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リアクション
「なんか後ろが急に静かになったような……2人が無事だといいんだけど」
正悟はちらと後ろを振り返り、そうぼやいた。彼はまだ遺跡の中にいる。……どうやら、先ほどのトラップはその周囲にいた者を町へ飛ばすらしい。
カチッ。
「ん? 今何か踏ん……うわっ」
足元で音がした、と思った瞬間に飛んでくる矢を慌てて避ける正悟。トラップは来る途中に解除してあったはずなのだが……。実は先ほどのボタンが関係しているのだが、正悟には原因など分かるはずもなく、闇の勢力がまたトラップをしかけたのだと思い、走る速度を少し落とす。
周囲への警戒を強める。
「おや、あなたは光の……」
「正悟様、でしたかぁ?」
焦りを感じていた正悟の前に現れた二つの影はザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)とサオリ・ナガオ(さおり・ながお)。光陣営だ。
1人だけでない安堵に少し肩から力を抜いた正悟だったが、サオリが後方を見つめたことでハッと我に返った。そう。今は少しでも早く仲間の元へ地図を持って行かなければならない。
「今のところ追手様は来られてないようですぅ」
「が、急ぐに越したことはないですね? いけますか?」
正悟は無言で頷いた。遺跡の出口はもうすぐそこだ。
出口へと向かいながら、ザカコが何やら紙とペンを取り出して描き始めた。サオリがそれを覗き込むと
「地図、でございますですぅ?」
「はい。偽物の地図を作って、かく乱しようかと思いまして」
なるほどぉ、と頷くサオリに、正悟は話しかけた。それを聞いたサオリは一瞬驚いたように目を見開き、すぐに首を縦に振った。
そうして罠を避けつつ、なんとか3人は遺跡を脱出したのだった。
◆
遺跡から脱出して少し経った頃、正悟たちの体力は限界に達していた。
「あそこで一度休憩いたしましょう。無茶は禁物ですぅ」
3人が立ち寄ったのは、休憩所、と書かれた看板を掲げる小屋だった。何人もの客がゆったりとくつろいでいる。
「いらっしゃいませですよ。3名様ですか?」
「はい」
「ではこちらにどうぞ」
席へと案内してくれたのはナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)だ。笑顔で注文を聞き、厨房の奥へと声をかける。
「ミス・ブシドー様。お水を」
「む、承知した」
そうして3人へと水を配るのは音羽 逢(おとわ・あい)だ。休憩所と侍のような雰囲気を持つ彼女は相反するようだが、3人は疲れているからか違和感を覚えない。
いや、疲れているのもあるだろうが、逢が気配を抑えているのだ。だから違和感なく溶け込んでいた。そこへ、厨房から戻って来たナナが紅茶を3人の前に置く。わざとぬるめに出したお茶を勢いよく飲んだ3人に、穏やかな笑顔のまま「お代わりはいかがですか?」と、声をかける。
「すみません、お願いできますぅ?」
「はい、どうぞ」
「とても美味しいですね。自分もいただいていいですか?」
すっかりくつろいだ様子の彼らを見て、ナナは逢に目配せをする。無言で頷いた逢は、さらに気配を消していく。
そうして店員が一人減ったことに気付かれぬようにナナは歌い始める。優しく暖かな歌声は、心身ともに疲れ切った彼らの心を揺さぶり、瞼を重くしていく。
「おかしいの、です、なんでこんなに眠」
「……まさか」
ザカコが何かに気付いたかのように声を上げるが、時はすでに遅い。ナナは闇勢力。地図を持った光勢力が来るのをここで待っていたのだ。
「すまぬが、地図は頂いていくぞ」
気配を消して背後へと回っていた逢がそう言う。しかし、ザカコは笑みを浮かべた。
「そうですか。ではお好きなのも持って行ってくださ、い」
気を失う直前に彼がばらまいたのは、大量のニセモノの地図だった。
「これはっ?」
「本物の地図は一体」
慌てて地図を探すナナと逢。地図は一本道しか描かれていない明らかにニセモノから、それっぽい精巧なものまで多数存在し、本物を知らないナナたちにとってはどれが本物か、分からない。
「もしや本物を持っていなかったのでしょうか?」
「いや、そのようなことは……あの張りつめた空気は、本物だったでござる」
「じゃあやっぱりこの中に本物が」
「あるはずでござるよ」
困惑した2人は、とにかくすべての地図を持って逃げることにした。小屋の前に止めていた小型飛行艇に乗り込んで、一目散にその場をさる。
「どう思う?」
その一部始終を、休憩所の客として見ていた佐野 和輝(さの・かずき)は、寝たふりを止め、パートナーのアニス・パラス(あにす・ぱらす)に話しかけた。同じく起き上がったアニスは結界を解いた。
「ん〜っと、あれだけたくさんのニセモノ作っちゃったら、どれが本物だかわからなっちゃうよ?」
「だなぁ……だとすれば、他の2人が持ってる可能性が高い、と……さて、どうするか」
闇勢力として召喚された和輝だが、今回は傍観しようかと考えていた。敵戦力の把握ができればいいか、と。
そんな時にやってきたチャンス。――逃す理由を探す方が難しい。
「ま。ここは頂いておくとするか。途中まではこの人が持ってたよな」
「ラッキーだね、和輝! ……あ、こっちの人が持ってたよ」
アニスがサオリの懐から地図を取り出して和輝に見せる。少し端がちぎれた地図は、いかにも『らしい』雰囲気を持っていた。十中八九、これが本物だろう。
「なるほど。あの時何か話していたのはこういうことか」
式神の術と精神感応を通じて遺跡内の情報を得ていた2人だが、距離を話していたため、会話の内容までは聞こえていなかった。遺跡を出る前に話していた内容は、地図を持つ相手を変える、だったのだろう。
納得した和輝はアニスから渡された地図を懐にしまい、その場を立ち去った。
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