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リアクション
「――ふんはぁーっ!」
風上の砂丘に駆け上がったヴァル・ゴライオンは、装着していたパワードアーマーを豪快に脱ぎ飛ばした。
筋骨隆々の上半身が露わになる。
逆光が黄金の髪を輝かせ、まるでたてがみのように風に揺れた。
「犬ども! この帝王の匂いに酔いしれるがいい!」
先行するワイバーンの後を追いかけていたヘルハウンド部隊は、突如現れた敵の匂いを嗅ぎつけると、一気に進路を大きく変えた。
「――!」
同行していた神官軍の指揮官が懸命に抑えにかかるが、一度興奮したヘルハウンドを静めるのは困難極まりない。
「かかったな、駄犬の群れめ!」
神官軍とヘルハウンドが分断したことを確かめると、ヴァルはしびれ粉を振りまいた。風下にいる敵の大半に直撃する。
「はっはっは! 自分の匂いでおびき寄せるとは。帝王の御仁、やりおるではないか!」
大鎌を片手に、動きの鈍くなったヘルハウンドの群れへ単騎で向かうのは本能寺 揚羽(ほんのうじ・あげは)。
「揚羽ぁー! 一人は危険ですよー!」
後ろから姫宮 みこと(ひめみや・みこと)の絶叫のような声が聞こえる。
「くくく、許せ、さる。いくさの匂いを久しく嗅いでおらぬゆえな!」
言いながら、襲いかかってきたヘルハウンドの牙を鎌でがっちりと受け止めた。
「!」
鎌に喰らいついた牙の間から、轟音とともに炎のブレスが放たれる。
「ちぃっ!」
間一髪、炎を避けざまに、そのまま鎌の柄で殴り飛ばした。
腕に残る爪の跡から、血がしたたる。
「ふ。妾としたことが、すっかりなまってしまったようだの」
揚羽の目が細くなる。同時に、ファイアプロテクトが全身を包んだ。
「来い。貴様らの首級、国盗りの添え物にしてくれるわ!」
「揚羽? いま何て言いました?」
「民を救い、この国に平和をもたらしてくれるわ、と言うたのじゃ」
「そうですよね! えいっ!」
みことの純真無垢きわまるヒールを受けながら、揚羽は再び大鎌を振りかざす。
今度は聞こえないように、この国、必ず盗んでくれよう、と呟いた。
視界に映るものは全て、空の色か砂の色。
こんな状況でも、師王 アスカ(しおう・あすか)の目には、豊かな緑が見えていた。
美しかったころのカナン。それを描きたいがあまりに、この遠征に参加したと言ってもいい。
「分からないからこそ、想像しちゃうってものよねぇ」
そう言って、自分とルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)に、ファイアプロテクトをかける。
「ヘルハウンドが来るぞ、アスカ。ぼーっとするな」
「わかってますよぉ」
ルーツは苦笑する。いや、それでこそアスカか。
その間にも、魔獣の俊足は目前に迫っていた。
「動くな――獣ども」
飛びかかってこようとする一団に向けて鬼眼を放つ。
弾かれたように、その場に立ちすくむ魔獣。この手の技は、人間よりも獣に効くようだ。
「悪いがここまでだ」
ルーツの氷術が、動けないヘルハウンドに襲いかかる。たちまち凍り付き、倒れる魔獣の群れ。
「うーん、作戦決めた時点で、もっと厚着すればよかったわぁ」
砂漠の中で鳥肌を立てながらも、アスカはアルティマ・トゥーレで、残った魔獣を次々と凍り付かせていく。見た目とは裏腹の華麗な剣さばきに、ヘルハウンドはひとつの反撃も許されなかった。
「よし、後は任せたぞ――お二方!」
「ヒャッハーッ! 任されたぜ!」
「よっしゃぁああ! ブチのめしてやんよ!」
マイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)と、馬上の鈴木 周(すずき・しゅう)。
この二人が共に戦う時、戦場では何かが起るという。
互いの身体を包むファイアプロテクトが、炎のように揺らめいている。意味があるのか疑わしい。
「いくぜぇえーーっ!」
同時に駆け出すマイトと周。
マイトはランスを携えて、アスカとルーツが凍らせた砂地とヘルハウンドを踏み台に、バーストダッシュで突撃する。当然だが、退くことなど全く考えていない。
しかし、すでにこれほどの頭数を倒しているにも関わらず、雲霞のごとく現れるヘルハウンドの群れがマイトを取り囲み、一斉に炎を吐いた。
「はん! ぬるいぜ、その炎!」
1対10ほどの状況でも、動揺などとは無縁である。
ナイトシールドで炎を防ぎつつ、そのまま手近な一頭に押し当て、吹き飛ばす。
と、背後から別のヘルハウンドが襲いかかる。
「――!」
そこへ風のように突進してくる周。
「くらえぇええっ!」
マイトに襲いかかろうとしていた魔獣を、馬上から三匹一度に横薙ぎで斬り抜けた。もんどりうって地面に叩きつけられるヘルハウンド。
「おらぁああ! マイト、貸しひとつだぜ!」
その言葉が終わらないうちに、マイトの槍が周の背後のヘルハウンドを貫いている。
「!?」
「ヒャッハァ! これでチャラだな!」
「――くくく、あーっはっはっはっは!」
ひとしきり笑い合うと、二人はまた、思い思いの方角へ突撃を繰り返し、散々に暴れるのを繰り返し、戻ってきてはまた笑い合っていた。
悪夢。
敵にしてみればそれ以外の言葉はない。
「まさに、獅子奮迅でござるな」
マイトと周の燃えさかる戦いを眺めて、杉原 龍漸(すぎはら・りゅうぜん)は嘆息した。
二人のような移動手段を持たない彼は、ヘルハウンドの群れに対し一頭ずつ戦う他はない。
しかしまだ修行中とはいえ、その槍は確実に戦果を確実に積み上げている。
それでも、足を取られる砂の中で戦い続けるのはきつい。
気がつくと、いつの間にか二頭に挟まれつつあった。
「っ、不覚!」
龍漸の首筋に冷たい汗が流れた。
息を合わせたヘルハウンドが、前と後ろから同時に飛びかかってくる。
「南無三――」
「死ぬには早いですよ」
龍漸が、声の主、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)に気付いた時は、二頭の魔獣は互いにぶつかって倒れているところだった。
小次郎は飛行翼で滑空し、背後から龍漸をすくい上げたのである。
「か、かたじけない」
二人は、離れた場所にふわりと着地する。
「礼には及びません――まだ」
小次郎が、精悍な顔を向けた先。
そこには、馬ほどもある個体がこちらを凝視していた。
目が赤く光り、呼吸が荒い。
怒りに満ちているのが明らかだった。
「所詮は獣。奴を倒せば、この犬どもは総崩れになるでしょう」
飄々と言ってのける。
「龍漸殿、手伝っていただけますか?」
「一度救われたこの身命。断る道理はござらぬ」
「では」
それを合図に、二人は巨大な魔獣に挑みかかった。
向こうも、砂塵を蹴り上げて相対する。
巨大な爪が、まるで空から降ってくるように、小次郎に襲いかかる。
と、小次郎は砂面すれすれを、まるで滑るようにかわす。
飛行翼の応用だ。
背丈ほどもあるような大剣を担いでいるくせに、微塵もそれを感じさせない。
龍漸が、相手を挟み込むように移動し、ヘルハウンドの気を後ろにそらす。
瞬間、魔獣の胴体が空いた。
小次郎はその隙を見逃さない。
「――迅雷斬」
稲妻をまとったトライアンフが、前脚の根元、関節の下に食い込む。
激痛と麻痺を同時に味わい、ヘルハウンドはその一瞬、完全に動きを止めた。
「っせいやぁああ!」
直後。
寸分の狂い無く、龍漸の槍が急所に突き立つ。
断末魔の声を上げて倒れる、巨大な魔獣。
それを聞いた残りのヘルハウンドは、途端に、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
魔獣部隊は、ここに壊滅したと言って良かった。
「っ、はぁ、はぁ――」
龍漸の足の疲労はとっくに限界に来ており、その場にがっくり膝をついた。
「面目ない」
側で小次郎が笑顔を見せた。
「龍漸殿、お見事でした。少し休んで参りましょう」
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