薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

我らに太平の時は無し――『護衛訓練』――

リアクション公開中!

我らに太平の時は無し――『護衛訓練』――

リアクション


第五章:終着


 訓練は徐々に徐々に、終わりを迎えようとしていた。
 既にクリアした者、ようやくゴールに辿り着く休息を得る者、ゴールした訓練生の評価や、治療を行う者。
 ゴール地点では各位が各様の態を示していた。

「随分と遅かったな。罰則が必要だぜこれは」
「痛っ! ホントに蹴ったなお前!? と言うかこっちは大変だったのだよ! 戦闘機に追い回されたりとな!」
「嘘を吐くな馬鹿者め。罰としてもう一発だ」
「痛ぁ! 嘘ではないのだが……えぇい蹴るなと言っとるだろうに!」
 イリーナとレーゼマンは訓練前の公約通りに? 蹴り合いを始めたようだった。


 フィルテシアの提出してきた改造ゴーレムちゃんを見て開口一番、一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)が放った言葉はこうだった。
「……一体何ですか、これ?」
「え〜? ゴーレムちゃんだよ〜?」
「いや……ゴーレムなのは見たら分かるんですけどね。何でこんな事になってるんですか? ゴーレムの状態で減点とか失敗とか判断するのに、これどう判断すればいいんですか。護衛対象が魔物倒せるようになってから出発って」
「う〜ん、駄目なの〜? 会心の出来だったのになぁ〜」
「いや、凄いには凄いんですけどね。訓練の主旨からかけ離れてますよねこれ。って言うか若干意思疎通が出来ていない気がするんですけど気のせいですか?」
「凄いならいいじゃん〜。何が駄目なの〜?」
「分かりました。気のせいじゃありませんでしたね」
 かれこれ十分ほどフィルテシアと不毛なやり取りを交わしたアリーセは、彼女にのみゴーレムを採点不可として、『技術点』と言う謎の加点を与えて護衛成功と言う事にしておいた。
 それから運ばれてきたゴーレムの内の何体かに視線を向ける。
「……それにしても、ちゃんと人格があるものとして扱われてきたゴーレム達。彼らには人格とは言わないまでも、行動の所作などに癖が根付いたみたいです。前例はあるようですが、理屈は分からないんでしたっけ」
 やけにふんぞり返ったゴーレム二体、なよなよとした仕草を繰り返すゴーレムが一体、やたらと活発なゴーレムが一体。
 どれも護衛対象は人間であるとして、相応の扱いを受けてきたゴーレムだ。
「ゴーレムはゴーレムです。組み込まれたプログラムによって動く機械と同じ。ならば何故このような事が起こるのか。……通常ではあり得ない用法にバグが発生するだけなのか。それとも未確認なだけで、ゴーレムにも……」
 考えた所で、今の自分では解を得る事は出来ない。
 その事を思い出したアリーセは、紡ぎかけていた言葉を断ち切った。


「……そう言えばアンタって、女の子にカッコイイとこ見せたいから訓練参加したんだっけ?」
 ふと、瑠樹がルースに尋ねる。
「んー? そうですけど、それがどうかしましたか?」
「いや、カッコイイとこ見せたかったならゴーレムにカツラとドレスはいらなかったんじゃないかねぇ……って。ウチのマティエとか結構ドン引きしてたし」
「……あぁ!? しまったぁ!」

「おやおや、無事に生きてゴール出来たんだなあ。心配してたんだぜえ? ぐ〜うぜん、お前等が襲われてるのを見ちまったからなあ」
「……お前には、いずれ相応の報いを与えてやるさ」
「おぉ、怖い怖い。そんな怒る事ないだろお? 助けず無視しちまったのは悪かったけどよお〜」
 あくまですっとぼけ、挑発の音律を声に多分に含ませて、ジャジラッドは下卑た笑みをクレーメックへと向けた。

 その他にも、
「あーもうっ! 昇格出来なかったー! ゴーレムはちゃんと守ったのに、ひどいと思わないっ!?」
 ゴーレムは守り切ったが狙撃手対策を講じられず序盤にモタついた事が原因で、大規模な舞台の管理も行う【機甲科少尉】はまだ早いとされたルカルカがお菓子をやけ食いしていたり、
「そうだ、お宅さんら、芋ケンピは好きですかな? もし好きなら、お宅さんらとはこれからもいい仲間……いや、ケンピメイツ、魂の片割れでいられると思うんですがね」
 セオボルト・フィッツジェラルドが助け合った面々をケンピメイツに引き込もうと密かに暗躍したり、
「実はね、私は龍雷連隊と言う部隊を率いているんだ。もし良ければ、これからも君達と助け合える関係になりたいと思うのだが……どうだろう?」
 松平岩造が己の率いる部隊に共に戦った仲間を誘ったり、
「……み、水……。メシ……。道に迷って……三日も……死ぬぅ……」
 最後まで地図を確認せず突っ走った正義が見事に遭難し、女王の加護で命からがらゴールに辿り着いたり、
「よりにもよって自分の手で護衛対象を破壊するとは何事かああああああ!? 帰ったら貴様には地獄すら生温い補修訓練を受けてもらうからなぁ!?」
「既に十分キツいんですけどー!? って言うか傷口開く! 傷口開きますってこれえええええええ!」
 護衛対象を殺した大戦犯と認定されたカオルが鬼教官にとんでもない訓練をさせられる羽目になったりして、訓練は終わりを迎えた。


担当マスターより

▼担当マスター

三浦啓介

▼マスターコメント

 はじめまして、三浦啓介です
 この度は我らに『太平の時は無し―― 『護衛訓練』―― 』に参加して頂いてとても感謝であります。
「鋭いなあ」ってアクションや「おードツボはまっとる」ってアクション、色々あって書いていてとても楽しかったです。
 ……と言うか教導団が手ずから妨害を配置している事を隠したりしてしまいましたが、訓練と言う事でどうかご容赦下さい。