空京

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戦乱の絆 第2回

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戦乱の絆 第2回
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リアクション


イアン・サール

薔薇学生の鬼院 尋人(きいん・ひろと)
パートナーの呀 雷號(が・らいごう)は、
東の量産イコン、センチネルに搭乗するため、基地にやってきていた。
鏖殺寺院の機体であるシュヴァルツ・フリーゲに乗る、
イアン・サールに、出撃前に接触する。

周囲に人気がないのを確認してから、
尋人はイアンに挨拶する。
雷號は、薔薇の学舎以外の人間にパートナーが近づくことを訝しんだが、
止めることはなく、何か考えがあるのだと納得していた。
「東シャンバラの生徒として、
機会があれば一度イコンに乗ることも必要かと考えていた。
イコンは初めてだから、操縦などに関してアドバイスを受けられないかな」
制服のボタンを外して、誘うように、尋人は上目づかいにイアンを見る。
多くの少年をパートナーにしていることから、イアンを少年好きと考えての行動だった。
しかし、尋人のしぐさはいかにもぎこちない。
「ふふ、わかっているじゃないか」
だが、かえってそれがイアンの気を引いたようであった。
イアンは、尋人の制服のボタンをさらに外して素肌をさらさせると、耳元でささやくように言う。
「東洋人もたまには悪くないな。お前も強化人間にできるなら、
同乗のパイロット用に“つけかえて”やってもよいのだがな」
「つけかえる?」
「そうだ。私は定期的にパートナーの強化人間を取り換えている。
あの少年達は特殊な処置を施してパートナーロストの影響を低くしているのだ。
もっとも、すぐに死んでしまうのだがね。
……パートナーを長期間、同じ相手にするのは不潔だから好都合だが」
イアンは、尋人の肌をさわりながら言う。
予想外の残虐な発言に尋人は声を震わせないよう、慎重になりながら、
もうひとつ、聞きたかったことをたずねる。
「あんたなら、あのゴーストイコンを操っている者のことも知っているんじゃないのか?」
「ふむ。もしかしたら……」
イアンは、一瞬考えこんだが。
「いや、お前に話す必要などないな」
尋人から視線を外し、イアンは身体を離す。
「これから出撃だ。体力を使うわけにもいかないのでね」
イアンは立ち去って行き、取り残されて緊張の糸が切れた尋人の身体を、雷號が支える。



周囲に他の人影がない場所で、
同じ薔薇学生のクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が、
イアンの前に現れる。
後ろにはクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が、
離れた場所で立っている。
「俺もあなた方の護衛をさせてもらうよ」
「あなた方だと?」
「……パートナーの強化人間達はシュメッターリングに乗ると聞いたけど?
彼らの護衛をさせてもらおうと思って」
「好きにするがいい」
クリストファーは、イアンに信頼されないまでも道具として利用できると思わせればと考えていた。
「ところで、アフリカ系鏖殺寺院ということだけど、
系列はどうなっているんだ?
それから、エリュシオンとの親交の深さだけど……」
「フン、色々聞きたいようだが?
どうして私がそれに答えねばならない?
一言言っておくが、我々はかつての鏖殺寺院とは違う。
地球規模のより強大な組織になっている。
それに……まあ、このへんにしておこう」
クリストファーの質問を、イアンは打ち切る。
クリスティーは、イアンの肉声を砕音に転送して何か情報が引き出せないかと考えていた。
クリストファーとの会話は録音できなかったが、
整備士に指示を出している際のイアンの声を録ることはできた。
(相棒もなんだか怪しいけど……。
砕音にメール、声紋が環菜暗殺犯と一致はないと思うけど何か情報でないかな?)
クリスティーは砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)にメールを送信したが、
砕音もイアンに関しては一般的な情報しか知らないという回答だった。



和泉 直哉(いずみ・なおや)
和泉 結奈(いずみ・ゆいな)も、
イアンに出撃前に接触し、会話していた。
「あんたがイアン・サールか。まさか、パイロットとしても出撃するとはな」
「以外そうだな。契約者は戦闘能力も高くなるのだ。生かさぬ手はあるまい」
「兄さん、イアンさんに失礼だよ」
直哉がイアンの機嫌を損ねないように、結奈は注意する。
しかし、強化人間である結奈にとって、イアンのパートナー達のことは良い気分のするものではない。
(兄さん、この人なんだか嫌な感じがする……)
結奈は、精神感応で直哉と内緒話をする。
(たしかにそうだけどな。重要な情報が得られるかもしれないだろ?)
直哉は、尊大な態度のイアンにさらにたずねる。
「パイロットとして出撃するからには、
もしかして、ゴーストイコンに対しての有効な手段を知ってるのか?」
イアンは鼻で笑う。
「愚鈍なイコンだ。そのまま潰せばいい」
(つまり、力押し以外考えてないってことかよ)
直哉は、警戒しつつも、同行することにする。



赤羽 美央(あかばね・みお)と、
パートナーの魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)は、
イアン・サールの護衛を申し出ていた。
「イルミン所属の私が護衛として同伴します。
ゴーストイコンが来ても、聖騎士たる私ならば貴方を護る事は可能でしょう」
美央は、イアンや鏖殺寺院のやり方には嫌悪感を抱いてはいたものの、
この作戦での本当の狙いを見定めるために、イアンに同行を申し出たのだった。
「フン、断る理由は特にないな。
せいぜい、役に立ってもらうとしよう」
若干13歳の少女である美央に対して、イアンは露骨に馬鹿にした態度を取る。
もっとも、美央にはゴーストイコンと生身で渡り合える実力があるのだが。
「……雪だるま王国の名にかけて」
いつもよりさらに気持ちを表情に出さずに、美央は答えた。
魔鎧形態で、美央に装備されている『サイレントスノー』は、イアンから離れたところで言う。
「東の生徒用のイコンは鏖殺寺院が用意したものなのだろう。
となれば、上層部と何らかの協定が結ばれているのは確実。
ならば我々の護衛の申し出は簡単には断れぬだろうと思っていたが、そのとおりだったな。
だが、なぜ鏖殺寺院と?
シャムシエルのロイヤルガード入りと言い、エリュシオンから圧力でもあったのか……?」
「もし、手のひらを返したら、逮捕術で一人でも捕まえます。
なので、その時は……」
「ええ、私の力を存分に使いなさい」
ヴァーチャースピアを握りしめる美央に、『サイレントスノー』は答えるのだった。



こうして、一行は、イアンとともに出撃した。
イアンはシュヴァルツ・フリーゲに、強化人間を一人連れて搭乗し、
他のパートナー達は、一人ずつシュメッターリングに乗せられていた。

グンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)と、
パートナーのプルクシュタール・ハイブリット(ぷるくしゅたーる・はいぶりっと)は、
鏖殺寺院パイロットにしてほしいとイアンに申し出て、センチネルで戦闘に参加していた。
「ろくりんピックのテロの犯人をパイロットにするなんて……」
美央達は警戒する。

綺雲 菜織(あやくも・なおり)
パートナーの有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)も、
イアンに護衛として同行していた。
「貴方が東に技術提供をしてくれた方だろうか?」
イーグリットから、菜織はイアンのシュヴァルツ・フリーゲに通信を入れる。
返答はなかったが、菜織は相手への敬意を保ったままで言う。
「協力に感謝する。ご武運を」
菜織は、地位の高いイアンから返答が帰ってくることは期待していなかった。
「どいつもこいつも私に気安く話しかけてくるものだ。身の程を知るがいい」
イアンは、馬鹿にした態度で言う。
しかし、菜織は、今回の戦いで、イアンが撃墜されてしまえば、東側も困るだろうと考えて、
イアンの部隊が危険にさらされた際には護衛をしようと考えていた。
(背後も警戒しましょう。
『誤射』も有り得るでしょうから。
彼もその対象ですね。
万一の場合は、こちらで防ぎます。腕の一本を盾にすればいい。
何よりそれを理由に東西への波紋は防がねばなりません)
精神感応で美幸に注意を促され、菜織はうなずく。
(ああ、討ち漏らしが招いた結果だが、
東も西もなく共に轡(くつわ)を並べる事はやはりうれしいものだ。
それが、覆されることがあってはならない)
生真面目な性格の菜織は、そう答えた。
「まあ、いつもココロに余裕を持っていたいものだ」
半ば独り言めいた菜織の言葉に、美幸は微笑を浮かべた。