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【2019修学旅行】のぞき部どすえ。

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【2019修学旅行】のぞき部どすえ。

リアクション


第2章 美しく青きスケベ

 川原のキリン隊とパンダ隊のもとに、椿薫がやってきた。
「キリン隊のみなさん。拙者、のぞき部を退部したでござる」
 ワンワンニュースを読んでいたキリン隊は、驚かない。
「……信用してもらおうとは思ってないでござる。ただ、手伝いたいだけでござる」
 キリン隊もパンダ隊も簡単には信じない。すると、またケータイにメールが来た。

『ワンワンニュース! 椿薫はやっぱりのぞき部。好きな人ができた……は嘘。 byDOG』

 薫はあっさり捕縛された。
 そこで、パートナーのイリス・カンター(いりす・かんたー)が、慌てて説明する。
「椿は、好きな人ができたらしいんです。信じてあげてください!」
 ケンリュウガーはメールを見ていないのか、イリスの正義感に共感する。
「イリスには正義を感じるぜ。嘘は言ってない。俺は信じよう!」
 しかし……ワンワンニュースには動画が添付されていた。

 動画には、薫がイリスに話しているところが写っている。
「好きな子ができたでござる。だから、のぞき部を退部するでござる」
 イリスは喜んでいる。
「キリン隊に入るんですの?」
「もちろんでござる」
「よかった。まともになってくれて……」
 涙を流して喜ぶイリスの影で、薫がペロッと舌を出しているのがアップで写っていた。

 ピクピクピク……
 この動画を見たイリスは激怒。
「これは、どういうことですの」
「い、いや、これは、あの……」
「わたくしにこのような辱めを……ひどい! 問答無用ですわ!」
 ドゴッ。バゴッ。ボキッ。メキメキッ。ギュリギュリ。スパッ……

 バカなのぞき部は置いといて、キリン隊はDOGニュースの信憑性を確認した。
 そこへ、DOGからまた配信だ。

『ワンワンニュース! のぞき部の狙いはレースのパンティー。 byDOG』

 キリン隊は森の前の森へ急いだ。

 その頃。男子風呂――
「ラッキー。なんかしんないけど、キリン隊がいなくなったぜ」
 川原を見ていた男が混浴城に下りていった。混浴城を横移動して“混浴”するつもりだろう。

 大地はカメラを抱え、どこを撮るべきか迷っていた。
「解説してやろうか」
 と背後から声が聞こえる。
「え?」
 大地が振り向いてカメラを向けると、細身で女のような男がくつろいでいる。
「えっと、どなたでしたっけ」
「さあ。誰でもいいだろう」
 どうも見たことあるような気がしてならない大地は解説男をじろじろのぞきこむ。
 解説男は鬼眼を使って睨みつけ、大地は目を逸らす。
「し、失礼しました……」
「こっちより、そこの崖。“混浴城”だっけ。そっちを撮れよ」
「混浴城……ですか?」
「キリン隊はザルだぜ。のぞき部を甘く見たんだろう……が……」
 鬼眼を使ったせいか、疲れてしまった。
 と、突然隣の男が意味不明なことを叫びながら、解説男にキスをする。
 むっちゅうううう。
 パッ。
 アリスキッスだろうか、解説男はあっという間に元気を取り戻していた。
 取り戻してもなおキスし続けられていたが。
 大地は慌てて混浴城をのぞいていた。
 しかし、何も見えない。
 先程混浴城へ下りた男は、どこへ行ったのか、消えてしまった。
 カメラには、川原をふらふらしている薫が写っていた。

 イリスにボコボコにされた薫は、ヘロヘロになりながら地元商店街のイベント用テントを張っていた。
 そこに陽太がやってくる。
「このテントは?」
「陽太殿……のぞき部の本拠地で……ござるよ」
 とテントの下で体力の限界、座り込む。
「本拠地。しかも、これに乗れば混浴までの距離が縮まりますね」
「陽太殿……。まさか、最も危険なポイントに……?」
「一か八か。駄目でも囮にはなるでしょう。その隙に、上の仲間がのぞければそれでいいんです」
 そして陽太は、テントの上に登り出す。
「男の中の男でござるな……」

 いよいよ戦いの火蓋は切って落とされた。

 ジャリ……ジャリ……何者かが川原を歩いてきている。
「ねえねえ。何してんの、君たちぃ?」
 七枷 陣(ななかせ・じん)だ。
 陽太は既に城壁を3メートルほど登っていて、両手が塞がっている。無防備だ。
「な、なんですか?」
 薫はよろよろと立ち上がる。
「キリン隊でござるか」
「オレ? 違う違う。唯の通りすがりの……粛正人ですが何か?」
「粛正人?」
 陽太は動揺し、城壁から落ちそうになる。
「おわああ〜」
 なんとか体勢を立て直したが、城壁に掴まっているのがやっとだ。
 陣は慌てず、しかし両手に力を溜めながら話し続ける。
「いいかよ。そこの壁にしがみついてる哀れな男よ。この川はおまいらにとっちゃ三途の川だ。そっちに行けば行くほど地獄に近づくってわけだが……それでも行くんかい?」
 大地のカメラは、陽太と陣の様子をしっかり捉えているが、その画面の隅にふらふらと歩く薫が入ってきた。
 そのとき、休憩所でライブ放送を仕切っていたディレクターのエメは慌ててパソコンをカタカタ……テロップを入れる。

『激しい光の点滅があります。テレビを見るときは、部屋を明るくして離れて見てください』

 そして、陽太は陣に背を向け、再び登り始める。
「それならしゃあないな。……地獄行きや!!!」
 と陽太に向かって雷術をぶちかます――
 が、喰らったのは薫だった!
 陽太を守るため、最後の力を使って陣の攻撃を止めたのだ。
 つるっぱげの薫の頭が画面いっぱいに写り、ピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカ!
「陽太殿! ……早く! 早く……逃げるで……ござる〜〜〜〜〜!」
 ピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカ!!!
「薫君……」
 ピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカピカ…………ドサッ!!!
 エメはテロップが間に合ってホッと一息……つく間もなく、またカタカタカタ。キーボードを叩く。

『椿薫、戦死』

 さらに注意事項のテロップが横に流れる。
『※この戦いにおける「戦死」とは、必ずしも「死」ではなく、重症、重体、気絶、戦意喪失、捕縛などを含みます』

 陽太は焼け焦げて戦死しながらも陣の足を掴んで放さない薫を見て、逃げずに止まっている。
「この姿を見ても、登るんか? ……地獄見るで」
「地獄には行きます。でも、のぞき部員が地獄に行くとき、それは……のぞいた後です!」
 陽太は再び石垣を登り始める。熱い友情の力で、凄まじいスピードで登っていく。
 下を見れば、もう6メートル。怖い。でも、もう迷いはない。どんどん登っていく。
 そして、あと3メートルを切った!
 が、しかし!
「こ、これは……!」
 目の前には、登りづらいように大きな強化ガラス板が壁から出っ張っている。その長さ1メートル。
 これは恭司が設置した鼠返しならぬ“のぞき返し”だ。
 これを越えるには、一度ガラス版の端に手をかけてぶら下がり、さらにそこを支点にして身体を回転させ、ガラスの上面に乗らなくてはならない。
 相当な運動神経と、勇気が必要だ。しかも、ガラスがその負荷に耐えうる運も必要だ。
 もし失敗すれば、ビルの3階程の高さから落ちることになる。
 並みののぞき魔ならここでリタイヤするところだろう。
 しかし、今日の陽太は違った。
「俺は、行きます!」
 ガッとガラスの縁に手をかけると――
「なにっ! あ、油!」
 油が塗ってあった。滑る。しかし、もうこのままいくしかない!
「うおおおおおお!」
 城壁を思い切り蹴り、体をグルンと回転させる。ガラス上面に両足をそっと乗せ、城壁の隙間に手をかけ……
 バリーン!!!
 ガラスが割れた!!!
 無情にも陽太はそのまま落ちていくしかなかった――
 と、その時!

 ガシッ!!!!!!

 城壁の中から現れた誰かの手が、陽太の腕を掴んだ!
 城壁は城壁ではなく、布がハラリとめくれる。
 と、そこには、のぞき部新入部員・赤月速人が隠れていた!
 先程混浴城に下りていった男は速人だったのだ。
「速人君……!」
「ブラザー……行くぜ」
 速人と陽太は腕を交差するように掴み合い、速人が力を振り絞って陽太を引き上げる。
「のぞきファイトー!!!」
「のぞきいっぱーっつ!!!!!」
「うぐぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!」
 速人が陽太を引き上げ、陽太は城壁に掴まった!
 が!
 しかし!
 ツルルンッ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜」
 陽太と速人は、2人とも滑り落ちていく。
 何者かによる氷術で城壁をツルツルにされてしまったのだ。
「す、すべる〜〜〜〜〜」
 2人はなんとか登るが、登っても登っても滑り落ち、手足だけは超高速で回転しているが全く上にも下にも移動できない。
 苦しみながらも上を見ると、クルクルクルっと杖を回している奇っ怪な少女が立っていた。
 チアガールのような格好をした少女は、「うふふッ」と笑うと、杖の回転をピタっと止めて月を差し、
「月夜に煌めく七変化☆魔法少女……エーコ☆☆☆ キラッ☆」
 杖をグルンと回して腰をツンッと横に出し、おかしなポーズを取っている。
 エーコは必死こいてる2人を見てクスクス笑っている。
 そして、徐々に陽太が登ってきて、ついに城壁のてっぺんに手をかけた。
 が、その手をエーコが無情にも踏んづける。
「いたーっ!」
 と叫びながらも、さすがはのぞき部。チラリとスカートの中をのぞくことを忘れない。しかし、陽太は見てはいけないものを見てしまった。

「え」

 陽太の体からみるみると力が抜けていく。
 エーコはスカートをひらひらさせながら、笑っている。
「ねぇ、どんな気持ちっ? どんな気持ちっ? のぞいたパンツにもっこりがあった〜って、どんな気持ち!? もっこりこりこりキラッキラーッ☆」
「……んぱー」
 陽太は脳みそがトコロテンになって落ちていった。
 ひゅーーーーーーーーーー。
「ねえ! どんな気持ち〜〜〜!!!」
「……んぱー」
 ドサッ。
 テントの上に落ちた。
 大地のカメラは泡を吹いている陽太の顔をアップで捉え、ライブ配信映像にはテロップがバン!

『影野陽太、戦死』

「ブーーーーラダーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!」
 速人が仲間の死に涙を流す。
 魔法少女エーコは、大地のカメラに気づいて、ピースしている。
「エーコちゃんは可愛い女の子を応援していまぁす♪」
「すみません。うまく撮れなかったんで、もう一度ポーズのところやってもらえませんか」
「しょうがないなぁ。じゃあ完全版行っちゃうね」
 杖をクルクル回しながら、今度は自分も回ろうとした――
 そのとき!
 ツルルンッ。
「わあああ!」
 自分の氷術に足を滑らせて、ツツーーーーーッ。
 バシャーーーーーーン!
 エーコは、男子側の浴槽に落ち、頭を打って……ぷかりと浮いた。

 一部始終を見ていた解説男が、カメラの前でペラペラと語る。
「そのまま回転してたら女子風呂をのぞいちまうところだ。キリン隊としては、男子側に転んで助かったというところだな……って、おいおい。やめとけよ。」
 キス魔男は、気を失ってぷかぷか浮いているエーコのもっこりをツンツン突いていた。
「キラキラ☆ キラキラ☆」
 ツンツンしてはしゃぐキス魔男を、解説男が諫める。
「だからやめろって。城定 英希(じょうじょう・えいき)が可哀想だろ。あっと言ってしまった」
 恐るべし解説男。あっさりとエーコの正体を見抜いていた。
 ザバッと出てきた英希が立ち上がり、
「ちょっと! なんでわかったの……って。あれ? 君だあれ?」
 しかし、英希は頭を打って脳みそがトコロテンになっていた。
「むーん。だれだっけなー。んぱーんぱー」

 混浴城の速人は、涙を力に変えて城壁を登っていた。
 そしてやっとてっぺんに辿り着いたとき――
 パチパチパチパチパチ。
「なんだ?」
 女子風呂に入っていた英希のパートナージゼル・フォスター(じぜる・ふぉすたー)は、速人を拍手で迎えていた。
「登頂、おめでとう!」
 速人が懸垂し、腕の力で混浴目指してさらに上がってくる。
「しつこいね」
「ブラザーの気持ち……確かに……受け取った……ぜ……」
 てっぺんから頭が出た。あと少し、あとほんの少しでのぞける。女子の裸が! のぞける!!!

 グイッ。

 ジゼルは速人の頭を踏んづけた。
「女の裸が見たいなら、男らしくベッドまでお持ち帰りしてみんかい!」
 ドドドッガーーーーーーーンッ!!!
 頭を蹴っ飛ばし、ついに速人は落ちた。
 が、ようやく薫から離れた陣が、上空の速人に向かって……
「地獄行きやーーーーーーッ!!!!!!」
 バリバリバリ!
 雷術をぶちかました。
 速人は下から突き上げるような雷に尻を激しく打たれ、女子風呂に飛んでいった。

 ぴゅーーーーーーーー!!!

 速人はせっかく女子風呂の上を飛んでいったが、視界は星がキラキラ散っていて、何も見ることはできなかった。
 そして、“レースのパンティー”と呼ばれる竹の壁に引っかかり、その向こう“森の前の森”にドサッと落ちた。
「う……うう……」
 苦しみながら、崩れながら、一度はレースのパンティーにしがみつくが……
「みんな……俺の分まで……た……の……んだぜ……」

『赤月速人、戦死』

 速人を撃退して満足したジゼルは石鹸でシャボン玉を作って遊んでいた。
 速人を追いかけてきた陣は、そのまま城壁を一気に登り、
「どこへ飛んでいきやがったんだあ。地獄の果てまで追いかけるで〜」
 とてっぺんに手をかけて顔を出した――
 刹那!
 カチュアが陣の視界を塞ぐように手ぬぐいを鞭のように打ち付け、
「のぞき部1人発見しました!」
「ブーッ! ちょ、ちょっと待った! こ、これは何と言いますか……不可抗力って奴ですよ!? マジで!」
「は……え? じ、陣くん!? な、何で陣くんが此処にいるのさー!」
 パートナーのリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)はショックを受けた。
「ご、ご主人様っ? ど、どうしてご主人様が女湯に……」
 同じく小尾田 真奈(おびた・まな)も驚いている。
「だから、これは! ち、ちがうんだって……のぞきじゃなくて……」
 陣は慌てて顔に張り付いた手ぬぐいを外そうとして、
「キャー! 危なーい! のぞき部ぅぅぅううううう!!!」
 すかさず、リーンがカチュアの胸を風呂桶で隠す。
 そしてカチュアは裡門頂肘、すなわち体当たり的な肘打ち!!!
 ガゲボッ!!!
 ぴゅーーーーーー。
 遙か彼方までぶっ飛んでいく陣にリーズがツンと背を向けて、
「陣くんのエロスっ!」
「え、エロスじゃねえって〜」
 バッシャーーーーン。
 陣は「三途の川」に落ちた。
 岩に打ち上げられたままくたばってる陣のところに、後から真奈がやってきた。
「機晶姫としてお助けしたい所ですが……さすがにフォローのしようがありません。でも、のぞく勇気もないでしょうから、のぞき部ではありません。大丈夫ですよ」
 慰めてるようで、なんだかますます傷つけていたが、本人はいたってマジメだ。
「ご主人様、ふぁいと! です」

 とはいえ、『七枷陣、戦死』

 リーンは、目の前のカチュアの大きな胸を見て、さらにショックを受けた。
「カチュアさん。大きい……」
 カチュアは一仕事して、息をつく。
「早速のぞき部が現れるなんて、キリン隊は大丈夫かしら」
 リーンも頷いている。
「正敏は守るって言ってたけどね」
「駄目よ。あんな奴。ぐーたらで頼りにならないわよ」
「ほんと」
 男子風呂では、入浴して体が温まってるはずの正敏が大きくクシャミをしていた……。

 その頃、気絶して倒れている速人の手から、リターニングダガーがポロリと落ちた。倒れる前、最後の力を振り絞ってレースのパンティーに穴をあけていたのだ。
 キリン隊幹部の葉月ショウは穴に気づかないまま速人を捕縛していた。
「キリン。キリン……。キリンは首が長いからキリン。高いところからのぞき部を見つけられるからキリン。あ、もしかして。……いや、でもな……うーん。キリンかぁ……」
 敵の工作を見逃しておいて、何をブツブツ言っているのだろうか。まったく今日のショウはおかしい。なんだか妙に集中力がなかった。