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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

リアクション

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 そのころ、はるかぜ らいむ(はるかぜ・らいむ)はアーデルハイトがどこで復活するのか探していた。
 不謹慎にも、「もう一度倒れないかな……」などと考えつつ、外を探し回っていたらいむであったが、パートナーの剣の花嫁みなつき みんと(みなつき・みんと)から連絡が入る。
 「アーデルハイトさんがまた倒れましたわ。学校内ですわ」
 らいむの考えに苦笑しつつも、パートナーのため、みんとが携帯で連絡する。
 「ええっ!? すぐに向かうよ、現場のみなつきさん!」
 アイドルの卵のらいむが、キャスター経験のあるみんとに報道番組っぽく連絡しながら学校内に走る。
 「家政婦が主人公のドラマみたいに決定的瞬間を目撃するんだ!」
 そんなことを目標にしているらいむであったが、廊下でアーデルハイトにばったり遭遇する。
 「うわ、どうしたのじゃ」
 「あっ、遅かったか……。えーと、その、なんでもありませーん」
 らいむは慌ててごまかす。
 「やっぱりなかなかタイミングが難しいようですわね」
 「むー。謎はつきないよ……」
 みんとがらいむの肩に手を置き、らいむはため息をつくのであった。
 
 そこへ、道に迷っていた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が現れる。
 (たしかにアーデルハイトさんが何回生き返るのかは気になりますが……ミラベルさんが急に乗り気になってしまうなんて……これが「天然」の恐ろしさなんでしょうか。止めなきゃと思うのですが……今のところ、好奇心の方が勝っています)
 優希の手には毒の塗られた矢の吹き矢が握られていた。
 人生の道にも迷ってしまっている感じである。
 パートナーのヴァルキリーミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)は、真面目な優希が乗り気であることに驚いていた。
 (主の為ならこのミラベル・オブライエン、命に代えても謎を解明いたしますわ)
 極度の方向音痴であるミラベルと一緒に行動しているために、優希は道に迷っているのである。
 「優希様、来ましたわ!」
 「は、はいっ」
 ミラベルの合図で、2人は廊下の両側にある部屋にそれぞれ隠れる。
 アーデルハイトが、らいむの側を通り抜けて、一人で歩いてくるところであった。
 「む、そこで何を……」
 「今ですわ!!」
 見つかりかけた優希をかばって、ミラベルが飛び出す。
 それにアーデルハイトが気を取られた隙に、優希の吹き矢が当たり、アーデルハイトは死んだのであった。
 「あ、逃げるつもりだったのに、つい勢いで攻撃しちゃいました……」
 「やりましたわ!」
 「お前らー……」
 その場で復活したアーデルハイトが、呆然とする優希とミラベルの肩を、後ろからつかむ。
 「きゃああああああ!? ごごごごごごめんなさい! 出来心だったんです!!」
 「優希様!? に、逃げてください!」
 「こらーっ! 本当の犯人じゃなくても自分から犯人を名乗ったりアーデルハイト様の命を狙おうとするヤツは全員同罪だもんね。そういうヤツらは皆まとめて捕まえちゃうんだからっ!」
 ターラのパートナーで魔女のリィナ・ヴァレン(りぃな・う゛ぁれん)が火術をぶっ放し、優希とミラベルがふっ飛ぶ。
 「とりあえずコイツらでいいんじゃないかな? 真犯人」
 目を回している2人を指し示すリィナに、ターラが首をかしげる。
「うーん……まぁ、いいか〜。じゃあ、そういう事で」
 「了解了解〜☆」
 そんな会話が繰り広げられる中、ブレイズ・カーマイクル(ぶれいず・かーまいくる)が、アーデルハイトにダッシュで近づいてくる。
 (アーデルハイトが殺されただと!? 奴は僕がいつか倒す予定だったというのに……先を越されてしまった! そもそも殺り方が気に入らん! 姑息な手段を使いおって……正面から堂々と挑んで倒さねば意味が無いではないか!)
 そんな微妙なベクトルの怒りを真犯人に燃やしていたブレイズは、正面からアーデルハイトに襲いかかる。
 「フフハハハハ聞いたぞアーデルハイト! 同じ日に三度どころか、もはや数えるのが面倒なほど殺されるとは貴様もヤキが回ったな! 弱っている今こそ千載一遇のチャンス! アーデルハイト! 覚悟ーー!!」
 「かよわい女性を狙うなんて許しません!」
 護衛していた水神 樹(みなかみ・いつき)が、ハルバードで容赦なくブレイズをぶっ飛ばす。
 「誰が弱ってるだと!?」
 さらに、アーデルハイトが怒りの魔法をブレイズに打ち込む。
 アーデルハイトが「かよわい女性」かどうかについての議論は、樹はとりあえず脇においている。
 ボロボロになったブレイズが、頭を振って立ち上がる。
 「……と、とりあえず一度整理しようではないか、アーデルハイトを殺した犯人が殺す前に言った『あたいのチャンを……チャンを返せ!!』という言葉についてだが……アーデルハイト、いつだ? いつどこで殺した?」
 「知らないといっておろうが!!」
 またしても、ブレイズがぶっ飛ばされ、フラフラ立ち上がる。
 「グゥ……ウィットに富んだジョークが解らん奴め……ん? 今思いついたのだが、その『チャン』とは必ずしも父親を指すとは限らんのではないか? 例えば……誰かの愛称もしくは名前の一部という可能性は無いだろうか?」
 「そういえば『チャン』ってセバスチャンのチャンではないの? 違うの?」
 ターラが疑問を投げかける。
 「私も、犯人が言った『……チャン』は、今のところセバスチャンさんの可能性が高いと考えています。アーデルハイトさまが死んでいることで驚いている様子に嘘はないように感じたので、犯人ではないと思いました。ですので、校長とセバスチャンさんが近くにいても大丈夫だと思います」
 樹も、推理を述べる。
 「そうか? 強引過ぎやしないか?」
 アーデルハイトが首をかしげる。
 「危ないっ!」
 そこに、鳥羽 寛太(とば・かんた)が飛び出してきて、アーデルハイトを突き飛ばす。
 突き飛ばされたアーデルハイトを、メニエス・レイン(めにえす・れいん)が野球のバットで撲殺する。
 「アーデルハイトを一番多く殺ったものが勝ちらしいわよ」
 そんなことをイルミンスール中に言いふらして回っていたメニエスであったが、チャンスを見計らって、一人でも多く撲殺しようと考えていた。
 喜色満面のメニエスを、樹とリィナ、グレン、ソニア、ナタクがいっせいに捕縛する。
 「放しなさいよ、貴方達みたいなクズが吸血鬼の私に触れるんじゃない!」
 下位吸血鬼であり、吸血鬼こそ至高の種族と考えているため、貴族のように振る舞うメニエスがわめく。
 「アーデルハイトがいっぱい殺されたからには、いくら殺しても問題がないということでしょう? いくら護衛しても何度も殺されるなら、同じことなんじゃないかしら?」
 「何を言っているんですか!」
 5人がかりで取り押さえられたにもかかわらず、見下したように笑うメニエスに、樹が怒りを露にし、腕をつかむ手に力をこめる。
 「……ッ! 私、貴方みたいなクズが一番キライなの」
 メニエスが、樹をにらみつける。
 メニエスの赤い瞳と、樹の赤い瞳、色は似ているが、宿す光の種類はまったく異なる。
 夏休み前、ルクオールの町が冬になってしまった事件より後、いったい、どこで道は枝分かれしてしまったのか。
 自分のかつて描いていた同人誌を黒歴史と呼び、イルミンスールの森の木の実のアイスをパートナーとともに作ってじゃれあう少女は、もう、ここにはいなかった。
二人がにらみあうその隙に、寛太は、たった今メニエスが撲殺したアーデルハイトの死体を抱き上げる。
 「守れなかった……僕が弱いから……。せめてこのご遺体は僕の火術で……」
 「ええっ!?」
 樹が思わず顔を上げる。
 「ハアハア……」
 寛太は、うまく演技できているかどうか心配で息切れしていた。
 「へ、変態!?」
 「ちっ違います! 僕は変態じゃないです。ただアーデルハイトさんが欲しいだけなんです! いや欲しいって恋愛とかじゃなくて……ただ体が目当てなんです! だから……アーデルハイトさんを僕に下さい!」
 樹の指摘に、寛太が弁解しつつ走る。
 寛太は医者に余命いくばくもないと宣告された身である。そのことは、パートナーにも明かすことができないでいる。
 そんなこともあってか、「不死を研究したい」という寛太の気持ちは、本気のものであった。
 真剣そのものであった。
 のっぴきならないものであった。
 マジなのであった。
 本当に。
 寛太のパートナーである、守護天使の伊万里 真由美(いまり・まゆみ)は、そんなことは知る由もない。
 「護衛とかあんた達バカ? あの婆さんは不死身なのよ。守る意味なんてないじゃないの。いい話があるんだけど……私はアレを使って『量産型実物大アーデルハイト人形』を作ろうと思うんだけど……あんた達欲しくない? それがあればあんなことやこんなことが……本人と同じ肌、質感、そうね……ボイス機能も実装しましょう。どうせあんた達も護衛なんて言って、本当はただアーデルハイトに近付きたいだけでしょ? 一体1万Gで売るつもりだったけど、協力するなら千Gで売ってもいいわよ」
 真由美が取り引きを持ちかけるが、もちろんそんな話に乗るものはいない。
 「フフフ、面白いことを考えるわね……」
 メニエスは笑みを浮かべていたが。
 「しかたないわね。ゆけっ! 我がしもべカーラ・シルバ(かーら・しるば)よ!」
 同じく寛太のパートナーの機晶姫、カーラが、暁の剣を振りかぶる。
 「む……なぜ邪魔をするのです。あなたも不死かどうか確かめてあげましょうか?」
 「馬鹿なこと言わないで!」
 樹が、ハルバードで受け流しながら叫ぶ。
 爆炎波やツインスラッシュを連発したカーラは、興奮して力を呼び起こそうと、自分にSPリチャージを行った。
 「ゥオオオオオォォ」
 剣を放り捨て、走り始めたカーラの銀色の装甲が剥がれ、何か得体の知れない中身が見える。
 「あれは本当は装甲じゃないの……拘束具なの!」
 真由美が暴走するカーラについて解説する。
 「ゥオオオオオォォ」
 吼えるカーラは獣のように走り回り、思いっきり壁にめり込んだ。
 「どこからつっこんでいいやら、もはやわからんわー!!」
 復活したアーデルハイトによって、寛太、真由美、カーラはまとめてお星様になるのであった。