薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

擬人化イコン大暴れ!?

リアクション公開中!

擬人化イコン大暴れ!?

リアクション



第五章:ブルースロート×ゴスホーク

 「はい、だめだめ。あんまりしつこいと教導団の詰所に連行しますよ?」
 数人の男性に囲まれていた美女から男性たちを追い払うと、水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は『美女』に話しかけた。
 「あなた、”ブルースロートさん”ですね? 遠藤寿子さんの原稿から出てきた『擬人化イコン』の」
 「はい。大変助かりましたわ」
 ”ブルースロート”は、またまた男性たちにナンパされていたのだ。

――女の私でも見惚れてしまうほどの美女だわ、寿子の描いた”ブルースロート”は。綺麗すぎて溜息が出そう。

 教導団の公務で海京へ出張していたゆかりは、用事が終わったので人工海岸を散歩していた。
 そこへ、知り合いのアイリから『人工海岸に”ブルースロート”がいるはずなので連れ返してほしい』と連絡が入ったのだ。

――美人で目立つのもあるけれど……やっぱりメカっぽいし、この大形ビームキャノン! 
――人目を引くのも当たり前だわよね。男性でなくても興味は持つわよ。
――『心優しい性格』の設定だってアイリのメールにもあったし……事情を話せば原稿に戻ってくれるんじゃないかしら。

 「”ブルースロートさん”、あのね、寿子さんの原稿を今日中に入稿しないと冬の祭典に出す新刊が落ちてしまうの。
 寿子さんの原稿に戻ってもらうことはできないかしら」
 「わたくしの生みの親ですもの……寿子さんを困らせたくないと思っていたんですが」
 「ですが?……どうかしたの? ”ブルースロートさん”」
 「原稿から飛び出してきて、この海岸で人々を見ていて……わたくし、ちょっとの間でもいい。原稿の中ではできない『人間らしいこと』を……」
 「たとえば……どういうことかな?」
 「お友達と一緒に散歩したりお買いものしたりお茶を飲んだり。
 今回の原稿では”イーグリットさん”と”アサルトさん”という異性との……恋のお話しかなかったものですから」
 「なるほどね」

――そっか。二人との関係、二人に同時に好意を持たれて。恋の駆け引きに疲れているのかしら”ブルースロート”。

 「それなら、私でよかったらなんだけど……一緒にカフェにでも行ってみる?」
 「いいんですか?!」
 ”ブルースロート”が瞳を輝かせてゆかりに言う。その顔はぱっと明るい表情になっていた。
 「人気のカフェがあるのよ。そこに一緒に行きましょう”ブルースロートさん”」
 「でも、わたくし……お金を持っていませんわ」
 ”ブルースロート”の表情が少し曇る。
 「大丈夫! 出張費も出ることだし、それにカフェの代金くらい私が出すから気にしないで!」

――ちょっと妙なことになってしまったけど……彼女の望みもわからないことはないし。満足したら原稿に戻ってくれるだろうし。

 カフェへの道中も、カフェに着いてからも終始”ブルースロート”は瞳をきらきらと輝かせて嬉しそうにしていた。

 「とても、とてもおいしいですわ。それに女友達ができた気分で……ゆかりさん」
 「私もよ”ブルースロートさん”。あなたみたいな素敵な友達ができて、とても」

――なんだか原稿に戻っちゃうのかと思うと寂しいくらいにいい子だわ、ブルースロートさんは。

 「私もご一緒してよろしいかしら? ”ブルースロートさん”よね?」
 コーヒーを持った真琴は二人の了承を得ると同じテーブルに腰かけた。
 「私は天御柱学院イコン整備学科の教官長谷川 真琴(はせがわ・まこと)です。
 遠藤寿子さんとは先日の合同文化祭で一緒に同人誌を出した仲間でもあります」
 真琴が続ける。
 「”ブルースロートさん”、寿子さんから聞いています。あなたには『思い人』がいるそうですね」
 「わたしもアイリからの連絡で聞いているわ……だから”イーグリットくん”にも”アサルトくん”にも」
 「お二人の気持ちは十分に……でも、わたくし、それを考えると……いっそ海に」
 「だめよ。”ブルースロートさん”、身投げなんて考えちゃ……イコンだけど元は、原稿は紙でできているんだから、ね?」
 真琴が心配そうに”ブルースロート”に言う。ゆかりが”ブルースロート”の手を握って言う。
 「そうよ……海に身を投げてしまって……越前海岸のお話みたいに水仙の花にでもなっちゃったりしたら、私、悲しくて泣いてしまうわ」

 真琴が”ブルースロート”に言う。
 「提案なんだけどね、”ブルースロートさん”。次回の新刊で思い人の彼を描いてもらえる様にこの場でデザインしましょう。
 もちろん、”ブルースロートさん”好みにね。ただね、彼と会う為には今回はきちんと原稿に帰って話をつなげないといけません。
 わたしからこの件を寿子さんに伝えますので今回は元の原稿に戻ってくださいね」

 「”ブルースロートさん”の思い人かぁ……きっと素敵なイコンなんでしょうね」
 ゆかりが”ブルースロート”の方を見ると、”ブルースロート”は頬を赤らめていた。
 「あなたの思い人、教えてくれる?」
 ラフ画を描くために紙と鉛筆を取り出した真琴が優しく問いかける。
 「……あの……その……わたくしの」


 「お姉様!」
 「――”ゴスホークさん”? いらしたの?」
 「お姉様を探しに来たのです。さぁ、わたしと一緒に行きましょう」
 「でも今はゆかりさんと真琴さんと大事なお話しを……」
 「お姉様にはわたしが付いていますから!」

 ゴスロリ姿の”ゴスホーク”はなかば強引に”ブルースロート”の手を取り、ゆかりと真琴の前から”ブルースロート”を連れて飛び去ってしまった。