空京

校長室

終焉の絆

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終焉の絆
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ドワーフ廃坑道に潜む光と闇 1

 坑道内。
「イコン部隊が壊滅した! あの能天気な日和見主義の奴等が来る前に光の少女を見つけ出すぞ! 進めー!」
 入り口にはまだ多くの教徒たちがいた。これから大規模な捜索を開始するのだろう。
 しかし、それを止めようとする蔵部 食人(くらべ・はみと)が単身、乗り込む。
「うおおおおおおおおお!!」
 機晶マウンテンバイクに乗って。しかしその速度たるや何ぞや、と言いたくなるほどに速い。
 それもそのはず、魔装飛槍ヴェイエル・キホーテ、機晶アクセラレーターを四つ併用しているのだ。恐らく、世界で一番速いマウンテンバイクだろう。
 おまけに魔鎧でありパートナーの魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)を装備している食人の出で立ちはほぼフルアーマー。ダメ押しにメンタルアサルトを発動済み。
 そして完成したのが『十秒間、小型飛空艇の約8倍以上の速度で、行動予測困難なフルアーマーの男が爆走してくる』という状況だ。
 死すらも恐れない教徒たちではあるが、あまりの理解不能さと気迫に足が竦む者もいるだろう。
「……とうっ!」
 最後には空飛ぶ魔法↑↑で教徒たちの頭上を風を切り裂きながら飛び、教徒たちの前へと回り込む。

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!

 自転車を無理やり止める食人。
「あ、相手は一人だ! 数で押し、抹殺しろ!」
 押され気味だった教徒たちだがどうにか気を持ち直して、食人へと群れを成して襲い掛かる。
「……守るべきは『この坑道の入り口』、それが、チャリで来た俺の最初で最後の使命だ!」
 極めた武術と熟成させた知略を持つチャンピオンが使える必殺の技、サクロサンクト。
 その上で、潜在能力を解放させて限界以上の身体能力を獲得した食人の前に、教徒程度が群れになっても敵うわけもなく、
 敵は地面を転がり、空中へ打ち上げられて、果てには外へと吹っ飛ばされる者もいた。
「ここは俺が引き受ける! 行ってくれ!」
 食人の言葉を聞き入れて、続々と契約者たちが坑道内の捜索へ向かう。
 それを教徒たちが必死に止めようとするも届くことはない。眼前に立つ食人をどうにかしなければ、止めることどころか進むこともできないのだ。

「あの人、すごかったなぁ……」
「歴戦の武士か、それ以上の気迫、見事であったな」
 食人の行動を見ていたカル・カルカー(かる・かるかー)夏侯 惇(かこう・とん)がそれぞれの感想を漏らしながら、坑道内部を調べていく。
 それを手伝うのはカルに従う部下十名と、後方支援を行っていたヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)ウィリアム・セシル(うぃりあむ・せしる)だ。
「手伝ってもらっちゃって、すいません」
 カルの申し訳なさそうな声に、ヴィナは優しげな笑みを返す。
「いえ、こちらも手伝ってもらいましたから、お互い様ですよ」
「そうですよ。カルさんのリストアップ、書類整理の手早さ、非常に助かりました」
 ヴィナに続いてウィリアムがカルに謝礼を述べる。
 ヴィナとウィリアムはこの作戦に参加し、坑道探索を行う契約者及びパートナーたちを学校別にリストアップ、
 そうすることで通信網を構築しつつ情報整理を行い、内通者やそれに準ずる者がいないかを洗い出していた。
 これだけの大きな作戦になれば全ての人間を網羅するのは難しくなり、
 予期せぬ行動を取る者がいた時に対処が出来ない可能性もある。その芽を潰すべく行ったことだ。
 それを聞きヴィナたちの手伝いを行ったのがカルと惇。
 彼等の目的も少女を探し出すということがメインではなく、坑道内部の全体像の解明が主な目的だった。
 これについては実際に坑道内に入ってからの作業になる。既に他の契約者にも協力するよう通達済みだった。
 その間、余った時間にヴィナたちを手伝っていた、ということだ。
「おまけに部下の方たちに医療班を兼任して頂けるとは、感謝しつくしてもしつくせません」
 ウィリアムの心からの感謝に、カルが頭をかきながら照れる。
「い、いやそんなことないですって! 本当は医療班も兼任じゃない方がよかっただろうし」
「いっぱしに謙遜か? カルらしくもないな、ハッハッハ!」
「う、うるさいっ!」
 戦場には似つかわしくないが、それはそれは和やかなムードだった。
 だが、部下の悲鳴によりそのムードはかき消される。
「うわああああ!」
「!? どうした!」
 カルやヴィナたちが悲鳴が聞こえた方へと駆けて行くと、そこには腕から血を流している部下の姿があった。
「何があった?」
「ひ、一人でこの辺を探していて、いざ戻ろうとした時に、急に激痛が走って……そしたら腕から血が……」
「……何かに引っ掛けたのか? この辺は暗いからよくわからないが」
 しかし腕の流血は止まらない。こんな形で早速医療班が役に立つ。
 それ以降、暗がりに入る際は二人一組で調査するようにカルが指示を出す。
「……ちっ」
 誰かが、舌打ちをしたような、気がした。

「探検探検〜♪」
「えっ、探検って……」
「えっ、違うの? 探検するんじゃないの?」
 のんびりと探検する気満々の及川 翠(おいかわ・みどり)に驚きを隠せないミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)
「翠、絶対目的勘違いしてるでしょ?」
「目的って……探検して、坑道の地図を埋めるの! それくらいわかってるの!」
 確かに、カルたちはそれを目指して行動をしているが、
 どうも翠は地図の作成を、楽しみながら行うようにしか見えない。
「……じゃあせめて、この辺を動き回ったデータは皆さんに転送しようね」
「は〜いなの! えへへ〜ドワーフさんいっるかな〜、なの!」
 一人でずんずんと先へ行ってしまう翠を慌ててミリアは追いかける。
 ただこの翠の冒険もカルたちが役に立てるのだから、無駄にはならないだろう。