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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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特別授業「トランプ兵を捕まえろ!」(第1回/全2回)

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第三章 ジョーカーの彼が現れゆく

 南の別荘地帯をセイバーのベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)は一周以上も駆けていた。
「うおぉぉおぉぉぉうぅぅ」
 目は既に血走っていて、息も切れ切れであったのだが、ようやくに、目の前に「ハートのエース(1)」が現れていた。
「はぁぁぁぁあぁぁあぁ」
 直角に向き直して駆け向かう。
「だぁぁあぁぁぁぉあおぅっ」
 エースに気付かれて逃げ始めたが、瞬間に間合いを詰めると、カルスノウトで一閃。
 瞬殺だった、そして豪快に振り向くと、止まる事なく駆けるを続けた。
 一部の始終を小型飛空挺で見下ろしていたパートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)は高度を下げて問いかけた。
「だぁぁぁお、うっ、マナっ」
 ベアは、いきなりにブレーキをかけてとまりゆく。飛空挺が余計に急には止まれないでいたが。
「もうっ、何なのよっ!」
「マナっ!」
「何よっ!」
 ベアは「ハートのエース」をマナの瞳の前に見せ渡した。
「一番ハート、最も大きなハートの証し。俺の気持ちだ」
「なっ、何よ……急に……」
 トランプを渡した途端にベアは吸気が足りない事を体が認識、過剰に要求するようになった。
「これの為に、あんなに走ってたの?」
「あぁあ、はぁあ、はぁぁ、あぁぁ」
 吸気が増せば吐気も増すわけで。
「バカじゃないの、熊のくせに」
「あぁ、はぁぁ、マナぁ、カップぅ」
 絵柄を見つめて、マナはじっとに離せなくなり始めていた。
「マナぁぁ、カップを、割っちまったんだ、あのカップぅぅを」
「えっ?!」
「あのぉっ、はぁぉぁ、スマンん、マナぁ」
「〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 腹への一撃、胸ぐらを掴んで振り回し、右手でビンタを往復させた。
 息も切れ切れ、酸素も少なくて、それも加わり加わって、意識が遠のいていくのをベアは感じた。
 対するマナは息を荒げていたが、トランプを掴んだ左手だけは、ベアに向ける事もせずに、しっかりと握り掴んでいた。


 別荘地帯、小屋の一角。外付けの小さな物置の前に、セイバーの葉月 ショウ(はづき・しょう)は歩み寄り立ち止まった。
 ショウの影が物置にもたれている。少しばかりに眺めていると、物置の扉がゆっくりと開き、中からパートナーの葉月 アクア(はづき・あくあ)が、ちょんと顔を覗かせた。
「ショウっ」
「はぁ。あのな、何も言ってないのに出てきたら意味無いだろ」
「でもショウだもん、ショウだと思ったから出て来たんだよ」
「そうかぃ、正解、はぃこれ、収穫だぃ」
「2枚も? 凄いね」
 ショウが手渡したは「ハートの9」と「ハートの4」、全部で合計3枚になっていた。
「わぁっ、またハートだ、嬉しい」
 そう言ってアクアはポケットから大事そうに文庫本を取り出すと、その間に挟んでいった。
「あ、俺の本に……」
「いいアイディアでしょう? 誰もこんな所に隠してるなんて思わないと思って」
「そうかな、カードをしおり代わりにするなんて一般的だと思うけど」
「そう?でも特別授業に本を持って来てるなんて誰も思わないだろうから」
「だろうから?」
「だから、私が見つかっても本に興味を持つ人なんて居ないでしょう? だから安心」
 ショウは目頭を押さえて訊き聞いた。
「ちょっと待て、本に興味を持たない?」
「うんっ、だからこのトランプが獲られる事は無い……」
「アクアっ、そこに座れっ」
 たまらずショウは声を荒げた。アクアを目の前に座らせて、ショウの講義が始まった。
「いいか、この本の魅力は……だからこう面白くて……革新的な試みが……」
「……? ……? ……??? ……」
 どうにもこうにも分からない。アクアは首を傾げながらも、真剣にショウの言葉をじっと追っていったのだった。


 西の森で罠を張る、スキル「破壊工作」で罠を仕掛けたのは、百合園女学院のソルジャー、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)である。
 静かな表情で森を見つめていると、足音と共に近寄ってくる影が見えてきた。
「セラ、追われてる方が居るわ」
「本当……、って! 人が絵柄兵を追いかけてる!!」
 二人の視線が二人を捉えた。追われているのは「ダイヤのジャック(11)」、追っているのはソルジャーの弥隼 愛(みはや・めぐみ)、二人との距離はどんどん近くなっている。
「まぁ大変、助けてあげなくては」
「助けるって…… どっちを?」
「トランプ兵を倒すのですよ、人を助けるに決まっているでしょう?」
 パートナーのセラ・スアレス(せら・すあれす)は少し混乱していた。フィルは正しい、でもこの状況は、そもそも何故あのような事に……?
 考えて止めて、飛び出した。ジャックの前に飛び出して、カルスノウトを振り下ろした。
 不意打ちに近いはずだった、それなのに、ジャックはセラの剣を受け止めて、弾きながらにセラの体をも投げ飛ばしていた。
「くっ」
 セラは翼を広げて体勢を立て直すと、すかさず次撃を繰り出した。
 なぎ払う一閃をジャックが受けた時、愛の銃弾が飛びて来たが、瞬時にジャックとセラは避けていた。
 愛が続けて銃弾を撃つと、ジャックは避けながら走りを始めた。その方向を見て、セラは追う事を止めた。
 そのまま進めば、そう、ほら。
 爆発音が響いた。フィルが仕掛けた小箱爆弾、その一つが炸裂したのだが。咄嗟に避けたのだろう、ジャックは左足を引きずっているだけで今も立っていた。
「うそだろう? あの爆発で倒れないなんて」
「おぉぉぉっ、あの爆弾、キミが作ったのかぃ?」
「あ、いや、作ったのはフィルで」
「私が作りましたの」
「おぉっ、こっちにも美少女だっ、しかも爆弾魔」
「フィルは爆弾魔なんかじゃない!」
 互いの力は少しに見せた。敵の力もまた見えた。
 先程まで逃げていたジャックが、3人に向かって闘気を放っている。
 仕掛けた罠も幾つか在る。
「私も参加しないとダメみたいですね」
 アサルトカービンを構えながら、フィルは3人での攻撃を考えていた。


 西の森、「クラブの6」を追っているのはセイバーのシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)とパートナーのプリースト、雨宮 夏希(あまみや・なつき)である。
 とことんに、しつこい位に地形は調べた。故に直線で追いつけなくても見失っても、しばらくの後には追いついていた、それを何度か繰り返していた。
 それでもさすがに足にキテいる。回り込んで追いついた、シルバは振り下ろす事ではなく、次撃に繋げる為の身のこなしに余力を使った。
 振り下ろし、払い一閃、斬り上げて突きを放つ。
 どれも一重で避けられたが、夏希が構えるまでの稼ぎにはなった。
 夏希が光条兵器にて光りを放った、その瞬間の一瞬にシルバは力の限り、剣を振りて斬り上げた。
 トランプが舞い落ちるより先にシルバの方が崩れ落ちたが、怪我はどこにも無いようだ。
「やったね、シルバ、ゲットです」
 トランプの柄は「クラブの6」、見つめる内に沸き立ってきて、悔しくて。
「もっと強くなる、俺、もっともっと強くなる」
 噛み締めて、零れて落ちた。「クラブのキング(13)」に圧され潰された。
 カルスノウトを強く握り、シルバは地面を殴り殴った。