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新年交流会に出すおせち料理を考案せよ!

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新年交流会に出すおせち料理を考案せよ!

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「さて、突然の企画にもかかわらず他校までをも巻き込んだ一大イベント『創作おせち料理考案コンテスト』の審査タイムの時間がやって参りました!」
 場所は変わって蒼空学園第一グランドに特設された舞台の壇上で、ミルディア・ディスティンがマイク片手に声高らかに開幕の宣言を行う。
 すでにイベントスペースは他校から見学にやってきた大勢の生徒達で埋め尽くされ、真冬の野外でのイベントにもかかわらず会場は寒さを忘れるほどの、まるで真夏の青空の下のような熱気に包まれていた。
「ではまず審査員の紹介を始めます。一人目はこの企画の発起人にして、知る人ぞ知る超有名料理人である蒼空学園のコック長!」
「まずは最初に一言、突然の企画にも多くの参加者が募ってきてくれたことをこの場を借りて感謝したいと思います。生徒諸君、ありがとう。そして、若きみんながどのような発想、どれほどの料理に対する情熱を持ってこのコンテストに挑んでくれたのか、非常に楽しみにしていますよ」
 一礼と共に前置きの挨拶を終えた瞬間、会場のボルテージは一気に最高値へと高まる。
 やはり他校へまで名を轟かす一流料理人、この人なくしてはこのコンテストは始まらないだろう。
「続いてこの学園の代表でもあり理事長兼校長という多くの肩書きを持つ男、山葉 涼司(やまは・りょうじ)!」
「俺はまあ、あまり料理に詳しくはないが、食ったものに対する意見や感想はしっかりと言わせてもらうぜ。ま、学生が作ったからといってあなどっちゃいない。むしろ、どんなうまいもんを食わせてくれるのかと期待はしてるぜ!」
 声高らかに涼司がそう締めくくると、再びギャラリーの中から喝采が巻き起こる。
 蒼空学園の生徒を中心に巻き起こる理事長コールに涼司は腕を高らかに掲げてそれに応えた。
「そして最後は投票で選ばれた生徒代表、綿貫 聡美(わたぬき・さとみ)!」
「ご紹介にあずかりました綿貫 聡美や。言っとくけどうちは容赦せんでぇ『うまいものはうまい、まずいものはまずい』とハッキリ言わしてもらいますさかい、覚悟しといてな。それと、もしうちの下した判定に異議があるんやったら口でせんと、拳で訴えて来てもろても構わんでぇ。いや、むしろ意義があるっちゅーならこっちから行ったるわ」
 一見喧嘩っ早いともとれる聡美の自己紹介だが、逆にそのサバサバとした性格が受けたのか、コック長や涼司には劣るものの、それでも割れんばかりの声援が巻き起こる。
 ちなみに彼女の趣味は『食べ歩き』で、一般食から高級料理に始まり古今東西様々な土地や文化の食事を食べ歩いた彼女の舌は、多くの食べ物を取り扱う部活から絶大なる支持を受けていた。
 それは蒼空学園内限定ではあるが、外食をする際に困ったら彼女に聞けとテンプレ文が存在するほどの絶対な信頼を勝ち得ている影の実力者でもある。
「当コンテストはこの御三方による厳正な審査によって、この料理がありだと思ったら手元の『青』のボタンを、この料理はちょっと御節に合わないと思った場合は『赤』のボタンを押して裁定してもらいます、三人中二人が『青』を示せばその料理は晴れて年始に行われる交流会で振る舞われる御節料理に組み込まれるというルールになっております。評価の方はもちろん味が大事ですが、見た目や御節料理に入れる料理としての考慮なども大きな審査基準となっておりますよ! 最後に、進行は抽選によって選ばれた百合園女学院のミルディア・ディスティンが担当させて頂きます。では、早速一品目にいってみましょう! 双葉 みもり&鴉真 黒子ペアによる『きゅうりとモロヘイヤの酢の物』です!」
 舞台裏に控えていた実行委員のスタッフによって、審査員の前に料理が運ばれてくる。
 審査員の三名はそれぞれ料理を口に運ぶと、コック長と聡美は厳粛な顔つきでゆっくりと料理を味わい、涼司は豪快に平らげる。ギャラリーは固唾を飲んでその様子を見守り、やがて評価を決めた審査員が静かに裁定を下すと、ゆっくりとギャラリーたちは声をあげた。
 三人とも『青』だ。
「おーっと、いきなり文句なしの合格ラインを突破、なんとも幸先のいい出だしで期待が高まりますね。では、コック長さんからコメントをおひとつお願いします」
「そうですね。モロヘイヤは栄養価も非常に高い野菜ですので、新年にこれを食べることによって一年間健康でいられるよう願掛けも兼ねることができるいい食材だと思います。独特の粘り気など癖の強い食材ですが、きゅうりと合わせることによって歯ごたえもよく、おせち料理の酢の物としてはなかなかいい選択であったと思います」
 コック長のコメントを終えると、ギャラリーは一斉に拍手を送る。トップバッターの出足もよく、ギャラリーの興奮は高まる一方だ。
「なるほど、食材の選択がポイントですか、ありがとうございます。では続きましてレティシア・ブルーウォーター&ミスティ・シューティス組。なんとこの御二方は、あの巨大なパラミタカジキを漁師顔負けの一本釣りで獲得したとの情報が入っております! その大胆な行動力と繊細な調理で生み出した奇跡の一品、『パラミタカジキのスイートチリソース』です!」
 運ばれてきた料理は綺麗に焼きあげられたカジキの切り身に赤みのかかったチリソースがかけられていて、その見事なまでに対照的で鮮やかな色合が食欲を引き立てる一品だ。
 やはり試食の時間は静かに行われ、ギャラリーは評価が下されるまでのひと時を緊張感に包まれながら見守った。
 そして下った裁定は、『青』が二人で『赤』が一人だ。
「おーっと、またしても合格ライン突破です! では早速、綿貫さんから一言いただきましょう」
「せやなぁ、確かに『この料理は御節料理としてはどうなんや?』って迷ったりもしたけど、最近は洋風御節とかもあるやさかい、うちはありやと思ったで。味の方は元々大味なカジキを、チリソースが味をうまく引き立たせてなかなかうまかったで。あとどうでもええことやけど、パラミタカジキを一本釣したっちゅーとこが個人的にツボったわ」
「なるほど、ご自慢の特製チリソースが勝利の決め手になったようですね。綿貫さん、ありがとうございます。さて、お次は今回参加者の中で、最多人数で挑む健闘 勇刃&天鐘 咲夜&文栄 瑠奈&紅守 友見組です! 『麻婆豆腐のパスタ、和風チーズフォンデュ』、どちらも意外は性抜群、ダークホースとして結果を叩き出すことができるでしょうか!?」
 料理が運ばれると、一瞬だけギャラリー感にざわめきの声が上がった。
 運ばれてきた料理は普通にパスタとチーズフォンデュセットにも見て取れるだけに、果たしてこの料理はどちらに傾くのか、その一言に尽きる興味の視線が一斉に集まり静かに審査員の試食を終えるのを見守った。
 そしてあげられた結果は、『青』が一人で『赤』が二人だった。
「おーっと、ここで初めての合格ライン切りです! やはり奇をてらいすぎた発想が仇となってしまったんでしょうか、葉山理事長、一言お願いします」
「あー、そうだな。味自体は決して悪くなかったが、やっぱおせち向きじゃなかったのがマズかったのかもな。みんなが気にしているだろう和風チーズフォンデュとかいうヤツは、最初はどうなることかと思ったけど和風ダシの効いたチーズってのもなかなかうまくて俺は好きだったぜ、これがクリスマス料理ってお題だったら間違いなく通ってただろうな」
「なるほど、やはり狙い過ぎは万人に受けにくいものなんでしょうね、葉山理事長ありがとうございました。さて、お次は有力な候補者の登場です。学生ながらその料理の腕前は一級品、涼介・フォレスト&エイボン著 『エイボンの書』ペアによる『煮豚』です! 一見シンプルなこの作品ですが、シンプルが故に料理人の腕が試される期待の一品です!」
 ミルディアが前置きを終え、審査員の前に出された飴色に艶の出る煮豚が特設モニターに映ると、ギャラリー達でさえも思わず唾を飲んだ。
 期待と羨望の篭った視線を一斉に受けた審査員三名は、料理を口にし終えて判定を下す。
 その場の誰もが予想した通り、三名とも『青』だった。
「おーっと、やはり予想通りの結果です! コメントの方はご本人からの強いご希望もありまして、コック長さんにお願いしたいと思います」
「そうですね、やはり煮豚というシンプルな料理をこれほどまで人を魅了させる一品に仕上げる実力はなかなかだと思います。じっくり味を染み込ませながらもこれほど柔らかく仕上げる腕前、実は彼の調理している姿をたまたま近くで拝見していたんですが、まるで若い頃の自分の姿を見ている気がして……いや、失礼なんでもありません。とにかく彼の活躍には今後期待したいところですね」
 コック長は後半少しだけ歯切れの悪さを見せながらも若き料理人に対して絶賛の言葉を述べて席についた。
 だが、そんなコック長が心なしか顔が少しうつむき加減になっていることに、この時気づいたものはいなかった。