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スイーツ攻防戦

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 第 5 章 -男の証明!?-

 
 彩々ではスイーツのメニューが一新したせいもあり、開店から盛況で客を案内する北都、オーダーを取る泰輔、スイーツの給仕と食器を下げたりしているクリストファーは忙しく走り回っていた。フランツとクリスティーも臨機応変に動き、中でもクリスティーの落ち着いた振舞いとボーイソプラノは評判がいい。
「クリスティー、フランツくんはそろそろ休憩に行っていいぞ。お目当てのスイーツにありつけなくなるだろ?」
「ん……だいぶお客さんも落ち着いて来たようだね、ボクはお言葉に甘えようかな。フランツさんはどうする?」
「それでは、僕もご一緒させてもらいましょう」


 クリスティーは王様イチゴの特大ショートケーキ、フランツはメニューを見ながら薀蓄を述べる。
「そういえばチョコレートのスイーツが意外と少ないですね……ウィーンのお土産では『モーツァルトクーゲル』というボール型のお菓子がありまして、一部ではそれぞれのカフェでオリジナルのものを……ん?」
 彩々の入口の方がなにやら騒がしい事に気付いたフランツがそちらへ視線を送ると、クリスティーもそれに倣って見てみた。

「だから僕は男だって言ってるじゃないか! どうして見てわかってくれないんだよ」
「んな金髪ポニーテールで、主張をされてもなぁ……ほんまに、女の子じゃないん?」
 松本 恵(まつもと・めぐむ)が泰輔へくってかかるように更に『男』だと言い張る。
「よし……じゃあ男だっていう証拠を見せるからね! これなら、どうだ!」

 ペ タ ッ

 恵は泰輔の手を取ると自分の胸に押し当てた。慌てる泰輔だったが、よく確かめてみると何もない、つるぺたである。

「……て、手触りがつまらんやないか!」
「つまらんてなんだよ! つまらんて!」
まだ続きそうな2人の攻防に北都が間に立った。
「もうその辺りにしましょう。疑って申し訳ありませんでした、すぐお席に……」
「あ、僕は食べに来たんじゃなくて買いに来ただけなんだ。ここってお土産用のラッピングもしてくれるのかな?」
 恵の言葉に、クリストファーが店長の青年に訊ねると快くラッピングを引き受け、手慣れた様子で完成させてしまった。
「王様イチゴの特大ショートケーキと、僕が勘違いしてしもたからな……お詫びにスパイスシフォンケーキを付けさせてもらったわ。あ、こっちのはお代には入っておらんから安心して下さい――ほんま、すまんかった」
「本当に申し訳ありませんでした、中にご案内してからでは僕達も言いづらく……」
 ラッピングされたケーキの箱を受け取りながら恵は店内を見回してみた。
「ふうん……そういえば、お客って男ばかりだもんね。男装して女の子が入り込むなんて考え付かなかったよ。僕も売られた喧嘩を買う真似してごめんね」
 『彩々』前で手を振りながら帰る恵を見送る泰輔達を壁から覗きみる人影があった。


◇   ◇   ◇


 恵と泰輔との一部始終のやり取りを見ていた影月 銀(かげつき・しろがね)ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)は二の足を踏んでしまっていた。
「……ねえ、銀。男の子っていう証明にあんな事しなきゃいけないのかな」
「いや、そんな事はないと思うが……どちらにしろ、男性だと思わせれば問題はないはずだ。念の為、ミシェルは喋らない方がいいな」
 コクン、と頷いたミシェルを後ろに彩々へ歩き出した銀の姿をみかけたローズは貴仁達と離れ、銀を呼び止めた。
「銀……銀でしょ?」
 驚きながら振り向いた銀に、ローズは人差し指を口元に当てて声を出さないようにしてもらった。ミシェルが一緒にいる事にすぐ合点がいったローズは2人を連れて貴仁達の元へ戻る。

「へー、ロゼや白羽だけじゃないんだなぁ…勇敢な女の子だ」
「えへへ、褒められる程じゃないよ」
 ヴァンビーノが感心していると銀がゴホンと咳払いする。
「それにしても、ローズまで男装して来ていたとはな。見事だよ、おそらくバレる事はないと思うぜ」
 総勢7人のパーティ(?)になった事で、マークも甘いのではという提案から固まって彩々へ潜り込もうとしてみた。

「万が一、疑われたら……?」
 やはり、多少不安なのかミシェルが小声で銀やヴァンビーノに声をかける。
「疑われたら…か」
 ヴァンビーノの視線が真っ直ぐに黒羽に向かうと、軽く指を鳴らして名案とばかりに回避策を披露する。
「あんたがもう一回スカート捲りされれば大丈夫大丈夫! ロゼもそのおかげで忍び込めたんだし、武勇伝になる!」
 びしっと指差された黒羽が再び涙目になるのを横目に貴仁がやんわりと止めた。
「それ、武勇伝になる前にそもそも披露出来るものじゃないですよ……ヴァンビーノさん」
 ローズも少々呆れ顔を見せながらミシェルに銀の後ろに付くように言うとゾロゾロと彩々へ入るが――

「ここが彩々ネ、道案内ご苦労」
 貴仁達を席へ案内しようとしていた北都は、現れたキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)に目が点になる。女装とも男装ともつかない姿に泰輔やクリストファーも困惑しているとシルクハットを取ったキャンディスが固まっている3人に案内を要求する。
「ミーの案内はまだかネ? 見ての通り男ヨ男、心配ご無用ヨ」

 男装をマークされる前にキャンディスのインパクトで皆、すんなり彩々に入る事が出来た。そして心の中でキャンディスに感謝する女性陣がそこにいた。