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第4章  一輪の花の物語 その1


「会場のセッティングをする前に一仕事を……」

 言って城へ入ったセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)は、とある部屋へたどり着く。
 最上階にある、大きな扉の向こう側。
 ほかの場所とは明らかに違い、荒れていないし、なにも壊れていない。

「ここって、もしかして主さんのお部屋かな?」

 琳 鳳明(りん・ほうめい)が、セラフィーナのうしろからひょいっと顔を出してきた。
 状態を保つため、慎重に足を踏み入れる。

「そうだとすれば、なにか分かるかも知れませんね。
 古城の記憶をすくいあげましょう……」
(この城の以前の主は、なにを想いここで暮らしていたのか……どんな想い出を残して、城を去ったのか……)

 鳳明の言葉を受けて、【サイコメトリ】を発動させたセラフィーナ。
 触れた机から、感謝と、別離の悲哀とが……誰かに向けた感情が流れ込んできた。

「セラさん、どう?」
「ふむ……城の主は、なにか哀しい体験をされたようですね。
 ワタシ達ができるのは、この古城に、そしてこの部屋に、花園に、一番ふさわしい彩りを添えること。
 少しのあいだお借りするのですし、そのくらいのリクエストに応えてもいいですよね?」

 眉をひそめながら、セラフィーナは微笑む。
 振り返った先の鳳明も、優しく、うなずいた。

「う〜ん、冒険心をくすぐるよね。
 こういうのを見ると」

 一方、部屋の奥では笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)が壁を見上げている。

「綺麗な人……ボクもこういう感じになってみたい」

 視線の先には、女性の肖像画が。
 おだやかな表情は金の長髪に包まれ、全体的に線の細い印象を受ける。

「あれ?
 こっちは……誰かな?」

 ずっと、いろいろな写真を見ていくうちに、紅鵡が見つけた1枚。
 幼い主と、その隣に男性が写っていた。
 横でまとめた銀の長髪に、眼鏡をかけ、作業服を着ている。

「よ〜し、燃えてきました!
 パラ実乙女の底力、見せてあげましょう!」

 紅鵡の発見に触発されて、次百 姫星(つぐもも・きらら)も盛り上がってきた。
 【トレジャーセンス】の力も借りつつ、部屋のなかを探索する。

「おっ、これはまさかの……おぉっ!
 隠し戸棚発見ですよヒャッハー!」

 なんの変哲もない壁、だと思っていたら。
 姫星が不意に押した瞬間、ぼこっと穴が開く……けど。

「なぁんだ、ただの箱かぁヒャッハー」
「出してみてよ」

 がっかりする姫星にたいして、鬼道 真姫(きどう・まき)は興味津々。
 薄くかかったちりを払い、ふたを開けた。

「うわ……すごい数の……手紙?」
「宛名は『エリック』、差出人は『リールエル』か……」
「ちょ、勝手に読むのはまずいでしょう!?」
「貴重なてがかりなんだから、読むしかないっしょこれ!」

 姫星の制止も効かず、真姫は手紙をとりだす。
 十数通はどれも、『リールエル』の叔父が持ってきた結婚の話について書かれていた。
 来る日も来る日も、何度断っても、叔父は新しい相手を見つけてくるのだ……と。
 自分には好きな人がいるのに、聴いてもらえない……と。

「哀しすぎるじゃ〜ん」
「あぁもう、勝手に読んで勝手に泣いて、面倒なやつですよヒャッハー……うぅっ」

 真姫につられて、姫星も涙を流すのであった。 

「廃城とはいえ、由緒ありそうな古城!
 思っていたとおり、素敵でゴージャスでデリシャスな内装じゃない!」

 なぜだか独り、ふりふりきらきらなドレス姿の春瀬 アンリ(はるせ・あんり)
 部屋の大窓からバルコニーへ出ると、くるりとまわり笑みをこぼす。 

「少しほこりはかぶってるけど、それも雰囲気があっていいよね〜」
「あぁ、私のかわいいアンリちゃんv」

 そんなアンリに、マルガレータ・ヘンドリクセン(まるがれーた・へんどりくせん)はでれでれだ。
 颯爽とデジカメをとりだし、構える。

「花園が綺麗……おぉ、ロミオ!
 あなたはどうしてロミオなのっ!」
(お城の主は、こんなバルコニーで告白なんかされちゃったりしたのかしら。
 素敵な王子様から手にキスされたり……きゃわーんv)
「その表情いいわ〜さすが、私のかわいいお姫様!
 こっちに流し眼して〜!
 いいわ〜その憂いのある目!
 最高よ〜」

 アンリの脳裏には、妄想により理想の古城ライフが拡がった。
 惜しげもなくシャッターを切るマルガレータは、場の雰囲気をあおる。
 だが、あくまでもそれは2人だけの話。
 周囲の者達は、総じてドン引きしていたのだった。