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双子の魔道書

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双子の魔道書

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第 2 章

 シャンバラ教導団で管理する魔道書が収められている部屋の前に立つルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は金 鋭峰の許可を取り、シルヴァニーが持ち去られた状況の検分に入っていた。
「……【サイコメトリ】を使ってみたけれど、顔はよくわからないわ。だけどコート? ううん……白衣かしら、そんなシルエットが残っているわね」
「ふむ……ルカ、犯人の顔なら監視映像に映っているかもしれない。そちらには先にセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が調べているはずだ、俺達も合流して確認しよう」

 セレンフィリティは管理部屋を出入り出来る者をカメラ映像と許可された者のリストを片っ端からデータと照合していった。地道作業だが昇進したばかりのせいか、やる気を見せる様子にセレアナはホッと一息つくとセレンフィリティが調べたデータと一致した人物を更に絞り込む。
「セレアナ、多分これだわ……この人」
 セレアナも確認しようと覗きこむと、ルカルカとダリルもやってくる。
「あ、丁度いいところに。当たりっぽい人を絞り込んだわ……これを赤の書に見せて間違いないかどうか確認してもらいましょう」

 出てきたデータと写真を4人で覗き込むと、シャンバラ教導団所属の研究者で名前はアンジャック・ソエリーと出たのだった。


 ◇   ◇   ◇


 赤の書 イーシャンの周りをこれでもかというように警備体制を強化し、四方を教導団の契約者達が彼を護るように立ち位置を確保していた。その警護にイーシャンも面食らってしまう。
「……あの、皆さんそんなに過敏にならなくても……」
「いや、このくらいは必要だ。まだ教導団に内通者がいるかもしれない、大体青の書だけ持っていってイーシャンさんだけ残しておくのは不自然じゃないか。……あのさ、双子の兄弟の事、気にかかるかもだけど君まで攫われたら困るんだ」
 カル・カルカー(かる・かるかー)の言葉にイーシャンも反論する言葉がなく、大人しくイスに腰掛ける。そのイーシャンの目の前に10歳くらいの少女がトコトコと近付いた。
「……わたくし、犯人に一言言ってやりたい事がありますの。なぜ……なぜ……」

「なぜ、わたしくじゃありませんのー! お役立ち魔道書といえば、わたくしだってーーー」

 イーシャンが目を点にし、源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)が額を抑えてしまう。
「……というか、攫われたかったのかよ」
「そういう問題ではありませんの〜〜!」
 鉄心がぽつりと呟き、地団駄を踏むイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の頭を撫でながら宥めようとするティーに続いて、イコナの目線に合わせて膝をつくイーシャンが静かに諭した。
「でも、攫われたら君のパートナーの方も仲間もすごく心配する……それはわかってくれるかな? それに、敵中に君は一人だ……そんなの怖いだろう?」
 容易に想像出来たのか、コクンと頷くイコナの肩をポンと叩くと柔らかく微笑むイーシャンの肩を続けてポンと叩く手があった。
「イーシャンって結構熱い男だね、よし! 青の書奪還は俺に任せておけ! 団長からの任務だし、ちゃちゃっと行って取り返してくるぜ」
 シャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)が今にも飛び出しそうにすると、ナオキ・シュケディ(なおき・しゅけでぃ)もそれに続こうとする。
「ちょ、俺を置いてくなっ!」
「……あなた達、少し落ち着きましょう。第一ルー少佐がまだお戻りではありませんよ、飛び出してどこへ行こうというのですか……?」
 ジョン・オーク(じょん・おーく)がカルの横に立ったまま、穏やかに微笑んで2人を止める。何となく、逆らえない雰囲気を察したシャウラとナオキはすごすごと元の位置に戻った。
「そういえば……一つ、確認したい。それがしが思うに赤の書は教導団内に留まった方が安全と思うが、赤の書の意志はどうなのだ?」
 夏侯 惇(かこう・とん)が唐突に訊ねると、それに続いてドリル・ホール(どりる・ほーる)も同じことを訊ねる。
「そうだなぁ……双子の兄弟が離れてんのは不安だろうけど、会えるようにオレやみんなが来たんだから、心配しないでここに居たらどうだろ?」
 イーシャンへ視線が注目する中、彼が答える前にルカルカ達4人が戻ってきた。


「犯人を大体絞り込んだんだけど、その中で許可を得た者の中に……今日は欠勤していて連絡が取れない研究者が一人いるわ。この人なのだけど、青の書を持ち出した人に間違いない?」
 セレンフィリティが持っていたファイルと写真をイーシャンに見せるとみるみる顔色が変わる。
「この人……そうです、この男です!」

 犯人の顔写真を順番に回していくと、カルが写真を見ながら呟いた。
「もしかしたら、まだ教導団内にスパイが潜伏してるかも……こいつの直属に付いてたやつとか調べれば出てきそうだ。そいつらからアジトの場所もわかるかもしれない」
「それもあるけど、確か知らせに来た海はイーシャン……あなたの声を夢の中で聞いたと言っていたわ。もしも可能なら、夢の中で語りかけたように青の書と何らかの意思疎通は出来そう……?」
 セレアナが訊ねるとイーシャンは申し訳なさそうに首を横に振る。残念そうな溜息があちこちから洩れると、俯くイーシャンにルカルカが視線を合わせた。
「大丈夫よ、ああ…そうそう赤の書って名前っぽくないからロートはどう? ドイツ語で‘赤’て意味なの」
「ロート……いいですね、カッコいいです」
 漸く笑顔を見せたイーシャンだが、俄かに隣の部屋が騒がしくなる。高円寺 海(こうえんじ・かい)が待機していた部屋にはイーシャンが夢の中に送った声を聞き、シャンバラ教導団へ赴いた契約者達が集まり始めていた。