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深淵より来たるもの

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深淵より来たるもの

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【6・崩壊、そして……】

 辺りも暗くなり始め、生徒達は本格的に石碑を直しを始めるために、共同作業について詳しい話をするため一度石碑から離れて話し合っていた。
 そんな中。なにやらこそこそと不穏な石碑に影が近づいていた。それは、国頭武尊(くにがみ・たける)と、猫井又吉(ねこい・またきち)のふたりだった。彼らは村から借りて(くすねて?)きたリヤカーを引っ張っており、そこにはガスボンベが積まれていた。
 明らかに不穏な行動を見せているふたり。それに一番に気がついたのは、石碑の碑文を調べていたクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)だった。
「あなたたち……? ちょっと、なにをしている?」
 気づかれたことに気づいた武尊は、開き直りにかかった。
「ああ、なぁに。この石碑が存在し続ける限り、いつまた今回みたいな怪しい現象が再び起こるとも限らないだろう? だから、石碑を修復不可能なほどにぶっ壊せば事件は二度と起こらない筈。だからぶっ壊す。単純明快で分かりやすいだろ」
 その言葉に呆気にとられるクレアだったが、すぐ我に返り、
「な、なにを言っている! そんなことをしたらそれこそなにが起きるか……!」
「不安の種は真っ先に取り除くべきだから、まぁ、こまけぇこたぁいいんだよ!」
「その意見には同感だが、どう見ても問題が起こりそうな手段はいただけない」
 引こうとしないクレアに、武尊は話すのが面倒になってきたのか、いそいそとガスボンベを石碑の近くにおろし始める。
 それをクレアは駆け寄って止めようとしたが、
「おっと、武尊の行動を邪魔しようってんなら、蜂の巣になる覚悟があるんだろうなぁ?」
 又吉が間に割って入られてしまった。
 しかし、そんな彼らの騒動に、他の生徒達も気がつき始めた。クレアのパートナーであるハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)も同様に、「クレア様!」と叫んで慌てて走ってきた。
 邪魔される人数が増えると厄介だと思った武尊は、早々に自身のスキル『破壊工作』で一切合財を吹き飛ばそうとした、
「いけない……! えっと、こういう時は……」
 それとほぼ同時にハンスは、
「混沌を打ち砕く、秩序の光を、今ここに! バニッシュ!」
 早口にそう唱え、こちらもスキルを発動させた。
 ちなみに発動前に唱えたセリフは事前にクレアから「スキルを使う前に何か適当に言っておけば『プラシーボ効果』が期待できるかもしれない」とか言われた影響だったりした。
 そして――

 ずどおおおおおおおおおおおん!

 轟音と共に、その場にいたほとんどの人達は爆風に煽られて軽く吹き飛ばされた。
「うは、良い事をすると気分が良いぜ。後は謝礼を受け取って万事めでたしだな」
 そんな中、武尊は意気揚々といった調子で、又吉と共に早々と去っていってしまった。
「ゲホッ、ゲホ……くそ、なんて、無茶をする奴らだ……!」
 文句をつけようにもふたりが既に逃げてしまったのを知って、クレアは顔をしかめた。同時に起こってしまったことはもう取り返しはつかないわけで。
 煙が晴れて惨状があらわになって、生徒達は息を呑んだ。
 ハンスのバニッシュのおかげで、かろうじて無事な石碑は多数残っているが、いくつかの石碑は爆発で粉々に吹き飛んでしまっていた。
「どうしよう……これじゃ、もう元に戻すこともできないよ……」
 やっと元気を取り戻していたルルナも、この状況に再び顔を蒼白にさせてしまう。
 石碑の調査及び修理に来ていたティエリーティア・シュルツ(てぃえりーてぃあ・しゅるつ)も、同様に顔色が悪い。
「うう、こんな状況、想定していませんでした……」
 そんなティエリーティアを心配する志位大地(しい・だいち)は、かけていた伊達眼鏡をずりあげて煙の晴れてきた石碑群を見つめる。
「参りましたね、これではどうすればいいのか……。おや、これは?」
 その時、大地はあることに気がつき、目をこらして地面を眺めてみた。
「みなさん! ちょっと地面を見てみてください!」
 大地の言葉で、放心したり怒ったりしていた一同は
 そこには魔法陣らしき文様があらわになっていた。どうやら今までは月日の流れでへばりついていた泥が固まり、それらを隠していたのだった。
「これ、魔法陣です……やっぱりここで何らかの儀式が行われていたんですね。これを解読すれば、何かしら打開策が見つかるかも! やりましたね、こんな時でも冷静に状況を把握できるなんてさすが大地さんです!」
「い、いや。べつに、誰でも気づきますよこんなこと」
 ティエリーティア誉められて、大地は思わず顔を赤らめていた。
 思わぬ形で災いが転じたこの機に、イルミンスール魔法学校に所属する姫神司(ひめがみ・つかさ)と、パートナーのグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)は早速現れた魔法陣を調べ始めていた。
「んー……なんだか、この魔法陣は稚拙な文様の描き方だな」
「そうですね。この陣をしいた者は、さほど魔法に関する知識が無かったのかも。これなら、もしかしたらそう時間をかけずに修復できるかも……」
「だが、大丈夫なのか? さっきの爆発で吹き飛んだ石碑もあるみたいだし」
「私の見解では、そう大事はないかと思います。こういう魔法陣は、配列を変えたり、別の鉱物で石柱の代用をするなりして陣を組みなおせば、たいてい効力が戻りますので」
 グレッグのその言葉に、一同は安堵の息をもらしていく。
 ルルナもほっと息をついて、今は蒼空寺路々奈(そうくうじ・ろろな)ヒメナ・コルネット(ひめな・こるねっと)と話をしていた。
「名前、似てるのね。あたしは路々奈。よろしくねルルナ」
「あ、はい。よろしくです。それで、私にもなにかお手伝いできることはありませんか?」
 そう切り出してきたルルナに、路々奈たちは顔を見合わせ、
「え? そうね。じゃあヒメナ、あたしはこっち調べなきゃだから、ルルナに作業を教えてあげてくれない?」
「はい! だ、だいじょうぶですっ! 頑張ります!」
 ヒメナは妙に意気込んで、
「えっと、じゃあ私たちは石碑に刻まれてる印を探しましょう」
「しるし、ですか?」
「はい。封印にはふつう正しい魔法陣や神様の印が必要なはずなんですけど。この魔法陣はそんなに精巧なものじゃないみたいです。だから、そのぶん印のほうが緻密に刻まれてるみたいなのです」
「わかりました。つまり、その刻まれた絵や文字を見つければいいんですね」
「はい。それじゃ、一緒に頑張りましょう」
 そういって作業にうつる彼女たち。依頼主が落ち着いたようだとそれを眺め安心した長曽禰虎徹(ながそね・こてつ)は、連れのアトロポス・オナー(あとろぽす・おなー)と共に自身も修復作業に戻る。
「アトロ、この石碑起こすのを手伝ってくれよ」
「おう、わかったぜ」
 そしてアトロポスは、ドラゴニュートの本家本元ドラゴンアーツによる怪力で身の丈の三倍はあろうかという石碑を早々と立て直した。
「それでコテツよぉ。表面に書いてあるこの印は俺にもわからない特別なものみたいなんだが。これをどういう風に並べりゃいいと思う?」
 そんな考えを巡らせる相方に、虎徹はすこし思考をめぐらせて、
「とりあえず、印にも共通点があるはずだろ。碑文に書かれてる文字とかからも、並べる順序は推測できるかもしれないし。今はまず、全部立て直さないとろくにそのへんの確認もできないだろうから。片っ端から無事なのを起こしていこうぜ」
「よし、やってやるか!」
 そんなふたりをはじめ、生徒達は各自の作業に入り始めた。徐々復旧の目処が立ち始め、場に安心が訪れた……かに思われた。その直後。
「あぶない!」
 周囲を警戒していた、葛稲蒼人(くずね・あおと)が叫んだ。そしてパートナーの神楽冬桜(かぐら・かずさ)がラウンドシールドを用い、どこからか飛来してきた拳くらいの大きさの火の玉を受け止めた。
「これは……火術による攻撃なの? 一体誰が……」
 冬桜は、作業に時間がかかる可能性を考慮して、今まさにお握り等の食事とお茶を用意していたのだが、その用意が無駄なものになるのを感じ取っていた。
「なに、どうしたの?」
 そこに同席していたルルナも突然のことに困惑しており、それに蒼人は少し言葉を荒く、
「頭を下げて! 後ろに下がって、はやく!」
「う、うん。ありがとう。おねえちゃん」
「……っ! お、俺は男だ!」
「あ、ご、ごめんなさい」
 そんなやり取りで、場に若干緊張感が薄れたかに思われたが。
「わあああああああ!」
 と、誰かがその場に走りこんできた。
 そして。石碑や魔法陣に注意しすぎていたため、誰もが気づくのが遅れていたがその人物のおかげでようやく気がついた。
 石碑の周りが既に、大勢の旅人によって取り囲まれていることに。