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右手に剣を左手に傘を体に雨合羽を

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終章


 女王器は教導団で預かることになり、雨雲と雨を降らせる魔力を引き連れてこの場を去った。
 地面はぬかるみ、まだ土砂崩れなどの危険性があるので、村人には少しの間、テントなどを張っただけの極めて簡易的な避難所で生活してもらうことになった。
 そんな場所をこの事態が解決するまで指揮を取り続けた小暮は、まだ乾いていない土を踏みしめて見回りをしていた。時刻はすでに日没を迎えて久しい。
 救護所のテントでは高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が患者の手当てを行いながら、数人の村人と話しているのが見えた。
 雨が上がったとは言っても、衛生状態は改善されていない。衛生指導を行っているのだろう。
「こんな時まで見回り? 少しぐらい休んだら?」
 背後から声がかけられて振り返ると、小暮は敬礼をした。
「お疲れ様です、ルー大尉」
「そんなにかしこまらなくてもいいのに」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は苦笑して、マグカップを差し出した。湯気がコーヒーの香りを伴って立ち上っている。小暮はそれを受け取った。
「ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
 ルカは微笑んで、カップに口を付けた。小暮もコーヒーを飲む。
 苦みを舌先に感じながら、熱い息を吐き出して小暮は言う。
「今回は大変な事件でした……」
「ふふっ。お疲れ様。秀幸が的確な指示を出してくれたおかげで、思ったよりも早く片付いたね」
「そうでしょうか? 自分は結局何もしていません。雨が止まったのも協力者がいてくれたおかげです。自分よりももっと有能な人が指揮を取れば、もっと短時間で片付いたようにも思えます」
 小暮はため息まじりに言った。
「そうかもしれませんけど、あなたの指示が村人を救ったことは否定することのできない事実ですわ」
 さらに声がかけられ、小暮はそちらに目を向ける。
 沙 鈴(しゃ・りん)が紙にペンを走らせながら小暮へと歩み寄る。その隣には村長の姿があった。
「こんなところにいましたのね。探しましたわよ」
「どうしました?」
「用があるのはわたくしではなく……」
 村長が一歩前に出る。それから頭を深々と下げた。
「この度はどうもありがとうございました」
 それから一拍開けてから、村長は独白するように呟く。
「今回の件、私は何も知りませんでした。あんなところにあんな場所があることも、祖父があれの様子を見に行ってたことも」
 おそらく前の村長――この女性の祖父は女王器と呼ばれるものだと知っていたかは疑問が残るが、その前の村長から聞き伝えられたのか、あれが危険なものだと知っていたのだろう。そして、彼女にそれを伝える前に急死してしまった。
 結果、あの女王器が暴走し、溢れ出した魔力が雨を降らし、モンスターを凶暴化させる事態を引き起こした。
「私が知っていたら、もっと早くに解決できたかもしれません」
 落ち込んでいるのかと小暮は思ったが、彼女は顔を上げた。その目には意外にも強い決意を彼に感じさせた。
「でも、落ち込んでいても始まりません。私はもっと努力して自分にできることを精一杯やっていこうと思います。今回の皆さんのように村の人たちと協力して」
 彼女はそう告げると、もう一度頭を下げて礼を言い、結和が衛生指導をしているテントの方へと向かう。
 ゆっくりとではあるかもしれないが、一人の村長として歩み始めた彼女の姿を見送っていると、ルカが言った。
「あれもあなたが出した結果の一つじゃない?」
「そうかもしれませんね」
 くすりと微笑む小暮の背後で鈴がレポートにペンを走らせる。
 彼女が小暮秀幸の査定についてどんなことを書いたのかは語るまでもない。

担当マスターより

▼担当マスター

黒田シロ

▼マスターコメント

今回から蒼空のフロンティアの新しいゲームマスターを務めさせていただくことになりました黒田シロと申します。
改めてよろしくお願いいたします。

多数のご参加ありがとうございます。
初めての執筆ということで色々と至らない点など多数ございましたでしょうが、楽しんでいただければ幸いです。
こちらも皆さんのリアクションを元に楽しんで書かせていただきました。

近いうちにまたお会いできればと考えておりますので、よろしくお願いします。
それではご参加、お読みいただいた方にもう一度最大級の感謝を。

ありがとうございました!


▼マスター個別コメント