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トウモロコシ農場を救え

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トウモロコシ農場を救え

リアクション

 ※ ※ ※

 そういうわけでトウモロコシ畑の戦闘が始まった。
「バイクなんざタイヤを撃てばただのガラクタだ。恐れることなんて無いね」
 林立するトウモロコシの間から比賀一(ひが・はじめ)は、イヤホンから流れるジャズのリズムに合わせるように、淡々とアサルトカービンで狙いをつけたヤンキーの改造バイクのタイヤを次々と打ち抜いていく。
 タイヤがバーストしたバイクが、派手に吹っ飛んで転倒する。
 中には、畑に突っ込んでいくものもいる。
 ま、多少の被害には目をつぶろう。
 それでも進撃してくるヤンキーたちをエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が小型飛空挺で空からアッシドミストで攻撃していた。
 即効性の効果があるかは不明だが、酸性の霧に長時間身をさらしていたら、きっと身体に悪いに違いない。
「パラミタ最強を目指す手始めに、パラ実生から血祭りにあげてさしあげますわ!」
「……農作物に酸性霧はよくないのではないですか?」
 影野陽太(かげの・ようた)が、エリシアの過激な攻撃に嘆息しつつも、スナイパーライフルで彼女の援護をする。
 エリシアの攻撃と狙撃チームの銃撃に辟易したのか、改造バイク隊が撤退し始めた。
「こんなもので勝ったと思うんじゃねぇぞ!!」
「負け犬の遠吠えなんか聞こえませんわー!」
「これで……」
 シャラン一味の先行隊と農家守備隊の戦いは、とりあえず守備隊の有利で終わったかに見えた。
 撤退していくヤンキーたちを見送る陽太は、農道をこちらに向かってくる何かの気配を感じた。


ざっざっざっざっざっざっざっ……

 何かが行進してくる。
 規則正しい足音に、ときおりきゅっきゅっと音が混じる。
「ゆる族、か……」
 光学迷彩を身にまとったゆる族たちが、改造バイク隊が後退するのを待っていたように前進してくる。
 そして――――

「痛っ!!」
 誰かが悲鳴をあげる。
 しゅっ! という音がかすかに聞こえ、次々に銃撃される。
「……そら、目の前に敵がいるんじゃけん、略奪より攻撃じゃのう」
 光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)は感心しつつ、ゆる族たちがいるらしい方向に向かってドラゴンアーツで攻撃。
 何人かのゆる族たちが吹っ飛んだ気配はした。
「ところで敵の光学迷彩対策はどうなっとるんじゃ?」
「やっぱ、生石灰撒いたりしたとことセアリアの禁猟区の範囲とかが、もっと農家よりだからじゃない?」
「そうじゃったな」
 仮面乙女マジカル・リリィことリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)の解説に翔一朗は思わず納得した。
 だからといって、敵方をセアリアのいる農家に近づけるような愚考をする気はない。要はシャラン一味を撃退すればよいのだ。
 翔一朗はもう一度ドラゴンアーツを繰り出した。

「そこまでだ! 悪事はこのケンリューガーが許さない!」
 一段高いところ(どこかね?)から、武神牙竜(たけがみ・がりゅう)が名乗りを上げて正義の味方らしくポーズを決める。
「おまえらよく聞けよ、お百姓さんがどれだけ汗水たらしてトウモロコシを育てているのか……」
 一同が注視する中、牙竜はトウモロコシを育てるのがいかに大変かとうとうと説明しはじめた。
 見えない連中からざわざわとした雰囲気が伝わってくる……というか、笑われている感じ? いや、確実に笑われていた。
 波羅蜜多実業高等学校には農業科もあったと聞く、牙竜の高説になにか不備でもあったのかもしれない。
「牙竜、ヒーローっぽくな〜い」
 あまりのことにリリィが愚痴り、その横で牙竜とリリィの師匠太上老君(たいじょう・ろうくん)がほくそ笑む。
「おいおい……」
 パラ実の元農業科だという棚畑亞狗理がどうツッコミを入れようか考えあぐねているところで、牙竜は己の状況に気が付いたらしい。
「こんのぉクソジジィ!! 図ったなぁ!?」
「牙竜よ、修行が足りんのじゃ」
「てめぇが読めっつたんだろーがっ!」
「つか、気付かない牙竜も牙竜だよ!」
 どうやら、先程のトウモロコシうんぬんは、老君の入れ知恵(カンペ)らしい。
「だあぁぁぁぁぁぁっっ!!」
 牙竜の怒りの矛先は、ゆる族たちへと向けられる事になったらしい。

 再度、トウモロコシ畑は乱闘である。
 銃撃の音やら、打撃の音やら入り乱れて聞こえてくる。
 乾いた大地から巻き上がる砂埃でゆる族たちの光学迷彩にも翳りが出てきているようだ。
 ゆる族たちが劣勢になるのを見計らったように、バイクの爆音が近づいてきた。
 それと同時にゆる族たちは後退を始めた。
「これじゃ、きりがねぇぜ……ん?」
 そでへなにやら香ばしいにおいが漂ってきた。
「なんだ? なんだ?」
 見ると、畑の少し開けたあたりに焼きトウモロコシの看板があり、即席に作られた屋台ではイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)トト・ジェイバウォッカ(とと・じぇいばうぉっか)がトウモロコシを焼いていた。
「トト、もう少し火加減を弱くしてください」
「おーけー」
 はじめ渋っていたイビーだったが現在はわき目も振らずに大真面目だ。
 トトは、イビーの指示に火術で火加減を調節しながら隙あらば焼けたトウモロコシをつまみ食いしようとしていた。
「まだだ、まだ! 味付けがなっちゃいねぇだろう!? 焼きトウモロコシは、醤油のちょっと焦げたところが美味いんだ」
 とは、伊達恭之郎(だて・きょうしろう)だ。
「お醤油を塗るくらいボクにだってできるもん。貸してよ」
 天流女八斗(あまるめ・やと)が刷毛を恭之郎から借りると、たっぷりタレを刷毛に含ませびちゃびちゃとトウモロコシに塗りたくる。
「こらこら、もっと繊細に塗れないか? 焦げすぎたってダメなんだぞ」
「もー、恭之郎ってばうるさい」
 刷毛を取り上げられた八斗がむくれる。
「タレは砂糖醤油、バター醤油のどっちかだ。みりん醤油もすてがたい」
 恭之郎は食べたがるトトをけん制しつつ、トウモロコシ奉行を始めた。
「YEAHHH! キマク特産焼きトウモロコシだぁ!」
「五条武はアリ人間ー!」
 屋台の横で五条武(ごじょう・たける)がギターをジャリジャリ鳴らしながら焼きトウモロコシの売り文句を叫ぶ。
 それにかぶさせるように仏滅サンダー明彦(ぶつめつ・さんだーあきひこ)が激しいロックのリズムで歌いだした。
「働きアリアリアリ人間! 角砂糖でもかじってろ!♪」
「なんじゃそらー!?」
「うるせーっ! こちとらハラ減っとるんじゃー! 農場救う前に俺を救えぇぇぇぇぇ!!!」
 言うなり火術で火を噴くサンダー明彦。
 間の悪いことに、炎は乾燥させていたトウモロコシ袋に引火した。
 はじけるポップコーン。
 わぁわぁと逃げ惑う一同。
 それに追い討ちをかけるように上空から雷術が打ち下ろされる。 リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が空飛ぶ箒からヤンキーの改造バイクめがけて攻撃しているのだ。
 焼きトウモロコシだの、ポップコーンだのと……リリは、茹でトウモロコシが好きなのだ!」
「アホかーっ!」
「おまえら、俺たちよりアホだろう!?」
 ヤンキーたちに口々に言われるが、反論できるかどうかは微妙なところだ。
「うるさい! うるさい! 五月蝿い!」
 リリの雷がヤンキーたちの上に降りそそぐ……

 ※ ※ ※

「っつたく……俺が留守の間に何をしているんだか」
「まる二日帰ってこなかったオマエに言われてもナ」
「おまえがアンテナの立つところまで行けっつたんだろーが!?」
 ようやく戻ってきた王大鋸にシー・イーはすげなく言い放つ。
「そんな事より、明日がヤマかもしれないナ」
 シー・イーに皆は頷く。
 明日になれば、シャラン一味もいままでのような小手調べではなく、本格的に攻撃してくるだろう。
 それに囚われているセアリアのおじいさんの事も心配だ。
「面子もそろったし、明日はこっちらか打って出るぞ!」
「おう!!」
 王の言葉に仲間たちは士気をあげた。