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輝く夜と鍋とあなたと

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輝く夜と鍋とあなたと
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(これは……今夜は楽しめそうですね)
 肌着を買いに来ていた麻上 翼(まがみ・つばさ)はチラシを受け取ると、楽しそうに笑ってから、4人にメールを送ったのだった。

 翼が言った時間と場所に全員が到着し、早々にカマクラの中へと入っていた。
 カマクラの中にはすでに不穏な空気が流れていた。
 佐野 亮司(さの・りょうじ)の横には月島 悠(つきしま・ゆう)佐野 葵(さの・あおい)が座っているのだが、その葵が亮司の腕にしがみつき、悠を睨んでいるのだ。
(お兄ちゃんの隣に座って良いのはワタシだけなんだから)
 だが、悠は何故睨まれているのかすらわかっていない。
 いつもと違う妹の様子に亮司は困惑気味だ。
「今日は日頃お世話になっている亮司さんに私がお鍋をつく――」
「ボクが調理しますよ!」
「私もお料理するの好きですから、やらせて頂きますっ!」
 悠が申し出ようとしたのを翼と向山 綾乃(むこうやま・あやの)が必死に止める。
「でも――」
「悠くんにお料理なんてさせたら、折角のお鍋が台無しになっちゃいます」
「ここはお料理が得意な私達に任せてもらえないでしょうか?」
 悠は食い下がろうとしたが、翼と綾乃の言葉に渋々引き下がったのだった。
 翼と綾乃は2人でトマト鍋を作っていく。
 その間も葵は悠から目を離さず、また亮司からも離れない。
「出来ましたよ」
 鍋が出来あがり、翼が声を掛け、綾乃が器に入れ、配っていく。
 全員に行き渡ると、それぞれ好きな飲み物を持ち、乾杯となった。
「さすが、綾乃さん……すごく美味しい!」
 1口食べて、悠が感歎の声を漏らす。
「ありがとうございます」
「ボクも作ってますよ」
「あ、ごめん! 美味しいよ!」
 翼に指摘され、悠が褒めると翼は満足そうだ。
(でも……日頃の感謝の気持ちを表したかったなぁ……)
 そんな悠の心を読んで、翼が何やら耳打ちする。
「えっ……!? それ……でも……」
「大丈夫ですよ。悠くんなら出来ます」
「う、うん……」
 悠は牛肉を箸で掴むと隣にいる亮司の方へと持って行った。
「りょ、亮司さん! あ、ア〜〜〜ンッ」
 顔を真っ赤にしながら、精一杯言うと、それを見た葵が亮司の腕から離れた。
「ほら、お兄ちゃん、あーん」
 葵も自分の箸で悠よりも大きなお肉を掴むと亮司の口元に持って行った。
「えっ!? あ……ええっ!?」
(どうしてこうなった!?)
 亮司は2人から迫られ、どちらのも受け取れずにいる。
 その様子を見て、翼は実に満足そうににやにやしている。
「亮司さん、こっちにモンブランを用意してありますよ? 先に食べますか?」
「あ、ああ、食べようかな」
 見兼ねた綾乃が亮司に助け舟を出したのだ。
(くっ……この子だけじゃなくて、まさか綾乃さんまでお兄ちゃんを……!?)
 葵は嫉妬心メラメラの瞳で綾乃の事を睨んだ。
 しかし綾乃の方が大人で、その視線をわかってはいるし、勘違いでもあるのだが、やんわりと笑顔で受け止めてしまった。
「あーん、出来なくて残念ですね。でも、良いんですか? ぼやぼやしてると葵くんに亮司くんを取られちゃいますよ?」
「えっ? 違うんじゃない? 仲の良い兄妹でしょ?」
 翼が小声で話しかけてきたので、悠もつい小声になっている。
 結局、アーンは両方とも成功ならず、締めのうどんも美味しく頂き、鍋パーティーは解散となってしまった。
 その後、家に帰った亮司は胃薬を飲んでいたという。