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リアクション
滝の麓には続々と生徒が集まりだしている。捕獲された不穏分子の男も連れてこられていた。
そこに軍用飛空艇が急に近づき着陸したかと思うと、葉が姿を現した。
「葉士官! なぜここに!」
「士官候補生のみんな、良くやってくれた。無事、不穏分子を捕獲したと聞いたので、尋問すべくやってきたのだ」
「左様でしたか」
「捕縛したと言う不穏分子のところへ案内してくれないか」
エドワードとマーゼンに葉が声を掛ける。二人は顔を見合わせると、にっこりと葉に笑ってみせる。
「ええ、どうぞ、葉士官。こちらですな」
「葉士官殿」
ずっと訓練の最後部から付いてきていたレーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)が葉のすぐ後ろから、声を掛ける。
「なんだね」
続いて、久多 隆光(くた・たかみつ)が話をする。
「…随分と背後に対する警戒がお緩い様子ですね。葉士官は、非常に神経質な方だと聞いています。背後をとられ、そのように悠長に構えていらっしゃるとは…そもそも、現場に来られないと言っていた方がなぜ、このような場所にいらっしゃるのでしょうか」
葉の行動を見た久多 隆光は、後ろで束ねた黒髪をぱっと片手で後ろにやり、教導団の士官たちについて調べていたことを話すと、葉士官を不審に感じていたエドワードとマーゼンが葉士官を囲む。先ほどの笑顔も、この葉士官をだます演技だったのだ。
「な、何をする!」
葉士官はその行動にうろたえるだけだった。
「随分と頭の中身の方も軽いようだ。葉士官ほどの方がこれでは、シャンバラ教導団も先行きが暗い」
レーゼマンが眼鏡の奥から鋭い眼光を光らせ銃を後ろから突きつけると、葉の首根っこを掴んだ。すると、ベリベリと皮がむけ、中から別の人物が現れる。
「…って、ゆる族か!」
思わずツッコむエドワードであった。
そして、現れた人物はどこにどうしまってあったのか、葉よりも大きな体躯をした男であった。そして首には、コインが3つ刻まれた入れ墨が見える。それを見て、エドワードははっと気がつく。
「ばれちまったらしゃあないなあ!」
大男は凄まじい力で、地面に自分のこぶしを振り下ろす。すると、地が割れ、地震のように揺れが起こり、生徒たちは立っていられなくなった。
「なんてバカ力だ」
「ワシは確かにおつむはたりんさかいな! 手加減は出来へんで!」
「ウィリアム・リリー! 早く助けてクダサイ!」
捕縛されていた男が叫ぶ。
「紀 君祥(ジー・ジュインシャン)のおっさんかいな! 下手こいたな!」
「ウルサイですよ!」
大男、ウィリアム・リリーは、紀 君祥の元に駆け寄る。
「させるか!」
レーゼマンがアサルトカービンで狙い撃つと、二人はあっさり岩の壁を背にして追い詰められてしまう。
「ほんとにバカ力だけだったんだな」
「しかし、あのコインの入れ墨と、紀 君祥という奴の入れ墨…これはもう確定ですね」
「確定とは?」
エドワードのつぶやきに隆光が尋ねる。生徒たちが、じりじりと不穏分子の二人を追い詰めていく。
「コインの3はタロットカードなどでは、寺や教会を表します。また、あの紀 君祥て奴の入れ墨は『釜』という字の古代の象形文字です。ここまで言えば、わかるでしょう?」
エドワードの言葉に周囲の生徒たちも、ごくりと唾を飲み込んだ。
そこに隠れ身を使い、スパイとして今回の訓練に参加していたアイギス・グリッド(あいぎす・ぐりっど)が駆け込んでくる。アイギスは【隠れ身】を使い、ドラゴン棲息域で見つかった女性の不審者の姿をずっと追いつづけ、無線を様々な周波数に合わせ傍受した。
そして誰にも知られることなく、情報収集に当たり、それらをつなぎ合わせ、一つの結論にたどり着いたのだ。
「ドラゴン棲息域に侵入した不審者の女は、鏖殺寺院のテロリストだ! そいつは今こっちに向かっている!!」
「なんだと…!!」
「ばれちゃったみたいね」
と、その時、岩場の上から声がする。麻布のマントに身を包んだ、ドラゴン棲息域での不審者だった。
「季保姐さん!」
「助けに来てくれたんですねえ〜!」
紀 君祥とウィリアム・リリーがその姿を見つけて、うわあっと歓声を上げた。
『季保姐さん』と呼ばれた人物がバっとマントを脱ぎ捨てると、黒いロングヘアーをたなびかせ、スレンダー美人が現れた。顔だけみると、まるで京人形のような美しさである。
しかし、次の瞬間、その口からは罵声が飛び出した。
「こーのバカどもめが! 役立たずにもほどがあるわ! この羽根 季保(はね きほ)の手をこれだけ煩わせるのは、お前らぐらいなもんだ!」
としかりつけると、ウィリアム・リリーと紀 君祥はしゅーんと肩をすぼめてしまう。
そして羽根 季保は大胆にもニヤリと笑って服の前を開き、豊かな胸の上部にある首元の入れ墨を、集まってきていた生徒たちに見せつけた。
「あれは、『鹿』の象形文字の入れ墨…」
エドワードが目を凝らすと、マーゼンが呟く。
「三人そろって『鏖殺寺院』ですな。割とベタですな」
マーゼンの言葉に季保はふっと不敵な笑みを返す。
「そう、ご名答。私たちは鏖殺寺院の特別部隊『鬼大刀会(グェイ・ダー・ダオ・フゥイ) 』」
「さて三人揃ったところで、お縄を頂戴といったところか?」
レーゼマンが銃で季保に狙いを定め、格闘の達人であるところのアイギスが手下の二人を確保するため、リターニングダガーを構えた。
「残念。こっちには大事な人質がいるんだ。…あら、人じゃないかしら? どちらにせよ、これをごらん」
季保は背中に背負っていた鞄から、ドラゴン棲息域からずっと抱えていた『荷物』を取り出す。それを見た途端、その場が騒然とする。
「ドラゴニュートの赤ん坊!」
それはすでに薬でもかがされているのか、ぐったりと眠り込んでいるドラゴニュートの赤ちゃんだった。
「下手なことをしたら、この子の命はないよ? それに、もしこの子に何かあったら、ドラゴンたちが暴れ狂うことは間違いなし。でしょう?」
にやり、と笑う季保の手には太刀が握られ、ぐったりしたドラゴニュートの赤ん坊に突きつけられている。
「非道にもほどがあります!」
「赤ん坊になんてことするんだよ! おはなし!」
ドラゴン棲息域から戻ってきて合流した黒 金烏が叫ぶと、ドラゴニュートのグレイシアが怒り、飛びかからんばかりの勢いでにらみつけた。
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