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賢者の贈り物

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賢者の贈り物

リアクション

 
 
 意識が、少しずつ浮上する。
 暖かい。
 この気配を、憶えている。
 もーりおんは、弱々しく目を開けた。
「もーりおん!」
 目が覚めたのに気付いて、エースが呼びかける。
 この人は。
「……あなた、だ」
 この地に、種を蒔いてくれた人。

 「――?」
 異変を感じて、周囲を見渡した。
 荒涼とした大地の所々に、緑の芽が吹き出している。
 それらは、あっという間に成長し、蕾を作り、開いて、花を咲かせる。
 満開の花畑が広がった。
「何が起きてる……?」
 やがて花はしぼみ、花びらが散って、残された草も枯れていく。
 あっという間だった。
「……種が」
 かるせんが呟いた。
「今迄、止まってた種の時間が、動いた」
 はたとエースが気がつけば、もーりおんが再び意識を失っている。
「眠っただけだ、大丈夫」
 慌てる彼等に、かるせんが安心させた。


「……大丈夫? キュー」
「……早く回復してくれ……」
 巻き添えを受けまくって倒れ伏すキューに、リカインが声をかける。
「大丈夫そうね」
 リカインは、くすくす笑った。
「よかった――」


 かるせんによる聖水の雨は、丸1日降り注ぎ、それで力を使い果たしたのか、かるせんも倒れてしまって呼雪達を慌てさせた。
 だが、酷い疲労だけで、他に問題はなさそうなので安堵する。

 雨が止む頃に、力尽きたように眠りについていたもーりおんも、弱々しくあるが再び目覚めた。
「花、折角咲いたのに、枯れちゃったね……」
 聖地を見渡して、残念そうにクマラが言う。
「また新しい種や球根を沢山持ってきましたから。
 またここから育って行けばいいですよ」
 エースのパートナー、剣の花嫁のエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が慰めるように言う。
「あれは、ずっと抑えていたものが、一気に全部弾けただけで、無くなったわけじゃない」
 かるせんは言った。
「花は、枯れる前に、種をつける。次は、その種が芽吹く」
「……そっか!」
 よかった、と、クマラは嬉しそうに笑う。
「じゃあまた花が咲くね!」
 うん、とかるせんは頷いた。
「皆が種を助ける土にしてくれたし、女王も復活したし、その加護も受けて、きっとこの土地もこれから、緑豊かになっていく……」
 その言葉を聞きながら、もーりおんは、未だ現実感が伴わないような様子で、ぼんやりと周囲を見つめている。
「……もう、大丈夫だ。
 俺達が、ずっと、護っていくからね」
 もーりおんの頭を撫でて、エースが言った。
「俺、モーリオンの新しい『守り人』になれないかな?」
 もーりおんは、驚いて目を見開く。
「そうすれば、いつも一緒にいてあげられるね!」
 名案だとクマラも目を輝かせた。
 もーりおんの目が、戸惑うように揺れる。
「駄目だよ」
と言ったのは、かるせんだった。
「『守り人』になったら、一生、この土地から出られない。
 受け入れちゃ駄目だ、もーりおん。
 この人達は、自由に彷徨する魂を持ってる。キミも、解ってるだろ?」
 言われて、もーりおんは黙って俯く。
 解ってはいたが、その言葉はとても嬉しくて、抗い難いほどだったのだ。
「もーりおん……」
 思わぬところからの却下に、エースの方も戸惑う。
「あり、がとう」
 受け入れることはできないが、モーリオンは呟くように礼を言った。



 種は一気に芽吹いて花開き、そして枯れたが、それは今迄抑止していたものが一気に放出されたもので、消滅したわけではない。
 新たに作り出された種が、また次の花を咲かせる為に、今度こそ、普通に成長していくのだ。
「ここが花でいっぱいになったら、アズライアも喜んでくれるかな……」
 そこはまだ、相変わらず荒涼とはしていたが、それまでとは明らかに、漂う空気が違うと思う。
「うん、きっと」
 小鳥遊美羽の呟きに、コハクは頷いた。
 ここはコハクにとって、悲しい思い出のある場所だが、数多の経験を経て、成長した今、ただ悲しみに捕らわれるだけの場所ではなくなっていた。
 この地は、敬愛するアズライアの眠る、懐かしい場所だった。
「また、芽が出た頃に、みんなで見に来ようよ!」
 美羽の提案に、コハクも頷く。
「楽しみだ。……美羽」
「ん、何?」
「ありがとう」
 その一言に様々な思いを込めて、コハクは言った。



◇ ◇ ◇



 シャンバラ大荒野に、温泉神殿と呼ばれる温泉宿がある。
「今日も今日とて、温泉の管理ですわ〜」
 鼻歌を歌いながら、猫型ゆる族、キャンティ・シャノワール(きゃんてぃ・しゃのわーる)が掃除に励む。
「お嬢様、お茶が入りましたが、少し休憩にされませんか?」
 聖・レッドヘリング(ひじり・れっどへりんぐ)が声を掛けると、はあい、とキャンティは手を止めた。
「お風呂洗いでクタクタですぅ。
 ひじりん、ミルクティーにお砂糖をたっぷりでお願いしますわ〜」
「勿論、そのようにしてございます」
 和室のコタツに入り込んで、キャンティはにこりと笑う。
 ミルクティーを一口飲んで、はふ、と幸せそうに息を吐いた。
「それにしても、折角新年なんですし〜。
 この温泉にも新しい呼び物が欲しいですわねぇ。
 何か良いアイデアは無いかしらん?」
「そうでございますね……」
 温泉に客を呼び込む目玉企画が欲しい。
 キャンティの言葉に、聖も考える。
「ここは国家神を奉る神殿ですし〜。
 女王様のお力が大地に復活しているのですし、年末年始を温泉神殿で過ごそう企画を毎年続けて名物にすれば、お客様も増えるかもしれませんわね〜」
 うんうん、と頷く。
 ふと、聖は立ち上がった。
「どうしました〜?」
「お客様のようですよ」

「こんなところに、温泉が?」
「ボク、前にここ来たことあるよ、ねっ、コユキ!」
「何にせよ、一風呂浴びて疲れを取ろうぜ」
「もーりおんもかるせんも一緒に温泉に入ろう!」
 どやどやと、施設内に入って来る大勢の気配と話し声。キャンティも素早く立ち上がった。

「いらっしゃいませ、あけましておめでとうなのですわ〜!」





 賑やかで騒々しい中、着信音が鳴って、早川呼雪と鬼院尋人は、それぞれ携帯を開いてみる。
 短い、一言だけのメール。
 けれどふと気を和まされ、ほっと笑みが浮かんだ。

 ――明けましておめでとう。


「天音。どうした?」
「ん? ちょっと、年始の挨拶」
 すぐさまに返って来た返信を見て、黒崎天音も微笑んだ。







introduce of Non Player Character

■サルファ(年齢不詳)「世界を再起する方法」
 鏖殺寺院メンバー。神子を抹殺すべく刺客として行動していた。

■都築少佐(35)「国境の防衛戦」
 教導団より派遣されていた、砦の責任者。お酒好き。

■イネス・ソルダード(17)「世界を滅ぼす方法」他
 聖地ブルーレースに住んでいたヴァルキリー。守り人インカローズ(故)を敬愛している。

■ハルカ・エドワーズ(13)「世界を滅ぼす方法」他
 パートナーロストで、単独でパラミタにいる。オリヴィエ宅に居候中。

■ヨシュア・マーブルリング(22)「世界を再起する方法」他
 心優しい、オリヴィエ博士の助手。

■ラウル・オリヴィエ(36)「世界を滅ぼす方法」他
 ゴーレム技師。呑気者。

■サニディン・ハックマン(48)「世界を滅ぼす方法」他
 空京在住の魔法医師。

■ヘリオドール・エヴスリン(11)「世界を滅ぼす方法」他
 聖地クリソプレイスの守り人だった。ハックマン医師のところに居候中。機晶姫。

■トオル・ノヴァンブル(18)「遙か大空の彼方」
 イルミンスール学生。単純お馬鹿さん。

■磯城・グレイウルフ(22)「遙か大空の彼方」
 トオルのパートナー。

■フェイ・ハウリングスペル(14)「遙か大空の彼方」
 契約者ではないシャンバラ人の少女。

■アレキサンドライト・シルウェステル(30)「世界を滅ぼす方法」他
 女らしい名前だが精悍な男性。守護天使。聖地カルセンティンの守り人。

■かるせん(年齢不詳)
 聖地カルセンティンの地祇。

■もーりおん(年齢不詳)
 聖地モーリオンの地祇。


担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

 あけましておめでとうございます。
 当シナリオへのご参加ありがとうございました。
 新年初シナリオ、楽しく書きすぎて、イベントシナリオとは思えない文章量になってしまいましたが、こいつ浮かれてやがるな、と生暖かい目で見てやってくださると幸いです。

 皆様が、今年も楽しく冒険できますように!