リアクション
○ ○ ○ 「うぅぅう、いてぇよ……」 「アイツ、ら……許さねぇ……」 「痛くて当然だ。こンだけ怪我してりゃぁな」 分校のホールに寝かされている怪我人――恐竜騎士に挑んだ分校生達を、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は診てあげていた。 ラルクは医大生。 医者の卵として、治療を行っていく。 「何でもかんでも魔法で治しちまったらいいってわけじゃないからな。異物は取り除いとかねぇとなんねぇし、骨が折れてんなら、正常に形にくっつけねぇとな!」 「いってぇぇぇ……」 「早く治してくれよ……俺らも、カチコミ行くんだ、あそこまでナメられて黙ってられっかよ……」 「カチコミぃ!?」 ラルクは少年の骨折した足を、ぐいっと伸ばす。 「いってぇーーーー」 「元気なのはわかったがな、怪我人は黙って大人しくしてる! じゃねぇと沁みる薬塗りたくるぞ!」 「直ぐ治るんなら我慢するー……ううっ。やっぱギブギブギブ……」 傷口に薬を塗られながら、少年はうめき声を上げている。 「まあ、仇討ってやりてぇ気もするんだがな。ここにはダチもいるし」 ラルクはパラ実の卒業生だ。 呻く不良達の姿には懐かしさのようなものを感じる。 「流石にロイヤルガードがこの戦いに介入はできねぇしな」 「ロイヤルガード全員で、風紀委員の奴ら全部追い払うことできねぇのかよ」 「すまないなぁ」 人数が違いすぎる。 「追い出すよりは、乗っ取るくらいの気構えでいてくれ、現役パラ実生!」 治療を終えた少年の肩をぽんと叩く。 「私も今回は立場上自重ですぅ……。あ、包帯は任せてください〜」 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、少年達に近づいて包帯を巻き始める。 「私も同じですね」 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は、治療前の少年達の身体の汚れを落としてあげていた。 「ううっ、優しくしてくれよぉ」 「俺も、俺も」 「せめて死ぬ前に膝枕を……」 「お、お前ら……」 メイベルと小夜子に群がっていく怪我人達の姿にラルクは苦笑する。 「順番に巻きますぅ。頑張りましたねぇ」 優しい言葉をかけて、メイベルは一人一人に丁寧に包帯を巻いてあげる。 話を聞いて、彼らが奪われた物を取り返しに行きたいと考えたメイベルだけれど、メイベルは少し前に白百合団の班長になったばかり。万が一正体がバレたら、団や百合園に迷惑をかけてしまう可能性があるからと、自重することにした。 「毒の治療をいたしますね。安静にしていてください」 小夜子は清浄化で、気分の悪そうな分校生を癒す。 「あまり無理をしないように……。死んじゃったら意味が無いですからね」 そう優しく声をかけると。 「キミがそういうのなら、考えてみる〜」 「デートしてくれるのなら、報復思いとどまるかも」 などと言いながら、彼らもすり寄ってきた。 「……元気がおありのようで、よかったというべきでしょうか」 小夜子は苦笑する。 小夜子もまた工房の解放に力を貸したい気持ちもあったけれど……。 白百合団の特殊班員であることからも、メイベルと同じように自重をした。 「はーい、膝枕どうぞぉ」 手当を終えて横たわっている分校生の膝に、メイベルは包帯を巻き終えた分校生の頭を乗せてみたり。 「いや、こんな固い枕いらねぇ!」 「固いですかぁ。よく鍛えてるんですねぇ。遊んでばかりではない証拠ですぅ」 メイベルは微笑みながら、次の手当てを終えた少年に包帯を巻きはじめる。 「簡単な食事、作って来たよー。食べられるかな?」 その皆が集まるホールに、台車を引いてセシリア・ライト(せしりあ・らいと)が顔を出した。 セシリアが作ってきたのは、焼きたてのパンと温かいスープ。そして農家の人から頂いた、採れたての野菜盛りだくさんなサラダ。 その他に、煮物と焼き魚。 豪華ではないけれど、手作りの温かさが感じられる料理だった。 「テーブル用意すっかー」 怪我をした仲間の傍で、愚痴をこぼしていた分校生達が、部屋の隅に立てかけてあったテーブルと、椅子を用意していく。 「力をつけておきませんとね。ここで争いなんて起きてはほしくありませんけれど……」 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、ふわりとテーブルクロスを広げて、テーブルに敷き、セシリアと一緒に料理を並べていく。 少しずつ、少しずつ和やかになっていくホールだけれど。 中には悔しさから抜け出していこうとする者もいて……。 「番長にだけ任しては置けないぜ。やっぱり分校として殴り込みに行くべきなんだ……っ」 「待ってください」 皆に注意を払っていた小夜子が近づく。 「ここで、待ちましょう? きっと良い形で、解決しますわ」 「……や、だ。待ってられねぇ!」 走り出す少年に。 「ごめんなさい」 そう小さく声をかけて。小夜子はヒプノシスで眠らせた。 目を覚ました時には、きっと解決している。 元気な仲間の姿をみたら、落ち着けるはずだから。 「休んでいてくださいね」 小夜子は彼を抱えて運び、マットの上にそっと寝かせてあげた。 「お水を持ってきました」 バケツを持って現れたのは九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)。 分校の一員となることを希望し、手当を手伝っている女性だ。 「うぉぉぉぉ、痛いぜー」 「うううっ、背中が背中がー」 途端、分校生達が苦しみだす。 「大変、すぐに治療いたします」 言って、ジェライザが駆け寄ったのは、苦しみだした分校生ではなく。 ラルクの治療を待っている重傷者だった。 「ジェライザさーん、そいつの治療おわったら、オレの怪我見てくれよな 「その後でいいっ、オレの背中掻いてくれー!」 分校生達から次々に看護を望む声が上がっていく。 ジェライザは既に、アイドルのような存在になっていた。 「元気になってくれてよかった」 そんな分校生達の様子に、ジェライザは淡い笑みを浮かべる。 ここに到着した当時は、お通夜のようだったから。 本当に、命に関わりそうなほどの怪我をしている少年もいた。 直ぐに蘇生術、治療で処置したお蔭で、大事には至らなかったけれど。 (騎士団か……許せないな、物を強奪するって事は勿論だけど、酷い傷を負わせる必要は無いでしょ? 命を落としそうになった人までいるし……) ラルクの治療を受けている重傷者を見ながらジェライザは考える。 でも、自分にも殴り込みが行えるほどの戦力はないから。 「私はかち込めるような戦力にはなれないけど、怪我を負ったらいつでも言ってくださいね」 そう言葉を掛けると、無駄に怪我をしようとする分校生まで現れる。 「自傷行為はダメですよ……」 そう言った後、ジェライザは気付く。 ストレスから、自分を傷つけたり、わざと大げさに明るく振る舞って、怒りを抑えようとしている分校生もいるのだということに。 技能は……怪我を治すものしかないけれど。 「私も一緒に食事いただこうかしら。皆さんもどうですか?」 そう分校生に微笑みかけると、彼女の隣に座るために我先に分校生達がジェライザの元に駆け寄ってくる。 「となりに座れるのは2人だけだよーっ」 セシリアは笑いながら、テーブルに食器を並べている。 「また怪我をしてしまわないでくださいね」 フィリッパもくすりと笑みを浮かべる。 「早く戻ってくるといいですねぇ……。大けがをする人、いないといいんですか」 メイベルも一旦、席に着いた。 「どうぞどうぞ〜」 分校生の一人が、ジュースを女の子達に注いで回っている。 「男子の分は、わたくしがお注ぎいたしますわ」 「ありがとー」 セシリアからビールに入ったオレンジジュースや、ウーロン茶を受け取って、フィリッパが皆のグラスへと注いでいく。 「食べられそうなものがあったら、食べてくださいね。体調がすぐれないようでしたら、お持ちいたしますよ?」 ジェライザは顔色のあまり良くない分校生に近づいて、そう問いかけた。 「んー。大丈夫。腹はなんかいっぱいってカンジ」 「では、飲み物だけお持ちしますね」 ジェライザはアイスティーをセシリアから受け取って、その分校生に渡して。 他にも壁の花のように壁にへばりついている分校生に自ら近づいて、声をかけて。 必要ならば、魔法でいやしていくのだった。 「食事を食べて気分転換しよ?」 セシリアは、体調に問題はなさそうだけれど、不機嫌そうな分校生に近づいてテーブルへと誘っている。 「僕も、みんなの想いが叶って、上手くいくことを望んでいるよ」 セシリアのそんな言葉に頷いて、ジュースだけを受け取った分校生は「サンキュ」と発して、壁の方へと下がっていく。 「……照れてる、のかな。ふふ、心の中でツンデレ君と呼ぼう」 そんなことをちらりと思いながら、セシリアは皆の世話に勤しみ――。 笑顔を振りまいて、皆の笑顔を誘っていく。 「いただきます」 「いただき〜」 「まーす」 バラバラだったが、それぞれ掛け声があがって、本当にささやかな昼食会が開始される。 女の子達にべたべたしようとする困った彼らだけれど。 話題の中心は工房に向かった仲間達と、彼らの総長である神楽崎優子のことだった。 |
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