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第三章 ゆるスターとゆかいな仲間たち 1

「ゆるスターって可愛いですよねえ」
「ふーん……」
 とろけそうな顔でゆるスターを見つめる菅野 葉月(すがの・はづき)と違い、パートナーのミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は関心のなさそうな声で答える。
「ね、抱っこしてみたいって思いません?」
「ワタシは別に……」
「あ、抱っこしたいなら、出しますよ」
 とことことセルフリーネが歩いてきて、葉月に声をかけた。
「セルフリーネ・イキシア……」
 葉月に新しい友達が出来ると、つい嫉妬しがちなミーナは、セルフリーネをあまり好意的ではない目で見た。
 しかし、葉月はそれに気づかず、セルフリーネの言葉をうれしそうに受け入れる。
「わあ、それじゃ、抱かせてくれますか?」
「はい、もちろんです!」
 セルフリーネは元気に応じ、小屋を開けようとした。
 しかし、小屋の建てつけが悪く、なかなか扉が開かない。
「開けてあげるよ」
 すっとセルフリーネの頭の横から手が伸び、弥涼 総司(いすず・そうじ)が扉を押した。
 総司が押すと、扉が簡単に開いた。
「ありがとう」
 セルフリーネが総司にニッコリと微笑む。
「あ、うん……」
 素直に礼を言われて、総司が少し照れる。
 その様子を見て、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が笑いながら割って入った。
「あ〜、なんか顔を赤いぞ〜。あやしいなぁ」
 大きなリボンで束ねたツインテールの緑髪を振りながら、美羽が総司につっこむ。
「な、何があやしいの?」
「ちょっと今、セルフィのこといいな〜って思ったでしょ」
 クスッと笑いながら、美羽がセルフリーネのことを指さす。
「だ、誰がそんなことを」
「え〜、何? まさかセルフィじゃ不満だっていうの?」
「そ、そうじゃなくて……」
「もう、美羽さんってば」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が美羽をたしなめ、美羽はペロッと可愛く舌を出し、総司につっこむのをやめた。
 セルフリーネがゆるスターを出してくると、緋桜 ケイ(ひおう・けい)も喜んでやってきた。
「なあなあ、俺にも触らせてくれよ」
「うん、いいよー」
 美羽にゆるスターを渡し、さらにケイの手にもセルフリーネはゆるスターを渡した。
 小さくてふわふわとしたゆるスターが手にのり、ケイは思わず頬ずりする。
「イルミンNo.1のウィザードも、ゆるスターにはデレデレか〜」
 美羽にくすっとそう言われ、ケイは慌てて、ゆるスターから顔を離した。
「ば、バカヤロウ! 小さいものを可愛いと思うのは、人として当然だろう!」
 ケイは照れ隠しのために、総司も巻き込んだ。
「いや、オレはケイさんほどには別に……」
「抱きたいよな! 遠慮しなくていいんだぜ!」
 自分の恥ずかしさを隠すため、必死にケイが総司に押し付ける。
 そんな姿を見て、みんな楽しげに笑い、ゆるスターの警備は明るく進んでいった。



 ゆるスターの警備は昼だけでなく、放課後も続いた。
「あら、大丈夫ですか? セルフリーネ」
 昼だけでなく、放課後もいるセルフリーネを見て、百鬼 那由多(なきり・なゆた)が心配そうに声をかけた。
「シフト組んでますでしょう? 誰かがちゃんと小屋の見張り番はしてますから、休んだ方がいいですわよ」  
 アティナ・テイワズ(あてぃな・ていわず)もセルフリーネをなだめる。
「あー、無理無理。言っても聞かないですよ」
 背の高い蒼空学園の生徒がやってきて、那由多たちを止めた。
「安曇くん」
 那由多の言葉通り、やってきたのは安曇 真幸(あずみ・さねゆき)だった。
 爽やかな騎士の青年は、精悍な顔に小さな苦笑を浮かべながら、小さく首を振った。
「同じように説得しましたけどね。セルフリーネは全然引いてくれないんですよ。もうあきらめました」
「そうなんですか、でも、安曇くん」
「ん?」
「そんなゆるスターべったりな姿を見ても、あまり説得力がない気が……」
 肩に乗せたゆるスターを可愛がる姿を那由多に見られ、真幸は慌てて自分の行動を弁解した。
「い、いや、俺がゆるスターをってわけじゃ。そりゃかわいいけど……いやいや、陽奈さんが気にしているから、俺はゆるスターを守りに来ただけなんです!」
 パートナーの市原 陽奈(いちはら・ひな)を真幸は指し示す。
 陽奈の方は、真幸のように照れるでもなく、うれしそうにゆるスターを撫でていた。
「だって、こんなに可愛らしいんですもの。でも、可愛らしいからこそ、から揚げにされちゃったりしたら、かわいそうです……。それに……」
 すっと陽奈はセルフリーネの方を見た。
 腰まである長い髪をした小さな少女を、陽奈は心配そうに見つめる。
「健気にゆるスターたちを守ろうとするセルフリーネさんも放っておけないから、だから来たんです」
「はいはい、分かってますよ。がんばりましょうね。これだけ仲間がいるんですから」
「仲間はビックリするほど多いわよね〜。あ、私にもゆるスター貸して貸して〜」
 ひょいと手を出してきたのは、白波 理沙(しらなみ・りさ)だった。
 蒼空学園の生徒にとって、やはりゆるスターは珍しく、みんなのアイドル的存在だった。
 理沙もちょこちょことしたゆるスターを愛しげに見ている。
「ちょっとでも、ゆるスターってセルフリーネさんに似ていない?」
「そうでしょうか?」
 小首を傾げるセリフリーネに、理沙はうんうんと頷く。
「うん。がんばってるんだけど、なんだかあんまり戦いに向いてなさそうっていうか。あ、でも、チェルシーも戦闘に向いてなさそうで意外と頑丈なのよね」
「わたくし……でございますか?」
 理沙の言葉に、シャンバラ人のチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)は不思議そうに尋ね返す。
 ラベンダー色に近いピンク色の髪をした、甘ロリ系ファッションのシャンバラ人の女性は、どこから持ち出したのか、豪奢な布のクッションを手に、寝る気満々の姿勢をしていた。
「……何してるの、チェルシー」
「え? 何って、ご覧のとおり、お昼寝の準備ですわ」
「ご覧の通りって言われても……」
 理沙は何かつっこみたそうに、チェルシーを茶色の可愛らしい瞳で見つめるが、チェルシーは日に焼けないように日傘を差し、クッションを抱えて、準備万端で目を閉じた。
「ゴブリンさんの襲撃っていうのは、夜に決まってますわ。ですから、それまでは体を休めませんとね。それでは皆さんごきげんよう」
 貴族のお嬢様らしい振る舞いで挨拶をし、眠ってしまったチェルシーを見て、理沙は自分の頭にあった考えを自ら否定した。
「うん、セリフリーネはこれほど図太くない。きっと……」
「どうかしましたか? 理沙さん」
「ううん。何も気にしないで、セリフリーネ」
 理沙は不思議そうなセルフリーネの肩をポンと叩く。
「今日はでも、この様子だとゴブリンの皆さんは来なさそうですわねぇ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が乳白金のロングウェーブの髪を靡かせながら、歩いてくる。
 隣に純白のドレスを着たセシリア・ライト(せしりあ・らいと)を連れているので、なんだか雰囲気がとても豪奢に見える。
「……なんだか妙に華やか過ぎるんだけど、このゆるスター小屋」
 理沙自身も相当な美少女なので、なんだか今日のゆるスター小屋は妙に美々しい。
 ここに来るのがゴブリンではなく、単に男子生徒だったら、さぞ大喜びだろう。
「牧場警備組に頼んで、赤外線センサーとかを借りておきましたわ。ゆるスター小屋に設置しておけば大丈夫でしょう」
 メイベルが持ってきたセンサーを、みんなに手伝ってもらって設置する。
「ところで、これで全部なのかな? ゆるスターを守る人たち」
 セシリアの問いに、セルフリーネは小さく首を振る。
「いいえ、から揚げ班の皆さんがいらっしゃいます」
「から揚げ班?」
「はい、今頃、調理室かと……」
 セルフリーネが校舎を指し示す。
 しかし、から揚げ班が調理室に集まる前に、ある一人の人物がそこに向かっていた。