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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

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アーデルハイト・ワルプルギス連続殺人事件 【前編】

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 第4章 どつき漫才後半戦とお説教タイムのこと

 羽瀬川 セト(はせがわ・せと)は、いつものように溜息をついた。
 パートナーの魔女エレミア・ファフニール(えれみあ・ふぁふにーる)が、また妙なテンションになっているからだ。
 「アーデルハイトが殺されただと!?
  ……許せん!!
  俺が先に殺っていれば、もっと目立てたものを!!
  殺しても復活できるってことは、ノーリスクだろ?
  じゃあ、遠慮なく殺してやるぜ!!
  とりあえず、両手に銃を持ち、アーデルハイトに突撃するぜ!!
  殺人事件の主役はこの俺だーッ!!
  ……ってミアが言ってました。
  たぶん、本人か護衛してる奴にぶっ飛ばされると思いますがね。まぁ無茶しないようしっかり見張りますか」
 アーデルハイト殺害を完全にゲームだと思い込んでいるミアの暴走を止めようと、セトは決意する。
 「なにやらアーデルハイト先輩を狩りまくるイベントがあるらしいではないか。黄金色の先輩亜種を狩ればいいことがあるとかなんとか風の噂で聞いたのじゃ。それはさておきこんな楽しそうなイベント見逃さない手はないからのぅ。ラリアット娘と大食らい娘も誘いたかったが……。どこかのハンター達はこう言っておった『狩れ本能のままに』と……!」
 エレミアは、空飛ぶ箒で廊下を飛び、アーデルハイトを発見する。
 「いたぞ、セト。準備は良いか? 参るぞい」
 「あ、ちょっと、ミア!?」
 「かぁかっかっか〜、芸術は爆発じゃぁ」
 「な、なんじゃお前ら!?」
 ギャザリングヘクスで強化された火術がアーデルハイトに炸裂する、そう思われた瞬間であった。
 「あぶない!!」
 ヴァルキリーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)がアーデルハイトをかばって飛び出す。
 アメリアの服の一部が破け、赤い液体が飛び出す。
 「な!?」
 さすがのエレミアも硬直する。
 「だ、大丈夫ですか!?」
 セトが慌てる。
 「ふふふ、アーデルハイト様を殺そうとするなんて、許さないわ……!!」
 赤い液体を顔にも浴び、ほとんどスプラッタ映画なアメリアが言う。
 「な、なぜ今の攻撃で出血が!?」
 突き飛ばされたアーデルハイトが疑問を口にする。
 実は、アメリアが仕込んでいたのはケチャップであった。
 本人はノーダメージである。

 その隙に、黒子の格好をした志方 綾乃(しかた・あやの)と、パートナーの英霊袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)が、アーデルハイトの死体を担架に載せて運び出そうとしていた。
 「お金がない、超ババ様の死体はある……なら! 死体をエンバーミングして、キマクで売って大儲けです!」
 「うむ、これで貧乏ともおさらばぢゃ!」
 「こらーっ! 何してるんだ!」
 アメリアのパートナーの高月 芳樹(たかつき・よしき)が、見咎めて、追いかける。
 「ど、どうしてばれたんでしょう!? こんなに目立たない格好をしているというのに!?」
 「おぬしのプロポーションが目立ちまくりだからじゃないのか?」
 綾乃は、身長177センチ、上から97(Fカップ)/67/87のナイスバディである。
 「というか、黒子の格好してたら余計に目立つだろ……」
 芳樹がツッコミを入れる。
 「違うんです。こんな所に超ババ様の亡骸を放置するのは忍びないと思って、運ぼうと思っただけなんです!!」
 綾乃が全力で嘘泣きする。
 「嘘つくんじゃありません!」
 「そんな怪しい格好で信じるわけないでしょ!! 絶対許さないんだから!!」
 菅野 葉月(すがの・はづき)と、パートナーの魔女ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が、さらに立ちふさがる。
 「こうなったらしかたありません。本気で行きます!」
 綾乃が、「ヒロイックアサルト」をかけ、「ランドリー」で攻撃を仕掛ける。
 「前衛は任せるのじゃ!」
 袁紹が、「ヒロイックアサルト」を使い「チェインスマイト」で攻撃する。
 「な……ギャグ要員なのに戦闘はガチだと!?」
 芳樹が、驚き叫ぶ。

 その間に、風森 望(かぜもり・のぞみ)が、アーデルハイトにダッシュで近づく。
 「きゃああああ! アーデルハイト様! この身に代えてもお守りします!」
 そのまま、ぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅとハグする。
 「く、くるし……ぐふっ」
 アーデルハイトが、望の胸の中で窒息死する。
 「てへっ☆」
 望が笑ってごまかす。
 「しかし、死体とはいえこれだけアーデルハイド様がいると、どれがどの時点で殺されたものか解りづらいですね。そうです! 解りやすいように着せ替えちゃいましょう!」
 そんなことを言い、メイドの手際のよさで、望は次々、アーデルハイトの死体を着替えさせていった。
 ウェディングドレス、巫女服、セーラー服、スク水、メイド服、ウサ耳、猫耳、ゴスロリ、チャイナドレス、ナース、大正袴、浴衣と、どんどん着せ替え、望は写真撮影する。
 「うふふふふ、あまりの可愛さに萌え死にしそうですが、本当の私、もとい望と書いて、本望!」
 「なにやってるのよ、このロリコン!」
 ミーナがそれを見て、罵倒する。
 「失敬な! ショタだっていけます!」
 望が真顔で返す。

 そこへ、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が、パートナーの吸血鬼シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)、同じくパートナーの目つきが鋭い白うさぎの着ぐるみを着た黒スーツのゆる族デューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)とともに通りかかる。
 「ん〜、犯人って誰なんだろう? 何度も殺す程だし、よっぽど恨んでるんだろうね。なんかチャンがどうとか聞いたけど、チャンって名前でピンとくるのって、デューイがレンタルで借りて見てた時代劇しか思い浮かばないんだけど。ん? じゃぁ、犯人は乳母車の子? あれ? あたいって言ってたから、乳母車の子って女の子?」
 (それにしても、こんなに死体があるとドミノ倒しとかできそうだよね。……意外とおもしろそう?)
 くふくふと笑っておかしな想像をするミレイユに、シェイドが突っ込む。
 「いくら復活するとはいえ、死体が増えていくのはマズイ気がします。きちんと回収して、アーデルハイト様に返した方がよさそうです。ミレイユ……また何かおかしな事考えてますね。顔見ればわかりますよ?」
 「何をブツブツ言っているのだ、ミレイユは。時代劇の乳母車の子どもは男児だ。女児ではない。まったく……。しかし、同じ死体が転がってても動じずにいる、ここの学生は末恐ろしいな」
 デューイが、渋い目つきに憂いをたたえて言う。
 そんな中、シェイドとデューイが、望の行いを発見する。
 着替え撮影大会に、シェイドは、ミレイユの目を両手で塞ぐ。
 「見ちゃいけません」
 「ふぁ、なになに? 見ちゃだめなの?……え、あれって何してるの???」
 「まだ……ずっと知らなくていいです」
 ミレイユが慌てるが、シェイドは教育的指導から、目隠しを続ける。
 「不埒な事はやめ給え……」
 「えー? ふらちってなんですか?」
 デューイが、望を注意しようとするが、聞いてもらえない。
 デューイは、逃げ出したら、無言で銃を構え、ベルトのみ撃ち抜いてズボンを落とす予定だったが、望と綾乃を見て、溜息をつく。
 「ざ、分銅仕置き人なのですー!」
 そこへ、桐生 ひな(きりゅう・ひな)が現れて、綾乃と袁紹、望に、思いっきり分銅を投擲する。
 「そんなに興味があるなら一緒に潰してあげちゃいますよっ」
 「ぷちっ」
 「ぐにゃっ」
 「ぎゃにゅっ」
 3人とも、トドメをさされてぺっちゃんこになった。
 「紅龍姫ことミアさん! ここで会ったが百年目、なのです!」
 「ほほう、面白い! わらわを止められるものなら止めてみよ!!」
 ひなが、エレミアに向き直って叫ぶ。エレミアは不敵に笑ってみせる。
 「『分銅の人』と認識され恐れられる存在になりたい……同じネタを大切にする……そんな一途な私なのです!」
 「かぁかっかっか〜! 『暴走魔女急行十九時』と呼ばれているわらわをなめるな!」
 「すぐにタックルしたら芸がないと思われると思ってましたが、ミアさん相手ならこれしかないのです! 逃がさないのですーっ!! ぶちゅっ」
 「ぎにゃっ」
 分銅を抱えて、いつものように「バーストダッシュ」した結果、ひなとエレミアは仲良くぺっちゃんこになった。
 「……またコレの出番ですか」
 空気入れを持って、セトがつぶやく。
 潰れた人を全員ふくらませるのは、セトの役目なのであった。

 芳樹は、「特にこの人はは悪いだろう……」と思われるメンバー、メニエス・レイン(めにえす・れいん)鳥羽 寛太(とば・かんた)伊万里 真由美(いまり・まゆみ)カーラ・シルバ(かーら・しるば)たちとともに、エレミア、綾乃、袁紹、望を天井から吊るす。
 「『私はアーデルハイト様の死体を盗もうとしたロリコンです』これでいいな」
 「違います! 私はロリコンじゃありません! お金がほしかっただけです!」
 「私はロリコンでショタコンです!」
 芳樹に、首から札を下げられて、綾乃が抗議し、望が訂正を要求する。
 「わかったよ。しかたないな。『ロリコンでお金好き』、と、『ロリコンでショタコン』、と……」
 芳樹が、札に追記をする。
 葉月は、死体を盗んだり写真撮ったりした、綾乃、袁紹、寛太、真由美、カーラ、望は死体と一緒に吊るしておく。
 「アーデルハイトさんの死体と一緒なら、本人も満足でしょう」
 葉月がうんうん、とうなずく。
 「いや、私は気分が悪いのだが……」
 アーデルハイトが溜息をつく。

 元刑事のレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、「素行不良」「暴力事件」を起こした生徒が吊るされてる「指導室」で、説教を開始した。
 「どうしてこんなことしちゃったの?」
 「お母さん泣いてるよ?」
 「カツ丼食うか?」
 「俺はやってない? でも触ったんでしょ? アーデルハイドの身体を思う存分弄ぐっちゃったんでしょ?」「死体は語る?語らないからッ! 少なくとも今回は生きてる本人の話聞いた方が早いからッ!」
 「君はどうしてアーデルハイトを襲ったの?」
 「好きなの? 大好きなの? 好き過ぎて堪らないけど、どう伝えれば良いか判らない小学生なの?」
 「何回死ぬか試したかった?」
 「そんなこと本人に直接訊きなさい!」
 「そこ! モジモジしない」
 「これが終わるまでトイレには行かせませんよ!」
 「何? 俺はやってない。無実だって?」
 「もういいよ、面倒臭いからお前ら全員連帯責任で」
 レンの目的は再犯防止のための嫌がらせだったため、若干投げやりな説教のしかたであった。

 こうして、問題起こした生徒は、あとでパートナーごとに呼び出され、吊るされた生徒の部屋で、レンとアーデルハイトに説教されたのであった。