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嫉妬にご用心!?

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嫉妬にご用心!?

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解放

 生徒たちが、氷室に入っていくと、やがて、鍵のついた鉄格子の扉を見つけた。

 夕凪 あざみ(ゆうなぎ・あざみ)は、忍者らしく天井の物陰に潜み、小人を使って観察をはじめた。

 生徒たちが格子の間から中をのぞいてみると、なにか塊のようなものがいくつも目に入った。

 それは、氷漬けにされた少女たちだった。

 しかし、よく見ると、氷漬けになっていない者たちもいた。

 白い着物の女性に不意打ちされた者は、吹雪を浴びて氷漬けにされてしまったが、光刃武装メンバーのように、自ら潜入した生徒は、生身のままだった。

 ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)も氷漬けを免れた生徒のひとりだった。

「ううう、寒いよ。早く脱出して朔ッチ達の元に帰りたい! でも、こんなめんどくさいことさせた犯人に引導渡したいなあ。まあ、とにかく光条兵器を使って脱出でもしようかな。ボクの光条兵器、ゴーレムくらいの硬さだったら余裕で穴開けられるし」

そこへ、同じく内部潜入を試みた栂羽 りを(つがはね・りお)が、扉の外から声をかけた。

「あ、カリン。無事だったんだね。今、扉の鍵を開けるから待ってて」

「おおお、待ってたよーー」

「よし、ここの鍵開けは、スキルのピッキングが使えないかな? どれどれ・・・・・・ガチャガチャ」

「どう?」

「ダメだ、開かない」

「りを、聞いて。ここの氷室には、見張りがまわってくるの。その見張りが扉の鍵を持っているわ」

「そうなんだ、カリン。ということは、見張りから鍵を奪うしかないわね。そのときはサバト兄ぃにも協力してもらって、敵の目を引いた隙にやるしかないね」

「解ってる、騒がねーようにやるってぇの」

 サバト・ネビュラスタ(さばと・ねびゅらすた)は、もしりをが捕まったとしても、今回は、敵に見つからないよう、そのまま隠れ続けることに決めていた。

「最後まで敵の捕捉を受けない方が、相手への不意打ちにもなるだろうからな」

 りをたちのやりとりを聞いていた、光刃武装グループのリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は、芝居を買って出た。

「僕が、見張りを欺くよ。嘘の芝居をして見張りを呼ぶから、やつらが油断した隙にモナルダが鍵を奪ってくれ」

「了解ですぅ!」


 やがて、見張りが巡回にやってきた。

 土御門 咲(みかど・さき)が物陰から見張りの姿を見て、つぶやいた。

「あれは、雪女が使役する式神の一種ですね。私も陰陽術を心得ているので、わかります」

 そして、リアトリスの演技が始まった。

 彼は、女性の声色を使って見張りに訴えかけた。

「いたたたた、お腹が痛い、痛いのよ」

 見張りが、様子を見ようと扉の鍵を取り出したところ、その頭部をモナルダのセスタスが襲った。

 バタリと倒れる見張り。

「よし、うまくいった。さあ、扉を開けるよ」

 ガチャリと音をたてて、扉は開いた。

「女の子たちを縛っていた縄は、私が既に切っておいたわ。これが役に立ったのよ」

 ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)はそういうと、天城 一輝(あまぎ・いっき)から受け取った「プリペイト・サンドイッチ」をかざして見せた。

 緊縛を解かれたウィルヘルミーナ・アイヴァンホー(うぃるへるみーな・あいばんほー)は、見聞きしたことを話し始めた。

「いたたっ。ゆ、油断しましたね。この事件にあの人が関わっていたなんて・・・・・・」

「あの人っていうのは、愛美さんのこと?」

「はい、ローザさん。どうも、愛美さんは嫉妬の感情から、女の子たちを誘拐したようなんです・・・・・・でもボク、嫉妬される位の魅力なんて無い気がしますけどね。となると・・・・・・あの人は何かにそそのかされて混乱しているかもしれませんね」

 同じく囚われていたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が口を挟んだ。

「確かに、嫉妬の感情からやったことに違いないですわね。だって、『美少女』の私をさらうんですから」

「・・・・・・なるほど」

※ ※ ※


 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)も、自ら囮になった生徒のひとりだった。

 彼女は雪女に捕まる際、ディテクトエビルを使用していたため、吹雪を浴びたものの、魔法防御力によって氷漬けを免れていたのだ。

「氷にされた女の子たちを助けるんだもんね」

 そういうと、美羽は夕凪 あざみ(ゆうなぎ・あざみ)と協力して少女たちを助け出した。


 解放された生徒たちの反応は、さまざまだった。

 美羽に氷漬け状態を解いてもらったティファナ・シュヴァルツ(てぃふぁな・しゅう゛ぁるつ)は、淡々と周囲を観察しながらつぶやいた。

「助けてくれてありがとう・・・・・・私の他にも捕まった子がいるのね。でも、女の子ばかり集めて、どうするつもりなのかしら?」

「それは犯人に訊いてみないとわからないよね」


 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、雪女に捕まる際、抵抗したので、ボロボロの無惨な姿で捕われていた。

 アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)が、怪我をしたアリアに、ヒールをかけてあげていた。

 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、氷漬け状態から突然解放されて、混乱している。

「うのっ!? ここどこ!!?」

 氷漬けにされている間は、時間が止まっているのと同じなのだ。


 鳳凰院 輝夜(ほうおういん・かぐや)は、神童子 悠(しんどうじ・ゆう)と連絡を取ろうと思い、携帯に電話してみた。

 が、つながらない。

「そういえば、災害時には電話よりメールのほうがつながりやすいんだっけ?」

 あらためてメールを出してみると、今度は送信できた。

 すぐに、悠から無事を喜ぶ返信が届いたのはいうまでもない。


 後光 皐月(ごこう・さつき)は、少々取り乱していた。

「私はもう独りは嫌、暗いのも嫌、もうこんな思いはしたくない! 犯人さんを見つけたらみんなを返して! ってお願いする。
 あー君やトラちゃんにも手伝ってもらうから、絶対見つけられるもん」

 だが、助けに来た生徒たちから、他の友達もみんな無事であることを聞かされ、落ち着きを取り戻した。

 どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)の乱れ様はもっとひどい。

「あたしかわいいからさらわれちゃった〜。助けて〜というか出しなさいよ〜。
 あとでひどいわよ〜。縛って動けなくして、たたいたり、あつくしたり、ののしってあげたりしちゃうんだからね〜。
 あ〜、もしかしてあなたそういうのが好きなのね〜。このヘンタイ! ヘンタイ! ヘンタ〜イ! 
 さらわれてつかまって閉じ込められて逃げられません」

「・・・・・・」

 一同唖然。


 逆に、マリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)は、囚われたことを恥じていた。

 パートナーに相談せず、独断専行したために、このような事態を招いてしまったから。

「私、市井さんに合わせる顔がありません。もうこれ以上、迷惑なんてかけていられません! 今できることは、他の女の子たちを助けること。この光条兵器で脱出を試みます」

 救出された、さまざまな女子生徒の反応を見つつ、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は、敵に見つからないよう、護衛を兼ねた避難誘導を始めた。

※ ※ ※


 氷室からの脱出を試みる生徒たちの目に、不審な人物が映った。

「カワイイネーチャンはどこだ〜」

 これを聞いたカライラ・ルグリア(からいら・るぐりあ)は、カリス・アーリー(かりす・あーりー)とともに警戒を強めた。

「あれはもしや誘拐犯では? 僕らの邪魔だてすれば容赦はしない。相手が女性だったら手加減はしますけど、この声は明らかに男・・・・・・おい、そこで何をしている!」

 しかし、声の正体は、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)だった。

 彼の奔放な性格は、こういう事態でもTPOをわきまえなかった。

 慌ててパートナーのソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)が止めに入る。

 間一髪、ソルはカライラの攻撃を受け止めた。

「違うんです〜。僕らは誘拐犯じゃないんですよ!」

「え、そうだったの? 紛らわしい・・・・・・・」

「ごめんなさい」

 謝るソルファインを横目に
「あれ? ソルも来てたの?」
と反省する様子も見せないアストライトだった。


 一方、アリス・レティーシア(ありす・れてぃーしあ)リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)も、この洞穴にやってきていた。

 しかし、アリスは生徒を助けるでもなく、カメラを構えている。

「なんでおねーちゃんは、女の子の写真ばっかり取ってるんだろ?」

 リースが不審がっていると、写真を撮られていたどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)がアリスに抗議した。

「ちょっとあんた、なにやってんのよ〜。もしかして誘拐犯の一味なの? だったら許さないからね。あたしはかわいい子を助けて、かわいい子と深い仲になるのよ〜」

 これを聞いたほかの女子生徒たちも、一斉にアリスに非難の目を向けた。

「あれ? 何で皆武器構えてるの? 私が犯人だって? 違うよ。私は可愛い子を見たいだけ・・・・・・や、違うってやめて・・・・・・助けてリース!」

「あれ? おねーちゃんがみんなに襲われてるよ・・・・・・でも、痛いの嫌だし・・・・・・放っておこうかな」

 ようやく事態が収まり、傷だらけのアリスだけが残った。

「・・・・・・結局みんなにボコボコにやられちゃったよ・・・・・・でも可愛い子いっぱいで幸せ!! 写真もいっぱい撮れたし、満足だよ!!」

 こちらも、アストライトに負けず劣らずの無反省ぶりであった。