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 第 3 章 -男の子? 女の子?-

 薔薇の学舎前で身分証明書を見せ、すんなりと校内へ入った鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は後に続く鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)へ向き直ると学舎内を見渡した。
「それほど、生徒の出入りは多くないようですね。この辺で彼女…あ、いえ彼らを待ちますか……それにしても黒羽、よくそのカッコで来ましたよね」
 貴仁が監視の目をこちらへ向けるかのように若干大きな声で黒羽に話しかけた。すると丁度、校門の斜め正面に佇む3人に一寿とダニーが近付く。

「薔薇の学舎へようこそ、彩々のスイーツをお求めかな……?」
 一寿が柔らかく話しかけるものの、ダニーが白羽と黒羽を交互に見遣って訝しげに眉を寄せる。
「なあ……この2人、本当に男かい?」

 貴仁が答える前に、黒羽がダニーに懸命に訴えた。
「そ……そうだよ! 白羽だって僕だって男の子だよ」
(そう主張するなら、違う服で来れば良かったんじゃないかな黒羽)
 貴仁が心の中でツッコミしながら、身分証明書を求めるダニーに黒羽がドレスのあちこちを探るがどうやら忘れてきてしまったらしい。疑いの目が黒羽に向けられているのをいいことに白羽がドレスの裾をひょいと摘む。
「……白羽?」
「男って証明がいるんだよね? じゃあ下着見せればはっきりするよ」
 白羽が思いっきりスカート捲りをしたのだ。



「きゃーーーーーーーー!」



 薔薇の学舎に響き渡る黒羽の悲鳴と引き換えに、ひとまず『男』である証明を得られたのだった。
「うっ……うっ……お婿に行けないよお、白羽のばかー……」
「というわけで、一卵性双生児のボクも男って証明になるよね!」
 ベソをかく黒羽と対照的に白羽は満足気だ。目の前で繰り広げられた光景に一瞬、唖然としてしまう一寿だったが気を取り直して疑いを撤回する。
「疑って、済まなかったね……ぜひ、彩々のスイーツを楽しんで下さい」


 一寿とダニーが去るのを待っていたのか、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)ヴァンビーノ・スミス(ばんびーの・すみす)が貴仁と合流すると見事紳士的な男装に身を包んだローズに拍手を送る。
「カッコいいですよ、ロゼさん。これならバレないでしょう!」
「そう? ありがとう! だってコソコソしてる方が怪しまれるかなーって思って……ヴァンの服を借りたんだけど横幅合わせるのにタオルを巻いてるの。それとわからないようになってるかな?」
 ローズが腰回りを気にするように見遣ると貴仁がこっそり『オーケー』のサインを出す。全員が揃ったところで彩々へ向かう中、黒羽は未だベソをかいていた。


◇   ◇   ◇

「……ダニー」
「ん? なんだ一寿」
 引き続き、男装してるとみられる女性の監視と注意を続けていた一寿がおもむろにダニーに訊ねる。
「一卵性双生児って……性別もまったく同じになるんだったかなぁ……?」
「……さあ? それにしても、さっきは随分あっさり手を引いたな」
 僅かな沈黙の後、スカート捲りをされた黒羽の悲鳴を思い出すと額を手で抑える。
「いや、何となく……罪悪感がね」
「そうか……罪悪感か」
 ポリポリと頭を掻きながら、監視を続ける2人だった。