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紙ペットとお年玉発掘大作戦

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紙ペットとお年玉発掘大作戦

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 一方、荒野は、もともとの荒れ具合をさらに悪化させていた。
「八竜っ!」
 悠久ノカナタが叫んだ。八体の紙ドラゴンが、翼を大きく羽ばたかせながら八方を固め、ガンセキガメをとどまらせる。
「ァ、カァ!」
「ガオォウー」
 紙鴉と紙熊も、もう一体のガンセキガメの前に立ち塞がって注意を引く。
「ソア、今だぜ!」
「いきますっ!」
 緋桜ケイとソア・ウェンボリスが再び【光術】【雷術】を同時使用。
 目を覆いたくなるほどの強い光と、耳をつんざく轟音がガンセキガメ達を驚かせ、後退させる。
 完全に去ったことを確認して、緋桜ケイが一息ついた。
「みんな宝を手に入れ始めてるな」
「そうですね。楽しそうで何よりです」
「わらわ達が魔物を追い払っているおかげであろう」
 魔物のいそうな場所に赴いてガンセキガメに遭遇しては、脅かしての繰り返し。安全に生徒達が宝探しできるよう、務めてきたのだ。
「この辺の魔物の気配がなくなったら、宝探ししようぜ!」
「はいっ」
「では、もうひと頑張りせねばな」
 悠久ノカナタが一点を指差す。紙ペット二匹の背後に、亀の甲羅が迫っていた。
「行けっ!」
 悠久ノカナタの呼び掛けに応え、紙ドラゴン一体が、紙鴉と紙熊を拾い上げた。
「ケイ、やりますよ!」
「おう!」
 ソア・ウェンボリスと緋桜ケイは再び、詠唱を始めた。
「さて、そろそろ宝探しをするか」
 ガンセキガメを倒した虎鶫涼は、紙猫に呼びかけた。
「ミャー」
 紙猫は、とてとてと歩きだした。虎鶫涼は後を追いながら前方を見遣り、岩と岩の隙間に注意を向けた。
「ミャー!」
 と同時に、紙猫が駆けだした。注意を向けていた場所に爪を立てる。
「そこを掘ればいいんだな?」
 力を込めて土を掘り返し、現れた宝箱を手に取る。
「これは……」
 宝箱の中身は、黒子服だった。

 荒野の岩場付近で、笹島ササジが宝を掘り返していた。
「これで二つめです! 意外と近くにありますね」
 笹島ササジがニコ・オールドワンドに微笑みかけた。彼は頷く。
「……ねえ、笹島」
「? なんですか?」
「僕の分も掘ってくれない? 力が弱くて困ってるんだ」
 ニコ・オールドワンドは紙蛇が示す、宝の位置を指した。土にはスコップが軽く刺さった跡しかない。
「わかりました。やりますよ」
 笹島ササジは微笑んで快く引き受けた。ざくざくと掘り返す。その後姿を眺めながら、ニコ・オールドワンドは怪しく微笑む。
「……ふぅ、どうぞ」
 ニコ・オールドワンドの宝箱二つを掘り当てた笹島ササジが、振り返るその時、【氷術】が彼の体を固まらせた。
「……え?」
「もう、要なしだ」
 そう言ってニコ・オールドワンドは、掘り返された宝箱を回収した。
「なるほど、そういうことですか……見るからに雑魚な僕を狙うとは、理に適った行動ですね。敵ながらあっぱれでありますよ……」
「褒めてくれるの? じゃあ、お礼に」
 ニコ・オールドワンドは【雷術】を放った。
「うわっ!」
「これも貰って行くね!」
 そう言って笹島ササジの宝箱に手を掛ける。その一つに、紙タヌキがとりついていた。引き剥がそうとしても、取れない。
「仕方ないねぇ、これくらいでいいや!」
 そう言って宝を三つ抱えたニコ・オールドワンドは、箒で勢いよく飛んで行った。
「……幸運どころか、不運ですね……」
 がっくりと肩を落とす笹島ササジに、紙タヌキが宝を差し出した。
「そうだ、まだ開けてませんでしたね」
 笹島ササジは、宝箱を開ける。
「これ……!」
 中身は、使い古されたグローブだった。彼の顔が一瞬で笑顔に変わった。

「オォオウヤアァアア!」
 大きなガンセキガメが、雄叫びをあげた。その先で、柳尾なぎこが宝探しをしている。
「なぎさんの邪魔はさせないよー」
 東條カガチが【クロスファイア】を放つ。
「わたくしも加勢しよう」
 姫神司が【チェインスマイト】を繰り出すと、ガンセキガメが飛びかかった。ぶつかる寸前【バニッシュ】が放たれ、止まる。
「危ないですよ。気を付けてください」
 グレッグ・マーセラスが姫神司を庇う。
「京子ちゃん、紙わんこを頼んだよ!」
 椎名真がガンセキガメの尾に蹴りを繰り出した。更に【則天去私】により鉄甲が光を帯び、ガンセキガメを攻撃。
「オォオオウウアァアア!」
 更に畳みかけるように続く攻撃に、ガンセキガメがたまらず声を上げ、甲羅に籠って逃げて行った。
 入れ替わるように声が届く。
「宝箱ですよ!」
「真くん、宝の場所が分かったよ! 司さんの紙ネズミさんも、見つけたみたい」
 柳尾なぎこと双葉京子が両手を振っていた。
「ありがとうございます。司、行きますよ」
 グレッグ・マーセラスが姫神司を引っ張って紙ハツカネズミの元へ。東條カガチと椎名真もそれぞれ続く。
「キャン!」
 椎名真が宝を掘り返すと、紙わんこが嬉しそうに吠えた。期待に応えるように椎名真が宝箱を開ける。
「これは……」
 中身は、銅の盾だった。
「今度は、なぎさんの番ね!」
「そうだよー」
 東條カガチに頷いて見せた柳尾なぎこが、掘り出された宝箱を開ける。
「キレイ!」
 柳尾なぎこが瞳を輝かせる。真っ赤な花で形作られたブーケが入っていた。
「もう一つはどうするかねぇー」
 掘り返したもう一つの宝箱を持っていると、羨望の眼差しが届いた。笹島ササジだ。
「これ、やるよ」
「本当ですか!? あ、ありがとうございます!」
 笹島ササジは地面につきそうなほど、深々と頭を下げた。
「グレッグ、そなたにやろう」
「ありがとうございます」
 姫神司から宝箱を丁寧に受け取り、開ける。
「! これは……」
 中には、ネクタイと古びた布が入っていた。
「届けに行こう」
 姫神司が駆け出す。
「待ってください、司。皆さん、ご協力ありがとうございました!」
 グレッグ・マーセラスが頭を下げて彼女を追いかけた。
「いってらっしゃーい」
「気をつけてね!」
 二人を見送り、双葉京子が紙わんこを撫で、浮かない顔をする。
「……この子……この宝探しが終わったら紙に戻っちゃうのかな?」
「どうなるかわからないけど……今のうちに遊んであげようか」
「うん、そうだね」
 椎名真の言葉に頷いて、双葉京子が立ち上がった。