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【アラン漫遊記】はじめての冒険

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【アラン漫遊記】はじめての冒険

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第4幕 頑固おやじは良いおやじ


 アラン一行が頂上に到着すると、そこは見晴の良い原っぱになっていた。
 原っぱの中央には掘立小屋と窯と煙突がある。
 煙突から煙は出ていないが、小屋の外にある薪割り用の切り株に腰掛けている老人のキセルから煙は出ていた。
 アランたちは老人へと近づいていく。
「そなたが鉢職人か?」
 アランが質問をするとようやくみんなに気付いたらしく、警戒の目を向ける。
「そうじゃが……あんたらは? 客か?」
「ここに『仏の御石の鉢』があると聞いてやってきたのだ!」
「ああ……?」
 ちょっと耳が遠いようだ。
 耳に手を当て、アランへと耳を向ける。
「だーかーらー! 『仏の御石の鉢』を探しに来たのだーーーー!」
「……」
 老人は首を傾げた。
 顎鬚に手をやり、軽く梳く動作をする。
「ああ……あれね。あるが……」
「本当か!? それを譲ってもらいに来たのだ!」
「あれを? そりゃ困る」
「余はその鉢が欲しいのだ!!」
「ありゃ売りもんじゃねぇ」
 老人はキセルを口に当て、ぷかりと煙を吐き出した。
「むむぅ……! 余が欲しいんじゃーー!」
 駄々をこねはじめるアランの肩に手を置き、大人しくさせるとブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が老人に向かって話しかける。
「まあ、まあ……ここは少し引いた方が良い。ところで職人、今からみんなでお昼なのだが一緒にいかがか。たくさん作ってきた。話はそれからでも良いと思うが」
「昼か……たしかに、まだだが別におまえらに世話してもらおうとは――」
「わーい、お昼だー!」
 ファルの喜びの声を聞き、黙ってしまう老人。
「わかった……お昼を一緒に食べるくらいはしてやらぁ」
 老人が了承したところで、ブルーズが持ってきたお弁当を原っぱに広げる。
 それからヘルとベアトリーチェも持ってきたものを出す。
 ブルーズが持ってきた大きいバスケットの中身はおにぎりやサンドイッチ、唐揚げ、玉子焼き、野菜スティックなどの軽食がたっぷり入っていた。
 ヘルと呼雪が作ってきたお弁当は、おにぎり、唐揚げ、タコさんウィンナー、おやつにはドーナツまでついている。
 ベアトリーチェは美味しい日本茶と手作り饅頭を出した。
「いただきまーすっ!」
 みんなで丸くなってお弁当を食べ始める。
「アランくん」
 おにぎりに手を伸ばしたアランにマユが話しかける。
「う?」
「薔薇学の生徒さんなんですよね? もしかしてこの春入学ですか?」
「うむ! 当たりだ!」
「そうなんですね! じゃあ、僕の後輩になるんですね。これからよろしくお願いしますね」
 マユが手を出すとアランはちょっと恥ずかしそうに手を出し、握手に応じた。
「仲良くしてやらんこともない」
「はい♪」
「良いなーー! ボクもアランくんと握手するよ! だって、僕の後輩でもあるんだから」
 ファルもにこにこしながら手を差し出す。
「う、うむ……よろしく」
 アランはやはりおずおずと手を握った。
 あまりこういうことには慣れていないようだ。
「ふ〜ん、そうなんだ?」
 いつの間にかアランの隣に座っていた黒崎 天音(くろさき・あまね)がアランのほっぺをぷにぷにと指でつつく。
「な、何をするのだ! 余に軽々しく触るでない!」
「ああ、セバスチャン。僕にもお茶をもらえるかな?」
「はい、ただ今」
 アランの言葉をスルーして、華麗にセバスチャンからお茶を受け取る。
「なるほど。これは……アッサムだね」
「当たりでございます」
「って、人の話を聞くが良い! むぅ……それに、なんでそんなに偉そうなのだ?」
「そう?」
 天音は微笑を浮かべると、またアランのほっぺをぷににとつつく。
「余は……余はおもちゃではなーい! 勝手に触るでない! 失礼な!!」
 アランは天音の後ろに回り込むと背中にひしっとくっついた。
「はっはっは! これで、もう余のほっぺをぷにぷにすることは出来まい!」
 アランは勝ち誇ったように笑う。
「ところで、そなたの持っている小さいバスケットには何が入っているのだ? 何やらかすかに動いているようだが」
 アランはブルーズの持っていたバスケットを見つめる。
 ブルーズがそっとふたを開けると、中から4匹のゆるスターが現れた。
「こっちがスピカ、こっちがデビルのガロガ、モヒカンのコロナ、ジャンガリアンのデネブだ」
 初めてみるゆるスターに目を輝かせるアラン。
「触るのなら、優しくな」
「うむ!!」
 アランがバスケットのゆるスターに夢中になっている間にブルーズは1人で老人のもとへと行った。
「そこにあるのは、あなたが作った鉢か?」
「そうだが?」
「見事だな。ただの鉢とは思えないぐらい美しい」
「当たり前だ。それがわしの仕事だ。それぐらいできなくてどうする」
「これは失礼。あまりにも綺麗だったものだからつい。あのアランという少年もその美しさからあなたの鉢を欲しているのかもしれませんよ。考えてみてはくれませんか?」
「ふむ……気が向いたらな」
 老人を説得するにはまだまだ足りないようだ。
 次に老人のもとを訪れたのはベアトリーチェだ。
 その手には日本茶と手作り饅頭がある。
「こちら、よかったらどうぞ」
「うまそうだな。地球のものか……珍しい食べ物だ」
 老人は饅頭を2口で食べると、熱々のお茶をすすった。
「っかぁぁぁ……うまい」
「ありがとうございます。それで、あの……ぜひ、鉢を譲って欲しいのですが……」
「それとこれとは話しが別じゃ」
 老人はもう1口お茶をすすった。
 ゆるスターに夢中になって、天音にぷにぷにされ放題のアランにユーラが近づいた。
「この山には金銀財宝のお宝もあったのじゃろう? どうしてそっちは取りにいかないのじゃ?」
 ユーラに話しかけられて初めてぷにぷにされていたことに気が付いたアランは、また天音の後ろに張り付いた。
「余は金銀財宝などに興味はない。つまらないではないか。必要もないしな」
「アランとやら……わかっておるではないか!」
 ユーラはぱっと笑顔になった。
「物の価値は見る者によって千差万別……たとえばこれ」
 ユーラは自分のヘアピンを指さした。
「これは他人から見ればただの安物の髪飾りじゃが、わしにとってはとても大事な宝なのじゃ」
「ふむ、そうなのか」
「おまえも人生においてかけがえのない物を得るため、精進するがよいぞ。そのためになら、いつでも手を貸してやらんでもない」
「そなたとは気が合いそうだな。うむ、何かあったら頼む!」
「任せるのじゃ」
 2人で会話をしている間にヘアピンの送り主である栄斗は老人に菓子折り持ってお願いに行っていたが、収穫はなかったようだ。
 ユーラとの会話が終わったところで、ファルがアランに話しかけてきた。
「アランくん、あのね。ここまではみんなの協力で来られたけど、どれだけその鉢が欲しいか、真剣に大事にする気持ちがあるか……職人さんを説得するには、そういう熱意が必要だと思うんだ。それはアランくんにしか伝えられない事だよ?」
「余の熱意……?」
「うん、そう」
 アランは腕組みをすると首を傾げたのだった。


 一方、老人のそばに近づいて行っていたのはカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)だ。
「今度は一体なんだ?」
 老人はいぶかしげにカレンたちを見る。
「ボクたち弟子入りにきたよっ!!」
 カレンの言葉を継いで、ジュレールが言葉を足す。
「この山はかなり危険だ。山を登ってまで弟子入りする者は少ないのではないか? 親方も自分の技を誰かに受け継ぎたいお年頃なのでは?」
「む……たしかに、今まで弟子入り志願者などおらんかったが……」
 顎鬚に手をやり、考える老人。
 少しすると、何かを決意したように立ち上がった。
「良かろう。お前たちに技を伝授してやる。ただし、使い物にならないと判断した場合、すぐにやめてもらう。良いな?」
 カレンとジュレールはハイタッチをして、小屋へと歩いていく老人の後ろについていった。
 小屋の中に入ると、すぐに土の練り方や型の作り方、粘土はどこで採れるかなどを教えてくれる。
 やり方をジュレールがメモリーにインプットし、カレンは老人の肩をもんだり、お茶を運んだりして身の回りのことをこなしていく。
「一日だけじゃ無理だ。本当は10年は住み込めと言いたいが、無理じゃろ?1週間で覚えろ」
「うむ!」
 老人の厳しいしごきは始まったばかりだが、少しは心を開いてくれたかもしれない。


 老人がカレンたちをしごいている間、アランのもとには滝宮 沙織(たきのみや・さおり)が来ていた。
「アランくん! 一緒に可愛い恰好でお願いしてみようよー!」
 沙織の手にはラッピングされた手作りクッキー。
 沙織はなぜかバニーガールの恰好になっている。
「……う? 可愛いカッコウ?」
「アランくん、面白いね。それは鳥さんだよ〜。あたしが言っているのはこういうこと!」
 沙織の手にはもう1つ持っているものがあった。
 それは……バニーガールの衣装だ。
 しかも子ども用。
 それを見て、目を丸くするアラン。
「余にそれを着ろと?」
「うん! アランくん可愛いからきっとこういうのも似合っちゃうよね〜。楽しみだなぁ♪」
「たしかに余は可愛い!! そのままでも十分だと思うが?」
「あはは、自分で言っちゃうなんてますます面白いねー!」
「事実なのだ」
「まあ、認めるけど。あ、でもね? さっきファルくんが言ってた熱意を伝えるんだよ! さらに可愛くなったアランくんで!」
「む……」
 しばらく考え込むアランだったが、何か決意したようだ。
「セバスチャン」
「はい」
 セバスチャンはアランがつけているマントでアランの体を隠しながら、早着替え。
 マントを取るとそこにはかぼちゃパンツの裸の王様ではなく、バニーかぼちゃパンツがいた。
「かぼちゃパンツはとらないの!?」
「これは余のトレードマーク。それに……これは脱いではいけないのだ」
 アランは真剣にかぼちゃパンツを見つめる。
「そっか、ま、それでも可愛いから行ってみよう〜!」
「うむ!!」
 2人で可愛くお願いしてみたが……門前払いを食らってしまったのだった。
 その様子を見ていた歌菜がアランに話しかけてきた。
「アランくん、交渉はどうして鉢が欲しいのか、ちゃんと説明しつつ、お相手の方の望むものを提示し交渉する……これが基本になるんだよ。だからアランくんが鉢を欲しい理由を聞かせて?」
「余は……無理難題を言って遊びたいのだ」
 アランは目線をそらしながら言う。
「ん〜……もしかして、それ以外にも理由があるんじゃない? ちなみに私が鉢を欲しい理由はアランくんの笑顔が見たいから、だよ♪」
「余は……ある人を喜ばせたいのだ……。変わったものが好きなヤツだったから、もしかしたら喜ぶかなと……」
 アランはちょっと泣きそうになっている。
「そっか。じゃあさ、その想いをちゃんと伝えないとね♪」
 歌菜はアランの頭をくしゃっと撫でた。
「それで? 対価はどうする?」
 羽純の言葉に歌菜がすぐに応える。
「私は歌を歌ったり、料理をしたり、それから掃除も――」
 掃除の言葉を羽純が口をふさいで止めた。
 歌菜の掃除はすればするほど汚くなってしまうのだから、無理もない。
「俺はギターが出来る。俺がギターで伴奏して歌菜と一緒に歌うか?」
「それだったら余にも出来るのだ!」
 アランはもう一度、小屋にいる老人のもとへと向かうと今度はちゃんと理由を説明した。
 それを黙って聞いている老人。
「ふむ、それで?」
「余はそなたに歌をプレゼントする! その対価として譲ってはくれまいか?」
 アランと歌菜、羽純はさっきまでちみっこたちが道中で歌っていたヒーローものの曲を披露した。
 歌が終わると、老人はどこかに行ってしまった。
「ダメ……だったのか?」
 そうアランは呟いたが、老人は何かを手にし戻ってきた。
「ったく、しょうがねぇ奴らだ。ほら持って行け」
 老人が持ってきてくれたのは目当ての鉢……ではなく、なんとタン入れのツボだった。
 かなり年期が入っている。
「……!!!!!?????」
 あまりのものにみんな声が出ない。
「余が求めているのはこれではないー! 『仏の御石の鉢』だーーーー!」
「ああ? だから……『のど仏の掃除の壺』だろ?」
 どうやら、ここにはこれしかないらしい。
 みんながっくりと肩を落としたが、少しするとみんなで大笑いしてまった。
「余の求めていたものではなかったから、これは持って帰らな――」
「ダメですよ」
「う? どうしてだ? セバスチャン」
「欲しいとおっしゃったんですから、ちゃんと責任を取りませんと」
 そう言うと、セバスチャンは問答無用でツボを5重にしたビニール袋の中に入れた。
「嫌じゃーーーーー!!!!」
 アランが叫ぶと、さらにみんなは大笑いするのだった。