆ ……そう」 環菜は自分に向かってくる参加者たちを氷点下の笑みで迎える。参加者たちはぼよよん君二世を警戒してジグザグに走りながら接近してくる。 環菜はその中に涼司の顔を見つける。光銃エルドリッジを抜き、刹那の躊躇もなく発射する。涼司は大きく痙攣しながら転倒する。 「涼司! 死んじゃいやだよ!」 花音の悲鳴が響く。 「安心なさい。峰撃ちよ」 全身きつね色になって痙攣する涼司の姿は、環菜のおでこにタッチしようとする者の心胆を寒からしめた。 (ゴッドスピード、山葉 涼司!) 隼人は心の中で涼司に敬礼を送る。隼人こそが「ここらで一発目立っとかないとヤバイのでは?」と焚きつけた張本人であるが、それを知るものはすでに隼人しかいない。 闇咲 阿童チームもまた環菜のオデコに挑んでいた。面白そうだからだ。 巨大なスプリングが背後ではじける。真上に乗っていればまだいいが、片足だけぼよよん君二世に乗った状態で発動すれば大怪我をする可能性もある。 「あ、札取っちゃいました」 橘 カオルが控えめに宣言するが、審判である環菜ですらそれに気がつかない。 「この、この、この!!」 もはやグラウンドは、スプリングの森と化している。ほかの参加者はすでにフィールドの外に避難している。 「はい、たーっち!」 環菜の額に触れたのは、隼人だった。環菜の怒りが頂点に達し、涼司を光銃エルドリッジで峰撃ちしたときにいったんフィールドの外に脱出したのだ。 その後は何食わぬ顔で環菜に接近し、その額に触れたのだ。 「大したものね……でも、私が自分に無礼を働いた人間を見失うなんて、本当にあり得ると思っているのかしら?」 まさか。 肉を切らせて骨を断つ。 環菜の指が携帯電話にかかる。 「待ってください!」 スライディングをするようにソルランが正座する。 「この事を考えたのは涼司さんと隼人なんです! 僕たちは一切関係ありません! むしろ止めたのに、隼人は僕たちを脅して……」 「その通りです。まったくこの男は大した悪人ですぞ!」 士元も大きく頷く。 「まぁ、かわいそうに」 ルミーナはすっかり信じ切って涙目になっている。いうまでもなく、ソルランと士元は率先して隼人に協力していた。迅が持っていた『裏運営マニュアル』が士元手作りのコピー本である。 「あら、そう」 環菜はためらわずぼよよん君二世を発動させた。 福男、風祭 隼人とその仲間達は宙を舞った。 「2020おめでとー!」 ゴッドスピード、風祭 隼人! |
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