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廃墟の子供たち

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廃墟の子供たち

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6追われる理由



 「なんだか剣呑な雰囲気だな。大量のエリュシオンのイコン?随分殺気だってるな、なんだろ、これ」
 廃墟に物資を運んできたテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は、飛び立つエリュシオンのイコンと廃墟を守るように飛び出した様々なイコンを見て驚きの声をあげる。
 テノーリオが乗ってきたのは大型トラック、レオノーレだ。
 敷地内に入ったテノーリオは、中が既に戦闘態勢であることを知った。
「いるの、鏖殺寺院のメンバーかよ!? なんだってガキンチョたちの住処になんか逃げ込んだんだ?」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、早速内部に探りを入れる。魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)



 イナ・インバース(いな・いんばーす)は、遺跡内の子ども達とおにぎりを握っている。
「腹が減っては戦は出来ぬです」
 そこにモロゾフが運び込まれてくる。
 重症だ。
「大丈夫ですか?」
 医学、薬学のほかに、応急手当、サバイバル、要人看護も学んでいるイナが常に行っているのは、
「怪我人に国境があっては成らないのよぉ〜」
 ということだ。
 モロゾフは左肩に重傷を負っている。
「ミナ、手伝って。消毒が必要なの」
 ミナ・インバース(みな・いんばーす)は、琴音の祈りを持ってきている。
「これ、お酒だし、酔っ払うと…困るけど…命に関わるし!」
 ミナは、御藝神社特製のお酒である、琴音の祈りをモロゾフに振りかけた。
 懸命の治療をするイナとミナ。
 モロゾフの頬が少し赤く染まってる。
「こんだけ出血して赤いなんて…酔っ払ったのかな、やっぱり」
 ミナは、実は、少しモロゾフの口にお酒が入ってしまったのを知っている。
「かも…」
「なぜ、オレだけ…なぜオレだけ生き延びる…」
 モロゾフが突然、うめき出した。
「殺してくれ…許してくれ…」
「モロゾフさん、大丈夫!!気をしっかり!」
「モロゾフさん、死んでいい命なんてない、生き残った人は行きぬかなくちゃ!!」
 イナとミナは懸命にモロゾフを励ます。
 再び、気を失うモロゾフ。
 治療をしながら、
「何か、よっぽどのことがあったんだね」
 イナはモロゾフの全身の古傷をみて呟いた。
 モロゾフのもとに、強化人間のゴンチャロフがやってくる。
「何で自分だけで出かけた!なぜ、オレを連れて行かない!一人で死ぬのは卑怯だ!」
 ゴンチャロフの目は赤く光っている。



 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、狼煙が上がったと聞き、レイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)と共に廃墟に来た。
「たった3機の鏖殺寺院残党を追いかけるにしては、随分な布陣や。なんかお宝でも持ってるんかいな?」
 エリュシオンから膨大な援軍が向かっているとの情報を聞いて、泰輔は訝しがる。
「この孤児院のある廃墟には、なんでエリュシオンの連中は入ってこんのか。単に、イコン戦闘するには狭いから、か?古王国について、僕らの知らん事も多すぎるな…」
 フランツは、修理等に必要そうな物資を顕仁に見繕って貰い、トラックの満載して持って来た。
 顕仁は、鏖殺寺院のイコン修理と聞いて、内心、心が浮き立っている。機工士の端くれとして、修理に興味が或るのだ。
 一度修理したジョーンズたちのイコンだが、今の戦いで集中的に砲弾を浴びたために、多くの機能が失われている。再度の攻撃は必ずある。
 レイチェルは、傷だらけの始めてみる鏖殺寺院に興味を示しながらも、顕仁が揃える修理道具の手伝いをもくもくとしていた。
 



 赤羽 美央(あかばね・みお)は、ジョーンズと対峙していた。事前にナガンから情報を得ている。
「ナガンが聞いてみっか」
 手厚く保護しているジョーンズらが、「何か」を隠し持っていると聞いて、ナガンの声は怒りに満ちていた。
「子どもの命より大切なもんか、聞いてやる」
 美央が制する。
「まず、私に任せて」
 今にもジョーンズに襲い掛かりそうな、ナガンをなだめて、美央はジョーンズを誰もいない食堂に呼び出した。
 胸にした雪のお守りを握り締める美央。
「実は不思議に思っていたことが…」
 美央はしっかりとジョーンズを見据えて話し出す。
「反シャンバラ勢力である鏖殺寺院残党をエリュシオンの龍騎士団が追っているとなると……ちょっと変です、それもかなりの手間と労力をかけて」
「それは我々も感じてます。雑魚ですよ、我々は。それほど憎いのでしょう、鏖殺寺院が」
 ジョーンズは自嘲気味に笑う。
 美央は、じっとジョーンズの言葉を待っている。
 時計の音が響き、時折、外から子ども達の笑い声が聞こえてくる。
「騙せねーな、もう」
 ジョーンズの言葉が崩れた。
「戦闘中に偶然遺跡でこれを見つけた」
 胸元に手を入れるジョーンズ、引き出した手の中には鈍く光る鉱物が握られていた。
「やつらが探してるのはこれだよ。投げ捨てれば奴らは追ってこなかったかもしれない。だがな、俺の部隊は60名編成だったんだ、それが今は6人だ、意地でも渡せなかった…気にするな、俺達をエリュシオンに渡せば、戦闘は終わる」



 事情を聞きジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は、バルバロイを駆って双方を交渉のテーブルにつける為に奔走していた。
 まず彼が向かったのは、廃墟に立てこもるパラ実生のもとだ。サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)と共にやってきたボゴルは、着くなり休む間もなく、持論を話し出す。
「パラ実はエリュシオン国立の学校だ。当然立場的には帝国側になるのを忘れたのか。鏖殺寺院の残党を引き渡せ。俺がエリュシオンに連れていき、戦闘を終わらせる」
「できねぇ」
 最初に異論を唱えたのは、弁天屋菊だ。
「子ども達が悲しむ」
 泉椿は、ボゴルに飛び掛りそうな勢いだ。
「いや、考えてもいい」
 ナガンが言い放った。
「そうか、そうだよな、お前は分かってくれると思った」
 ボゴルは上機嫌だ。
「ただし…」
 ナガンは条件をつけた。
 あいつらの命は残してくれ。
 ボコルはその条件を持って、バルバロイに搭乗し、エリュシオン側へと向かう。



 そのころ、サルガタナスは、残党6名の中で一番血の気の多そうな、それでいて心に闇を持つロシア人、モロゾフに近づいていた。
「少年兵にでもするつもり?」
 大怪我をしたモロゾフは腕を添え木で固定している。その腕を押すように耳元に口を寄せるサルガタナス。
「何のことだ?」
 苦痛をこらえ、モロゾフは答える。
 二人は、ピクニックの用意をしている子ども達をみている。
 メイベルは、子ども達には、ここを捨てて出るとはいえず、暫く山にあそびに行こう、と提案していた。
「あの子らを懐かせて、攫っていくのかしら。あなたたちはいずれ残党同士集まり、テロを行うのでしょう。そうなれば、あの子達はテロを行う尖兵の少年兵としてうってつけ」
「そんな馬鹿げたことは考えてねえ」
「あなたが考えなくても誰かが考えるわ。寺院と繋がるってことはそういうことよ」
「…」
 モロゾフは黙っている。
「投降すれば、子どもに危害はなくなるわ」


 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)は、ジョーンズ達がエリュシオン側に引き渡されると思い込んでいた。
「待て。その者の処遇は其方が決めるものではない。この孤児院の子らが決める事ぞ」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)を相手に熱弁をふるう。イングランド女王エリザベス?世の本霊であるライザは、もし彼らが引き渡されるのなら、剣を交える覚悟でいる。
「待てよ、ライザ」
 突然、大きな声がした。
 王大鋸だ。
「すまねぇ、少し到着が遅れたな」
 共に来たベアトリーチェ・アイブリンガーは既に、大鋸と共に集めてきた情報を皆に知らせている。
「鏖殺寺院兵士の落ち延び先も探している奴もいる、引渡ししねーだろ」



 大鋸が言っているのは三郎のことだ。
 甲賀一族の忍び甲賀 三郎(こうが・さぶろう)は、鏖殺寺院の残党とは根を元にする教義を持っている。廃墟内の状況を聞き、三郎はジョーンズらの潜伏先を探していた。
「木は森に隠せ」
 三郎が今いるのは、西シャンバラ王国の首都、空京だ。
「荒野をうろついていたんじゃ、残党だって名乗ってるようなもんだ」
 今、三郎が探しているのは、ノルウェー人のイングヴァルのための仮住まいだ。
「子どもがいるんじゃ、国に戻りたいんだろう」
 既にパイロットたちの情報は得ている。
 高坂 甚九郎(こうさか・じんくろう)は、軍用犬のパトラッシュを使い、三郎が当たりをつけた地域を見回っている。密偵や裏切りの匂いがしないかを。



 メフィス・デーヴィー(めふぃす・でーびー)は、夜の街をうろついている。ここの住人はよそ者に優しい。
「鏖殺寺院を離れても、闇の匂いは消えないでしょう」
 夜の世界はいかがわしさも魅力となる。
 三郎は、イングヴァルの仮住まいを夜の街に見つける。

 三郎は、ロシア人のモロゾフの仮住まいを探しに葦原島に移動する。
「もう彼らは顔を合わせることもないのだな」
「勝負に負けてたものは、ずるずる落ちてゆくだけ…こんな手厚い保護を受けられるのは悪魔のしわざではないです」
 種族悪魔のメフィスは、三郎に問う。
「彼らは生き延びても、ずるずると落ちてゆくだけ…その手伝いをするのは、粋なのでしょうか」
「人の先はわからない、我らがするのは、孤児を守るために、彼らを生かすことだ」


 三郎の奮闘をしる大鋸は腕組をしたまま低く声をあげる。
「いろんな奴がいろんな画策をしている。どこが表でどこが裏かわかんねぇー奴らだ、信用できねーのは分かる。だあな、ライザ、ここにいるパラ実生は仁義で生きてんだ、頼ってきた奴を見殺しにはしない」



 誰を信用していいのか分からない、だからこそ。
 ローザマリアは動いていた。
 密かにパイロット6人と接触し血糊と弾力のあるボール、手紙を渡している。末文には、読み終えた後に焼却するよう強く書かれていたその内容とは――6人をエリュシオンの前で射殺するというものだった。勿論、裏がある。
「少し、話がしたいんだ」
 ローザマリアが6人に渡した接触し血糊と弾力のあるボールが今、黒崎天音の手の中にある。
「同じようなことを考えていてね」
「ナガンもだ」
 ひょい、とナガンが顔を出す。
「知恵比べだな」
 大鋸が笑いながらやってきた。
「ここで秘密の話は無理だ、小さな密偵いるからな!」
 大鋸の大きな身体の後ろからレッテが顔を出す。
「バラバラに動いちゃ、うまくいくもんも駄目になる。ここは一致団結だろ!じゃいこうか」
「どこに?」
「ついて来いよ」

 レッテは向かったのは、大久保泰輔がレイチェル、フランツ、顕仁と共に機体を修理している場所だ。
「同じことを考えてるんだ!」
 レッテは泰輔を大鋸の前に引っ張ってきた。