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リアクション
「清水の舞台って、ホントにここから飛び込むやつがいるのか……」
「落ちないように気を付けろよ〜」
部隊の端に立って下を見下ろす雷堂 光司(らいどう・こうじ)へと笑いながら声を掛けた麻野 樹(まの・いつき)は、不満げに振り返った光司のその表情をぱしゃりとシャッターに収めた。
「落ちねぇよ、って樹!」
一瞬遅れて写真を撮られたことに気付いた光司がずかずかと麻野樹へ歩み寄り、そのカメラを取り上げる。満足そうに笑いながら手を伸ばす麻野樹の姿をお返しとばかりにカメラに収め、光司はにやりと笑いながらカメラを差し出した。
「折角だから三人で取ろう、おーい四郎!」
呼び掛けながら大きく手を振った麻野樹の声に反応し、舞台から景色を覗き込むようにして眺めていた天草 四郎(あまくさ・しろう)は二人の元へとのんびりとした歩調で戻ってくる。
「しかし私はキリスト教徒なのですが、神社仏閣に入っていい物でしょうか?」
今更ながらに問い掛ける四郎に、麻野樹は上機嫌に微笑んだ。
「信仰心に宗教は関係ないだろ〜? ほら、今日は嫌な事は忘れて楽しもうよぉ」
のびのびとそう告げる麻野樹の言葉に、四郎も相好を崩した。
「そうですね、折角の寺院巡りです。楽しまなければ勿体無いですよね」
そうそう、と言いながら、麻野樹は四郎へカメラを差し出す。疑問気にそれへ視線を落とした四郎へと頼むように片手を立て、その仕草から彼の意図を理解した四郎は、微笑ましげに頷いた。
「こーうじっ」
「え、うわっ!?」
ぱしゃり。
唐突に光司の片腕を掴んだ麻野樹が己の方へぐいっと引き寄せ、咄嗟の事に反応の遅れた光司が倒れ込むように麻野樹へ寄りかかった瞬間、フラッシュの光が二人を襲う。ぱちぱちと双眸を瞬かせる光司とは裏腹に嬉しそうに表情を綻ばせた麻野樹は、「これは宝物だね」と悪戯に囁いた。耳まで赤く染めた光司の頭を軽く撫でつつカメラを受け取ると、途端に一歩後ずさり、麻野樹は光司と四郎を同時に映す。
「俺たちの写真をいっぱい取ろう。必然で出会ったんだから、どんどん仲良くなろう」
恥ずかしげもなく語りながら未だに思考の追いつかない二人の唖然とした表情をシャッターに収め、にっこりと麻野樹は笑った。含みの無い笑顔に釣られて光司が吹き出し、連鎖的に四郎もくすくすと喉を鳴らす。
「ほら光司、ポーズ取って」
「絶対今触るんじゃねーぞ、四郎!」
「大丈夫ですよ、ほら、カメラの方を向いて下さい」
舞台の端ぎりぎりで片足を上げ、今にも飛び込まんとするような姿勢を取った光司を、麻野樹がカメラに収める。今度は四郎が身を乗り出すポーズでカメラに収まり、麻野樹は仰向けに仰け反って見せた。
「で、次はどこに連れてってくれるんだよ?」
すっかり機嫌をよくした光司が楽しそうに声を弾ませて問い掛け、顎に手を当て考える間を取った麻野樹が地図上の八坂神社を示す。
「美御前社で、それぞれの美でもお願いしようかぁ」
冗談めかした麻野樹の言葉に、光司と四郎は同時に笑声を立てた。四郎の手にしているカメラには、三人の様々な姿が残されている。夕陽に赤く染め上げられた清水の舞台、その上で鮮やかに映し出された彼らの思い出を、四郎は大切そうに両手で抱え持ち歩く。
「あ、ついでにお土産屋さんで校長の課題の物を買って行こうかぁ」
「ああ、すっかり忘れてたぜ。アテがあるのか?」
始めのうちこそ頻りに課題の事を気にしていた光司から零れたそんな言葉に、麻野樹は嬉しそうに双眸を細めた。頷きつつ、地図に掲載された写真を示す。
「この金平糖だと思うんだよねぇ」
「あ、じゃあこれもじゃねぇ? 生八橋。三角だし」
麻野樹の示す写真の真横に載せられた写真を指さし示す光司の言葉に、麻野樹は首肯を返した。背後から彼らの手元を覗き込んだ四郎は、ふと道の脇に並ぶお土産屋さんの店頭を示し声を上げる。
「着物は、あれで如何でしょう?」
紫とピンクのサテン生地で作られた極楽鳥の着物を手で示しながら、四郎は悪戯な笑みを浮かべた。
「来てくれてありがとう、嬉しいよ」
携帯を片手に穏やかな笑顔を浮かべた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、滑らかな黒髪を揺らしながら現れた水神 樹(みなかみ・いつき)をそう言って出迎えた。急いで来たのだろう、僅かに息を切らした水神樹が呼吸を整える間を待ち、やがて緩やかに並んで歩き始める。
「いえ、連絡をありがとうございました」
嬉しそうにはにかんだ水神樹を微笑ましげに眺めながら取り留めのない会話を交わし、課題の金平糖を手早く購入してしまうと、二人は弥十郎の道案内で夕暮れの古都を歩き始めた。
「課題は大丈夫そうですか?」
「うん、これで大丈夫なんじゃないかな」
二人で選んだ可愛らしい袋に包まれた金平糖を掲げ、弥十郎は笑顔で首肯する。人気の薄れ始めた街路は真っ赤な夕日に照らされ、時折はらりと舞う紅葉が彩りを添える景観の中を、二人は緩やかな歩調で進んでいく。
「あの着物、綺麗ですね」
「うん、君に似合いそうだ」
ショーケースを眺めながら、旅行特有の浮ついた心地で弥十郎はさらりと応えた。水神樹の頬が照れたようにほんのりと色付くのを、夕陽の色合いの中で確かに捉え、弥十郎は胸を満たす穏やかな幸福感に目元を緩める。他愛のない会話さえ、酷く心地良かった。殆ど無意識に伸ばしてしまった手を、触れる直前で慌てて引き戻す。
「修学旅行に来れて良かったです。こうして弥十郎さんと観光も出来ましたしね」
嬉しそうに語る水神樹も、温かな感情が全身へ浸透していくのを感じていた。歩幅が違う筈なのにぴったり隣に並び歩く弥十郎は、恐らく歩調を合わせてくれているのだろう。言葉にされない気遣いが、太陽のように優しい温度を心の芯へともたらす。
「大分寒くなってきましたね」
何気なく呟いた水神樹の言葉に、弥十郎は自分の羽織るコートを脱ごうと手を掛けた。それに気付いた水神樹が「大丈夫です」と慌てて制止の声を上げると、考え込むように暫しの沈黙を置く。
「じゃあ、こうしようか」
やや早口に、しかし努めて穏やかな語調で言った弥十郎は、おもむろに傍らの彼女の手を取ると、冷えたその掌を緩く握り込んだ。驚いたように目を丸める水神樹へ微笑みを向けながら、繋いだ手をゆっくりとコートのポケットへ導く。
「これだと、片方しか温まらないかな」
「いえ、……凄く温かいです」
照れ隠しのように述べられた言葉に、水神樹は心からの感謝を込め述べた。ややぎこちなく絡み合った掌から溶け合う温度は、言葉の通り、非常に温かく感じられた。
「ここだよ」
弥十郎の導きで歩いていた二人は、やがて目的の茶店へと辿り着いた。しかし互いに名残を惜しみ離すタイミングを失った手に気付くと、顔を見合わせて笑い合う。
抹茶とお茶菓子を頼み、向かい合って二人は腰を下ろした。残された時間は少ない。暫しの沈黙の後、おもむろに弥十郎は手を入れていたのとは別のポケットから小さな袋を取り出すと、何も言わずに差し出した。
「これは……?」
「君に似合うと思うよ」
のんびりとした口調ながら内心では跳ねる鼓動を抑えつつ、平然を装った弥十郎が促す。受け取った水神樹が封を開けると、中には可愛らしいかんざしが一つ入っていた。
「……ありがとう。大切にしますね」
嬉しさのあまりに言葉を失っていた水神樹は、やがて表情を綻ばせつつ言葉を返した。そして思い出したように懐を漁り、透明の袋に包まれた、ちりめんで作られた根付を差し出し返す。
「今日はありがとうございました、その……お礼、です」
驚いたように二つ並んだ可愛らしい根付を眺めていた弥十郎は、酷く穏やかな声音で「ありがとう」と告げると、その一つを手に取った。お揃いのもう一つは、再び水神樹の手に戻る。
「また、……その」
「またこうして、一緒に世界を見て回りましょうね」
照れたように口を噤んでしまった弥十郎の言葉を、笑顔の水神樹が引き継ぐ。そうしてお互いに運ばれてきた抹茶へと意識を向けると、二人は再び穏やかな歓談を始めたのだった。
弥十郎のようかんの表面に爪楊枝で刻まれた「かわいいなあ」の文字を、目にした者はいなかった。
往来の減った歩道の脇へ、突然一台のタクシーが止まった。悠然とした態度でその中から現れたのは、ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)、テリー・ダリン(てりー・だりん)、カシス・リリット(かしす・りりっと)、ヴァイス・カーレット(う゛ぁいす・かーれっと)の四人だった。始めに支払いを済ませて車を降りたヴィナがカシスの手を取って降車を手伝い、それに続いてそれぞれのパートナーが降り立つ。うーん、と一度身体を伸ばしたカシスは、ヴィナを見上げおもむろに問い掛けた。
「で、どこに行くんだよ」
「まずは、梅干し屋さん。有名な所を見付けたからね」
投げ遣りなカシスの言葉にもかえって微笑ましげに笑みを深め、ヴィナは自然な仕草でカシスの手を取る。流れるような動作で繋がれてしまった手を慌てて振り解こうと揺らすカシスだが、ヴィナはそんな彼の様子を気にも留めずに手を引いて歩き始めた。
「ふふ、俺のカシスはかわいいな」
俯きがちに薄らと頬を染めてしまったカシスを見遣り、ヴィナが囁く。キッと双眸を鋭く細めたカシスが反発を露に睨むのを、あくまでヴィナは愛しげに見詰めるばかりであった。
「随分とやる気じゃないか」
咳払いの後に気を取り直したように紡がれたカシスの言葉に、くすりとヴィナは笑う。カシスの耳元へと唇を寄せると、吐息交じりに囁きかけた。
「夜は独占したいからね」
「ヴィナ」
不意に背後から投げられた咎めるような声音に、おっと、とヴィナは肩を竦める。しかし手を離すことはしないヴィナを、テリーは呆れたように眺めた。
「ボクらの立場、考えてよね」
「分かってるよ、人前では自重するって」
上機嫌に言葉を返すヴィナを疑わしげに眺めるテリーの隣では、ヴァイスがカシスへとからかい文句を投げていた。
「どうしたの坊ちゃん、真っ赤になっちゃってー」
「うるさいな、ほっとけよ」
しっしっと犬でも払うように空いた手を振り、カシスはほんの微かに繋ぎ合う手を握り返した。ヴィナの表情が綻んだのが気配で伝わるが、そちらを窺うことは出来ない。あくまで平然とした面持ちを装いながら、カシスは歩を進めて行く。
「さて……一口に梅干しとは言っても、大きさから何から色々とあるものだな」
辿り着いた店内で並んで梅干しのショーケースを眺め、ヴィナは嘆息を漏らした。暫し考え込むように間を置くものの、やがて時間の無駄とばかりに首を竦めると、店員を呼び付ける。
「全種類の梅干しを一つずつ包装してくれ」
金に糸目を付けないそのやり方にカシスが閉口し、慌てた店員によって用意された梅干しの包みをヴィナは受け取る。しかし片手では持てない量であることを確認すると、すぐに背後のパートナーへと丸投げした。
「頼んだよ、お邪魔虫クン」
茶化すように語尾を弾ませたヴィナの言葉に、やれやれと呆れ返った様子で肩を落としたテリーは用意された袋を両手で受け取った。そうして店外へ出た一行は、紅蓮に彩られた道を歩む。
「校長にも困ったものだな、カシスの夜は俺のものなのに」
「そ……ういうことは夜にしろ。往来で言うな」
「夜のことを夜に言ってどうするの」
くすくすと喉を鳴らしながらも真面目な様子で述べるヴィナに、カシスは再び頬が上気するのを感じた。低めた声で慌てて投げ掛けた反論も、わざとらしく掠れた声を発するヴィナによって切り捨てられる。
「う、うるさい。ほら、さっさと課題をクリアするぞ」
「カシスが積極的だと俺も嬉しいよ」
「そ、そういう意味じゃない!」
耳まで赤く染めたカシスが声を荒げるのを宥めるように、ヴィナは繋いだ指先でカシスの手の甲を擽る。言葉も無く呻くような声を漏らしつつ俯いてしまったカシスは、ふと視界の端に映ったものに反応して顔を上げた。
「あ、あれ……色とりどりで、口の中に入れておくと溶けてしまうもの、じゃないか?」
視線の先の金平糖に、納得したように一同が頷く。繋いだ手を引っ張るようにしてそれを購入したカシスは、しかし直ぐに背後のパートナーへと押し付けるように手渡した。
「砂糖の塊なんか持ってられるか」
「はいはい」
苦笑しつつそれを受け取ったヴァイスはと言えば、赤ワインの味の八橋を興味津々といった様子で眺めていた。暫しの葛藤の後に通常の餡のものと合わせてそれを購入したヴァイスは、機嫌良く喉を鳴らす。
「既製品の着物では校長を満足させることは出来ないよね」
そう言いながらテリーが反物や帯などを買い集め、四人は課題の為の買い物を終えた。一息をついた後に、おもむろにヴィナが切り出す。
「さて、校長の元に戻りますか」
「ああ。これで夜も眠れそうだな」
安心した様子のカシスの言葉に、ヴィナはきょとんと眼を丸めて見せる。
「え、寝かせないけど?」
「ヴィナ!」
羞恥を露に吼えるカシスの頭を愛おしげに撫で遣り、ヴィナは幸せそうに笑みを浮かべた。
智矢は電柱の陰に隠れるようにしながら、メモを片手に一人歩く童子の後を付けていた。智矢の片腕には、高級そうな袋が提げられている。ジェイダス・観世院の名前から連想した観世水文様の着物が入ったその袋を注意深く運びながらも、智矢の視線が童子から外れることはない。
道沿いのお店から漂う美味しそうな香りに引き込まれかけた童子は、はっと我に返りぶんぶんと頭を左右に振った。握り締めたメモへもう一度目を落とし、意識して表情を引き締める。初めての一人でのお使いに、童子の心は好奇心と不安でいっぱいだった。いつも隣にいて支えてくれる智矢が居ない状況というのは酷く心細く、同時に何としても彼の期待に応えようとの強い思いを童子に抱かせた。
「あ、ここかな?」
メモに書かれた地図と店の名前、それから目の前のお土産屋さんの店名を見比べ、童子は表情を綻ばせた。第一関門は無事にクリアしたらしい。嬉しそうに店内へ進んでいく童子を、店の外から見守る智矢もまた誇らしげに目元を緩める。透明な自動ドアの外側から、物陰に隠れ、智矢はこっそりと店内の様子を窺った。
「んー……少々買いすぎましたねぇ」
その頃店内では、両腕に八橋を抱えた一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)が困ったように呟きを漏らしていた。店に残っていた十数個の八橋を買い占めてしまったのは良いものの、これが予想以上に重い。そして袋から溢れ出さんばかりに積み上げられた箱を崩さないように歩くのは、なかなか難しいものがあった。しかしその大半が自分で食べるためのものであるとあっては、同じ学校の生徒を探して助力を求める訳にはいかない。そもそも、宿泊先のアリーセの部屋には同様の八橋の箱が既に山積みとなっているのだ。
そんな事は露知らず、真っ直ぐに八橋コーナーを目指した童子は残酷にも赤で描かれた「完売」の文字に言葉を失っていた。込み上げる涙を必死に堪えはするものの、その先にまでは思考が追い付かない。為す術のない状況に困り果てた童子の様子を見兼ねた菅野 葉月(すがの・はづき)とミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)は、彼を怖がらせないようにと努めて穏やかな表情を浮かべながら、そっと声を掛けた。
「どうかしましたか?」
葉月の声に顔を上げた童子は、泣きそうな表情で葉月を見上げ、完売の文字を指さした。その手に握られたメモを目ざとく見つけたミーナは、困ったように眉を下げる。
「ああ、お使いだったのね……」
「……ミーナ」
暫しどうしたものかと童子を眺めていた葉月は、やがてやや言い淀みながらもミーナへと呼び掛けた。すぐにその意図を察したミーナは、躊躇いも無く頷きを返す。
「良いよ。その代わり、その分後でたっぷりと楽しませてよね」
冗談めかしたミーナの同意に安堵を浮かべた葉月が、おもむろに手提げの荷物から箱を一つ取り出す。その包装紙に描かれた「八橋」の文字に、潤んだ童子の瞳が丸く見開かれた。
「え」
「どうぞ、お持ち下さい」
微笑みながらそう促した葉月の言葉に、恐る恐るといった様子で童子は手を伸ばす。しかし次の瞬間、弾かれたように駆けだした。驚く葉月とミーナの視線の先、童子は小さな体を必死に伸ばしてアリーセの腕から零れ落ちかけた八橋の箱を支えていた。驚いたように目を丸めたアリーセは、にっこりと笑みを浮かべた。先程からの会話は聞こえていたし、事情も把握していたアリーセは、我関せずとばかりに店を出ようとしていた足を止めたまま童子を見下ろす。
「ありがとうございます。お礼に一つどうぞ」
どこか含みのある笑顔でそう述べたアリーセに、童子は表情を輝かせた。一つだけのお土産を貰うことには罪悪感があったが、これだけ積まれていればそれも薄まる。笑顔で箱を一つ受け取る童子を眺めながら、やや持ちやすくなった荷物を抱え、アリーセは上機嫌に店内を後にした。
「ありがとう!」
大切そうに箱を抱えた童子が、アリーセ、そして葉月とミーナに丁寧に頭を下げた。片手を上げて応えるミーナ達を残し、童子は店外へと駆け出していく。
「ほら、デートの続きよ」
デート、を強調して腕を引っ張るミーナに苦笑しながらも、葉月は彼女と並んでお土産を選び始めた。
その間にも店の外へと飛び出した童子は、偶然を装ってそこに姿を現した智矢の傍へと駆け寄る。
「お使い、出来たよ!」
「良く出来ましたね、コウジ」
誇らしげに八橋の箱を掲げて見せる童子の頭を優しく撫で遣り、智矢は穏やかな笑みを浮かべた。持ちにくそうな箱を受け取って袋に収め、代わりとばかりに手を繋ぎ、親子のような二人は満足げに集合場所へ向かって歩き出した。
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