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双子の魔道書

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双子の魔道書

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第 1 章

 ヒラニプラとシャンバラ大荒野の間に建つ廃墟の一角に明かりが灯る。
「時間をかけて金 鋭峰(じん・るいふぉん)の信頼を得てきたというのに、面倒な制限をつけてくれたものだな……それさえ無ければもっと早く持ち出せたものを」
 室内には複数の人影があり、その中の一人が首謀者である研究者へ向かって言い放つ。
「魔道書の知識が引き出せるなら俺もそれに興味はある、協力はさせてもらうが相手はシャンバラ教導団だ……生半可な戦略じゃここは守りきれないと思うが?」
「そのために君達と契約したのだ、何とかしてもらわねば困るぞ」
 追手を退ける役目は任せたと言わんばかりに、拘束した青の書シルヴァニー・リードリットへ向かうと、シルヴァニーはご機嫌斜めといった風体で思いっきり顔を横に背けた。
「……あまり反抗的な態度は取らない方がいいと思うがね、物は試しで一つ命令をさせてもらおう。青の書よ、『標的全て狙う氷術の知識を解放せよ』」


 シルヴァニーは黙ったまま答える気配を見せず、やがてゆっくりと研究者へ顔を向ける。その表情は明らかにバカにしていた。
「で? それが命令のつもりか? あんた結構マヌケだな。足りないんだよ、口上が」
 その光景を見ていた佐野 和輝(さの・かずき)が仮面の下で思わず笑いを堪えつつ、禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)へ声をかけた。
「ここは魔道書同士、リオンに任せてみてはどうだ? 命令でなくとも知識を引き出せるかもしれない」
 バカにされた怒りで顔を赤くする研究者が掴んでいたシルヴァニーの胸倉を乱暴に離し、和輝とダンダリオンの書を交互に見遣ると「勝手にしろ!」と軟禁部屋を出ていってしまった。
「恥の上塗りをしただけであろう、あの男。さて……小僧、面白い存在ゆえ私が直々に話をしてやろう」
「小娘に小僧呼ばわりされる謂れはないんだけどな」


 スノー・クライム(すのー・くらいむ)を纏った和輝は教導団からの追手を妨害するため、廃墟にある設備を確認していた。
「まあ、それなりの機器は揃っている……ここにあるものだけでも奴らの情報を攪乱してこの廃墟の位置を特定されないだけの事は出来るだろう。しかし、命令するための口上がある事くらいは調べ上げていると思ったが……」
「仕方ないわ、和輝……アニス・パラス(あにす・ぱらす)も退屈そうだからリオンの護衛につけてあげたらどうかしら?念の為に賢狼もつけておけば、万が一教導団がここを突き止めても撤退の助けになるわ」
 仮面の下で思案する和輝はスノーの提案をのみ、アニスにリオンの傍で護衛するように伝えるとついでのようにスノーが付け加えた。
「良い子にしていたら、リオンが遊んでくれるわ。それまでは邪魔しないようにして和輝の言った通りにね……アニス」
 アニスがリオンとシルヴァニーの元へ向かうと、和輝は目の前の機械に触れる。
「知識を引き出すのはリオンに任せるとして……それまでの時間稼ぎをしなければな、手始めに無線傍受……それが済んだら教導団の端末にハッキングして情報の攪乱といこう」
 機器を前に無線暗号の有無を確認し、傍受するためのチャンネルを細かく合わせながらその作業に集中し始めた。



「だから言っておろう、その方式では魔力の属性を無視しておる。そんな事もわからぬのかこの小僧めは」
「さっきから小僧小僧とうるせえ小娘だな、言っとくが既に確立された魔法技術を底上げするための知識だ……方式に則っている知識ばかりじゃないんでな」
「青の書ってすんごい我儘だよね、でも2人とも難しい話してるからアニス眠くなってきちゃったぁ〜」
 2人の傍で欠伸を隠そうともせず、のんびりと文句を言ってみるアニスにダンダリオンの書があからさまに不機嫌な顔をする。
「貴様がグダグダと並べ立てるせいで!」
「俺のせいにするなよ!」
 和輝の頼みだから――と、アニスも飛び交う知識と時に2人の罵倒に付き合いながら、それは小休止に入るまで続いた。

(命令の仕方を知らずにいてくれたおかげで時間が稼げそうだな……イーシャン・リードリット、あいつなら既に動いているはずだ。金 鋭峰に知らせが届けばすぐに対策を講じてくれる。しっかし……こういうシチュエーションってどっちかというとイーシャンの方が似合うんだがなぁ)
 小休止で静かになった軟禁部屋の前には、ガラの悪い盗賊のような男が数名見え隠れしているのを目にしてシルヴァニーも溜息を隠せなかった。


 ◇   ◇   ◇


 研究者の座る机にはあらゆる書物が高く積まれ、僅かに空いたスペースには広げられた本が所狭しとこれも積まれている。
「くそ、命令に足りない口上があるだと……今からでは教導団に戻れん、何とか青の書から聞き出さなければ」
「わらわの依頼主と見受けるが、何か手違いでもあったか?」
 いつの間にか室内に居た辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)に声をかけられ、驚いて振り向いた研究者は扉の前に3つの人影を見るとゴクリと喉を鳴らす。
「依頼主……ああ、護衛に頼んだ裏稼業の者っていうのは君達か」
「間違いないようじゃな。良ければファンドラに青の書について知っている事を教えてやってほしいのじゃ、その代り教導団の追手は全力で阻止しよう」
 暗殺者らしく、スッと足音を立てずに姿を見せる刹那とファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)イブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)がそれに続く。
「青の書の知識か……? 何のために知りたいのか知らないが言う事を聞かせるには少々手違いがあった、だが単純に言えば既存の魔法……例えば標的を単一から複数にする事や攻撃力・防御力の底上げが主だ。未知の方式もあるために未だ研究は必要な書だが」
 ファンドラが室内を見渡し、ここにはないと判断すると刹那に並んで前へ出る。
「良ければ、後でその魔道書を見せて欲しいのですが……いいですか?」
 暫く考えた研究者だったが、上手く命令の口上を言わせるように仕向けられればとファンドラの申し出を承諾したのでした。