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御神楽 環菜の学園対抗ツンドラカルタ

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御神楽 環菜の学園対抗ツンドラカルタ

リアクション


最後の一枚 最終決戦


 グラウンドは、かつてここが地雷原であったといわれても不自然ではないほどに荒れていた。
 先ほどまでの環菜のオデコに関する数枚の読み札に付随する騒ぎのせいだ。ぼよよん君二世は一度発動したあと、コンプレッサーが動作して自動的にまた地下へと戻る。しかし、地上の状態までは戻してくれない。ぼよよん君二世の発動した地点はすり鉢状に地面が下がっている。
「……最後の一枚ですね」
 ルミーナは手元の集計表に視線を落とす。
 その集計表には鬼崎 朔チームと橘 カオルチームが絵札獲得数七枚で同率一位と書かれている。
「いかが致しますか?」
「決まっているわ。ナンバーワンはオンリーワンでなくちゃ意味がないわ」
 環菜は携帯電話で自家用ヘリコプターを呼び寄せる。
 突然現われた青いヘリコプターに会場は騒然となる。ヘリコプターからロープが垂らされ、それを使って用務員さんが降りてくる。用務員さんはフィールドに残された最後の一枚の札をロープに括り付ける。
「鬼崎チーム、橘チーム。あなたたちにはカルタ大会優勝のために戦ってもらうわ」
 ヘリコプターによって絵札が高く釣り上げられていく。
「カオルっち、ファイトやで〜!」
 チアリーダー姿の望月 鈴子がポンポンを振ってカオルに声援を送る。
「そっか、応援してくれる人がいるんだもんな。がんばろうな、マリーア」
「うん!」
 シャンバラ教導団で競技に参加しているのはカオルチームだけだった。しかし、同じシャンバラ教導団の鈴子が応援してくれるのだ。カオルは大きく深呼吸して自分の顔を挟み込むようにして叩いた。
「……いたい」
 それを見て真似をしたマリーナは涙目になってカオルを見上げる。
「メモリープロジェクター、いかが致しますか?」
 スカハサは宙づりにされた札を見上げながら朔に尋ねる。
「必要ない。自分たちの力があれば、勝てる」
 朔チームは、事前の情報だけでなく、スカハサのメモリープロジェクターなどを組み合わせた戦術をとっていた。この最終決戦ではそれらを捨て、カオルチームと直接対決を挑むつもりらしい。
「鬼崎さんガンバレー! ……どっちもがんばれー!」
 ボランティアスタッフの相沢 美魅が両チームを応援する。蒼空学園生としては鬼崎チームに勝ってもらいたい気持ちもあるが、どちらにも負けてほしくない。
「さて、どうなりますかな」
「ほんま、どちらにもがんばってほしいどすなぁ」
 玲とイルマも両者の戦いを見守っている。
「鬼崎さん、ファイト―!」
「ここで会長のオデコに触ったら本当に英雄だぞ―」
 ヤジを飛ばした誰かがぼよよん君二世で飛ばされる。
「絵札がロープから放れた瞬間がスタートよ。両チーム、自分たちの誇りに駈けて悔いのない戦いをして頂戴」
 壇上の環菜が右手を高く掲げる。
 ホバリングするヘリコプターの周りを白い巨鳥が飛ぶ。
「最後の札よ。ん――ん〜なんだかちょっといい感じ!」
 環菜の右手は、何かを宣告するかのように振り下ろされる。絵札がゆっくりとリリースされる。
「――行く」
「了解であります!」
 鬼崎チームが動き出す。
「マリーア」
「うん!」
 カオルチームもグラウンド中央を目指して駆け出す。
「ヘリの風か――」
 鬼崎 洋兵は見えない何者かに弄ばれているかのような不規則な動きをする札を見て呟く。ほぼ真下から見ている両チームからは、札の落下地点を読むのは非常に難しいことだろう。
「マリーア、右だ」
「うん!」
「スカハサ、軌道予測できるか?」
「申し訳ありません、パラメータが不足して不可能であります」
「なら、勘で行くしかない」
 絵札は地上まであと五メートル。
 必然的に両チームは近い位置で立ち回ることになる。ルールで直接攻撃は禁止されている。
「あっ――」
 マリーアが体勢を崩す。ぼよよん君二世によってグラウンドに生じた凹凸に足を取られてしまったのだ。カオルは頭上を見上げる。目の錯覚か、手を伸ばせば届きそうにも見える。手を伸ばそうとして、身体に括り付けられたロープに気付く。
(あの人に知れたら、きっと怒られるな)
 カオルは内心で苦笑しながら、しかし、迷うことなく倒れ込んだマリーアの手を取った。
「お命、頂戴!」
 その隙を見逃す朔ではなかった。スカハサとタイミングを合わせてジャンプする。
「『ん』の札、取ったであります!」
 まったく同じタイミングで朔とスカハサが着地する。
「カオル……ごめんなさい」
 マリーアは地面にへたり込んだまま絞り出すように呟く。カオルの顔を見ることもできない。
「なに言ってんだよ。二人だったからここまでやれたんだ。顔を上げて、見てみろよ」
 カオルはマリーアを立たせる。マリーアが周囲を見渡すと、誰もが拍手をしてフィールドに立つ両チームの健闘をたたえていた。
 ベンチに横たわった焦げ涼司に膝枕してやっている花音は、どこかまぶしげにカオルたちを見つめている。
「いい勝負だった」
 朔が無表情のまま右手を差し出す。カオルは、自分が握手を求められていることにようやく気付き、その手を取った。