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はじめてのごしょうたい!

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はじめてのごしょうたい!

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■ はじめてのごしょうたい!(1) ■



 今日は大好きな人達を呼んでのバーベキュー会。
 主催する子供達は日が昇るよりも早く起きだし食堂で書き物をしていた破名・クロフォード(はな・くろふぉーど)を酷く驚かせた。



「呼んでくれてありがとうね! 今日はお呼ばれに来たよ」
 朝早くから大荒野にある孤児院『系譜』に訪れた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、ただ招待されるのもこんな時間に来てしまったしとキマク商店街へと出発するバスに他の契約者達と共に乗り込んだ。
「わぁ。結構お店多いね」
「そうですね」
 バスを降りて見渡す美羽に頷くベアトリーチェは後続に振り返った。バスの運転手と一言二言交わした手引書キリハ・リセンがその視線に気づく。
「迷子注意報ですね」
「ですね。以前に来た時も子供達がはしゃいでまとめるのが大変でしたので、小鳥遊とアイブリンガーや他の方にご迷惑をおかけするかもしれません。それと、アイスボックスは私が持ちます。買い付けリストは王に渡してありますので買い物はそちらに聞いて下さい」
「最初から決まっているんですか?」
「一応は、ですね。自分が食べないからか子供達が口にするものについて気にする人がいるので。もし何か買いたいものがあれば一声かけていただければと思います」
 買い物にキリハが同行したのはそれが理由らしい。ベアトリーチェからアイスボックスを貰い受け、キリハは子供達を呼び集め始めた。
「私達が作ったバーベキューコンロ使ってくれてるんだね」
 話題を振った美羽に王 大鋸(わん・だーじゅ)は「らしいな」と使用頻度を思い出した。
「何かと使ってるみたいだ。あいつらコンロを使った芋焼きを『外食』って言ってたぞ」
「それって外食って言うの?」
「と思うが、実際の外食をさせるにはちと人数が多いからな。誰かの苦肉の策かもな」
「ね、ね、ダーくん。さっき言ってた買い物リスト見せて! 先に野菜から買おうよ」
 紙を広げた大鋸達にベアトリーチェは「美羽、こちらのお店が安いですよ」と、料理人ベアトリーチェが食材選びは任せてくださいと声をかけた。
 同じく買い出しに同行していた綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は、露店の商品に興味を覚え爪先を向ける子供の腕を取った。
「ほら、迷子になるから、遠くに行かない」
 綺麗なお姉さんに注意されて、腕を掴まれ驚いた子供は、ぽーっと顔を赤くさせ、こくりと頷く。
 団体で行動しているのだ、単独は許されない。
「素直でよろしい」
 列に戻る子供を見送り満足にどれ他の子はどんな感じかしらと右掌を目の上に翳し監視に視界を広げるさゆみの下げられた左手をアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は優しく手繰る。
「さゆみ……」
 迷子の心配をするのはどちらか。静(しず)とした声に問われてさゆみは絡むアデリーヌの指の感触に「あー、うん」と軽く濁した。離れては駄目よと約束を求められ、さゆみはアデリーヌと恋人繋ぎに、これなら迷子にならないわと握る手で返した。
 さゆみ、アデリーヌの二人が大学生活とシニフィアン・メイデンの活動で忙しいと知っている守護天使のニカは、きっと無理矢理スケジュールを空けてくれたのだろう二人の睦ましい様子にどう声を掛けていいかわからなくなった。綺麗で愛らしく作り上げられた雰囲気はこちらの顔を赤くさせてしまうくらい、ドキドキとするほど魅惑的だ。
「ね、これなんかどう?」
 割り込めずうだうだしている所にさゆみから振り向きざまに伺いを立てられてニカは思わず「ひゃ」っと声を漏らした。
「ん、どうした?」
「あ、いえ。そうですね」と、大鋸が持っているのと同じ内容が書かれたメモ紙を広げた。広げて唸るニカにアデリーヌは「貸してくださいまし」とメモ紙を貰い受け、読み、ニカに視線を戻した。
「ニカ、あなた文字は読めまして?」
「はい」
「では、食材がわからないと解釈していいかしら?」
「わかるのとわからないのがあります」
 ニカの返答に、だから唸ったのかと合点がいったさゆみは手招きに子供達を店の前に並ばせた。
「皆で買い物だもんね。自分達で買いたいでしょー?」
 何が始まるのかとさゆみに注目する子供達に彼女が問いかけると、彼らは一斉に元気な声と共に両手を挙げた。
「今から私が名前を読むから自分達はどの野菜の名前か当ててみようか!」
「はーい!!」
 自主性を尊重しつつもこれなら、監視の目は行き届く。曲りなりもキマクの商店街だ。間違って『自称小麦粉』を高値で押し売りされたり、子供達が間違って興味を持ったりせずに済むだろうし、何より食材の名前と形を一緒に覚えられるだろう。
 手は繋いだまま、クイズ大会みたいなノリで司会者ばりに子供達を誘導するさゆみの横でアデリーヌは店の人間が子供相手だからとぼったくったりぱちもんを売りつけないように目を光らせていた。場合によっては「教育的指導」も辞さない。
「おはよう。今日は招待ありがとう」と早朝の慌ただしい中ひょっこりと顔を出した黒崎 天音(くろさき・あまね)は、大人組への挨拶を終えてもおおわらわな子供達にクスリと笑い、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と共に買い出しに参加していた。
「にしてもバーベキューが芋焼きなんてひどい話だよ」
 出かける前に破名へと招待状を読んだ時の疑問を投げかけてみれば、燃える炭の中へアルミホイルに包んだ根菜を投げ入れるのだと答えが返ってきた。網とか鉄板とかを使うとか以前の問題である。食材が足りないとかの事情の結果なのだろうが、思い出しても苦笑を禁じえない。
 少しだけだがとブルーズが差し入れた肉に子供達が盛り上がっていたなと、ついでに思い出す。
「あまねー、そんで、これどーするのー?」
 呼ばれて天音は膝を曲げて野菜と果物を片手にそれぞれ持つ子供と目の高さを揃えた。
「お店の人にお金を払って買うんだけど……ちょっと計算しようか」
「けいさん?」
「そうだよ。計算。わかるかな?」
「わかるー」
「よし。じゃぁ、挑戦。今持っているこの野菜とこの果物を買ったら、お釣りはいくらかな?」
 系譜の子供達は実年齢や外見年齢に対して精神年齢が軒並み低い。一概に学力や教養が足りないとは言い切れないが、一因であるのは確かだろう。
 今日初めてお金に触れる子供が居たりして、計算させるのも少し早いのではないかと思わなくもないが、金銭を誤魔化さたりされないことも含めて天音は必要最低限の足し算引き算は覚えるべきと考えている。生きていく上で特に重要だと。
「出来たー! おつりはこれだけ!」
 実際にお金を使って計算して弾き出された答えに天音は「じゃぁ、検算……間違ってないかもう一度確かめるために計算しようか」と算出された数値が間違っているとは指摘せずに、子供の自主性を尊重させ、自分が間違っていることを気づかせて修正できるように誘導した。
「天音ー、ピーマン嫌いー」
「じゃぁピーマンはやめておこうか」
 好き嫌いの話が持ち上がった。天音達の会話は、賑やかなキマク商店街で迷子が発生しないように目を光らせていたパートナーの耳にも届いた。ブルーズは客引きの声や屋台から風に乗って運ばれてくる匂いにここも品物が増えて豊かになったなと目を細めることをやめる。
「ピーマンはバーベキューの重要な彩りだぞ。
 天音も自分が嫌いだからとよけるんじゃない」
 天音含め一人ひとりの顔と目を見て言ったブルーズは避けられたピーマンを掴み、店員と一言二言交わし、苦味の少ない実がそちらにあるとわかれば交換して購入を決める。
「あれ、陽一じゃね。陽一、陽一ぃ!!」
 商店街を訪れていた酒杜 陽一(さかもり・よういち)に気づいてい、一人が声を張り上げ、呼び声と共に大きく両手を振った。
「なにやってるんだ?」
「買い物ー!!」
 駆ける勢いのまま報告を受けて陽一は首を傾げた。
「院でバーベキューやるんだ! 陽一の家に招待状送ったけど届いてなかった? ていうか今暇? 来てよ!!」
「まぁ、予定は特に無いけど……招待状?」
 詳細を聞けば院でお世話になった人を集めてバーベキューをするのだという。招待状が手作りなら住所書きも子供等が行ったということで陽一の手元に届かなかったのはどうやら住所を書き間違えたらしい。しかも戻ってこなかったということは何かしらトラブルも発生したようである。
 何にせよこんな場所で出会ったのは何かの縁だからと陽一は招待を受けることにした。
「買い物が初めてなんて……俺が初めて買い物した時はどんなだったかな。忘れたな……」
 初めて触るお金に、一枚の価値がまだ把握できていないのか今いくらあるのか何度も計算しては間違う子等に陽一はなんとなく不思議な気分になっていた。
 自分と違って初めて買い物をした日をこの子等が忘れること無く覚えていられるなら、良い思い出にしてあげたいと思う。ただ、単純なお使いではなく子供達全員が主催者らしいので、できるだけ手を出さないで任せていたほうがゲストの礼儀かと、陽一の中で意見が割れた。結論、どうしても上手くいかない場面に出くわした時ヘルプされたら手伝おうと決める。
 増えていく荷物に、多くなるようなら従者やペットを動員して手助けしようか陽一が考えるようになった頃、キリハが近寄ってきた。
「あの、酒杜。お聞きしたいことがあるのですが」
 なんだろうと身長差でキリハを見下ろす陽一に、魔導書は「お米を売っている場所はわかりますか?」と問いかけた。
「米? んー、キマクじゃお米は難しいんじゃないか?」
「その、やみいち? には置いてあると聞いたのですが」
「キリハ……」
 魔導書の現代知識は妙な偏りがあると陽一は呆れた。
「少し探そうか?」
「お願いしてもいいですか?」
 食材選びのコツをレクチャーしつつ必要な物を購入し、ベアトリーチェは最終的なチェックを終わらせ「では、帰りましょう」と集合をかけた。
 ジュースは子供達に、ビールケースは大鋸に、デザートアイスが入ったアイスボックスは最初からキリハが持っていたか。それぞれに役目を渡し、自分は野菜の入った袋を持った。
 牛や豚、鶏と肉が入ったものは美羽が持ち、それぞれがバスに乗る。
 早く帰って食べられるように準備してもらわねばならない。