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仮装の街と迷子の妖精

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仮装の街と迷子の妖精

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「これも可愛いですよ!」
「わぁ、素敵!」
「おぬしたちはもう少しゆっくりと見て回れんのか」
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)があちこちの店を飛び回るように次々に見て回るのを、桐条 隆元(きりじょう・たかもと)が車椅子をゆっくりと押しながら溜息を吐いた。
「リースちゃんったらすっかりはしゃいじゃってますねぇ」
 くすくすと車椅子の上で笑うセリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)
「まったく、何もここじゃなくとも買えるだろうに……小娘どもと来たらすっかり羽目をはずしおって」
 また別の露天へと二人は走っていってしまい、面倒くさそうにだがセリーナに気遣うようにゆっくりと車椅子を進める。
「この青いブローチとっても素敵〜」
「ベネチアングラスを使ってるんだよ。そっちの眼鏡のお姉さんは、こっちのブックマーカーなんてどうだい?」
 店主に進められて見ていると花の形になっているミルフィオリのブックマーカーがリースの目に留まる。
「あちゃー、このブローチすごく素敵なのになぁ……」
 値札と財布をにらめっこするマーガレット。
「私も、ちょっとだけ足りなくて……」
 少し二人で悩んだ後、マーガレットが店主に話を持ちかけた。
「ねぇおじさん、このブローチとブックマーカー両方買うから少しだけ安くしてもらえないかなぁ?」
 値段交渉を始めたマーガレットたちの横でセリーナも露天の品を見つめる。
「……綺麗……」
 様々な色のミルフィオリに縁取られた指輪を手にとって、セリーナが呟く。
「セリーナも気になるものでもあるのか?」
「こういう綺麗なものって……素敵ですよねぇ……」
 柔らかく微笑むセリーナに桐条は少し考え事をしているようだった。
「もう一声!」
「いや、これ以上は下げられないなぁ」
「もう一声!」
「いーやここまで!」
 店主との値段交渉がなかなか進んでいない様子のマーガレットとリース。半ば諦めかけたその時、聞きなれた声が響いた。
「店主、それならその二つにこの指輪も買おう。それならどうだ?」
 セリーナが先ほど手に取って見ていた指輪を店主へと差し出した。

「あ、ありがとうございます」
「何よ……珍しいことしちゃって……」
 二人の欲しがっていたブックマーカーと青いブローチを小さな袋ごと受け取る二人。
「べ、別にあまりにも値段交渉が下手だったのでな、見ていられなかっただけだ!」
 セリーナがそんな桐条を見てふふと笑う。
 二人もいつもと違う桐条の態度に少し戸惑ってるようで、それを誤魔化すようにまた先ほどのように露天を駆け回っていた。
「二人とも、とっても嬉しそうですよ」
「わしが知るか! 小娘たちのはもののついでだ!」
 うっかり口に出して、しまったと思う桐条。
 ゆっくりと進む車椅子の彼女の表情は見えない。
「あー、その、なんだ」
 弁明しようとすればするほど、上手い言葉が出てこなく、桐条は指で頬をかく。
「……指輪、ありがとうござます」
 リースとマーガレットが近くにいなくて本当によかったと少しだけほっとする桐条に、小さな声が聞こえた。
「大事に、しますね」
 桐条がくれた指輪を大事そうに見つめて、セリーナは心を込めてそう告げた。