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リアクション
■□■2■□■
そんな状況で大騒ぎの校長室だが、十六夜 泡(いざよい・うたかた)が、アーデルハイトに耳打ちする。
「『残機(予備の身体)』って後幾つあるの? もし、一度に何体も動かせるなら、この部屋に一度に連れてきて、犯人に一体一体撃たれ、順々に倒れる姿を見て犯人の場所を特定するなんてどうかな?」
「そんなことできるかにゃん♪」
キレたアーデルハイトは必死なので口調を守り続ける。
「さてと……」
そのせいか、涼しい顔で攻撃をよけた泡が、推理を開始する。
「至近距離からの発砲で騒がしかったからとは言え、銃声が聞こえなかった様なので、得物は多分『デリンジャー』。エリザベートはパートナーだから当然違う。ざんすかなら得物は使わずラリアット。ジャックなら発砲時に『ファイヤー』とか叫びそう。セバスチャンだと執事=デリンジャーで面白みが無さ過ぎる。……と思ってたけど、セバスチャンのパートナーの地球人が犯人らしいね。バトラーなのかな」
こうして、アーデルハイト的な外見の人が増えている中、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、パートナーの白熊型ゆる族雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)と、同じくパートナーの羊型ゆる族ジンギス・カーン(じんぎす・かーん)とともに、アーデルハイトの死体の近くにいた。
「名付けて、『アーデルハイトハザード』作戦だ!」
「な、なんだか物凄く不穏な作戦名です……!?」
ベアは詳細を解説する。
「犯人がポンポン気軽にアーデルハイトを殺すというなら、殺すのを躊躇わせるような状況を作ればいい。そこで、『アーデルハイトの死体をまるで生きているかのように動かす』という作戦だ。『光学迷彩』を使って、こっそりとアーデルハイトの死体を持ち上げ、腹話術的に動かすことで、犯人を威圧する作戦だぜ! 低い声で犯人に対する恨み言を吐き、ホラーな雰囲気をかもし出せれば完璧だ!」
「ええっ! そんなことできませんよ!」
「ご主人! 事件解決のためだぜ! 本物のアーデルハイトがこれ以上殺されちまってもいいのか!?」
「そ、それは……」
真面目なソアは、嫌がったが、ベアにより、「事件解決」の大義名分のもと、言いくるめられてしまう。
「どうして僕までこんなことを……後で怒られたら嫌だな〜」
ジンギスがぼやく。
「『アーデルハイトハザード』作戦成功のためだぜ! 俺様とご主人だけじゃ、死体を2つまでしか動かせねえだろ!」
かくして、『アーデルハイトハザード』作戦は実行に移される。
「お、おのれ犯人め〜……ゆるさんぞ〜……」
光学迷彩で見えないが、ソアは赤面している。
「犯人めぇ……ひっとらえて魔女の大窯につっこんで、トマトスープにしてくれるわぁ……ひ、ひひひ」
ソアには適当にごまかしたものの、ベアの本心は遊びたいだけである。死体をがくがく動かしつつ、面白そうなセリフを適当に言っていた。
「初めてじゃよ、私をここまでコケにした馬鹿者は……。ゆ、ゆるさん……絶対にゆるさんぞ犯人め……! じわじわとなぶり殺しにしてくれる……覚悟しろ……!」
ジンギスは、やっているうちにノリノリになっていた。
「そこのおまえ……『正直、5000歳にもなってその服装はどうよ』とか、思っておるな?」
ベアが、いいかげんなことを言って回る。
「おいこらにゃん♪」
「ああ、エリザベートや……私の帽子はどこへ行ったかのぉ……ヨボヨボ」
「こらって言ってるにゃん♪」
ベアの目の前には、アイドル仕様のアーデルハイトが笑顔で立っていた。
「おーまーえーらー……」
「げっ、やべえ……」
しかし、次の瞬間、発砲され、『アーデルハイトハザード』の死体が撃たれていく。
「きゃああああああ!?」
「ひええええええええ、お助けー!!」
ソアが慌て、ジンギスが悲鳴を上げるが、死体は全身を撃たれていた。
泡のパートナーの魔女リィム フェスタス(りぃむ・ふぇすたす)は、身長6センチの身体を活かし、人形のフリをして、部屋を見張り、「銃痕」の出来た方を泡に知らせるつもりだった。
「あっちです! ああっ! どんどん撃たれて位置が特定できません!」
リィムがなんとか犯人の場所を特定しようとするが、腹話術の死体がどんどん撃たれるだけである。
「ひいぃっ、お許しを〜!」
ジンギスが慌てて逃げようとするが、アーデルハイト本人が魔法を放つ。
「とりあえずお前らさきにぶっ飛ばしてやるのじゃにゃん♪」
「うわああああああ!?」
ベアも、ジンギスとともにぶっ飛ばされた。
「なんだか大変なことになってきたな……」
和原 樹(なぎはら・いつき)は、何があってもずっとアーデルハイトを見守ろうと、部屋の隅から見張っていた。
「犯人の推理なんかしなくても、殺人現場を目撃すれば一発で誰が犯人か分かるよな。あれ、でもなんか犯人たくさんいないか? 騒ぎが起きてから出てきた模倣犯とか愉快犯だらけのような……。……どれが本当の犯人なんだ?? それに、アーデルハイトらしき人も増えたし、どれが本物のアーデルハイトなのかわからいな……ところで、さっきから何か……嫌な気配がするんだけど」
パートナーの吸血鬼フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)は、おもむろに樹に抱きついてセクハラしていた。
「って、あんたかー! 見てるだけで暇なのは分かるけど、人前で抱きつくなっ。セクハラするな!」
パンチで反撃する樹だが、フォルクスは飄々と言ってのける。
「目を離していると肝心なところを見逃すぞ? 我のことは気にせず、アーデルハイト殿を見ているがいい。その間、我は好きにさせてもらう」
「確かに、余計なことに気をとられてて見逃すわけには……。いや、でもだからってセクハラされ放題なのも困るし……。とにかく、離れろ変態ー!」
こうして、樹とフォルクスが漫才するなか、犯人の攻撃が止む。
「誰が誰かわからない状況で発砲するのをためらっているようだな。犯人はこれでも意外と良心的なのか? そもそも、パートナーであるエリザベートを狙わないわけだしな」
姫神 司(ひめがみ・つかさ)がつぶやく。
パートナーの守護天使グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)は、部屋の隅にひそむ司に言う。
「司、メイドがそんな風に常にコソコソしているという話、私は聞いた事がないのですが」
「有名なドラマもしらないのか、馬鹿者」
メイドがいるような家のぼんぼん育ちなのだが、自分の知っている職業とは違う雰囲気で挙動不審な司におろおろするグレッグだが、何か理由があるのだろうと肯定的に捉えていた。
「何となく、司がクラスをメイドに変えてから生き生きしている気がするのですが、果たしてこれは良い事なのか」
そんなことを考えて首をかしげているグレッグに、司が声をかける。
「むっ! 逃げられそうだな、グレッグ何か投げる物はないか!?」
「え、あ、はい!」
グレッグはとっさにタコを渡し、司が思いっきり投げつける。
「!!!」
次の瞬間、本物のアーデルハイトが床に倒れる。
それと同時に、犯人の姿が浮かび上がった。
「お、女の子!?」
「犯人はそなただ!」
樹が驚き、司が犯人を指さす。
タコの墨をかぶって現れた犯人は、リボルバーを手にした10歳くらいの少女であった。
「チッ!!」
犯人が離脱しようとするが、数の暴力により、すぐに取り押さえられる。
捕縛された犯人に、七尾 蒼也(ななお・そうや)がカツ丼をすすめる。
「なぜこんなことをしたんだ? 故郷でお前の母さんが泣いているぞ」
「そんなものはいねえよ!」
犯人の少女は、蒼也をにらみつける。
「もうおしまいだ。全部教えてやるよ。
あたいの名は朝臣そるじゃ子(あさしん・そるじゃこ)!!」
「は!?」
「そるじゃ子だよ! 朝臣そるじゃ子!!」
目が点になる蒼也に、そるじゃ子が怒鳴る。
「赤ん坊のときに暗殺者組織に拾われ、訓練をうけた暗殺者さ!! 一人前になったあたいが出会ったゆる族のセバス・チャンは、血みどろの世界で生きるあたいの唯一のやすらぎと親代わり的な存在になったんだ!! せっかく組織を足抜けして、シャンバラで平和に暮らしていたのに、アーデルハイトが魔法でチャンを殺したんだ! あの魔女と正面からやりあったんじゃ命がいくつあっても足りない。そのとき、絶望したあたいの前に鏖殺寺院の奴が現れて、「魔女殺しのリボルバー」を授けてくれた。「魔女殺しのリボルバー」の「恨み弾丸」は魔女に致死ダメージを与えられる。願ってもない話だったよ。あいつらは強大な力を持つアーデルハイトを殺したい。あたいは個人的に敵がうちたかった。だから殺そうとしたんだ! なのにあいつ、次から次に生き返りやがって!!」
そこに、校長室の扉が思い切り蹴り開かれる。
「ズバッと怪傑! パラミタ刑事シャンバラン!! 話は聞かせてもらった! パラミタは崩壊す……犯人は別にいる!」
正義のヒーロー、パラミタ刑事シャンバランこと、神代 正義(かみしろ・まさよし)が、思い切り宣言する。
「どうやってここにたどり着いたか? アレだよ。歴代ヒーローがデフォで持ってる危機察知能力的な何かだよ。
この事件……鏖殺寺院の仕業なんかではない!
今まで蒼フロで発表されてきたシナリオの動向を見れば、鏖殺寺院の仕業と疑いたくなるかもしれん。だが待ってほしい。コメディシナリオに鏖殺寺院は出ない!! 至近距離からの発砲……これは犯人が傍にいたことを表す。つまり犯人はイルミンの身内の犯行! つまり『善良な生徒としてアーデルハイトに近づき、殺害。鏖殺寺院に罪を擦りつけ、自分は有意義な学校生活を送る』犯人はこういった事を企んでいたに違いない! そしてそれが可能なのは……『鏖殺寺院の仕業』とトンデモ推理をした朝臣そるじゃ子! ソイツが犯人だ!」
「いや、推理じゃなく、鏖殺寺院って自供してるんだが。犯人だし」
シャンバランのカウンター推理に、蒼也がツッコミを入れる。
「え……?」
シャンバランが硬直する。
「うわあ、本物のヒーローだよ! うれしいなあ!」
ヒーロー好きのアルフレッド・テイラー(あるふれっど・ていらー)が、はしゃいで写真をとりまくるが、シャッター音以外の沈黙が痛い。
そこへ、セバス・チャンが進み出て、真相を明かす。
「そるじゃ子さん! 私は、成体になると脱皮するゆる族だったのです! 着替えの際助けてくれた恩人である、アーデルハイト様に執事として使えていましたが、老眼鏡執事として生きるため、元の姿を秘密にしていたので、また、そるじゃ子さんが私のことをが死んだと思って飛び出していてしまったので、報告が遅れてしまいました。ご心配をおかけしてすみませんでした」
「チャン!? 本当にチャンなんだね!? 生きていたのか……」
そのとき、そるじゃ子の持っていた「魔女殺しのリボルバー」が砂のように崩れ去っていく。
「そるじゃ子さん!!」
「チャン!!」
二人はお互いを抱きしめる。
「解説しよう! そるじゃ子の恨みが消えたことで、マジックアイテムは消滅したのだ!」
「どうしてそんなことがわかったんだ?」
シャンバランが解説し、蒼也が訊ねる。
「ヒーローの勘かな」
感動の再会の中、緋桜 ケイ(ひおう・けい)はポカーンとして状況を見つめているエリザベートを見つめていた。
(アーデルハイトに何かあれば自分もただではすまないからとエリザベートは一見平然と振舞っているが、ちょっと違和感を感じたな……。『たししたことじゃないのですぅ』と言葉を噛んでいたあたり、本当は結構動揺してるんじゃないだろうか。校長なんてやっているが、まだ7歳の子供なんだ。誰かの『死』についてなんて、まだ何もわかっていないだけなのかもしれないな……。死んだアーデルハイトはもう戻らないし、今いるアーデルハイトは昨日まで一緒に過していたアーデルハイトとはもう違うんだ……)
そう考えて、ケイはエリザベートの側に立つ。
「こういうときは素直に泣いたっていいんだぞ」
花を先ほど最後に殺されたアーデルハイトに手向けながら、ケイが優しく言う。
「大ババ様……?」
エリザベートは、アーデルハイトの死体を見つめてつぶやく。
ケイのパートナーの魔女悠久ノ カナタ(とわの・かなた)は、その様子を見守っていた。
(これはもう『教室の机に花瓶を置くイジメ』よな。ケイは善意で行動しておるし、全く気づいておらぬようだが……。わらわも『殺されても復活できるから大丈夫』などとというリセット世代的な考えは気にいらぬ。簡単に何度も殺されるというのも、そんな死に対する緩い認識からくる油断が全ての原因であろう。同じ魔女としてアーデルハイトには、希薄になってしまっている生と死を今一度見つめ直して貰いたいところよ。灸を据えてやる意味でも、わらわも大いに悲しんでやるとするぞ)
「あああぁぁーー!! アーデルハイトオォォ! 何故……何故このようなことにいいいぃぃーーー!!」
カナタが号泣する。
「そ、そんな……大ババ様ぁ!? さっきのそるじゃ子とセバスチャンの話みたいに、本当にパートナーが離れ離れになってしまったんですかぁ!? そ、そんなの嫌ですぅ!! うわあああああああ!! アーデルハイト様あああああああああああああああああああああ!!」
エリザベートが、アーデルハイトをちゃんとした呼び方で呼んで、死体の胸に顔をうずめて泣く。
ケイは、黙ってエリザベートの肩に手を置く。
「そんな……いくらベアにそそのかされたからって、私はなんてことしてたんでしょう!!」
ソアが、死体で腹話術したことを後悔して泣き始める。
「やれやれ。やっと戻ってこれたわい……うおっ!? なんでエリザベート達が泣いておるのじゃ!?」
「大ババ様ああああ!! どうして死んじゃったんですかぁあああああ!!」
「あああああー!! アーデルハイトオォォ!!」
「ぐすっ、あ、アーデルハイトさん……!!」
「エリザベート、悲しいっていうのはそういうことだ……」
エリザベートとソアが本気で号泣し、カナタも嘆き悲しんでみせる中、ケイが悲壮感たっぷりに言う。
「私は元気なのじゃー! こらー、こっちを向かんかー!!」
アーデルハイトが、後ろでぴょんぴょん跳ねる。
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