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紅蓮のコウセキ

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紅蓮のコウセキ

リアクション

「っと、こっちに来んなよ。外に運び出すのは面倒だしな!」
 腹を空かせた獣が複数、ブラヌ達とは別の場所で採掘に勤しんでいる分校生と、契約者の元に現れる。
 レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が即、スタンクラッシュで全体攻撃。
 攻撃を受けた獣のほとんどがその一撃の攻撃で、畏怖を受け、もしくは敵わない相手と感じ取り、逃げ去っていく。
「残りの獣さんも、帰ってくださいね」
「邪魔する奴は、岩盤と一緒に破壊しちまうぞー」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、光術で目くらまし。
 雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が、スコップをべちんべちんと叩きつけて、残りの獣を追い払っていく。
「獣が出る度に避難しなくてよくて、ホント助かるぜ〜」
 若葉分校生達は契約者達に感謝をしながら、つるはしやスコップで、掘り進めていく。
「道具貸してくれるか? 俺も手伝うぜ」
「頼む〜。悔しいけど、俺らの力じゃ効率悪いんだよな」
「ま、俺のことも道具の一部とでも思って、使ってくれればいいし」
 そんなふうに笑みを見せるレイディスに分校生達も軽く笑みを見せて。
「誘ってくれてありがとな。こうしてると、気晴らしにもなるし」
「この岩盤を奴らだと思うことにするぜ!」
 がつんがつんと分校生達は道具を振り下ろしていく。
 彼らはブラヌ達とは別に、レイディスに誘われて、ここを訪れた若葉分校生だ。
「俺らの目的は、皆の分だ。頑張ろうな!」
 レイディスの言葉に、分校生達が「おー!」と声を上げて、気合を入れていく。
「それにしても、恐竜騎士団もひどいことをしますね……。話を聞く限り、残念ですけれど、奪われた物が取り返せるとは限りません。もう選帝神バージェスに献上されてしまったかもしれません、し。ですから、材料今度は予備も含めて確保しておきませんとね」
 ソアの優しい言葉にも、分校生達は「ああ」と頷いて。
「っと、危ないから下がってろよ〜。熊の方は手伝え」
 飛び散った石で怪我をしないようにと、ソアを下がらせて、ベアに協力を求める。
「手強そうな岩盤だな。手伝ってやるぜ」
 ベアはスコップ、ライトつきヘルメット、リュックサックと、しっかり発掘の準備を整えてきていた。
 壊れるほど強くスコップを叩きつけて、岩盤を砕いていく。
「無茶しすぎないでくださいね。崩れたら大変ですから」
 ソアはそう声をかけて、分校生数人と共に後方で小さな石を砕いて、目的の鉱石が入っていないか確認していく。
「そういえば、春の引っ越しでも若葉分校の人達が来ていましたよね。優子さんに信頼されてるんですねっ」
「……そ、そりゃもちろん」
「あの時は、どこで何をしていたんですか?」
「え……っ!?」
 ソアの純粋な言葉に、何故か分校生達は焦り気味。
 顔を見合わせた後、目を泳がす。
「く、クリーン作業だよ! 皆が道を通行しやすいようにな」
「そうそう、総長が歩かれる道に石ころなんて落ちていたら大変だろ。俺らは地道にそういうのを除去していたってわけ」
「そうなんですか。素晴らしいお考えです。優子さんだけではなく、街の皆さんのお役にも立っていたなんて。私も見習わなければっ」
「そ、そうだな。ソアちゃんもガンバレよ、ははははは……………」
 ソアの更なる純粋な言葉に、分校生達は何ともいえない笑みを浮かべる。
「で、お前らは優子へは何を贈るつもりなんだ……っ!」
 壁を砕きながら、ベアが一緒に作業をしている分校生に尋ねた。
「なんだろ? ブラヌ達が作ったものが何だったのかも、聞いてねぇんだよな」
「できれば、肌に直接つけるものがいいよな。下着とか」
「防弾キャミソールとかどうよ? 胸パットの代わりに鉱石組み込むんだ」
「あー、そういうのがいいかもな!」
 冗談交じりの会話に、笑みが溢れる。
「それは良案だ。お前らの想いが、優子の胸を護るというわけだなっ!」
 ベアは納得してうんうんと頷く。
「……本当にそれでいいんだろうか」
 レイディスは少し不安に。優子に激怒されそうな、そんな気もしてならない。
「直接つけるものもいいかもしれないが、携帯ストラップとかもいいかもな」
「ストラップかー。確かにな。アクセサリーとかはあまりしなそうだし」
 ベアの提案に、今度は分校生達が頷いていく。
「俺もそれ賛成! というかさ、皆の分も作ろうぜ。皆で繋がってるカンジでよくないか?」
 レイディスがそう言うと、分校生達から「それいい!」と賛成の声が次々に上がっていく。
「とはいえ、金もないし、若葉分校ではまだ携帯電話使えないしな、そのあたりのことも、おいおい相談していこうなー!」
 つるはしを持った分校生がそう言い、その場にいる全員が賛成の声を上げる。
「ま、皆の分の加工代は俺の財布から引いてもらうさー。言いだしっぺだしな」
「さすが太っ腹ー!」
「よっ、いい男!」
「作ろうぜ、ストラップ!」
 レイディスの言葉に、分校生達がレイディスやベアを小突いたり、ぺちぺち叩いて喜びを表していく。
「男の子同士、楽しそうです」
 ソアは彼らに交わらなかったけれど、少し離れた位置で皆を見守りながら、一緒に作業していた分校生達と微笑み合った。

「重いです。でも、絶対手に入れます!」
 キマクの工房で鉱石の噂を聞いた次百 姫星(つぐもも・きらら)も、この廃坑を訪れていた。
「輝く紅蓮の鉱石。それで作ったアクセサリー……憧れます〜!」
 工房に鉱石は残っていないけれど、持ち込めば加工をしてもらえるということで、大張り切りだった。
「もうひと頑張り、ふた頑張り〜♪ アクセサリーのためならえんやこ〜らえんやこ〜ら♪」
「石一つの為に、頑張るねぇ」
 歌を歌って、テンションを上げていく姫星の姿に、苦笑しつつパートナーの鬼道 真姫(きどう・まき)も、つるはしを振り下ろしていく。
 真姫は特に鉱石に興味はなかったけれど、一人で行かせるのは危険と感じたため、手伝うためについてきた。
「闇雲に掘ってもしょうがない気もするけど、沢山取れるんなら、廃坑になんかなってないだろうしなー」
 掘っても掘っても普通の岩しか見えない。
「というわけで、姫星、採掘頑張りな。あたしは辺りを警戒しておくとするよ」
 言って直ぐに、採掘の手伝いはやめて、真姫は辺りの警戒という名の休憩に入る。
「あかいあか〜い鉱石ちらり〜♪ 出ておいでぇ出ておいでぇ〜♪」
 姫星の方は、歌を歌いながらガツンガツンつるはしを振りおろし、鉱石を探し続けている。
「トレジャーハンターミューレリア、参上だぜっ!」
 そんな中に、つるはしを担いだ少女、ミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)が元気に飛び込んで来る。
「ん? あなたも紅蓮の鉱石が目的ですか?」
 汗をぬぐいつつ、姫星がミューレリアに尋ねる。
「いや、噂のその鉱石にも興味あるけど、それじゃなくても何か綺麗な石でも手に入ればと思ってな!」
 そう答えて、ミューレリアはトレジャーセンスで辺りを探り、目星をつけていく。
「この辺りの岩が怪しいな。掘ってみようぜ!」
「了解です。絶対見つけますよー! あなたのセンス信じます!」
「おう、見つけようぜ! 気合なら負けないぜー! うぉりゃ〜!」
 姫星とミューレリアは意気投合して、リズムに乗るかのように、つるはしを振り下ろしていく」
 そうして二人が掘り進めていると……。
「そちら、獣が行きますー!」
 声が響くと同時に、豹のような獣が駆けてきた。
「っと、任せておきな。あたしの休け……じゃなかった、発掘の邪魔をする奴はとりあえず!」
 真姫は握りしめた拳を、飛び掛かって来た獣の顔に叩き込む。
「うわっ! すごい力です……」
 警戒を促した、声の主ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)の側まで、獣は吹っ飛んだ。
「これ以上の邪魔は許しませんよ?」
 にこりと微笑みながら、ルシェンは蒼き水晶の杖を獣の傍で振り上げる。
「フギャー、ギャン、ギャン」
 顔をつぶされた獣は、ルシェンの攻撃を避けながら出口の方へと走っていった。
「ふう……」
 杖をしまった後、ルシェンは真姫達の方へと歩み寄る。
「この辺り、採れますか? よろしければ、私も混ぜたください」
「大歓迎だぜ! この崩れた岩の中にさ、もしかしたら珍しい石が紛れてるかもしれないから、更に砕いてみてくれよ」
 ミューレリアが崩した岩を指差す。
 くるりと振り向いた姫星も、じっと真姫を見る。
「わかったわかった。あたしも手伝うよ」
 観念したかのように、真姫が言うと、姫星はにこっと笑みを見せる。
「真姫さん、頼りにしてますー。こちらも頑張りますよ!」
 えいっと、姫星はつるはしを壁に振りおろし、掘って掘って掘りまくっていく。
「ホント気合入ってるよな。2人は手に入れたら何に使う気なんだ?」
 ミューレリアも負けじとつるはしを振り下ろしながら聞いてみる。
「私はペンダントに加工してもらおうと思ってるんです。自分用ですー! えいっ!!」
 ドカッ。
 姫星の一撃で、岩がバラバラと崩れ落ちる。
「私も……ペンダント、にしようかなと思ってます。自分用じゃなくて……えっと、パートナーに贈ろうかと思いまして」
 ルシェンはピックハンマーで岩石を割りながら、答える。
 パートナーの榊 朝斗(さかき・あさと)は、今日はここに来ていない。
 以前彼から贈り物――月雫石のイヤリングを貰ってから、ちょうど1年になる。
 紅蓮の鉱石――持つ者に勇気と力を与えてくれるというその石の噂を聞いたルシェンは、朝斗にぴったりだと考えて、石を採りにここまで一人でやってきたのだ。
「喜んでくれるといいな!」
「ええ」
 渡したかったものを渡せなかった……バレンタインの時のことを思いだして、ルシェンは少し切なくなる。
 今度は絶対、素敵な贈り物を彼にするのだと、決意を固めていく。
「そう言うあなたの目的は?」
 今度はルシェンがミューレリアに尋ねてみる。
「大きな目的があったわけじゃなくて、楽しそうだから来たんだ。綺麗な原石が手に入ったら、恋人に同じくペンダントでも送ってやりたいぜっ」
 そう笑うミューレリアに、ルシェンは微笑みながら頷く。
「はい、こうして皆さんと一緒に探すことが出来て、とても楽しいです」
 姫星は相変わらず、楽しく歌を歌いながら、ミューレリアはすっごく元気にガンガン掘り進めている。
 そんな2人の様子に、ルシェンの胸も躍っていく。
「……おっ! 発見」
 最初に鉱石を見つけたのは、以外にも真姫だった。
 てきとーに、岩石を砕いていたところそれっぽい小さな石が出てきたのだ。
「ほんとですー! もっと大きいの掘りあてますよ♪ ビッグ、ビッグ、ビッグサイズ〜♪」
 石を見た姫星はさらにテンションを上げる。
「負けないぜー! この辺りと見た!!」
「この岩石あたり、怪しいかもしれませんっ」
 ミューレリアとルシェンも競うように探していくのだった。

「おまえら、鉱石は見つかったかーーーーー!?」
 若葉分校生がグループになって探索している場所に、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が突撃していく。
「まだ見つかってないー。ちくしょ〜っ」
 汗を流し、壁を崩したり、岩石を割って中を確認したり、彼らなりに一生懸命探しているが、そう簡単には手に入らない。
「そうか、でも気を落とすなよ。まだ時間はある。オレも手伝うからな!!」
 言って、ハイラルはスコップをガツーーーーンと壁に打ち付けて、固い岩を砕いた。
「異様にテンションが高いですね……」
 そんなパートナーの様子を不思議に思いながらも、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)は自分のペースを崩さない。
 周囲の状況に注意し、獣達が力のない者に近づかないよう警戒をして守りながら、壁や落ちた岩石を調べて、目的の鉱石を探していく。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ここかーーーーーーー! 出てきやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 洞窟の中に、ハイラルの雄叫びが響き渡り、レリウスは苦笑する。
「はりきりすぎて筋肉を痛めなければいいのですが」
「いけー!」
「そこだー!!」
「こっちも掘ってみてくれ〜っ!」
 分校生達のテンションも上がって行き、彼を応援しつつサポートしている。
「ところでよ、勿論見つけた場合は、おまえ達の分が優先だが、あまりの分でいいんだ、ほんのちょっと小さいのを1個くらい分けてもらうことは可能か?」
 突然、小声でハイラルは分校生に尋ねる。
「もちろんさ。俺達も見つけてもらったのが欲しいわけじゃなくて、自分達の手で見つけたいわけだし。協力して見つけるのなら、等分に決まってるだろ」
「そうか……ありがとな! お前らいいやつ!」
「いい奴なのはそっちじゃねぇか」
 ビシッベシッと、分校生とハイラルは叩き合う。
「……?」
 少し離れた場所で、レリウスは不思議そう目で彼らを見るが、深くは気にせず作業に戻っていく。
「そうと決まれば採掘しまくってやるぜええええええ!!」
 ガツン、ガツン、と岩を砕きながら、ハイラルは思う。
 レリウスは傭兵時代のドックタグをずっと着けている。
 そこにプレート1枚追加したっていいだろう。
(あいつ“アイゼンヴォルフ”なわけだし、プレートに狼掘って、目の所に鉱石嵌めてやろう)
 レリウスが、本当の意味でちゃんと生きていけるように、お守り代わりになってほしい。
 そう願い、彼に贈るプレートのデザインを想像しながら、ハイラルは掘り進めていく。
 ハイラルはなかなか器用でもあるので、想像通りに自身で加工ができるだろう。
「一体どうしたのでしょう……張り切り過ぎです。っと、この白い石もとっておきましょうか」
 テンションが高すぎるパートナーに疑問を感じながらも、レリウスは着実に岩石を砕いては鉱石を探し当てていた。

「分校生の方は心配いらないようだ。皆のお蔭で、元気も出てきたようだな」
 ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)は、タバコを吸いながら、レン・オズワルド(れん・おずわるど)にそう話しかけた。
 レンは「そうか」とだけ答えた。
 ピッケルとシャベルを手に、2人は皆から少し離れた場所で作業を行っていた。
「こんな場所で……いや、何でもない」
 タバコを吸うなと言おうとしたが、言葉を飲み込んでレンはスコップを壁に突き立てていく。
 ザミエルも、タバコをもみ消して、機晶爆弾を……いや、ピッケルを手に、目的の鉱石を探していく。
 殆ど何もしゃべらずに、レンは作業に勤しんでいる。
 だけれど、彼が何を考えているのか……ザミエルには言葉で聞かなくても解っていた。
“これから始まる戦い”
 その前に、渡しておきたいのだろう。
 ひとつの区切りとする為に、その死を言い訳にしない為に――。
 ガツン
 レンは叩きつけたスコップを抜いて。
 岩を落としていく。
 彼が鉱石を贈りたい相手の魂は、今はもうパラミタに存在しない。
 今はもう居ない人だが、その墓前に置くことは出来る。
 わずかに、レンは自嘲気味とも言える笑みを浮かべる。
(俺がこれから始める戦い。それは今まで以上に苛烈なものになるだろう)
 岩と壁を調査して、目的の物がないかどうか、調べ。
 再び、スコップを使う。
“勝ち目のない戦いはしない”
(それは契約者になる前からの俺の信条だ。勝てる戦いしかしない、という意味ではない。勝てないかも知れない敵に立ち向かうのは男気だが、勝てないと判っている闘いに挑むのは単なる莫迦だ、ということだ)
 レンが立ち向かうと決めた相手。敵は強い。
 しかし、それだけでしかない。
 ならば戦い方を考えれば済む話だ。
 一人、覚悟を決めていた――いや、既に決まっていた。
「……勝ち目は?」
 ザミエルの問いに、レンは手を休めずに答える。
「なに、ゼロじゃないさ」
 その答えに、ザミエルはふっと笑みを浮かべる。
(……ご苦労なこった。まだ明確な手段さえ講じられていないのに覚悟だけは済ませてやがる。尤も覚悟すらない奴は戦場に立つ資格すらないんだがな)
 ザミエルがピッケルを用いて壁を登り、上部から岩を崩す。
 更に、レンがスコップでどかしていく。
 ――その先に、待っていたかのように赤い鉱石が在った。